ダストボックス

記憶

僕の頭の中にはダストボックスがある。そこに放り込まれたら最後、もう二度と戻ってくることはない。
気づいたときにはもうあった。僕のものを捨てていく。僕の記憶を捨てていく。

~神尾 夏目のダストボックス~
「すると君は自分の名前も知らないというわけか?そんなことあるわけがないだろう。君はそんなでかい図体で三歳児だとでもいうのか?
いや、三歳児でも名前くらいは言えるぞ。」僕は今、交番にいる。なんでここにいるかもわからない。忘れてしまった。さっきから警察官に
名前・住所・年齢その他etc・・・。いろいろ聞かれているが、なにもわからない。こっちが聞きたいくらいだ。「おい、聞いているのか?なんで何も
言わない。まさか、俺たちに知られたくない側の人間か?」ヤバイ、非常にヤバイ。僕はそんな人間じゃない、多分。でもこのまま何も言わなかったら、確実に誤解される。いや、誤解じゃないのかもしれないけど。もういっそそうゆうことにしておくか?だけどそんなことしたら、余計自分のこと聞かれるんじゃ・・・。僕はもうわけがわからなくなっていた。体からはじわり、じわりと汗が染み出してくるのが分かった。頭の中はすでに機能停止状態。

そんな時だった。これから先僕の、いや僕たちの同志ともいえる存在が現れたのは。
「ま、いいじゃないの。人間隠しておきたいことの一つや二つあるもんだ。あんまりしつこく聞くのも・・・なぁ?」チラリとその男は僕を取り調べている警察官を横目で見た。僕にとっては救いの神のようなものであるのに、どこか素直に喜べなかった。そして、その理由はすぐに分かった。
「いや、鳥羽さん。俺たちはそういった隠し事を少しずつ暴いていって一つでも不穏な陰からこの町を守らなくちゃいけないんだがね。それにこのガキもお前みたいな酔っ払いにそんなこと言われてもありがたいとは思わないだろうさ。絶対同類にされたと思ってるぜ。こいつ。」
そうなのだ。その救世主もとい、鳥羽さんという人は、黒の高そうなズボンに派手な紫色のシャツ、ウエーブのかかった黒髪のいかにもホスト
のような恰好で顔こそ女性が見たら放っておかないような男前だが、僕とは正反対のタイプで、絶対に関わりあいたくない種類の人間だ。
そう、絶対に。
「ひどいなー。俺くらいのもんよ?如何にも人畜無害そうなこの坊ちゃんを助けてあげようとしてるのはさ。で?この子何したわけ?何にもできなさそうなツラだけど。」恰好が横暴な人は、態度も横暴なのか。おまけに失礼な性格ときた。これだから、嫌なんだ。こういう奴って。チャラくて
無責任で、人の神経を逆なですることだけはプロ並み。「こいつ?特になにもしてねえけど、こんな夜更けにここら辺をボーっと突っ立てて、
声かけたら、何も分からない。知らないとかぬかしやがる。怪しさ極まりないから、交番までひっぱってきた。それだけだ。」
ふーんと鳥羽さんは、何かを考える素振りをして見せた。そして、一呼吸おいて
「なら、こいつもらうわ。」と、まるで何かの景品でも言うように僕を拉致した。

ダストボックス

ダストボックス

恋愛もののような、SFのような、ファンタジーのような。少しずつあげていこうと思います。最初、いやつまらないかもしれませんが、どうぞお楽しみいただければ、幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted