SPEC NURSE

「通して下さい!急患です!」
「片岡さーん!聞こえますかー?片岡さん!
ダメだ、意識がありませんっ」
「中井さん、村田さんに連絡して急いで!はやく!」
血まみれの患者を乗せた台車が、ガラガラと音を立てながら周りを取り囲む医者や看護師の慌ただしい足音に混じって
手術室に吸い込まれて行く。額に汗をかきながら冷静に患者に処置をほどこしている医者や看護師達の姿は実に様になっている。
「いいなーかっこいいですね。静子さんも、あんな風に?」
新米ナースの自分にはまだまだ遠い世界だ。思わずうっとりして見てしまう。早くあんな“修羅場”を経験したいと、
この春、東川総合病院に入ったばかりの米原麻衣はつくづく感じる。隣で深い笑窪をつくって
穏やかに笑っているのは看護師長の山口静子だ。
麻衣は、かなりの美人だった。大きくて切れ長な二重の瞳に、ツルスベ肌に合う綺麗な卵型のフェイスライン、
ゆるく巻いた長い髪、薄い唇。今までに異性に言い寄られたことなんて数えきれない。ナンパから本気の告白まで内容も様々で、
持ち前の明るく素直で謙虚な性格から同性にも人気があり、対人関係で困ったことは無かった。
実際、麻衣自身も自分の魅力を充分に理解していたし、自信があった。
「ふふ、まぁね~でも私の場合は経験よね。この仕事長いから。
私の同期には実力で進んだ人もいたけどね」
「でも憧れちゃいますぅ~」
こいつ息くっさ!麻衣は心の中でしかめっ面をした。しかしけして表面には出さない。
ちょっとしたポリシーだ。にしても臭い。分かった ギョーザだ。昼休みに病院の近くにある
最近評判の中華料理店に行ったに違いない。あの店はニンニクをふんだんに使っていることで有名だ。
このヤロー調子に乗って顔近づけやがって よっぽど嬉しかったんだな。さっきからずっと黄ばんだ歯をみせて
にたにた笑っている。不細工にも程がある。大きい顔に寸胴体型、完璧なプロポーションの麻衣から見れば可哀想にも思えてくる。
「でへへへ、そうぉ?やっだ~もう憧れないでよぉ」
一人で喜ばせておくことにしよう。麻衣はそっとその場をはなれた。

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  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-03-21

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