与那国の幻

与那国の幻

海 ペン 座布団

これは綺麗な海に囲まれたある小さな小さな島のある少年のちょっと変わった物語である。その島は、都会のようにキラキラ便利ではないが、その代わり綺麗な自然があり、やさしさがある、そんな場所だ。島の人たちもみな元気で人懐っこくて親切だ。でもその中で竜と言う名の少年は少し変わっていた。竜は他の子供たちのように海で泳いだり、元気に走りまわったりしなかった。絵を描くことは好きだが、家でも学校でも無口で、必要最低限のことしか話さない。誰にも干渉されずにぼーっとしてることが好きなのだ。そんな竜に島の人たちは懸命に声をかけ、なんとか輪の中に入れようとするも当の本人はどこ吹く風、まーったく関心がない。そんなこともあり竜は島の変わり者とされ、みんなに少し距離を置かれていた。
何も最初から竜が変わり者だったわけではない。小学6年生までは少し無口な愛嬌のある子供だった。しかし、小6の夏、それは起こった。竜の両親は共働きで放任主義のため、おばあちゃんが面倒をみていた。おばあちゃんは一人しかいない孫をそれはそれは大層可愛がった。たくさんの愛情を注いだ。それを返すように竜もおばあちゃんが大好きだった。竜にとっておばあちゃんは母であり、姉であり、時には気の合う友人であり、相談相手であった。そんなかけがえのないおばあちゃんが突然亡くなってしまったのだった。その悲しみも冷めないうちにさらに追い討ちをかけるかのように親友の俊も急遽親の転勤のため海の向こうの台湾に引っ越すことになってしまい連絡が途絶えでしまった。気を許し、安らげる心の拠り所であった2人を一気に手放すことになったのである。それは竜にとってとても衝撃的な出来事だった。それ以来竜は誰も心の内に入れることをしなかった。近づけさせなかった。中学3年の今でもである。
そんな竜にも心休まるほっとできる場所があった。それはおばあちゃんの形見である座布団に座ってるときである。彼はいつもその座布団を持ち歩いた。どこに行く時も持ち歩いた。特にお気に入りの場所は海辺(天気がいい時には台湾がうっすら見える)そこに座布団を敷いて座り、海を眺めながら絵を描く時間が竜は1番好きだった。
そんなある日、その日は竜の誕生日であった。いつものように海辺で絵を描いていると、突然ノートの中の絵達がが踊るように動き出し、海の中に入っていった。そしてその絵達はついてこいよ!と竜を挑発するようにポンポン海の中に消えていく。最初は驚いて固まっていた竜もつられてぴょーんと飛び込んだ。するとそこには不思議な世界が広がっていた。竜の描いたキャラクターの絵がプカプカ浮いているその中心に大好きなおばあちゃんとニコッと笑っている。「お誕生日おめでとう!!もう15歳になるんだねぇ、竜ちゃんも!はやいはやい!いやぁ、急に逝っちまって驚いたろう。もっと早く竜ちゃんに会いに来ようと思ったんだけど、準備に色々手間どってしまってね、、、。でもね、竜ちゃん、ばあちゃんは元気な竜ちゃんの方が大好きだよ。いつまでうじうじしてんだい?もっと周りに目をむけてみぃ。友達いっぱいつくって、この島の人たちはみんないい人だぁ!!ばあちゃんがいつもどーんと構えてそばで見守ってるんだから、怖がらずに一歩踏み出し!!ふふ、説教はここまで!本当に誕生日おめでとう^^ほら、これ誕生日プレゼント、これからも大好きな絵いっぱいお描き!大切にね!」おばあちゃんはニコニコ笑いながらプレゼントの高級そうなペンを渡し竜をぎゅっと抱きしめた。
竜は心につっかえていたなにががすーっと溶けていくように感じた。そう、本当のことを言うと竜は誰も近づけずに1人でいることが好きなわけではない、ただ怖かったのだ。大切な人たちができるのが…。そして、誰かに背中を押してほしかったのかもしれない。トントントン誰かが肩を叩いている。なんだろうと振り返ると、ふぁーっと今まで目の前に広がっていた世界が消えた。「おい!竜‼︎なにぼーっとしてんだよ!!ニュースニュース!!俊が帰ってきてるぜ!ほら、会いにいこう!早く早く!!」と大騒ぎでそのことを竜に伝えると島の子供達は走りだした。先程までの出来事は幻だったのだろうか、でも手にはプレゼントが握られている。。。大きな一歩を踏み出せる予感を感じながら、竜は駆けていった。

与那国の幻

与那国の幻

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-08

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