サンタが消えた夜
サンタクロースが来なくなった大人たちに送るお話
クリマスマス・イブの夜、サンタさんは空とぶソリに乗って大忙し。
煙突から家の中に入り、家の人たちを起こさないように、静かに子供の枕元に立ちます。
そして、サンタさんが子供達の寝顔を見ながら不思議な袋の中に手を入れると、子供達が一番ほしいと願っているものが出てくるのでした。
サンタさんはそれを枕もとの靴下の中にいれて、幸せそうな子供の寝顔を眺めると、またすぐに次の子供達の家に飛びたちます。
休む暇がない程忙しく、また冬の夜空はひどく寒いです。
でも、暖かなベッドの中でぐっすりと幸せそうに眠る子供達の寝顔をみると、サンタさんは疲れも寒さも吹き飛び、子供達のためにがんばろうという元気が出てくるのでした。
サンタさんは子供達が大好きで、世界中の子供達を幸せにするのがサンタさんの仕事でした。
そして、それがサンタさんの決まりごとでもありました。
だからサンタさんは、どんなに寒くても、どんなに雪がふっても、毎年毎年,世界中の子ども達にプレゼントを届けていました。
今年も、サンタさんはイブの夜空を飛び回り、たくさんの子ども達にたくさんの幸せを届けました。
「さて、このおうちで最後かな。」
サンタさんは、最後のこどもの家にやってきました。しかし、サンタさんは困ってしまいました。その家には、暖炉がないのか煙突がありませんでした。
「まいったな。煙突がなければ中に入れない。」
サンタさんは、降り積もる雪を踏みしめながら、その家の周りをぐるっとひと回りしてみました。
だいぶくたびれた古い家で、家の大人も眠ってしまっているのか、中には明かりがともっている様子もありません。
壁に穴が開いているところがあったので、サンタさんはそこから家の中に入りました。
サンタさんは驚きました。家の中は、壁の穴から入り込んでくる冷たい風のせいで、外と同じくらい寒かったのです。
歩いてみてサンタさんは驚きました。床は歩くときしきしと音をたて、サ ンタさんは家の人に見つかってしまわないかと不安になりました。
しかし、用心深く家の中を見て回っても、大人の姿はありませんでした。
不思議に思いながらも一番奥の部屋に行くと、そこで小さな女の子が眠っていました。
女の子は硬そうなベッドの上で、薄い毛布にくるまって眠っていました。
サンタさんはその子の顔をみて、なぜだか悲しくなりました。子ども達の寝顔を見るのが、サンタさんの喜びだったはずなのに。
サンタさんはとまどいながらも、この子の一番ほしがっているものをあげようと袋に手を入れました。
ですが、不思議なことに、一番のプレゼントがでてきません。
サンタさんはおかしいなと思いながら、仕方なく代わりにその子が二番目にほしがっているものと三番目にほしがっているものの2つを出すことにしました。
二番目のプレゼントは、厚く柔らかい、とても暖かそうな毛布でした。
それは今まで見てきた子ども達がかけていたのと同じものでした。サンタさんは、それを枕元のボロボロの靴下の中には入れずに、女の子にかけてあげました。
三番目のプレゼントは、パンと温かいおいものスープでした。
こんがり焼いた七面鳥や、大きなケーキではありませんでした。サンタさんはそのパンとスープ を、部屋の隅の机の上に置きました。
袋から出した料理は、時間がたっても冷めたり悪くなったりしないのです。
プレゼントは渡しました。後は、幸せそうな寝顔を見て、サンタさんの仕事は終わりのはずでした。
ですが、サンタさんはとても悲しい気持ちになり、その場から離れることができませんでした。
この子にあげたプレゼントは、他の子どもたちが願わなくてもはじめから持っているものでした。
サンタさんは、どうしてもこの子が一番ほしいと思っているものをあげたいと思い、もう一度袋に手を入れましたが、何度袋を探してもそれは出てきませんでした。
ふと女の子の枕元の靴下を手に取ると、中に紙が入っているのを見つけました。
その紙には、「かぞくがほしいです」と小さな字で書いてありました。
その女の子には両親がいないようでした。
サンタさんは困りました。いくら不思議な袋でも、人間を出したり、あるいは死んでしまった人を生き返らせたりすることはできないのです。
サンタさんはもっと悲しくなりました。サンタさんはこの子をもっと幸せにしてあげたいと思いました。
でも、サンタさんの決まりでは、一人の子どもに、他の 子ども達よりたくさんのものをあげてはいけないのです。
サンタさんは、平等に子どもに幸せを届けなくてはならないのです。それに、この子が一番ほしがっているものはサンタさんの袋の中からは出してあげられないのです。
サンタさんは、どうしようもなく、ぽろぽろと涙をこぼしました。
サンタさんには、この子にこれ以上の幸せをプレゼントすることはできないのです。
子どもを幸せにすることがサンタさんの喜びで、それが仕事なのに。
いつのまにか夜が明け、女の子が目を覚ましました。そして、泣いているサンタさんを見つけて言いました。
「どうして泣いているの?何か悲しいことがあったの?大丈夫だよ。だって、クリスマスにはみんなが幸せになれるんだから。」
サンタさんは、女の子に優しくなぐさめられて、やっと泣き止みました。
「おじさん、だあれ?もしかして、サンタさん?」
「いいや、違うんだよ。おじさんはサンタさんじゃないんだ。」
「なあんだ。違うんだ。」
女の子は少しがっかりした顔で言いました。
「おじさんはね、君のお父さんなんだよ。」
お父さんは泣きはらした顔で優しくいいました。
「えっ、本当?じゃあサンタさん本当にきてくれたんだね。お願いがかなっちゃった!」
女の子は本当にうれしそうに、幸せそうに笑いました。
「さあ、着替えて温かいご飯を食べよう。」
お父さんも、本当に幸せそうに笑いました。
いつのまにか、不思議な袋も、外においてあった空とぶソリもなくなっていました。
サンタさんも、サンタさんではなくなってしまいました。
もう世界中の子ども達に幸せをプレゼントすることもできなくなってしまいました。
ですが、サンタさんではなくなったかわりに、世界中のどこの子ども達よりも大切なこどもができたのです。
そして、サンタさんでは幸せをプレゼントしてあげ られなかった子どもに、本当の幸せをプレゼントしてあげることができました。
そして、これからも、世界中のこどもたちにプレゼントしてきたものよりも、 もっと大きく、もっとたくさんの、もっと温かいものを、一番大切な子にプレゼントしてあげることができるのです。
その翌年から、イブの夜に空飛ぶソリが現れることはありませんでした。
ですが、クリスマスの朝に、子どもたちから笑顔が消えることはありませんでした。
子どもたちにはそれぞれ、その子のことを世界中のだれよりも、大切に思っている人が必ずいるのですから。
サンタが消えた夜
何年か前のクリスマスイブに1時間ほどで書き上げました。
今となってはただの商業的な色が強いイベントデーですが、幼い頃はやはり特別な日でした。