星屑の降る丘に
___これは、一人の内気な少年の短い人生を一人の目が見えないのに直向きに頑張る少女が変えてしまう物語り。
第一星「始まりの合図」
___3月。
もうすぐ僕らは高校デビュー。
いかにも青春といった雰囲気が立ち込める。
僕が通うことになるであろう高校「青葉南高等学校」
家と通院中の病院の近くにある公立高校。
明日は待ちに待った入学式。
だけど僕の青春の1ページ目は呆気なく白紙となるのであった。
___________
入学式当日。
ザワザワ
「あー、ゴホン これより仙台市立青葉南高等学校入学式を始めます。」
僕は今......
「おはようございます、朝ですよ。篠田さん。」
「あ、おはようございます。」
「朝食後は診察と点滴、カウンセリングがありますから。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
そう、僕は今...
「今日はやけに元気ですね。でも、学校はダメですよ?」
「行きませんよ。というか行けませんから。」
「...そうね。そうよね。」
病院にいます。
「そういえば今日でしたね。」
「?何がですか?」
「入学式。」
「あぁ、そういえばそうでしたね。」
行きたいとは思わないけど。
でも出席日数足りなくて留年とか嫌だな。
「高校では新しく友達作って楽しく青春したいでしょうにね。」
「はは、僕に友達...ですか。」
中学では友達なんて一人も出来なかったからなぁ。
「彼女とか出来たりね。」
「からかってるんですか、佐々木さん。」
「ふふっ、大真面目よ?」
佐々木さんは僕の担当の看護師さん。
「篠田仍人くん、診察の時間です。」
「あ、はい。今行きます!」
いつ、退院出来るだろうか。
高校くらいは楽しい思い出をつくりたいものだ。
「うん、体調もよさそうだ。顔色もいいね。」
「はい。」
学校に行きたい訳ではないけど、
「明日の体調次第で退院出来るかな。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「気をつけてね。」
「はい。」
家に帰りたい。
第二星「響けスターター」
「ただいま。」
僕は久しぶりに家に帰った。
だけど『おかえり』なんて言ってくれる人は家にはいない。
母は僕が幼い頃に病気で亡くなっている。
母の病は僕と同じ、“肺水腫”である。
これも遺伝というやつなのだろう。
父は仕事で外国に行ったきり帰って来ない。
家賃は父が祖母に送って支払ってもらっている。
よって一人暮らし。
いや、僕もほとんど病院にいるからいつも誰も住んでないな。
明日から学校だ。
準備しないとな。
____________
朝。
「ほぁ、眠い。」
普段、病院では9時30分に起きていたから、6時30分となると眠くて仕方がない。
制服に着替え、歯を磨き、朝食をたべて家を出る。
歩いて10分で学校に着く。
えーっと、確かクラスは...
「...4組...だったよな...」
教室の戸を開けた。
そのとき、思いもよらない出会いが待っていようとは。
「きゃっ!」
「わ!ご、ごめんなさい!」
思わなかった。
「あー、ビックリしたー!あれ?君ここのクラスだっけ?」
あ、そっか。僕今日初登校なんだ。
「う、うん。昨日は休んでたんだ。」
「あぁ!もしかして、篠田くん?」
「え...?どうして僕の名前を?」
「んー?それはね、君が私の隣の席だからだよ!」
「え?そ、そうなんだ。よろしくね。」
「隣の席がいなかったから先生に聞いたの。」
「なるほど。」
「私、平坂夏樹!よろしく、篠田くん!」
「うん、こちらこそよろしく平坂さん。」
この出会いはいずれかけがえのないものになる。
今の僕はそのことを知らない。
いや、知らない方がいい。
第三星「初めての友達」
そういえば、今更ながら思った。
「僕の最初の友達...」
まさか女子になるとは。
ふと、気になって平坂さんの方を見て思った。
元気だな、と。
それとあることに気づいてしまった。
あれ?平坂さん、ずっと目閉じてる?
というか...半目開いてるってカンジかな。
どうしてだろう。
でもなんだか深く探ってはいけないことな気がする。
「篠田くん。」
「へ?あ、ごめん。何か言った?」
「ううん、ただ...さっきから視線を感じて...」
「あ、えっと...ごめん。」
「目?目のこと?」
「えっ...」
まさか自ら言い出すなんて...
