底辺高校の鈴谷さん
底辺高校の鈴谷さん その1
鈴谷さんは背が高い
僕のとなりの席の鈴谷さんは背が高い
女性で182cmという長身で黒髪のロング、まるでモデルみたいに綺麗な人だ。
おまけに頭が悪く、喧嘩が強くて、胸が無い。
ぷぅっ
授業中に寝ッ屁までする
「うわくっさ!」
その臭いで飛び起きる。
鈴谷さんは侍である
僕と鈴谷さんと鈴谷さんの友達の糸田さんは毎日一緒に下校する。
たまたま公園で僕達と同じ制服(底辺高校)を着た生徒が隣の学校の制服(底辺高校)を着た不良三人に絡まれていたを目撃する。
一学年下の生徒だろうか、オタクっぽいうちの学校の男子は怯えきっている。
「これより我、修羅に入る」
鈴谷さんはそういうと殴りこみをかけようと駆け出す、がしかし足を止める、見れば隣のクラスの大田(184cmのイケメン)が先に助けに入っていたのだ。
「ふむ、奴もまた我と同じもののふなのか・・・」
なるほど、鈴谷さんは武士だったのか。
もう自分は必要ないとばかりに踵を返し歩き始める鈴谷さん
「ねぇ、みぃこ~大田の奴まであれボコられてね?」
糸田さんが知らせる
「ふぬ!?大田殿!助太刀いたすぞぉ~!!」
そういって全力疾走から不良の一人めがけてドロップキック、流れるように次ぎの不良に組み付き首投げからのマウントとって連打連打!
ドコドコと向うのほうから痛々しい音が聞こえてくる、完全に暴走してしまっている
「ウオオオオオオォォォォ」という鈴谷さんの咆哮まで聞こえてくる
「まさか・・暴走!?」
糸田さんは楽しそうに呟いた
鈴谷さんは意外と乙女
「ねぇ、みぃこはさ将来の夢とかあんの?」
糸田さんの問い掛けに鈴谷さんはう~~んと人指し指を顎にあてて考える、こんな底辺高校からじゃあ思い通りの職に就くのは難しいと思うのだけれども。
「お嫁さん、かな」
何でこっち見てドヤ顔で言うのか。
「ねぇ皆ぁ!みぃこ将来の夢お嫁さんなんだってぇ!!!」
糸田さんはクラスのみんなに報告する
みるみる顔を赤く染める鈴谷さん、恥ずかしがるなら最初から言わなきゃいいのにね
「いっちゃんの事、我が剣の錆びにするね・・」
鈴谷さんの精一杯の返しである
鈴谷さんは日本史が得意
「この問題わかる人~」
「はい!」
天高くピンと伸ばされる鈴谷さんの手
「その答えは上杉謙信です!」
「うん、正解」
「花の慶次で読みました!」
彼女はいわゆる歴女である、日本史以外の教科は赤点である。
鈴谷さんと僕
僕が高校に入ったばかり、底辺高校って事もあって不良が結構多い学校なので、僕みたいなチビは標的にされやすい。
女みたいな顔だからと無理に女装させられたり、「あきひさ、ワシは男じゃぞ」なんてセリフを無理やり言わさせられたり、最初はからかわれている程度だったが段々エスカレートしようとしてた、そんな不良達にあるとき鈴谷さんが拳一つで半殺しにし僕を助けてこう言った。
「いつも私の傍にいろ、守ってやるから」
糸田さんから後で聞いた話だが、これは鈴谷さんなりの「好きです、付き合ってください」だったようだ。
底辺高校の鈴谷さん その2
鈴谷さんは礼節を重んじる
下校時、またも僕の高校の生徒が他校の不良三人に絡まれているのを目撃する、と鈴谷さんはすでに駆け出している、考えるより先に体が動いているのであろう。
「フハハァ!喧嘩祭りじゃーー!!」
あ、傾き者なんだね。
182cmの巨躯が勢いに乗ったラリアートを不良の一人見舞う、腰も入っている重い一撃が首本にクリティカル。
「ぐぇっ!」という呻き声と鈍い嫌な音が僕の方まで聞こえてくる
「あれ死んだんじゃね」
と糸田さんが言う。
