《神霊捜査》第二部   浮遊霊

《神霊捜査》第二部 浮遊霊


《目次》
第一章 緊急電話
(1) 神塩 (2)意見交換会 (3)神様からの通信
第二章 対立
(1) 交通事故多発 (2) 神霊課捜査会議
第三章 元遷り
(1) 事件発生 (2) 反省会

第一章 緊急電話


(1)神塩

神霊捜査課の固定電話がけたたましく鳴った。

「はいシンレイ課です。はい宮下ですか、おりますけど、あなたは? はい、今代わります。お待ち下さい。」

電話に出た真ちゃんが雫の方を見て、

「雫ちゃん前原の新田さんから、君に。」

と、伝えた。

「はい!雫です、鈴ちゃん、しばらく、元気? 皆んなも元気? うん、どうしたの? ああ、あれがまた意地悪しているのね、うん、ちょっと課長と相談して、こちらから連絡します。待っていてね!」

雫は課長のところに行き、糸島中央署の交通安全課からの応援要請が来たことを話した。

「どうも、また悪い霊がいたずらしているみたいなのです。
前に私が居た時も、この霊が、あちらこちらの道路に出て、何度も交通事故を引きおかさせたことがありました。
死者は出なかったのですが、怪我人は何人も出ています。
私は昔、ある修験者に出会い、徐霊の方法を習ったことがあり、道路をパトロールしている時、私には霊が観える霊感があるものですから、見つけては追い払って来ましたが、何時も追い払うだけで、消すことが出来ませんでした。
この霊はある交通事故で命を落としたと言っていましたが、まだ現世に未練があるみたいで、淋しいからその内に仲間をつくる等と言っていました。
出来れば神様のお力で、元遷りをさせたいのですが、糸島の前原は所轄外ですから、課長に相談してお許しを得たいと思っています。」

「所轄外? 雫ちゃん、このシンレイ課には所轄という言葉は無いのだよ。
所轄というなら、全世界中が所轄になるんだから、心配しないで、行きなさい。
ただし、真ちゃんを連れて行くことを忘れずに。それから行く前に一言、五島先輩に話しておきなさい。いいね!」

「解りました。ありがとうございます。」

雫は嬉しかった。
あの懐かしい糸島に行けるのだ。
始めて警察官になって配属されたあの糸島中央署の交通安全課の友人達に会えるのである。
しかも、今は刑事として、捜査が出切るのだ。
わくわくした気持ちで、五島先生に会いに行った。

話を聞いていた五島が異なことをいい始めた。

「自縛霊では無くて浮遊霊か・・・」

「はい、色んな所に出るんです。」

「解った。取り敢えず行ってみなさい。
それではこれを持って行きなさい。」

と、五島が小さな瓶に入った塩を、真ちゃんと二人に渡した。

「何ですか?これは?」

「お・ま・も・り だよ。」

「エーッ! 先生でも御守りなんか信じるのですか?」

と、真ちゃんが皮肉った。

「そうかい、要らないのかい? じゃああげない。」

「いえ!頂きます。ありがとうございます。」

「糸島に行く時には、それを必ず身につけて行きなさい。」


翌日、二人はバスと電車で前原に向かった。
前原駅には、交通安全課の親友新田鈴達が出迎えに来ていた。
糸島中央署で署長や、課長に挨拶をして、問題の場所に新田鈴が二人を案内した。
少し町外れの六字道になっている県道と国道の交差点だった。
雫がパトロールカーから降りた途端、じゃがみ混んでしまって、歩けなくなった。
そして、

「私、怖い、怖い、、、、、帰りたい。」

と、言って泣き出してしまった。
驚いたのは、新田鈴だけであつた。
真ちゃんは、落ち着いている。
そして、雫の持っていた手提げバッグから小瓶を取り出した。
五島から貰った御守りの瓶だった。
その蓋を開けて、中の白い粉を一摘まみ取り出して、雫の唇を少し開いて中に入れた。
途端に目覚めたようにきっと 我に反った雫は、交差点の対岸をにらみつけた。

