いるかのほし36 アーチャとポコ2

アーチャとポコ2

 それにしても、アーチャは不思議な人だった。近くの脳神経外科で診察を終えて、すぐ電話をかけてきたアーチャ。「ちょっと、出血があるみたい。」と言った声は落ち着いていた。
 硬膜下出血。持って帰ってきたMRIの画像には、素人目にもあきらかに、頭蓋骨と脳の間の硬膜に血がたまっている様子が映し出されていた。転んでから、じわじわと出血して、ちょうど今、МRIに写るくらいにたまったところで、たまたま自分から検査を受けに行ったのだ。まあ、普通に考えたら、出張先での転倒が原因かと思われた。

 ・・・・・それにしても、冷静・・・・・・。ちょっとすごいな、とポコは感心する。

 紹介状を書いてもらい、次の日には家のほど近くにある地域の拠点病院に行き、その後、手術室の関係で当日の夕方に手術・・・・・。

 今、目の前に、手術を終えて、頭に包帯をまき、残った出血を抜ききるための管を頭につけたアーチャが、ベットに横になっていた。

 さっき、学校帰りにきてくれたミーコとカタロには、一足さきに家に帰ってもらった。

 それにしても、看護師さんにも、先生にも、最後まで「頭は打っていない。」と言っていた。

 一人男性の看護師さんは、「じゃあ、その時、一瞬気を失っていたのかもしれませんね・・・。」と言った。「記憶が飛んだ気がしました。」と、アーチャもそれを、彼なりの言葉で繰り返した。

 さっきは、手術の前、よくドラマに出てくるような赤いランプがともった両開きの自動のドアの中まで、早く帰宅したタカロもいっしょに付き添った。「自分で歩けます。」と言って、その中に続いていく廊下を、うすいブルーの手術着に着かえたアーチャが先生と看護師さんにはさまれて歩いて行く後姿・・・。タカロは、見送りながらなぜか涙が出てきて、泣いてたな・・・・。

 それから2時間ほどで、アーチャは出てきた。「これくらい出ました。」と、血の入った袋をみせられたが、けっこうな量に見えた。
局所麻酔だったから、アーチャの意識ははっきりしている。今更、ことの重大さに気が付いたように、やれやれという表情・・・、でもさすがに、まだ複雑に緊張しているようだった。

 これから、今晩は、頭を動かしてはいけないのだ。管が抜けてしまうと雑菌がはいるから、大変なのだという。さすがにポコは、付き添ったほうがいいかと思ったけど、完全看護だし大丈夫という。

 看護師さんに、寝ぼけて間違って動かないように、ベットに手をしばってもらってもいいですから・・・、と寝相が悪いとおおげさにお願いしておいた。

 「じゃあ、帰るね。」しばらく様子を見て、少し落ち着いた頃にポコが言った。

 アーチャは、おもしろいことを言った。

 「手術でガリガリ頭に穴をあけているとき、これ始めてじゃなくて2回目やって思ったけど、なんでかなあ・・・・。ぼくらって、じつは終わりから始まって逆に生きてるんかな・・・・。」「・・・??」珍しく面白いことを言うなあ・・・・。しかも、すごく真面目に。聞き返しても同じようなことを言う・・・。興奮したんだな・・・・。ポコ、アーチャの顔をじっとながめた。

いるかのほし36 アーチャとポコ2

いるかのほし36 アーチャとポコ2

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-09

CC BY-NC-ND
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