「私ね、目見えてないの。」
......え?
「生まれた時から視力は悪くて、度の強い眼鏡をかけても霞んで見えてね。それからしばらくして完全に失明。今は眼球真っ白だよ。」
「だから...目、閉じてるの?」
「うん。だって開くと黒目真っ白なんだよ?気持ち悪いじゃん!」
笑いながら彼女はそう言うけど、こっちは全然笑えない。
病気で苦しいのは皆同じはずなんだから。
無理に笑っているのかな。
そう思うと胸が苦しくなった。
どうして君は前を向いて歩いて行けるんだ?
どうしてそんなにも明るく振る舞えるんだ?
僕には全然わからないや。
僕の目の前の道はどこで崩れるかわからない。
だから前になんて...
「進める訳ない...」
諦めるわけにもいかない。
心のどこかで戦っているんだね
「僕も、君も。」
第四星「病は気から」
最近、人と関わることが嫌いなはずの僕がなぜか平坂さんのことが気になって仕方がない。
別に好きとかそういった感情ではない。
ただ...なんとなく気になってしまう。
『目が見えてない』というワードが脳裏から離れない。
なぜ、どうしてといった疑問が募り募ってゆく。
僕は病が嫌いだ。
僕から母を奪い、自由を奪い、友達も奪った。
僕は肺結核以外にも対人障害を患っている。
中学のとき色々あって不登校になり、そのまま高校になってしまった。
僕は狭い世界しか知らない。
だけどその狭い世界にすら僕の居場所はない。
そして孤立していった。
なのに...
「平坂さんは凄いや......」
僕は敵いそうにないな。
「私は篠田くんも凄いと思うけどなぁ...」
そうかなー...?
僕なんか全然友達もいないし笑ってなんかいられないからな。
そんな余裕ない...ってゆーか...
「き、聞いてたの?」
「うん。少しだけね。」
「そっか...」
口に出ていなかっただけよしとしよう。
「私別に凄くなんかないよ。」
「凄いと思うよ。」
「何が?心?」
「う、うん。まぁ。」
「君だから言うけどさ。私ね、本当は弱いの。とてもとても弱いの。だからこそ強がってるんだと思う。無理に笑ってる訳でも、強い訳でもないの。今自分が向いている方を前だと思って向いていないと、きっと壊れていたかも知れない。君は今までどうやって生きてきたの?」
「僕は...」
逃げて逃げて逃げ続けて今までなんとかギリギリ生きてきた。
ただ命綱無しの綱渡り状態の僕はそろそろ限界が来ているかもしれない...
「病は気から。」
......
「え?」
「変に色々気に病むと悪くなるよ?って意味だよ。」
「う...」
「何があったのか知らないけど、気に病まないの。私がなんだかんだ言うのもちょっとおかしいけど、私で良ければ相談くらいなら乗るからね。」
僕は、
「うん。ありがとう。」
君のことが、
「ううん、全然いいの!」
その笑顔が、大好きなのかもしれない。
第五星「輝けサマータイム」
6月も後半になって...
皆この高校生活にもだいぶ慣れてきている。
部活は何も入らずに帰宅部という名の無所属になった。
そろそろ本格的に夏が訪れる。
平坂さんは吹奏楽部になったらしい。
本人が自慢気に、且つ一方的に話してくれた。
もうすぐ夏休みで大会が近いらしく、とても熱心だった。
彼女は楽譜が見えないので尚更大変だろう。
「やっぱり凄いよ...」
僕なんか未だに平坂さんくらいしか友達がいないからな。
まずいな...夏祭り一人は悲しいよな。
文化祭もあと数ヶ月だし...
夏は忙しいな...