「今日は帰りましょう。出直します。」

と、雫が引き返すように鈴に頼んだ。
帰り道の車の 中で、

「私、どうしたんでしょう? あの化け物が無性に怖かったんです。
でも、真ちゃん何を私に食べさせたの?」

「ああ、あれは、五島先生から貰った御守りの塩だよ。」

「食べた瞬間に怖く無くなったの、どうしてそんなことを真ちゃん知っていたの?」

「それは種を明かせばこの為だよ。」

とい言って、自分の携帯電話の着信メールを雫に見せた。

「真ちゃんにお願いします。
雫ちゃんに異変が起きたら、あげた御守りの中の塩を一摘まみでいいから口に含ませてあげて下さい。
異変が収まるはずです。
この塩は有難い、不二根元様の神塩です。
大事に使って下さい。五島朱鳥」

と、書かれていた。

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(2) 意見交換会

雫の話を聞いた課長は五島に電話をした。

「五島先輩、ご苦労様ですが、捜査会議に出ていただきたいのですが。」

「明日は夕方まで、月に一度の私の持病の診察日でねー、夜なら開いているけど、捜査会議等と言わずに、玉の井で意見交換会というのはどうですか?」

「いいですね、また先輩の話を聞かせて下さい。
では、明日の夜7時から玉の井でということで、よろしくお願い致します。」

電話を切って、本郷課長は全員に向かって言った。

「明日の夜7時から玉の井で意見交換会をするから、全員参加のこと。
いいな、五島先輩も参加されるから。」

翌日の夜、玉の井で意見交換会が行われた。
意見交換会というより、飲み会に近いものであった。

「で、雫ちゃん、どんな化け物だったんだい?」

「はい、とても怖くて、金色の毛で尻尾が九つもあり、歯を剥き出して威嚇するのです。
あんな霊では無い、普通の人霊だっつたんですけど、驚きました。」

「ハハーン、金毛九尾神か・・・」

と、五島が呟いた。

「そいつは、さ迷っている内に体を持ってた動物霊を配下に使う金毛九尾神という金毛で尻尾が九つもある化け物に取り込まれたのだろう。
こいつは厄介だぞ。
この化け物は一柱では無くて、1から5まで種類があるからな。
対応の仕方を間違えないようにしなければいけない。」

「私がいけなかったのです。
浮遊霊を元遷りさせきれなくて、徐霊ばかりして、あちらこちらにさ迷わせたからこんなことになったんですね・・・。
先生、その何番目の金毛なのか調べる方法はどうすればいいのですか?」

「それは簡単なことだ。雫ちゃん、神様に訊いてごらん。
1から5のどれですか?とね。」

雫は手提げ鞄から磁石を取り出して、方位を計って北を探して、二礼三拍手一礼して静かに聞き耳を立てた。
本郷課長のビールを飲む咽の音だけが響いた。

「『一』と云われています。」

と、雫は取り継ぎをした。

「フム、山武変型神か・・・」

と、五島が呟いた。

「五島先輩、何か話を聞かせて下さい。」

「ちょっと待ってくれ、一杯飲ませてくれよ。この刺身も旨そうだから。」

しばらくの間、飲み食いが続いた。
そして、頃合いを見て五島が口を開いた。

「我々、神業人は、神開き神業から始まり、竜体神界のタテカエ、人祖神界、根元界、蔭根元界、とタテカエを済ませ、今は、人霊界のタテカエ神業を進めているところでね、今回の糸島の事件も、その一環に入るかも知れないね。
頑張っていこうね。雫君。」

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(3) 神様からの通信

神霊捜査課では、神棚を作って、小さな宮を置いた。
さて、御神名札には何と書けばよいか?という疑問がわいた。
また、五島先生に聞けばよいのだが、恐らく、雫君、神様に訊いてごらん、と云われそうで、思いきって、自発的に今作った神宮に向かって訊ねてみた。
そうしたら、通信が来はじめた。雫は、慌てて、真ちゃんを手招きして呼び、取り継ぎを記録させた。

『この宮は、仮宮ではあるが、根元之大御神様の御意を頂き我々が神在を赦された。大いに働かせて頂く。神名札には、「世乃元之眷族神」と記載して頂きたい。
よろしく頼みます。眷族神長神 以上。』

これで決まった。
本郷課長が酒で刷った墨で黒々と記入した。
明日、朝、顕祭々事をすることを考えたが、朝が弱い五島先生のことを考えて午後一で始めることにして、本郷課長が五島に連絡した。