「何しやがんだアマァ!てめぇ誰だよ!!」
「ふん、人に名を尋ねる時はまず自分から名乗るのが礼儀であろう」
「不意打ちする奴に礼儀とか言われたくねえぇよ!!」
頭悪そうなくせに真っ当な突っ込みをいれる。
そんなやり取りを見ていた僕の肩を誰かがトントンと叩く
「あれは何をしているのですか?」
振り返ると生徒指導の教師がいた。
あ、これアカンやつや。
鈴谷さんと糸田さん
糸田さんの見た目は、日サロで焼いた小麦色の肌とケバい化粧が特徴的な女子高生だ。
「今日さ~超まんk痒いんだけど~」
と、言いながら股間を掻き毟る姿は、これでこそ底辺高校だと思わせる安堵感さえ覚える。
「あ、みぃこからメールだぁ」
喧嘩が見つかって三日間の謹慎処分中の鈴谷さんからのようだ。
何か画像が送られて来たようだ、糸田さんはスマホの画面を僕に見せてくる、そこにはピースをしながらドヤ顔で自撮りする鈴谷さんと大量のドル箱。
「これ万枚あんじゃね?」
彼女また底辺高校にぴったりな存在なのであろう、謹慎しろよ。
鈴谷さんと大田くん
ある休み時間、太田君が鈴谷さんを呼び出した、教室から廊下で話す二人の様子を見る。
二人は長身で容姿も整っていて、あの空間を写真に撮ったらファッション誌の表紙なんかでそのまま使えるんじゃないかと思う。
話し終えたのか鈴谷さんは僕達の方へ戻ってくる。
「みぃこ大田と何話してたの?」
糸田さんは問いかける
「うむ、奴は我の衣を借り何やらしたいようじゃ、洗って返すとまで言っておった、うい奴じゃ」
「鈴ニーじゃん、大田超鈴ニーじゃん」
鈴谷さんはわざわざ含みを持たせて言ってるが、実際は太田君が実習服を忘れたのでサイズの合う鈴谷に借りる約束を取り付けただけだ。
だけだよね?
鈴谷さんは貧乳である
「みぃこってさ~、頭良くて胸あれば完璧だよね~」
「ぬ?世が世ならいっちゃんの首を刎ねている所だが?」
「ねぇ、やっぱ男ってでっかい方がいいんでしょ?」
僕に向いて言ってくる、正直そういう話しは振らないで欲しい
「別に僕は大きさとかよく解らないし、どうでもいいけど・・・」
「「ギャアアアアアアアアアアアアシャベッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」
お前ら楽しそうだな。
底辺高校の鈴谷さん その3
鈴谷さんは戦力である
不良の秋山君が鈴谷さんに頼みごとに来ていた
「明日、西高の連中との抗争がある、鈴谷たのむ!加勢に来てくれ!!」
最敬礼である、女性にそんな事頼む秋山君はどっかおかしい。
「我は無駄な殺生はせん、つまらん事に巻き込むな」
そうなのだ、鈴谷さんは基本的には誰かを守る時にしか暴力は振るわない、本当に優しい人なのだ。
「武士が戦から逃げるのか!忠義は何処に行った!!」
ガタッ!っと鈴谷さんは立ち上がる。
「敵に背を向けるは武人の恥・・・か、わかった加勢しよう」
だが戦国馬鹿なのである、ホントちょろいと思う。
「みぃこさー、そんなしょーもない事すんなら絶交すっからね」
糸田さんの一言で鈴谷、着席。
鈴谷さんの学園祭
「はいじゃあ学園祭でうちのクラスでやりたい事ある人挙手で~」
クラス委員がHRの時間を使って出し物の希望を募る。
「はいは~い」
授業中一度も手を上げたこと無い糸田さんが発言する。
「男装喫茶やろうよ~、みぃこの男装とか入れ食いだってぇ!」
「ぬ?男装とな?甲冑なら喜んで」
喫茶店に入って鎧武者が注文とってたらおかしいと思うの。
「執事コスに決まってるじゃん」
「女子はそれで良いかもしれないけど男子どうします?こいつらの女装とか誰特になるし」
