《神霊捜査》第四部  不動の剣

《神霊捜査》第四部 不動の剣

《目次》
第一章 二つの事件
(1) 他殺体
(2) 調査報告
第二章 型出しの定
(1) 二人の報告
(2) 悪のお役
第三章 神界事情
(1)事件解決祝い
(2)五島の回想
(3)理不尽な神実

第一章 二つの事件

(1) 他殺体

五島が昼食を終えた時であった。
珍しく、山崎課長補佐がトバケンこと戸張健捜査一課長と鎮西刑事を連れてやって来た。
コーヒー豆を挽きながら、話を聞いた。
用件というのは、二つの殺人事件の異様さに、疑問を持ったと言うのであった。
その一つの殺人事件とは、福岡の西南奥の早良区脇山にひっそりとある十二社宮という神社の境内で25歳の男性が模造剣で刺殺された事件であった。
五島はこの神社の名前を聞いたとたんに、豆を挽く手を止めた。
五島が忘れることが出来ない神社だったからである。
不思議なことは男を殺した模造剣がどこで造られ何に使われていたものか鑑識課の調べでも判明していないことであった。
長さは刃に相当する部分が60cmもあり、全長95cmで鋳物製の尖ってはいるが、物を切ることはできない諸刃の模造剣が男性の右肩から左腰まで上から下に貫通していたのである。
それに害者の車が残されていて、鑑識から、同伴者がいたと認識されているが、所在不明で、犯人と思われる数人の靴型が採取されているという。
今は捜査一課の刑事が、模造剣の捜査に当たっているという。
トバケンが死体から抜かれた模造剣の写真を五島に見せた。

「ああ、これか? これは君、不動明王の剣だよ。
剣の模様に炎が描かれているだろう。ここに。」

と、五島が指摘した。
トバケンは、すぐに署員に連絡を入れて、不動明王の人形を製造している所の捜査を指示すると同時に、寺院仏閣や、滝の不動明王の像を調査して、剣が欠けているものがないかの調査を指示した。

「車は駐車場が無いから農道に置かなければならないはずだから、別の車のタイヤの型は取れただろう?」

「五島先生は十二社宮をご存知なのですか?」

「ああ、あそこは大変な怨念のある神社でね。話せば長くなるから止めておくが、凄い神業の初発の場所だったんだよ。」

「はあ、そうだったんですか?
それでは話をしやすいですね、あそこは無人で山里の神社ですから、鑑識からの報告では、事件発生は発見された日の7日も前らしいのです。
近所の農家のおばあさんが10日に一度ぐらいの頻度で、簡単な掃除をする習慣で、神社に入って見つけたのです。
後一つの事件は、室見川の上流で、下着を着けてなく裸足で傷だらけの20位の女性の死体が昨日発見されたのです。
場所が場所ですから、あの車の相手の女性ではないかと今、鑑識が指紋照合をしているところです。」

山崎課長補佐の携帯電話が鳴った。
シンレイ課の上川史子からの連絡だった。

「今、史子ちゃんからの連絡が入りました。
彼女、科捜研出身だから、この事件の鑑識内容を詳しく聞きに行っていたのですが、その報告でした。
男性の事件では、座らせて、何人かが、押さえつけて、凄い力で模造剣を右肩上から刺して、その上、金属バットか何かで叩いて左腰まで突き抜けさして殺した凄惨な事件らしいです。
被害者は車の所有者リストから、飯島徹25才、西区役所の公務員と判明したということです。
5日程前から失踪届が出ていたとのことでした。
女性の方は、下着を着けておらず、裸足で発見されています。
やはり指紋照合で、名前は鈴木ひとみ、22才で博多大学の学生4回生と判明。
飯島と婚約中で、同棲していたとのことですが、不明なことは、死因が薬物中毒によるショック死と判明して、しかも、殺害の時期が一昨日の朝、つまり飯島の死後、5日後だったことです。
死体解剖の結果、多数の暴行の痕跡があり、複数の体液が検出されていて、現在DNAを照合中です。
体には腕に複数の注射痕が見られ、新しい傷跡と言うことです。
水は飲んでおらず、死後、室見川の上流に遺棄された模様だそうです。
ああ、言い忘れましたが、現場の農道には、複数のオートバイのタイヤ痕と境内で、
マリファナを使用した痕跡が発見されています。
と言うことです。」