神霊捜査課の部屋に始めて五島がやってきた。
エレベーターが無い為、階段を登って来て、フーと一息ついて、部屋に入ってきた。

「ここが、これから世界に名が広まるシンレイ課の部屋か?」

と、言いながら神棚を見た。

「眷族神之宮か!なるほど。 誰だ!榊(さかき)を供えたのは?」

「はあ、僕が買って来ました。」

と、誠ちゃんこと柘植誠一が答えた。

「神様の好みは、榊では無く、松だよ。
真ちゃんどこかから松の枝を貰って来てくれ。」

と、五島が江崎に頼んだ。
真ちゃんは、急いで出て行った。

「すみません。何時も、奴等の組の神棚に榊が供えてあったのを見ていたものですから。
気を利かせたつもりでした。
勉強不足でどうも・・・」

と、江崎は頭を掻いた。

「何故、榊では無くて、松なのですか?」

と、上川史子が訊ねた。

「実は、この世の中で、神さんが最初に創った樹木は松なんだ。
だから、神さん方は松を寄り代にするんだよ。
だから松を供えると、若い神さん達が宮では無くて、供えた松に取り着くんだ。
榊は、偽神が人間と本当の世乃元之神とを切り離す為に教えた嘘なんだ。
人間はそんなことは知らないから、騙されたことを忠実にバカみたいに守っているんだよ。」

そんな話をしている内に真ちゃんが松の枝を抱えて戻ってきた。

「早い。」

と、雫が誉めた。

「裏の大家の庭の松を頼んで切って貰ったんだ。」

昼の1時丁度から祭りが開始された。
先達は本郷課長、のりは三全根元のり各1、神呼吸各3、と、雫が取り継ぎをして、祭り点火の前に浄めをと云われて、天地十方浄めを1回、全員で、五島の指導で施光された。
雫が 取り継ぎを始めた。

『皆さん御苦労様でございました。
この宮が出来たことで、私達はここに来やすくなりました。
雫殿、これからは、何か訊きたいことがある時は、わざわざ北を探さなくても、この宮で伺いをして下さいね。
人類二度目の神霊捜査課が発足して、人霊界のタテカエと伴に、やり残した、各神界の諸々のやり損ないのタテカエをすることが出来るようになりました。
一緒に神業の出来る生宮が出来たことは嬉しい限りです。
これから宜しくね。上義姫。』

『我々眷族神としては、精一杯、おいでになる神々様のお世話と、この神霊捜査課のお役の手助けを致す所存であります。
宜しくお願い致します。眷族長。』

ここで、参加者の代表挨拶をするのが普通の祭りの形式だったが、五島は省略して、先達の本郷課長に了の挨拶をするようにうながした。
少しカチカチの様子で、何度も噛んでたどたどしい了の挨拶が終わった。

「雫ちゃん今から、ここの残りのメンバーに気の浄めをすることが赦されるか訊いてごらん。」

「はい解りました。・・・・・」

「『赦されている』と云われています。」

「それでは、雫ちゃん神様から指導して貰いながら、皆んなの浄めをしてあげておくれ。
真ちゃんもうけるんだよ。覚悟しなさい。」

五島はそう言うと、帰り支度を始めた。

「先生、上義様が二度目と言われましたが、一度目は何処だったのですか?」

「東京の警視庁で、昔一度同じような部署が出来たことがあったっんだよ、そのことは機会が有れば、話してあげるよ。」

五島は車での送迎を断り、買い物があるからと階段を降りて帰って行った。
雫は五島に指事された通り、一人づつ気の浄めを施光してやった。

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第二章 対立

(1) 交通事故多発

雫達が引き揚げた後、糸島の六字道交差点では、事故が多発化して、死者まで出ていた。
彼等はうっぷんを思う存分張らす為、人間を苦しめて喜んでいたのでした。
雫は、親友の新田鈴から電話で聞いて、心を悩ませていたのでした。
今日も鈴から連絡が入った。

「雫ちゃん、早く来てよ、昨日もまたあそこで衝突事故が起きたの、余りに酷いので、今うちの課長が交通安全委員会に行っているの。
交通止めにして良いか許可を貰いに行ってるの。
やはり雫ちゃんが居ないと心細いよ!」

「うん、解ってる。出来るだけ早く行くから、待っててね。」

雫達が、糸島に向かったのは、その2日後だった。
五島に同行を依頼したが、断られ、仕方無く、真と2人だけで電車に乗ったのでした。
五島は今日から10日間の北海道神業に参加する為、釧路空港に向かっていたのでした。
真は五島から、何かあれば、メールか、電話をするようにと云われていた。
署を出る前に「今から糸島に向かいます」と真は五島にメールをしておいた。

糸島の前原駅には鈴が迎えに来ていた。
雫の意見でそのまま六字道に直行した。
今度は雫に霊障は起きなかった。
先ほど、雫は電車の中で、御守りの神塩をちょっと口に含んでいたのでした。
雫には金毛九尾神の姿がはっきりと見えていた。
雫は交差点の対岸に仁王立ちになって、金毛九尾に声をかけた。

「こら、そこの化け物、大概にしろ、根元様の大事な人間に悪さをするのは止めなさい。」

『うるさい、またお前か、お前も死にたいのか? 小娘め!』

「浄めるぞー。」

と言うなり、雫は根元浄めを10回、金毛九尾に向かって施光した。
金毛は少しひるんだが、

『この野郎、フン、小賢しい。
そんなことで弱るわしではないわ!』

どうも効き目がない。そこで雫は今度は二礼三拍手一礼して神様を呼んだ。

「上義姫様、どうも効き目がありません。
あの化け物は山武姫変型神と聴いておりますが、対処するためにどうか山武姫之大神様のお力を御借りしたいのですが、山武姫様は近くにおられますか?
おいででしたら、お力をお貸し戴きたいのですが。」

『近くに来てはいるが、山武殿にもどうにもならないのです。
あの金毛九尾は、もう山武殿から離れて一人歩きしている変型神ですから。』

「どうしたらいいのでしょうか?、ご指導下さい。」

『五島殿の知恵を御借りなさい。
今日のところは、交差点の中心に、貴女が持っている御守りの根元塩を小さな不二山形に盛ってお帰りなさい。
そうすれば彼等はここで悪さは出来なくなりますから。』

雫は車に気を付けながら、交差点の真ん中に神塩を一摘まみ置いて指先で不二山のように盛りあげて置いて来た。
終わって対岸を見ると、もう金毛九尾の姿は消えて居なくなっていた。
帰りに糸島中央署に寄って、課長に事情を説明して、出直す約束をして今日は引き揚げることにした。
課長が、せっかく来たのだから、夕食を奢るというのを丁寧に断って、事件が解決した折りに直会としてご馳走になることを約束して中央署を後にした。

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(2) 神霊課捜査会議

10日後、五島が北海道神業から帰宅した。
雫は早速、本郷課長に頼んで捜査会議を開いて貰った。
今度は五島を長住支署に招いての会議となった。
会議開始前に、全員で、神宮に向かって、二礼三拍手一礼して挨拶をした。

「それでは、今から、糸島六字道、妖怪事件についての捜査会議を始めます。
先ず今までのいきさつを改めて始めから話してくれないか、真ちゃん。」

「解りました。」

と、真が手短に要領よく説明した。

「雫ちゃん、その後は、糸島中央署からは何か連絡はあったかい?」

と課長が雫に尋ねた。

「はい、新田巡査と今朝も電話で話をしたのですが、あれ以来、神塩を置いて来て以来、何も起こっていないようです。」

「そうか、それでは終わったのかな?」

「私はそうは思わないのですが、そのうちにまた、出てくるような気がするんですが。」

「どこかに陣場があるはずだがな!雫君、神さんに訊いてごらん。」

と、五島が言った。
雫は宮に向かって挨拶をして、瞑想をしていたが、

「とても綺麗なお寺、いや庵みたいな藁葺き屋根の建屋と苔が生えて紅葉の木が多い庭が見えます。」

「 『キョウト、ギオウジ』と聴こえました。」

真が早速、インターネットで調べた。

「京都右京区の奥嵯峨に祇王寺という尼寺があります。平家物語に関係があると書かれています。」

「そうです。そこでしょう、琵琶の音が聴こえましたから。」

「よし、矢張祇王寺か、あそこが何時も奴のアジトになる、何かあるとそこに逃げ込むのだな。それではそこからおびき出すか。
課長、誰かを京都に行かせられますか?」

「それは構いませんが、おい誠ちゃん、史子ちゃん二人で行けるね。」

「行くのは簡単ですが、何をすればいいのですか?」

「なーに、簡単なことだ。
神塩を置いて来るだけでいいんだ。そうすれば、そこに居れなくなって、必ずまた糸島に戻ってくるだろう。
その時に元遷りさせよう。
誠ちゃん、史子ちゃん神塩を取りにおいで、用意しておくから。」