と、クラス委員が言う、底辺高校感が言葉の端々にあって素敵。
「女装、メイド姿の・・・ゴクリ」
僕を見ながら鈴谷さんが何か呟いてる。
鈴谷さんの接客風景
結局文化祭は普通の喫茶店をする事になった、おかしい所と言えば一人の鎧武者が注文とっているくらいである。
「うむ、その注文心得た、あいや暫く!」
ガチャ!ガチャ!と武者がこっち来る、やだちょっと怖い。
「アイスコーヒー2つとクッキー1つだ」
僕はサササっとコーヒーを煎れてトレーに乗せる、クッキーは糸田さんが乗っける。
「みぃこ、三番さん完成したよぉ~」
「ぬ、感謝する」
一言残し鈴谷さんはトレーを持ちお客の所へ。
「待たせたな、賞味あれ」
鎧武者が机にコーヒーとクッキーを並べる、それを終えると隣のお客に注文をとりに行く鈴谷さん。
「注文を伺おう」
「ッッッッうええええぇぇぇぇん!!」
小さな子供がいるお客さんには近付けない方が良さそうだ。
鈴谷さんの休憩風景
「みぃこ休憩中くらい暑苦しいからそれ脱いでよ」
僕もさっき同じ事を鈴谷さんに言ったが、よっぽど甲冑が気に入っているのか断られる。
「テメェ調子乗ってんじゃねぇぞゴラァ!!」
底辺高校らしく裏庭の方から怒号が聞こえて来た、うちの不良と文化祭に遊びに来ていた他校の不良が揉めているらしい、立ち上がり声の聞こえた方に駆け出す鈴谷さん、僕達も後を追う。
7人くらいの不良達が乱闘みたいに揉みくちゃになってるのを発見する、鎧武者は腰に差してた刀(模造)を引き抜き不良達へ駆け寄る。
刀を振り上げた大柄な鎧武者が走ってくる。
それを一人の不良が見つける。
「お、おいあれ、あれやばいって、おいあれやばいって、やばいやばいやばい」
「ん?おいあれやばいって、マジやばい!」
「やばいやばい!逃げろ!逃げろって!」
蜂の子を散らしたように全速力で逃げ出す不良達だった。
底辺高校の鈴谷さん その4
鈴谷さんはお頭が弱い
「このメリケン語とやらが憎くて憎くて!!」
全教科基本赤点の鈴谷さんだが、英語だけ輪をかけて成績が悪い、毎度一桁点をたたき出している。
「今すぐ日本は鎖国すべきなのだ・・・」
ちなみに僕も糸田さんも毎回欠点ぎりぎりなので教える事などできない、名前を書ければ入れる高校なだけはある。
「戦争にさえ・・・戦争にさえ勝っていればこんな事には・・・」
あきらめてはよ勉強しろよ。
鈴谷さんと食事
担任からの依頼で放課後、入学説明会の会場のセッティングを手伝った、帰りが遅くなったので僕と鈴谷さんと糸田さんは帰り道で夕食を摂る事にした。
女の子って何が食べたいのだろう?サイゼリアとかがいいのかな?
「私ラーメンいきた~い」
「無論我もラーメン一択だ、良いか?」
と僕に聞いてくる、僕としては嬉しい選択なので頷く、最寄にあったらーめん武蔵に直行した。
「いらっしゃいませー、三名様あちらの席へどうぞー」
着席後間も無く店員さんが水を運んでくる。
「ご注文はお決まりでしょうかー?」
僕は醤油とんこつラーメンの唐揚げセットを注文した
「私はハーフ塩ラーメンとハンチャーハン、みぃこは?」
「我は、豚骨パイタンラーメン大盛葱油マシマシ背油マシのニンニク少なめ鉄鍋チャーハンセットドリンクウーロン茶」
「はーい、かしこまりました~」
その呪文が言えるなら英語もできるような気がする。
鈴谷さんと食事2
ズルズルズル、モグモグ。
ふぅ~ パク、モグモグモグ。
ごくごくごく コト。
スッ ズルズルズル、モグモグモグ。
こいつら普段よく喋るのに食ってる時一言も喋らないな・・・
鈴谷さんの女騎士でもある
ゴツ!
