枠の中
―――政歴868年。
人類はドームに覆われた空間を世界と呼んだ。
外界とは遮断されたそのドームの内部は、およそアフリカ大陸ほどの大きさがあり、人類はすべてその空間で生活をしていた。
ドームは放射能を完全に遮断し、30億人にものぼる人口のすべては三層に別れた居住空間にて完全に管理された生活をしている。彼らの言語はエスペラント語で統一され、世界政府は人口の爆発の解決策を宇宙に求めていた。
不幸 蝶々 シャングリア
"警告。5時の方向から接近物体有り。距離は450"
「本当か!?速度は」
男は久しぶりに聞く警告音に胸を踊らせる。
"速度計測中....速度は1200。小型宇宙戦艦のようです。生命反応を確認。こちらに向かっています"
「嘘だろ、おい」
男は久々の高揚感に胸を踊らせ、モニターを覗いた。そこには確かに宇宙船があった。見たことはない作りだったが、新しいタイプの宇宙船のだろう。
すると、そのモニターに眩しい光が反射する。その光はいまでは珍しいモールス信号で、英語でこう言っていた。
"前方736小惑星にて不時着願う。君を助けに来た。"
"了解"
現在はエスペラント語のモールス信号も開発され、そちららのほうがいまは一般化されていたのだが、古株の操縦士によっては、いまだにモールスに英語を使う人間もいる。幸い男が操縦士訓練をしているときの教官は英語のモールス信号を好む人間だった。
男は進路を小惑星へ設定した。
「愛。目標を前方736にある小惑星に軌道修正してくれ」
"了解しました。"
愛と呼ばれた主は各宇宙船に装備されている人工知能"AI"のオペレーションシステムのことである。
もっとも、この男は一人きりの宇宙旅の孤独感をすこしでもまぎらわせるため、親しみを持って"愛"とよんでいた。
枠の中