「何か怖いです。」

と、上川史子が言った。

「君達はこの間、気の浄めを受けたのだから、もう、神様が、護ってくれるから心配は要らないよ。
科学的には証明出来ないけれど、怖いかね?」

「いえ、大丈夫です。神様を信じます。」

「雫君、糸島の君の親友にこのことを伝えておいておくれ、奴らが出たらすぐ行くことにしよう。」

「解りました。今度は先生一緒に行ってくれるんですね!」

「ああ、行くよ。」

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第三章 元遷り

(1) 事件発生

2人の刑事が京都の奥嵯峨に入った翌日、雫は胸騒ぎを覚えていた。
神霊捜査課の固定電話が鳴った。雫が受話器を取った。

「はい、シンレイ課。
あっ!課長ですか? はい雫です。
えっ・・・。鈴ちゃんが?
それで容態は? はい、そうですか、すぐ行きます。
ハイ。
解りました。
ありがとうございました。」

雫の電話の様子を聞いていた江崎課長補佐が尋ねた。

「どうした? 糸島で何かあったのか?」

「はい。鈴ちゃんが・・・私の交通安全課の親友が、車に跳ねられたとの知らせたです。」

「で、酷いのか?」

「はい、意識不明だそうです。
私行きたいのですが、本郷課長が不在なので、江崎補佐官、代わりに許可を下さい。
お願いします。」

「それは良いけど、五島先輩に、知らせて注意事項を聞いてからにしなさい。」

「解りました。電話します。」

雫は五島に電話して、事件のことを知らせた。
五島の返事は、自分も一緒に行くとのことであった。

雫は真ちゃんと五島の3人で糸島の前原出向となった。
今回は、シンレイ課の覆面パトカーを真が運転して前原外科病院に向かった。
都市高速と繋がった唐津街道で約1時間弱で前原に入れた。
雫の希望で病院に入ったが、面会謝絶で、鈴を見舞うことはできなかった。
その足で糸島中央警察署の交通安全課長に会い、事件の内容を聞いた。
課長の話では、国道202号の浦志の交差点で、交通違反の取り締まり中に酔っ払い運転の車が、ノーブレーキで突っ込んで来て、交通整理をしていた新田鈴を跳ねたとのことであった。
雫も五島も、金毛九尾の仕業と感知した。
三人は、現場に向かった。
現場には、金毛九尾の気配はなかった。
そこで、雫は「桜」という字を霊視する。
すぐに真が、モバイルコンピューターをカバンから取り出して、インターネットで調査する。
出て来たのは、桜井神社であった。
兎に角、行ってみようということになり、車のナビゲーションに沿って車を走らせた。
途中で、コンビニに寄って、酒、塩、水を購入して、無人野菜販売所で、100円野菜を買って、やっと、糸島半島の北西部の志摩桜井にある桜井神社に着いた。