「あ!篠田くんだ!まだ残ってたの?」
聞き覚えのある声。風が運ぶ甘い香り。
「あ、平坂さん...」
「相変わらず他人行儀ですな。」
「うん、まぁ...癖みたいな...?」
「ふーん。そっかー。」
タオルと楽器を片手に持って、もう片方に譜面と譜面台。
そう言えば、目見えない割りによく普通に過ごせるよな。
歩けなくないのかな。
「平坂さん、目アレなのに大丈夫なの?」
「うん?見えなくても聴こえるし触れるから大丈夫だよ。」
「へぇ...」
やっぱり凄いと思うんだけな。
「えっと...その楽器って...ラッパ?」
「プッあはは!うん、確かに間違いではない!でも、トランペットって言うんだよ!」
なんかすごい笑われた。
「そ、そうなんだ。ごめん...」
「いいのいいの!よく間違われるから、もう慣れた!」
「ははっ、そっか。」
思わず僕も笑ってしまう。
「僕そろそろ帰るね。大会頑張って。」
「うん!ありがとう、篠田くん。気をつけてね!」
僕はブンブンと手を勢い良く振る平坂さんに小さく手を振り返した。
そしてそのまま病院に寄って薬をもらってから家に帰った。
今年の夏はいい思い出が出来そうだな。
第六星「真夏のミルキーウェー」
もうすぐ夏休みです。
平坂さんは大会が迫り部内がピリピリしてて気まずいと僕に相談してきた。
僕はその大会前の緊張感がわからないので素っ気なく返した。
まぁ、いつもと変わらない普通の日常だ。
「あ!そう言えばさ、来週の土曜日空いてる?」
「え、僕?」
「あはっ、君以外に誰がいるの。」
笑われてしまった。
そんなに可笑しいことを言ったかな?
「一応空いてるよ。何で?」
「夏祭り!」
「え...?」
「だーかーらー!夏祭りだってば!!一緒に行こう!」
「え、いや...でも」
「どうせ一緒に行く人いないでしょ?」
「なんだよそれ。まるで僕が可哀想な人みたいじゃないか。」
「まるでもなにもそうじゃない。」
「うっ......」
「ね、いいでしょ?」
「でも平坂さんは友達に誘われたりしないの?」
「するよ!君と違って友達たーっくさんいるもん!」
「悪かったね、友達いなくて。」
「友達なら1人いるじゃん。」
「?」
「わ・た・し」
「プッははっ、そうだね。」
「何よー。」
「ううん、何でもない。」
君といるとなんか調子狂うなぁ。
でも...心地いい。
一緒にいたいと思える。
「で、行くの?行かないの?」
そんなの決まってる。
「行きます!」
「よろしい!」
「「あははっ!」」
君といられる時間はどれくらいあるだろうか。
もし、もうすぐ終わってしまうなら...
僕はそのときが来るギリギリまで君の隣に居よう。
この一瞬一瞬を大切にしよう。
「あ!そうだ!」
「?」
「夏祭りの最後に見せたいものがあるんだ!」
「?見せたいもの?」
「うん。私のお気に入りの場所。」
「いいよ。行こう。」
「本当!?」
「嘘ついてどうするの。」
ものを写すことの出来ない君の瞳がキラキラ輝いて見えた。
まるで一等星みたいに。
見せたいもの、か。
君にはもう見えなくなってしまったけど、きっと大切な場所なんだろう。
君のことを知りたいと思う僕からすると嬉しい限りだ。
夏祭り。
楽しみだなぁ。
第七星「晴れのち流星群」
今日は夏祭り当日。
平坂さんの大会も無事終わり、ようやく待ちに待ったこの日が訪れた。
待ち合わせは黒松公園の入り口に16:30
今はまだ14:00だからあと2時間半もある。
が、することがない。
仕方がないから公園の中歩いて時間を潰そう。
___16:27黒松公園の入り口前。
カランコロン...
「ごめん、待った?」
「大丈夫、僕2時間前からここら辺うろうろしてたから。」
早っ!と驚かれたがそれより何十倍も驚いている。
「ゆ、浴衣...!?」
平坂さんが浴衣で来たことに。
「失礼な!私だって浴衣くらい着ます!」
あ、声に出てたみたい。ごめん。
「か...可愛いよ。すごく...」
「///ほ、本当?」
「うん。」
「ははっ、ありがとう!」
「行こうか。」
「うん!」
「篠田くん!りんごあめ!」
「...買えと?」
コクリ
「はぁ、今日だけだよ。」
「わーい!ありがとー!篠田くんイッケメーン!」
「僕をおだてても木には登らないよ?」
「篠田くん!射的やりたい!」
「...ここも奢れと?」
コクリコクリ
「取れるの?」
「んー、多分!」
「やったことあるの?」
「ない!」
「だと思ってました。」
パンパンパン
「...」
「わかった、わかったよ!アレが欲しいの?」
コクリコクリ
「全く......金の無駄遣い...だっ!」
パン
「はい。これでいい?」
「うん!ありがとう!さすが篠田くん。」
「それどういう意味。」
「あははっ、めんごめんご!」
「あー楽しかったー!!」
夏祭りが終わり、僕らは公園のベンチで休憩していた。
「今思えば目見えないのによく射的やろうと思ったよね。」
「あ、それがね!視力回復してきたの!!それでも眼鏡かけてDとCだけどね!元々耳が良いからさ!」
嬉しそうに語る君の横顔を見て思い出した。
「お気に入りの場所。行くんじゃないの?」
「あ、うん!そうだね!行こう!」
僕らは黒松公園の一番高い丘を登った。
「ここだよ。」
そこにあったのは、
「変わらないなぁ、何も。」
丘の上の一本の木と、丘の上から見える街の夜景。
そして...
