素直になれなくて

素直になれなくて

笑顔 嫉妬 10分間

ある町外れに住んでいる博士がいた。ここ数ヶ月彼はある特殊な研究を続けていた。もうすぐその研究が完成する。博士は興奮していた。この研究が完成すれば世界は平和になるぞ!そして、人々に認められ富と名誉を得られるぞ!と、、、
博士が研究しているもの、それは"嫉妬を笑顔に変える薬"であった。
今はまだ試作の段階であるから、10分程度しか効果は継続しないが十分人に試せる水準の薬は出来上がっている。早速博士は実験を行ってみることにした。

まず近所に住む双子の兄弟で試してみることにした。この双子は兄の方が運動神経がよく、弟の方が頭が良かった。それゆえに、どっちがより上手にできるか、勝負に勝った等しょっちゅう喧嘩するのだった。双子はお互いに嫉妬し合っているのではないかと博士は思ったのだ。さっそく2人に薬を飲ませて、様子をみてみた。するとどうだろう、一見今までよりもずっと仲良く遊び、喧嘩もなくたったではないか。両親も本人たちも大喜びである。博士も結果に満足し、実験に協力してくれたお礼に1ヶ月分の薬を両親に与えた。しかし、1週間後双子の両親は、薬を返品してきた。「すいません。やっぱりこの薬は要りません。最初の2、3日は喧嘩もなく平和でよかったのですが、なんだか違和感がありまして…喧嘩がなくなるのは嬉しいんですけど、子供たちのやる気もなくなってしまうみたいなので、向上心?ライバル意識?というのでしょうか、とにかくこれはお返しします。」

博士はこの結果に納得がいかないながらも子供だからなのだろうかと思い、次の実験へと移った。次の実験対象は隣町のカップルである。博士は彼氏のほうから彼女のヤキモチが酷くて困ると再三相談を受けていたからだ。さっそく彼女にヤキモチを感じた時にこの薬を飲むよう説明し薬を渡した。ただし効果は10分だけなので、10分経ってもモヤモヤが続くようならもう一錠、1日に飲んでいいのは6錠までであると注意も忘れずに。そうするとどうだろう、今までおてんばで思ったことははっきり表情と言葉にしていた彼女が、物腰柔らかな大和撫子のような性格の女性に変化したではないか。これで彼氏も満足するだろうと自信満々に感想を聞きに行った博士はまたもや期待を裏切られることになった。彼氏は元の彼女に戻して欲しい、こんな薬いらない!なんて馬鹿げた発明をするだ!!と怒りを露わにした。これには博士もびっくりである。彼を宥めて理由を聞いてみると、「嫉妬は愛情だったんだ、彼女が全くヤキモチを妬かなくなってしまって、自分が愛されているという自信がなくなってしまったんだ」と言い、さらに「いつもニコニコ物腰柔らかな女性は理想ではあるけど、実際は自分の感情を素直に表現してくれるほうがいいんだ!」と語った。ふむ…そうか……まったく、人騒がせな恋人たちである。結局どんな彼女でもその彼女自身がいいとゆう惚気ではないか。わたしの時間と労力を返してくれと罵りたくなったがここは我慢。納得はいかないくても、一端の科学者なのであるから、と。どうあがいてみても結果は変わらないのである。その後何度も実験してみたが、最初はいい反応なのだが、最後までこの薬に感謝し満足してくれる人はいなかった。
どうしてなんだろうか。画期的な薬だと思ったのに。もっと泣いて喜んでもいいぐらいなのに…
そもそも博士がこの薬を開発しようとしたのは世間に認められたいという思いもあるが、実のところ夫婦仲の修復のためであった。実験にばかり熱中し、自分のことは気にも留めない、そんな博士に怒りを通り越して呆れ奥さんは家を出て行ってしまったのだ。ただ今別居中である。博士はその原因が仕事に熱中してしまうことへの嫉妬だと思い、仲直りこ解決策として研究を始めたのだった。結局この薬では仲直りできないようだが。自分の性格を直すことはできない、だから奥さんの嫉妬を無くせばいいとゆう考えがこの薬を生んだのだ。ただ仲直りしたいだけなら謝ればいいのに、それができず遠回りをする博士なのであった。博士が謝るのが先か、素直になれる薬を開発するのが先か見ものである。さて、博士はどちらを選択するのだろうか…。

素直になれなくて

素直になれなくて

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-08

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