「ここです。気配がします。」

と、雫が言った。
駐車場に車を止めて、桜井神社に向かおうとしたら、

「反対側みたいです。」

と、桜井神社と向かい合わせにある桜井大神宮を指差した。
大神宮への参道を進むと、途中右にまわる所に来た時、雫が立ち止まり、右の森をじっと眺めていたが、

「ここに隠れています。」

と、森を指差した。

「よし、眷族神様、この神宮の社叢に結界を張って下さい。」

と、五島が二礼三拍手一礼して頼んだ。
そして、この右の森の入口で、真ちゃんに指事して、際具を調えさせた。

「真ちゃん、先達をしてくれ、ハイ点火。」

と、祭りを始めてしまった。

「雫ちゃん、浄めとのりを訊いてくれ。」

「浄めは、『根元浄め10回』のりは『三全根元のり各1回、神呼吸5回』と云われています。」

有無を言わさず、祭りを強行してしまいました。

『おのれ、小娘め、油断したわい。
こんな術を使うとは・・・、京都の祇王寺に光る塩を置いたのも、お前達か。
わしは消えるのはまだ嫌だー。』

「仕方が無い、以和尽礼(いわじんれい)をしてやろう。」

と、五島は先達の真ちゃんと場所を替わって、真ん中に胡座(あぐら)をかいて座り、二礼三拍手一礼して言霊を発声した。

「只今、御前に神座されておられます、第一金毛九尾神様に以和尽礼を申し上げます。
この世は既に、根元之大御神様が昭和56年に「和合宣言」をなされまして、根元限定の時代になっております。
自在時代の神界戦争は既に終焉を迎え、竜体神界の神々様は、タテカエ、タテナオシが了となり、本来の世乃元之神に戻られておられます。
あなた様は、神界戦争の一方の主将たる山武姫之大神様の辛い、悔しい思いから発生されました山武変型神様であらせられます。
悪のお役をそのままに演じられてこられました。
しかし、もうそのお役も終りを迎える時が参りました。
あなた様の元神であらせられます山武姫之大神様も、今、ここにおみえでございます。
根元之大御神様の赦しを受けられて元遷りなされることをお薦め致します。
どうか今から私がお供えするこの不二山の根元塩を受け取られまして、山武姫之大神様のお膝元にお帰りくださるようお願い申し上げます。
大変御苦労様でございました。
また、あなた様が取り込まれておられます、人霊、動物霊様方も、只今、それぞれの元遷り担当の神々様がおいでになっておられますので、その神々様にお任せくださいますようお願い申し上げます。
永い間、ありがとうございました。
私は神業人、五島朱鳥と申します。只今お集まりの神々様、どうか後のことはよしなにお願い申し上げます。」

五島は、二礼三拍手一礼すると、ポケットから不二山の神塩を出して、一摘まみ供え物の横に置いた。
この五島の以和尽礼を待っていたかのように、金毛九尾神が雫に伝えた。

『ああ、眩しい。ああ消えて 無くなって行く・・・、さらばじゃ。』

「あっ、消えて行った。これで鈴ちゃんの仇が打てた。よかった。」

この時、雫の携帯電話に着信があった。

「ハイ、宮下です。あっ課長。
エッ?本当ですか?よかった。
ありがとうございます。
こちらも終わりましたので、帰りに病院に寄ってみます。どうも失礼します。」

「鈴ちゃんが目を覚ましたそうです。
もう大丈夫と先生が言っているそうです。
嬉しい。真ちゃん帰りに病院に寄って下さいね!」

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(2) 反省会

糸島のタテカエが終わった翌日、 神霊捜査課の反省会という名目の飲み会が玉の井で行われた。

「五島先生、私は今回のことでよく解りました。
深く反省しています。」

と、雫がしおらしい弁を述べた。

「五島先輩、今回の事件を私達に解りやすく説明していただけませんか? 」

と、本郷課長が尋ねた。

「どこから説明したものかな?
先ず初めの間違いは、さっき雫ちゃんが反省していた通り、浮遊霊とか、自縛霊を徐霊で、済ませようとしたことからが間違っていたのだね。
本当は、徐霊はそこから退けて外の所に追いやるだけだからね。
ちゃんと、元遷りをさせる手法を使わなければいけないのだね。
それから、人霊や動物霊は、他の偽神から、使われやすく、利用されやすいということ、それらが、吸収し合えば、強力な化け物になるということ。
その化け物とも、今はもう、昔のように戦いで倒すことは、徐霊と同じような意味しかなく。戦いで相手を倒すのではなく、相手の怒っている、その原因をよく理解してあげて、気持ちを和ませるという以和尽礼が一番効果的ということだね。
つまり、武力では無くて、平和的な解決だね。
このことは根元様の和合宣言にも繋がっているのだよ。」

「あの先生の以和尽礼はとても効果的でした。
それに僕が驚いた手法は、金毛九尾をあの神宮の森で見つけた時に、神々に頼んで、逃げ出さないように、バリアー、いや結界ですか、その結界を張って閉じ決めたことです。
あれはいいアイデヤだったと思いました。」

と、真ちゃんが感心した。

「君達はいいな、そんな素晴らしい神業に出会えたんだから。それにお手柄をたてて。いいなあ。」

と、誠ちゃんが羨ましがった。

「何を言っているんだい、今回の一番のお手柄は、誠ちゃんと史子ちゃんだよ。」

と、五島が誉めた。

「だって、京都から、糸島に追いやったのは、君達だからね。」

「でも、私、少し心配でした。
その為に糸島中央署の、雫ちゃんの友達が交通事故に会われたと、聞いた時には、驚きました。」

と、史子が言った。

「でも、、帰りに見舞ったんですが、あの調子だと、すぐに元気になりそうでしたよ。
心配いりませんよ。」

と、雫がホローした。

山さんこと山崎課長補佐が真ちゃんに釘を差した。

「真ちゃん、今回は警視総監に出す報告書が分厚い物になりそうだね。頑張れよ!」

《神霊捜査》第二部 浮遊霊

《おことわり》

この物語のt登場人物、商店、会社名等は全て架空ですので、その事をお断りしておきます。

《神霊捜査》第二部 浮遊霊

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第一章 緊急電話
  2. 第二章 対立
  3. 第三章 元遷り