「ぬ、大丈夫か?」
後頭部が鈴谷さんの胸の間にキャッチされる、ふわりと女の子の香りに包まれる、階段から足を踏み外し転んでしまったのだ。
急いで体勢を整へ、ごめんなさい、助けてくれてありがとうと僕は鈴谷さんに伝える
「ゴツ!だって、ひひぃ、私が受け止めてたらポヨンポヨンだったのにな~ひひぃ」
糸田さんが楽しそうにからかう。
「・・・クッ、殺せ」
貧乳を指摘された鈴谷さんは落ち込んでいるけど、胸に当った僕の後頭部は熱を帯びて、鼓動はバクバクいっている、赤くなった顔を見られるとまた糸田さんにからかわれるので早く教室にいこうよっと言った。
底辺高校の鈴谷さん その5
糸田さんは見た目じゃない
「糸田さんのネイル綺麗だよね~」
糸田さんの横の席、僕の後ろの席でもあるクラスメイトの吉田さんが話しかけている。
「ぬ?お目が高いな、いっちゃんはくっそビッチだからな!」
鈴谷さんが自分の事のように誇らしげに返答する。
「みぃこビッチの意味勘違いしてね?」
たぶん女子力が高い的な意味で使ったんだろう。
「ぬ?」
「ビッチってのは男遊びが激しい奴の事を言うのよ、みぃこと一緒にいるのに軽い男が近寄ってくる訳ないでしょ」
鈴谷さん学校では武人として有名だもんね。
「あ~でもでも~糸田さんガチで付き合ってる男子とかいないの~」
と探りを入れる吉田さん。
肌を小麦色に焼いていて、メイクもばっちりな糸田さんだが中々に人気はあるのだ、誰相手でも分け隔てなく接するしお話上手、文化祭の時に出したクッキーを焼いてきたのも糸田さんで、家庭的な所もあってそのギャップに魅力を感じる男子も多い。
「へぇ?ないない」
ヒヒッっと笑って糸田さんは続けて言う。
「私まだ処女だしな!」
クラスの男子達は小さくガッツポーズをした。
太田くんはイケメンである
学駅で鈴谷さん達とも別れ一人歩みを進める何時もの帰り道、ふと何気なく目をやった河川敷の草むらに隣のクラスの大田君が寝転んでいる、いや倒れていた。
僕は駆け寄って様子を見る、顔に殴られたような跡があるし制服はボロボロになっている。
ユサユサと大田くんの体を揺すって意識を確かめる。
「・・・っ!・・・・んっ・・・ん?」
覚醒した太田君と目が合う。
「君は・・鈴谷さんと何時も一緒にいる」
僕はうんうんと頷く。
「ははっ、恥ずかしい所を見られちゃったな、不良に絡まれてる中学生達を逃がしたら俺がボコられてしまったよ、誰かを殴った事なんか無いから喧嘩の仕方なんか知らなくてね」
太田君の背中に手をあてがって座らせてあげる。
「鈴谷さんみたいに強くもないのにな、かっこ悪いだろ?」
と笑って言う、なるほど、鈴谷さんの言ってた「奴もまた我と同じもののふなのか・・・」という言葉が理解できた。
僕は太田君の手をとって言う。
かっこ悪くないよ・・すっごくかっこいいよ・・・
と微笑み返す。
太田君は何故か頬を赤らめて目線をそらした。
僕は決意する
「みぃこはさ~やっぱ自分より身長のおっきな人と付き合いたいの?」
女子達が恋バナをしている折、急にそんな話を鈴谷さんに振る糸田さん。
「ぬ?我か?そ~~だな~~我は小さい方が好きだな、そうだなちょうど我より25cmくらい小さいくらいが調度いいかな」
僕の方を見ながらドヤ顔で言ってくる。
あぁ、うっとおしい。
「でもさ~、男からすると相手がでかいのって嫌じゃないのぉ?」
僕にそういう話しは振らないで欲しい、恋愛とかよくわからないのだ。
「僕は別に、身長とかどうでもいいかな・・・」
「「ギャアアアアアアアアアアアアアアシャベッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」
よし、そのネタが使えない程度にはこれから発言していこう。
鈴谷さんの特技
「みぃこって昔から活舌すごいんだよぉ」
「うぬ、家族からも定評があるぞ、生ばなな生ばなな生ばなな、偽札作り偽札作り偽札作り、摘出手術摘出手術摘出手術」
