家政婦ロボットは見た
《お帰りなさいませ。ご夕食はサバの味噌煮でございます》
「ああ、ありがとう」
いつものことながら、榊原はメグミの献立に感心した。その日の昼食は、取引先の好みに合わせてコッテリした肉料理だったので、夜は魚がいいなと思っていたのだ。
榊原が家政婦ロボットのメグミ(MEG3型)を購入したのは一年前のことである。その前の年に妻を亡くし、三人の子供たちの面倒を人間の家政婦にみてもらっていたのだが、どうしても子供たちが懐かず、悩んだ末の苦肉の策であった。
当初は、機械に子供を任せるのかと不安でいっぱいだったが、子供たちの反応は意外だった。
「このロボット、エキセントリック・ファンタジーのダナム姫に似てるね」
《帝国の威信にかけて、ブロイルズ卿を倒すのです!》
「うわー!」
「スゴイね」
「知ってるんだ」
たちまち、子供たちと意気投合してしまった。
それだけではない。家事全般にプロ級の腕前で、特に料理は絶品であった。材料費などが相当かかるのではと心配したが、家計の管理も徹底していて、生活費は以前より減ったくらいである。
その日のサバの味噌煮も最高にうまかった。
「本当にきみは料理が上手だね」
《お褒めいただいて恐縮です。ところで、ご主人様》
「何だい」
《そろそろボーナスの時期かと思いますが、今買うとお得なものをリストアップしました》
「ほう、見せてごらん。なるほどなあ。冷蔵庫も買い替え時か。あれ、新型ゲーム機タイタンだって」
《すみません、出過ぎたマネをしました。次男のマーくんが欲しがっていたもので》
「というより、マサルに頼まれたんだろう」
《申し訳ございません》
「はっはっは。いいんだよ。考えておこう」
《それから、もう一つ》
「えっ、今度はナギサの頼みかな」
《いえ、ナギサお嬢様ではありません。たぶん、ご主人様の欲しいものだと思いますが、モトダから新型車が出ました》
「まいったな。全部お見通しだな。確かに、それも考えてる。頭金ぐらいは、今度のボーナスで何とかなるだろうと思うよ」
その少し前、某所にあるロボット製作会社の情報管理センターで、二人の男が話していた。
「おい、この榊原って男、もう一年経つからデータ解析終了じゃないのか」
「どれどれ。ああ、そうだな。もう充分だろう。家族の嗜好も経済状態も把握できた。これからは、我が社の系列企業の商品を、ロボットを通じてじゃんじゃんレコメンドすればいい。これぞ究極のターゲットマーケティングってわけさ」
(おわり)
家政婦ロボットは見た