ららら勇者さん

ららら勇者さん

     (o´Д`)ノ

 なんていうか、まぁあれだった。
 プルルの最大の不幸は、聖剣を引き抜いちゃったことだった。
 
     (o´Д`)ノ
 
 日頃から運がなく、そのせいで周囲からいじめられる日々を送ってきた彼。
 お腹がすいて、いつもの安い定食屋に行く途中、通りの向こうに行列を見つけた。
 腹減ってんなら無視すりゃいいものを、そこはやっぱり考えの至らないプルルなので、なんとなく並んでみることにした。ひょっとしたら美味しい料理を食べさせてくれるお店かもしれない。幸い、バイト先の防具屋からお給料が出たばかりで、懐には多少の余裕がある。たまには美味しいものでも食べて、気分をリフレッシュさせなければ。
 すると不思議なことに、列はどんどん進んでいく。
(どんだけ回転の早い飯屋だよ!)
 脳内ツッコミに興じていると、その理由がようやく分かった。
 行列の進む先には、近づいたことすらない荘厳な王城。その高い高い外壁に立てかけられた看板に目をやると――
 
『聖剣を抜ける勇者さん、大募集!
 さいきん魔王が復活したっていうウワサ、みなさんは知っていますか? 魔王がこの国を襲ってきたら、みなさんはちょっと残念なことになっちゃうかもしれません。そんなのってイヤですよね? だからこそ、この王城に深く深く突き刺さったまま、真の勇者にしか抜けないと言われている聖剣を見事引き抜ける勇者さんを大募集しちゃいます☆ 腕に覚えのある大きなお友達はド~ンと挑戦してみよう!』
 
 ――なんて可愛らしい文字で書かれていて。
 でも今さら列を抜けようにも、周りを固める兵士の目がちょっぴり怖くて。
(まぁどうせボクには聖剣なんて抜けないんだし、とりあえずやるだけやって、それから飯食いに行くか)
 そんなことを考えていたら、早くもプルルの番になった。
「なんだ、プルル。お前も挑戦するのか」
「お前にはムリムリ。さっさとくじけて帰れ」
 プルルを知る町の男たちがヤジを飛ばしてくる。
(言われなくてもそのつもりだよ……)
 そして兵士と町民の見守る中、プルルはあっさりと聖剣を引き抜いちゃったのだった。
「あ、あれ?」
 真昼の陽光にきらきらと輝く聖剣を見上げながら、プルルはきょとんとする。
「なんだとっ? プルルのくせに生意気な!」
「そもそもプルルって名前どーよ? 電話の着信音か!」
「いや、これ一応ファンタジー小説だから電話とかねーし!」
 地団太を踏んで思いきり悔しがる男たち。
 するとプルルのもとへ、騎士がひとり歩み寄ってきた。
「おめでとう。君が聖剣に選ばれし勇者だ」
 そう言って甲冑に包まれた手を差し出してくる。握手を求めているのだろう。
 その手を見下ろし、それから騎士の顔へと視線を上げ、プルルは言った。
「すみません。辞退します」
 理由は『お腹がすいてるので』。
 
     (o´Д`)ノ
 
 それから一週間後。
 魔王が住むという、いかにもっぽい城の前にプルルは立っていた。
 兵士や町民たちに殴られ蹴られ、渋々ながら魔王討伐に出たのだ。
 さっきまで晴天だったのに、この城の周りだけ暗雲が立ち込めている。その上空を羽の生えたモンスターたちがギャーギャー鳴きながら飛び回っている。
 意外なことに、ここに来るまで魔物とは出くわさなかった。ラスボス目前だというのに、なんというエンカウント率の低さだろうか。ひょっとしたら、日頃使われることのない幸運がこんなところで発揮されたのかもしれない。だとしたらかなりのラッキーだ。このまま魔王を倒すところまでサクサク進めばいいなーなんて考えながら。
「ごめんくださーい。勇者ですー」
 大きな扉をコンコンとノックして、勇者プルルは乗り込んでいった。
 
     (o´Д`)ノ
 
『……どちら様ですか?』
 城に入った途端、地を這うような声が地響きとともに聞こえてきた。
「あ、すみません。勇者ですけど、魔王さんはご在宅でしょうか」
 聖剣を抜き放ち、きょろきょろと声の主を探す。
 声は返す。
『新聞なら間に合ってます』
「いえいえ、そうではなくて討伐に伺ったんですが」
『あ、そうだったんですか。これは失礼をしました』
 目の前の闇がうっすらと溶けていく。
 やがてその先に現れたのは、プルルの数倍の大きさはある、巨大な魔物だった。
『わたしが魔王です』
 鰐のような頭に何本ものツノを生やし、背には二対の翼が折りたたまれている。真紅の双眸はちいさな勇者をぎょろりと見下ろして、鋭く長い牙の奥から雷雲のような声を吐き出す。そして巨木を何本も足したような太い腕をプルルに突き出して――
『これ、名刺です』
「あ、どうも。ご丁寧に」
 爪の先にひっついていた名刺を手に取り、プルルは頭を下げた。
「すみません、ボクこないだ勇者になったばかりで、名刺はまだ作ってないんです」
『いやいや、構いませんよ。ところで――』
 魔王は首を傾げる。
『先ほど、わたしを討伐しに来たとおっしゃっていましたが……』
「あぁ、そうなんですよ」
 思い出したように、プルルは手にした聖剣を高々と掲げてみせる。そしてここに至るまでの経緯を説明していった。すると魔王はやはり釈然としない様子で再度問うてくる。
『あの、わたしを討伐する理由がいまいちよく分からないのですが』
「ですから、国を襲うあなたを倒しに……あれ?」
 そこでようやく魔王の問いの意味に気づく。
「そういえば魔王さん。あなた、国を襲うご予定はありますか?」
 魔王に国を襲う気がなければ、この討伐に価値は見い出せない。
 そして魔王は言った。
『とんでもない。わたしはここで平穏な人生を送りたいですから』
 
     (o´Д`)ノ
 
 いつまで待っても勇者は帰ってこなかった。
 しかし魔王がこの国へ進軍してくるというような話もなく、おそらく勇者は魔王と相打ちになったのだろうと、町の人々は噂するようになった。
 町の中央広場には勇者プルルの銅像が作られ、国じゅうの人々が彼の功績を称えたのだった。
 勇者プルルよ、国の――世界の平和をありがとう。
 
     (o´Д`)ノ
 
 国でそんなことになっているなんてつゆ知らず。
「魔王さん、けっこう飲める口ですねぇ」
『いやいや、勇者さんこそお強いようで』
 勇者と魔王。ふたりは酒を酌み交わし、赤い顔をして笑い合っていた。
「争い事なんてよくないですね、ほんと」
『まったくです。平和が一番ですよ』
 聖剣がなぜ自分を選んだのか――プルルにはちょっぴり理解できたような気がした。

ららら勇者さん

ららら勇者さん

「いえいえ、そうではなくて討伐に伺ったんですが」

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-06

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