「それで、何を聞きたいのだい?」

「ハア、実はこの事件は我々の管轄外なのですが、西署の捜査一課長が、うちの署のシンレイ課の話を聞いていて、奇妙な事件なので、合同捜査を申し出て来たのです。
それで、神社のことは五島先輩が詳しいから、取り敢えず、事件の内容をお知らせに来たと言う訳でして。」

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(2)調査報告

翌日、雫ちゃんと史子ちゃんが五島家に訪ねて来た。

「今日は珍しく女性二人でかい?真ちゃんはどうした?」

「ハイ、真ちゃんと誠さんは山梨出張です。」

「山梨?」

「実は、いろんな事件が重なりまして、人手が足りなく捜査一課の仕事にかり出されたのです。
山梨はあの十二社宮の事件の被害者の出身地でして、親元の事情聴取に行っています。
あの害者の男性は鎌倉の出身で、女性は山梨市だそうです。」

「ほお、 山梨と鎌倉か?」

「先生!何か思いあたることがあるんでしょう? 何かそんな顔をしていますよ!」

「いや、何でも無い、で何で二人が、こんな遠い博多に来たんだい?」

「その理由を聞きに真ちゃん達が行っているのです。」

「成る程。
雫ちゃん、そこの食器棚のコーヒー豆を挽いてくれないか。
お湯はすぐ沸くから。」

「史子さん、先生とこのコーヒー美味しいんですよ。
水は蒸留水で挽きたての豆でいれるから、署のインスタントとは大違いですよ。」

「そりゃそうだろう。
インスタントコーヒーと比べられたなんて、ガッカリするな。
ところで、今日はエクレアは無いのかい?」

「あっ。ごめんなさい。
急いで来たもので、忘れていました。」

「他に何か解ったかな?」

「ハイ、例の模造剣。出所が解りました。
篠栗の八十八ヶ所霊場の滝に置かれいた、不動明王の剣が紛失していて、そこから盗まれた ことが解りました。」

「ハアぁ、、、篠栗の霊場か? 成る程。
いやに遠い所から盗んで来たものだなあ。」

「先生、不動明王様とは何なのですか?
神様ですか?仏様ですか?」

「フム、神様だけど、名前が違う。
本当は道城義則之大神というのが本当なんだ。
地球神界会議議長の重責があるんだよ。」

「では、不動明王様のあの怒った形相の顔はなぜなんでしょう?」

「神界戦争で、殆どの世之元の神々が機能不能となった時、偽神や、仏教が世を持っていて、神々を自分達の中に取り込みをしたんだ。
たとえば弥勒菩薩みたいに明らかに根本ミロク之大御神様の取り込みと判るようなものから、この不動明王様みたいに、取り込まれて、怒り狂った顔と、背中から腰まで剣で突かれて苦痛に歪む顔が交ざったような形相で晒しものにされているのだよ。」

「そうなのですか?」

「もう一つ、言うと、道城義則之大神様の妻神様は花依姫之大神様だが、この姫神は、天体神の悪神に拉致誘拐されて、我々が救済祭事をするまで、性的奴隷として、囚われていたのだから、救済された時に、我々に奴らを殺したいと神様らしからぬ怒りをぶちまけられたのだよ。
夫神様の道城様の元に戻られる時に、道城様が、優しい態様でお迎えになり、我々は、ホッとしたものだったよ。」