「うわぁ~!!よく見えないけど綺麗!!」
満天の星空だった。
「そう言えば今日だったね。」
「?」
「双子座流星群。」
空にはたくさんの流星群と天の川。
夏の第三角形。
「私ね、小さいときから辛いことや悲しいことがあるとここに来て空を見上げるの。」
見えないけどね、と小さく笑って僕を見た。
「じゃあさ、今度から僕もそうさせてもらうよ。」
「え?」
「ダメ?」
平坂さんは一瞬驚いたような顔をしたがすぐに
「ううん!いいよ!寧ろその方がいい!」
そう言って笑った。
僕は流星群に願った。
このままずっと君といられますように、と。
第八星「夏休みクラス旅行計画」
キーンコーンカーンコーン...
今日も何事もなく一日過ごした。
いつも特に変わったことなんて無くて逆につまらないくらいだ。
そう言えば、平坂さんの所属している吹奏楽部がこの前の大会で金賞だったらしい。
最近学校ではその話題で持ちきりだ。
確か次は東北ブロック大会かな。
大変そうだけど少し羨ましい気もする。
僕は身体が弱い。そのせいで部活というものに入った経験がない。
だから少し羨ましい。
先輩とか後輩とかそういう人いないからなぁ。
いたらいたで大変なんだろうな。
「篠田くん。」
「あ、平坂さん。おはよう。」
「おはようって...もう午後だよ。」
「あはは、そうだね。」
「また病院?」
「う、うん。まぁ...」
僕は今日も病院に行ってそれから登校した。
いつもなら遅刻しなくても来れたんだけど、今日は点滴もしてきた。
僕はちょっとした対人障害がある。だけど精一杯隠しているつもりだ。
それで食欲がなくなり、更にストレスが溜まって倒れたりする。
たまにだけどね。
だからそうやって危なくなる前に点滴をうってもらう。
ガラガラ
「さ、HR始めんぞー。席つけー。」
6時間目はホームルームか...
何するんだろ...
実を言うと僕はホームルームが苦手である。
というか実をもなにも対人障害なのだから当たり前である。
班で話し合いとか、クラスで話し合いとか、コミュニケーションだとか...
いじめか。
「えー、今日は...あ、そうそう。忘れてたが、もうすぐ夏休みだ。」
おい。忘れてたんかい。
「夏休みって言ったらお前ら...アレだろ、アレ。」
アレってなんだ。入りたての新入生に学校の常識をアレって言うな。
誰がわかるか。まぁ、先生が忘れるくらいだしあまり重要では...
「思い出した、夏休みのクラス旅行のことなんだがな。」
それかなり重要じゃないですか、先生。
「そろそろちゃんと計画練らないとな、と。」
そろそろって、他のクラスはもう計画書提出したらしいんですけど。
「うちのクラス何も決まってないからな...まずどこに行くかってんのと部屋割り、バス座席決めに班決めってとこか?そういうのはお前らで勝手に決めといてくれ。俺は予約係だ!」
いや、先生ドヤ顔しないで!一番楽なくせにカッコつけないで!
「んじゃ。後は学級委員、よろしく。」
出たよ、先生の必殺“人任せの術”
第九星「夏休みクラス旅行計画その2」
「で、ではまずどこに行くかを決めたいと思います。大まかにでかまわないので行きたい場所はありますか?」
先生がHRを投げ出したせいで学級委員が困り果てている...