ほんとだ凄い。
「ちょっと言ってみてよ~」
僕はそんなに舌が回る方ではないけどやってみる。
「スー・・・生バナナ!生なばな!なまままな!」
全然言えなかった。
あれ?シャベッターーが来ない。
見れば鈴谷さんは顔を手で隠し足をパタパタして悶えている、糸田さんも「反則だわ、私まで心がぴょんぴょんする所だったわ」とか言ってる。前の席に座ってる男子生徒まで机に顔を伏せてプルプルしてる。
底辺高校の鈴谷さん その6
糸田さんからのメール
23時過ぎ僕のケータイが珍しく震える、メールが届いたようで宛名を見ると糸田さんからだった。
『明日みぃこの誕プレ買いに行くから付き合って』
近々鈴谷さんの誕生日なのか、それなら是非に僕も何かプレゼントしたい、糸田さんに折り返しの電話をする。
プルルっと一回目のコールが鳴り終わる頃に糸田さんが出る。
『もっし~』
「あ、僕だけど」
『はいは~い、明日空いてる?』
「うん、○○駅に10時集合でどう?」
『おけー、おけー、』
「所で鈴谷さんって誕生日いつなの?」
『明日だよ~、買ったらその足で渡しに行くからよろしく~』
「明日なんだ、そっか、わかった、じゃあ又明日」
『明日ね~、おやす~』
おやすみなさいと言い返して電話を切った。
そっか、明日なのか、どんな物を買ったら喜んでくれるかな。
「軍配団扇とか・・・かな」
糸田さんとお買い物
「あはは~~~、まった~~~」
満面の笑みで手を振りながら僕に向かって走ってくる糸田さん。
「あはは~~、ぜ~~んぜ~~ん、92分45秒しか待ってないよ~~」
満面の笑みを返す僕。
「ほっとスイマセンデシタ!!!!」
ジャンピング土下座を公衆の面前でやりのける糸田さん。
「ほんどに、ほんどに!ずびばぜんでじだぁ!寝坊じじゃっだんでずぅ」
うぅ~~、と半泣きで震える糸田さん、可愛い。
糸田さんとお買い物2
謝るだけでは気が済まないからと、スタバのコーヒーを無理に押付けられた、別に怒ってないのに。
日サロで焼いた小麦色の肌に金色に染めた髪、ゆるく着崩した制服、そんな見た目の糸田さんだが物凄い気遣い屋さんなのだ。
「鈴谷さんへのプレゼント、なににするとか決めてたりするの」
「ん~まだちゃんとは決めてないけど、制服の上から羽織れるカーディガンとか~、それか愛媛城のミニジオラマか~~、軍配団扇?」
何でだろう後半二つの方が鈴谷さんの喜ぶ顔が想像できる。
鈴谷さんの誕生日
夕暮れ時、糸田さんに連れられ鈴谷さんの家前、スマホで呼び出した鈴谷さんが玄関の扉を開く。
「良くきたな・・・ほう、一緒なのか」
僕が一緒に来ているのを知らせて無かったので少し驚いている。
「みぃこ~はいこれ、誕生日おめでとー」
「おめでとう」
贈り物用の袋に入れられたプレゼントを糸田さんが渡す。
「一日中みぃこに喜んでもらえそうなもの二人で探したんだ~」
「あ、ありがとう、こんな風に友から何か貰うなど馴れてなくてな・・・照れてしまう」
少し顔を赤くしてる鈴谷さん、袋の中からカーディガンを取り出す。
「これは・・・」
抑えられないと言うようにみるみる鈴谷さんの顔が笑顔に変わっていく、その顔を見てると僕の心も何だかこそばゆくなる。
「ありがとう、本当にありがとう!」
そう言った鈴谷さんは何時もの喧嘩が強くて頼りがいがあって、正義感が強い武人じゃなくて、可愛い女子高生にしか見えなかった。
彼女は喜ぶ、花の慶次の主人公、前田慶次が大きくプリントされたカーディガンをぎゅっと抱きしめて。
底辺高校の鈴谷さん その7
鈴谷さんは問答無用
放課後、学校からの帰り道に息をするように他校の不良に絡まれる後輩を見つける、横に目をやれば鈴谷さんはもう駆け出している、あれ絶対頭使わずに行動してるわ。
鍛えられ、引き締まった鈴谷さんの体は猛スピードで後輩の助けに向かう。