「ええっー。今回の事件そっくりですね。
やはりこれも神界の型出しでしょうか?
あの薬中毒で女性を殺したのは、どうも西区の暴走族のグループみたいですよ。
十二社宮でマリファナを数人で吸っているところにアベックで、参りにきて、運悪く、現認したことから、捕まえられて、男はグループの番長に殺され、女性は拉致されて脊振山の山奥のアジトで幽閉されて、グループの性奴隷にされていたが、彼らから射たれた、麻薬でショックを引き起こして死亡したと推測されています。
今は、暴走族の全員15名を逮捕して取り調べしている最中です。
ボスの19才の番長Aは背丈が195cm体重120kgの巨漢だそうです。
彼等は全員が白状した訳では無いが、十二社宮での、バイクのタイヤ痕や、マリファナパイプ等の遺留品、多数の体液のDNA、脊振山のアジトの監禁跡等の検証で上がっている証拠は揺るがないので、時間の問題でしょう。」

と、史子ちゃんが話した。

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第二章 型出しの定


(1)二人の報告

真ちゃんと誠ちゃんが帰福した。
早速、玉の井で報告会と称する飲み会が催された。
今日の肴はヒラメの薄造りと煮付け、唐揚げだった。
薄造りと唐揚げには、万能ネギと紅葉おろしが、よく合っていたし、煮付けにはゴボウと筍に山椒の葉の緑がよく映えていた。

「やっぱり博多の魚は美味しいですね。」

「酒もうまい。」

「おや!向こう」では飲まなかったのかな?」

「ハイ、仕事で行ったんですから。」

と、真ちゃんが横鼻を掻きながら言った。」

「真ちゃん、嘘言ってる!いつもの都合の悪い時にする癖が出てるよ!」

と、雫ちゃんが冷やかした。

「山梨の酒はうまいですよ。特に葡萄酒はいいですね。」

と、誠さんが白状した。

「ハーン!山梨ではフランス料理だったんだ。」

「ええ、ホテルの近くに雰囲気のいいレストランテがあったので。そこで食事をしました。」

「山梨の葡萄は上等だから、安いホームワインでも美味しいからねえ。
ところで、あちらの情報はどうだった?」

「ハイ、被害者の飯島徹は鎌倉市の本屋の息子で、高校生時代に自転車で九州一周旅行の途中に博多でどんたく祭りを見て気に入り、博多大学を志望して政経学課に入り、卒業後も博多に 残り、西区役所に勤務していたということでした。
区役所から行方不明の連絡がきて、失踪届を区役所から出してもらったということでした。
検視には父親が一人で忙しい中を福岡まで往復したらしいです。
もう一人の鈴木ひとみは山梨市の小作農家の生まれで、早くに父親を亡くして、母の再婚に反対して家を飛び出し、博多大学を受験して、教養学部に入学、アルバイトをしながら通学中、合コンで飯島と知り合い、意気投合して付き合うようになって、婚約まで行着いたみたいです。」

「やはりな!鎌倉と山梨か!」

「先生。なにかあるのですか?」

「うん。これには大変な神仕組みがあるみたいだね!完全な型出しだな。」

「キーワードは害者のミタマ親神だ! 雫ちゃん二人のミタマ親神を神さんに聴いてみておくれ。」

雫は暫く神合わせをした後で、

「もう亡くなられた方なので、明かせないと言われていますが、『道』『花』という字が見えました。」

「けっこう、それだけで充分だ。でかした。」

「これで解るのですか?」

「ああ、道城義則之大神様と花依姫之大神様だよ。」

「うわあー、凄いな。道城義則之大神様とはどんな神様ですか?」

と、真ちゃんが尋ねた。

「ああ、不動明王様さ。」

「すると、あの模造剣と関係があるのですね!」

「そうこれには深い訳があるので、今度ゆっくり正式の捜査会議を開いたが良いと思うよ。ね。課長!」

「解りました。先輩、その時は是非参加して下さい。お願いします。」

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(2) 悪のお役

殺人容疑で逮捕されていた暴走族のメンバーの内に数名が証拠を示されて、徐々に白状しはじめていった。
やはり、事件の発端は、十二社宮で5名のメンバーが、マリフアナパーティをしていた時に、偶然にも被害者達がアベックで、参拝に来て、その様子を見てしまった為に、番長のAが指示して、二人を捕捉した。
身分証を調べて、飯島徹が、公務員と知り、マリフアナの酔いもあり、警察に喋られることを恐れて、そこにいたメンバーに飯島の目の前で、婚約者の鈴木ひとみを輪姦して、携帯でその様子を写真に撮り、このことをばらすと、写真をばらまくと、脅した。
目の前で、婚約者が強姦された飯島徹は、怒りに震え、すきを見て、そこにあった石ころを持って、Aに殴りかかった。
が、逆に他のメンバーに押さえつけられてしまった。
怒ったAがメンバーが盗んで持って来ていた模造剣を一気に飯島徹の背後から、突き刺して、半分刺さり残っていた部分を金属バットで左腰から刃先が出るまで叩いたという非道をしたのでした。
Aは19才になったばかりだったが、体の大きさと非情な暴力で一躍番長になったと言われていた。
親は不動産屋を経営していたが、丸暴の情報では、暴力団の外部構成員だという話であった。
この親の所有する脊振山にある別荘が、A達の暴走族のアジトとなっていた。
このアジトに、飯島徹殺害後、鈴木ひとみを拉致したまま連れ込み、麻薬を注射して、残りのメンバー達に入れ代わり立ち替わり、強姦させていたというのである。
一週間位たった時に薬を注射したら、異変が起きて、泡を吹いて死んでしまったということでした。

捜査会議に出席した五島は事件の調査報告書を読んだ 。
五島は、ため息をついて、独り言を言った。

「神業で、型がついているのに現界への型出しは未だ続いて起こるのかねぇ・・・」

その独り言を聞いていた雫は取り継ぎを伝えた。

「『同じ神でも、表、裏、蔭、奥、芯とあり、それぞれに分霊、分神、分家、分流、亜分流とあり、この他にそれぞれに眷族が最低で200柱いるのだから、一回の神業では、完全に終わらない』 と神様が言っておられますよ。」

「成る程。暫く終わるのに、時間がかかるということか?」

「五島先生、その神業の話を聞かせて下さい。」

「今度時間がある時に話してあげるよ。」

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第三章 神界事情

(1)事件解決祝い

今夜は、西署の捜査一課長とトバケン捜査一課長が加わって、玉の井で事件解決を祝うという名目をまたまた付けて、飲み会が催された。
本郷神霊捜査課長の乾杯から始まり、西署の捜査一課長の感謝の言葉が述べられた。

「今夜は五島先生の神業の話を聞くまでは、お開きにしませんから、そのつもりでいて下さい。」

と、雫が五島に念を押した。

「仕方無いな。話が長くなるから、その前にこの美味しそうな料理と酒を平らげることにするか。」

と、、五島は、テーブルの上に出されたバリの洗いとバターでソテーされたフライを小皿にとって、ネギが沢山入った味噌汁を見て、女将に言った。

「ここの板さん、やはり腕はいいね!」

「あら、先生、お気に召しましたでしょうか?良かったわ。
皆さん今夜の肴は五島先生の持参されたバリの料理ずくしですよ。」

「エッ!五島先生の?」

「ああ、なに、今朝、糸島の唐泊港で釣ったんだよ。
釣友の誘いで久し振りに釣りに行ったら、大漁でね。
10枚も釣れたもので、今夜の宴会を思い出して、無理を言って板さんに料理を頼んだのだよ。」

「うちの板さんが言っていましたよ。
このバリは本当はこんなに美味しいのだが、鮮度が落ちやすく、臭いので、普通一般には食べられていない。
先生の釣れた後の処置が良くて、バツグンに生きが良かったので、料理がしやすかったと言っておりました。
美味しいですか?そうですか、それはよろしかったですね。
私も心配だったので、ホッとしました。」