不良の大将格の大男が駆け寄る鈴谷さんに気がつく、スキンヘッドにでっぷりとした体に厳つい顔、まさに番長といった風体だ、その男が叫ぶ。
「おまえが鈴谷だなぁ!俺の舎弟共がずいぶん世話になってるそうだなぁ!!俺は女子供だからって容赦しウボォア!!!」
勢いのまま繰り出された鈴谷さんの飛び蹴りは番長の鳩尾にめり込む、番長は少しピクピク痙攣した後ばたりと倒れた。
「我、TUEEEEEEE」
せめて最後まで喋らせてあげてよ。
鈴谷さんのバレンタイン
鈴谷さんの机の上には山のようにチョコを中心としたお菓子が積みあがっている。
「うわ、みぃこケーキまであるじゃん!」
「うぬ、痛む前に皆で食うとするか」
鈴谷さんは女の子からとことん人気があるし、過去に助けた男子生徒なんかからもお礼の意味でチョコを貰ったりするもんで、毎年とんでもない量を貰うそうだ。
「こんな量のチョコ食べきれるの?」
「ぬ?勿論一人で全て食いはせぬが道場での稽古後の糖分補給などに役立たせてもらってる」
僕がボーーっと机に積まれたお菓子を見ていると。
「ほら、喰え」
まるで山賊が杯を差し出すようにチョコレートを渡してくる鈴谷さん、僕はチョコレートが大大大大大好きなので超嬉しい。
ニッコニコである。
大田くんのバレンタイン
授業も全て終わり帰り支度の最中、隣のクラスの大田くんに呼び出される。
イケメンなだけあって左手には大きなビニール袋一杯にチョコを中心としたお菓子が詰め込まれている。
「ごめんね帰り間際なのに、これ良かったら食べてくれないかな」
そういってビニール袋からでは無く自分のスクールバッグの中から包装されたチョコと思しき物を取り出す。
「こんなに貰っちゃったからね、一人じゃ食べきれないから手伝って欲しいんだ」
爽やかに笑ってお菓子を差し出す大田君。
う~~んと考えた後、欲しいけど僕が食べたら太田君にあげた人怒るんじゃないかな?と訊ねる。
「え?いや、これはその、ほら、友チョコみたいなので交換しあったみたいな奴だから、そう、だから誰目当てで渡したとかじゃないんだ、だから」
なんでちょっと焦っているんだろう、顔まで赤くして、まぁチョコ貰えたし超嬉しい、ニッコニコである。
雨の日
窓の外は薄暗くガラスをすり抜けて伝わる冷気が肌を震わせる。
今日は何時も会話の中心にいる糸田さんが風邪で休みなのもあって、僕も鈴谷さんも物足りなさで浮ついた気分になる。
キーンコーンカーンコーン
「じゃあ今日はここまでね、明日やる所少しややこしいので予習しといてね」
4時間目終了のチャイムが鳴ると僕達は決まって屋上へと続く階段で屯していた、僕が昼休みの雑踏が苦手なので毎日この場所で食事にしている、今日はここに二人きり。
「帰り道にいっちゃんの様子を見に行くが一緒にどうだ?」
僕はう~~んと考えた後にフルフルと首を横に振った。
「そうか・・・」
そう言いながら鈴谷さんは食べ終えた弁当箱を片付ける、僕も鈴谷さんから少し送れて食事を終えると片付けをした。
それから暫くは特に会話も無く、だからと言って居心地が悪いわけでも無い、ただ寂しい雨音だけが薄く聞こえる。
「・・・なぁ」
不意に少し言い難そうな声音で鈴谷さんが問いかけてくる。
「ここに座ってみてくれないか・・・」
階段に足を下ろすように腰掛けていた鈴谷さんがポンポンっと自分の太ももを叩く。
「・・・嫌か?」
武士に夜這いされている町娘の気分だ、別に嫌ではないのでポンっと僕の小さな体で甘えるように座る。
「ふぉ・・・・本当に座るとは・・・」
驚いた鈴谷さんにしてやったりと微笑みを向ける。
「少し、恥ずかしいものだな・・・」
そう言いながら僕のお腹に両腕とも回してキュっと抱きしめ肩に顔を乗せてくる、今更だけど男女逆だと思うの。
「暖かいな・・・」
今日は寒い、だからこんな事をしちゃったのかな。
僕だって火照るほどに恥ずかしいけど、鈴谷さんの体温と匂いに包まれて・・・・暖かくて、優しくて、気持ちいい・・・・
底辺高校の鈴谷さん