「うわあー、そうでしたか、先生釣りの趣味もあるんですか?」

「これでも、わしは昔はずいぶんと磯釣り、船釣りに行ったもんだよ。雫ちゃん家に大鯛の魚拓があるの見て知っているだろう。」

「ああ、思い出しました。
あの空間の宮の前に置いてある魚拓ですね。
大きいんですよ。1 M 位ありますね!」

「それは大げさだ。80cmだよ。」

「どこでそんな大きな鯛を釣ったんですか?」

「平戸の生月島の北端、小鯨島の磯からの夜釣りで大鯨島の横まで流して。」

「昔はそんな大きな魚が釣れたんですね!」

「何を言うんだい、平成12年の11月だよ。」

「ヘエー、そうですが。それはすごいや。」

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(2) 五島の回想

五島は宴会の頃合いを見計らって、過去の神業の神実を回想しながら皆に話した。

平成5年8月16日の福岡城祉、つまり黒田如水親子が造った舞鶴城の天守閣跡地で神祭りをした際に、五島個人に神様から、「単独神業」の御下命があり、福岡市内の全ての神社仏閣、記念物、川や、池等の根元浄め各10回を施光するようにとのことであった。
丁度その頃五島は勤めていた会社を自主退職していた為に時間が自由にあり、真夏の暑い最中の平成5年8月25日から9月12日まで毎日、朝方から夕方まで、車で一人きりで回って根元浄めを施光したのであった。
19日間で合計643ヶ所を回り,全て場所と時間を記録して、その書類をその当時の仲間の神通司に送り、検証してもらった所、その内のたった一ヶ所で、新たに神祭りを施光する必要があることが判明した。
その場所が、福岡市早良区脇山にあった十二社宮であったのである。
各地から、同心の同志が集まり来て、平成5年10月14日十二社宮正祭が施光された。
五島が先達を勤めたのは言うまでもない。
その時の取り継ぎは次のようなものであった。

『(平家物語の冒頭の部分のベンベンベベンという琵琶の音が響いて)"ひっかかりおったわい。
鎌倉、鎌倉、鎌倉・・・(唱が流れる)壇の浦、春、夏、………のことわり、……鎌倉に剣を持つ。つかいたもれ。
この剣……右手に高々と掲げ、金色の太陽に向け、』(上の方から白い神様が、ずっと見ている)

二社三拍手一礼してから取り継ぎ役が

「改めて、もう一度、お願いします。唯今の取り継ぎの一部始終を右上上空にて、御覧あそばされた大神様、事の御説明をお願いする訳には参りませんでしょうか。
一体、何がどうなってしまったのか、教えて下さい。」

と訊ねた。

『鎌倉に行けば判る。琵琶法師をして語らしむ、隠された真実、解きたまへ。
我は、サギの神』(羽が凄く綺麗で、鶴と間違えそう)

というものであった。
この後日、この神業を受けて、鎌倉に近い所に住んでいるグループが、鎌倉太刀洗神業を施光することになるのである。

平成5年12月5日鎌倉市十二所285にある鎌倉十二所神社で祭事が施光された。
先達は、当時の取り継ぎ役が勤めた。
先達が挨拶した。

「現在108日間の日参の御下命を頂いております小豆島の一心寺の道城義則之大神様の御下命で、熊本の人吉から、次に福岡の十二社宮へ10月14日に参りました。
一連の道城義則様の解放の神業過程におきまして、12月5日にこの鎌倉の地に参入せよ、との御下命を頂き、本日は、こちら十二所神社に参入をお赦し頂きました。」

この挨拶に対する取り継ぎがきた。

『満願近き日、縁ありて寄り集いてくれた者たち、我は、先行き案内(あない)を致すもの。
高津のみや漕ぎ出でし舟、高天原へと向かう。
天は、あくまでも揺るがず、じっとその行く手を見守る。
鷺(さぎ)が舞い上がるがしるし。
心してまいられよし。
こ度の神業、先の準備、ちと整うておらぬ故、今暫く、こちらにて待機してはくれぬか。
バンダイコジョウノカミ。
次のことは、時至れば導く。
暫し待って下され。』

ここで神人の一人が質問した。

「屋久島の第五回根元総会で、地球管理神172神様とは別に、実は御竜体を持たれた方の数が198神おられる、ということを洩れ伺いました。
つまり、特命、御事情があられて未だその御名を明かされておらずに、世に出ておられなかった神々様が26神いらっしゃった、ということだったと思いますが、大変失礼に存じますが、私達は誰もバンダイコジョウノカミというお名前を存じておりません。
その26神のお名前が明かされておられなかった神々様の御一方様でありましょうか。」

『一度、追放され、また戻って来た身。
席次は、188をもらっておる。
大慈悲を頂いた。
我にとっては、戻っての最初の大きな仕事。
神民に話すことではなかつたかも知れぬが……。』

と言い残して、行ってしまわれたのでした。
この後、朝夷奈切通の太刀洗湧水で正祭を、取り継ぎ役先達で、施光した。
参加していた神人の一人は9月から、肩から肩甲骨に至る痛みを感じていた。
取り継ぎ役の霊視から肩に大きな刀が刺さっていることを知らされた。
ここで 今日のこの正祭をするようになった経緯を説明すると、取り継ぎが出た。

『我も、緊張しておる。
この姿、見たものは、必ず一歩二歩三歩と、後ずさりするであろう。
ヒカリを忘れ、闇の中に生き、一億二千という長い月日を沈み待ちた。
我だけではなく、裏神も、共に深き傷負った。
天は裂け、赤き血の如くに稲光、天を駆け抜け、
大神の怒りを一身に感じた。
我は、これで終わりと思うた。
このような話、聞くため、わざわざここまで来たのか?
話をして、よいのか? 』

「・・・・・・・」

『赤き血に染まったような空を仰ぎ、自身が一体、何をしたのか、呆然と考えていた。
事に係わった神は、12神。
我は、刀を抜いたのである。
太刀洗の湧水とは、よくぞ言ったものである。
いくら洗い落としても、落ちきらない神実が、
その太刀には、残っているのだ。
そなたたちの、手を借りて、本日、この場で、
その太刀、我が手元より大御神の下へ返そうと思う。
我が姿見ても、びっくりしてくれるな。
そこの神人殿、
型出しの為とは申せ、体をお借りしたこと お詫び申す。
御自分の手で、左手で、それを抜き、太陽にかざして下され。』

『大御神は、また、我をお使いになって下さるであろうか。
やむごとなき事情というには、余りある時の神界事情ではあったが、
余りにも、悲し過ぎる話ではないか。
12月23日、お大御神の審判を仰ぐ。』

『刀というのは、人間だけでなく、神々の悲しみの象徴でもある。
今日を境に今後変わることを、ひそかに望む。ありがとう。』

この後、御挨拶をして、道城義則之大神様が不動明王とヘグレられていたことの型出しをした神人は自分で肩から刀を引き抜く。
不動明王のあの怒りと哀しみの混じった顔と凄惨なお姿はこのような理由であったことが判明したのでした。
これ等の関連祭事を消化した後の同年12月23日、小豆島の一心寺大祭が施光されて、不動明王となり、封鎖されて晒しものになっておられた、道城義則之大神様は大御神様の慈悲ある審判を受けられて、晴れて、地球神界会議々長に復帰されたのでした。
五島の話はこれで終わりではなかった。

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(3)理不尽な神実

「それであの不動明王様の剣が使われたことは解りましたが、女性の方のあの非道な事件についての神実はどんなものなんですか?」

と、誠ちゃんこと柘植誠一が尋ねた。

「おっと、誠ちゃんもだいぶ神霊捜査課員に馴染んで来たね。」

一息入れて五島の話が始まった。

平成9年10月11日、我々神人は、山梨のある神宮で催されることになっていた、秋季大祭に参加すべく、山梨のメンバーの家に集合して、神仕組みのままに大祭の前神業として山梨市大石神社に参入した。
夕方の4時半過ぎで、もう日が傾きかけた時であった。
巨岩累々たる大石山々頂の本殿に至るには、正面鳥居から見上げる石段を登らなければならない。
もう、その入口で、取り継ぎ役の彼女は被害した。一歩も進めない。見上げる本殿に、息も絶え絶えの姫神が神在した。
姫神は、『何しに来たの?』とつぶやいた。
取り継ぎ役は、どなたですか?と訊いた。
すると、『義則の妻』と、ポツリと答えられた。
そして、取り継ぎ役はダウンした。
私は、もう一人の横浜の彼と取り継ぎ役を両脇から支えて、漸く200数十段の石段を登り切ると、忽ち彼女は人事不肖に陥った。
拝殿前の石段に仰臥させた。
メンバーが心配して取り囲む中、苦悶の表情が、身体全体に伝わり、左手だけが意思を伝えた。
自動書記の合図、である。

『キリキリ 来た (取り継ぎ役の被害の様子、身体の変調を訴える)
かえれ ("彼等"の恫喝)
まだ よしのり (断片的、単語の羅列、まだ九十八がうまくしゃべれない態様)

この姫の 思いを 元通りにするのは まだ時間がかかる ("彼等"の戸惑い)
これをしたら 義則は怒り狂う (自分達のやったことを道城様が知ったら、怒り狂う、との恐れ)』

神人と一問一答

「あんたたち、この姫に一体何をしたんだ?」

『きくな どちらにしろ 同じようなものだ もういいから かえれ』

「そういうわけにはいかない。時節は来た。花依姫様を返しなさい」

『(そんなことしたら)「月読に、我らは裁かれる」(注、このことに月読神力・魄の微調整の凄さがある)』

「そうだとしても、そのことは 根元御胸に所在することだ」

(しばらく沈黙。"彼等"、じっと考え、以下にいう)

『この娘(取り継ぎ役)、使ってもよいものか? この(生宮の)中へ、女神を入れるぞ。それでよいか?』

「分かった。入れてくれ」

『頭と足をしっかり押さえておけ』

取り継ぎ役麻痺、ピクン、ピクンと律動、花依姫様、取り継ぎ役の生宮の中へ入る。

「道城様のそばへ つれていって下さい。」(取り継ぎ役に入った花依姫様の要請)

「判りました。お約束します。」

この日の夜、直会となった時、取り継ぎ役は、今日の大石神社での、被害時のことを覚えていないこと、ただ一つ「リョウジョク」、この言葉だけを、記憶していることを我々に伝えた。(リョウジョク・「凌辱」)

21時過ぎになって、取り継ぎ役の体内に入った花依姫様が発動した。

『・・・・一度でよい 鬼となり "彼等"を握りつぶしてよいですか このままでは 帰れない…… 妻神として 道城義則の妻として (このままでは)彼(道城様)の思いに応える術が わからない 助けて! 鬼となることを どうか ゆるして下さい』

直会の酒席の場が、一気に沈黙した。

神人の一人が、貴女様だけではなく稚姫君(わかひめぎみ=上義姫様の別名)も、「あちらの世界」の中で、おどろおどを演じ切ったことを告げて一心に以和尽礼をした。

五島が 以上を話しおえた時、文子ちゃんが言った。

「私にはどうも理解出来ないのですが、神界でもそんな理不尽なことが起きているなんて、被害にあったあの二人が可哀想でなりませんし、あんな事件を平気で起こす人達を神様がこの現界に生まれることを赦すなんて!」

五島が神様から聴いた言葉を話した。

『我らを恨んでいるか・・・・・・
ヒトは真っ直ぐな道を歩こうとする時、対象物と自分との位置を確認しながら進んでいく。
その対象物が遠ければ遠いほど、その道の真っ直ぐさは正確になる。
我らの存在がそなたたちからかけ離れていればいるほど、そなた達の歩む道は真っ直ぐ延びる。
そこに反対側とよばれるものの存在の意義がある。根元初動から出たもの』

「神様は非道だ!」

と、真ちゃんが吐き捨てるように言った。

「私はそうは思いません。良いことも悪いことも全て神様がお創りになったんですから。ちゃんと意味があるはずです。」

と、雫がつぶやいた。

《神霊捜査》第四部 不動の剣

《おことわり》

この物語の登場人物、商店、会社名等は全て架空ですので、その事をお断りしておきます。

《神霊捜査》第四部 不動の剣

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-07

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著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第一章 二つの事件
  2. 第二章 型出しの定
  3. 第三章 神界事情