というか僕も困り果てている。
旅行なんか行けるはずない。
病院が近くに無いと不安だからな。
どうしよう。
いや、迷う必要はないんだ。
だけど...
「はーい!」
「あ、はい。平坂さん。」
「夜に皆で星が見たいです!!」
なんて言われて「僕は行かないんだ」なんて言えるはずない!
「俺は海行きてーなー」
「あんたは女子の水着見たいだけでしょ!?」
「あ、バレた?」
「ファッキュー。」
「ひどっ」
「えー、今出ている案は『星を見る』のと『海』です。他にありませんか。」
さすが、学級委員。クール。
「ねぇ、篠田くん!篠田くんは行きたいところないの?」
「え、僕?」
い、行きたいところ!?いきなり聞かれるとは...びっくりした...
というか行きたいところ...か...
「温泉旅館...とか。」
「へー、意外!」
「ええやん、温泉!」
「いいねー、俺も温泉賛成!!」
おぉ、良かった。意外と賛成多いな。
「座敷で雑魚寝してさー、秘密の話とかしてさー。」
「いいねー!」
え。今なんて...?
「ざ...雑魚寝?」
「おう。」
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!!
絶対に無理ー!!!!
「旅館かー。座敷3部屋なら安いしいいな。おし、予約係に任せとけ!」
先生ーーー!いたのー!?空気だったよー!てか、無理ー!
「部屋割りは男女と先生で3部屋でいいんですよね。」
「そうだな。じゃあ、先に進めておいてくれ。」
また逃げるのかー!
結局、行き先は松島に決定。
日本三景の一つである松島。
その近くの海が見える松島温泉を予約。
夜には灯りが少なく、星も綺麗だと言う。
それから僕の班は、5班で4人。
僕と花巻くん(クラスで唯一心を許せる男子友達)と涼宮さん(男勝りな生徒会役員)と平坂さん。
部屋割りは男子と女子で一部屋ずつ。
バスは一番後ろの窓側。隣は花巻くんでその隣、ちょうど真ん中が平坂さん。
とまぁ、こんな感じ。
悪くはない。
「よろしくなっ!仍人ー♪」
相変わらずテンションの高い花巻くん。
花巻くんとは幼なじみみたいな感じ。
前から仲は良かった。
ただ僕が対人障害になりかけてからは口数が減った気がする。
「よろしくね、花巻くん。」
「お堅いなー仍人はー、俺は仍人って呼んでんのにー。」
「あ、ごめん。じゃあ...一磨くん。」
「うむ、よろしいー!」
「篠田くん。私は涼宮ハル、よろしく。」
「あ、篠田仍人です。」
「楽しみだね!篠田くん!」
相変わらず元気そうだ。平坂さんは。
「うん。そうだね。」
僕も楽しみになってきたなぁ。
夏休みのクラス旅行。
第十星「夏休みクラス旅行前編」
夏休みクラス旅行初日___
「よー!久しぶりー!」
「久しぶりだなーw」
「お前ら...まだ夏休み入って4日しかたってねーだろ。」
「俺らにとっての4日は1週間以上なんだもんよー。」
「そうそうw」
そんな会話を一人不快に思いながらも聞いている僕って...
「よぉ、お久~仍人。」
ここにもバカがいたとは...
「おい、4日ぶりに会ったたった一人の貴重な男友達にその目はねーだろ。泣いちゃうよ?俺マジで泣いちゃうかんね?」
「あはは、ごめんごめん。久しぶり、一磨くん。」
「お、おう...///」
「...何で今照れたの?」
「別に...」
「ごちそうさま。」
「「うわっ!」」
「びっくりしたー...なんだ、涼宮さんか。」
「なんだとは何よ!悪かったわね、夏樹じゃなくてーw」
「なっ...」
「そういや涼宮、平坂は?」
「そろそろ来ると思うけど?」
「ごめん!お待たせー!!」
「あ、平坂さん。」
「おー、篠田くん!久しぶりだね♪」
ここにももう一人バカがいたとは...
そんな感じで始まった僕らのクラス旅行初日。
とびっきりいい思い出作って楽しもう。
松島温泉到着。
今から大きい荷物などをおろして部屋に運ぶらしい。
女子はエレベーター。男子は階段という差別の激しい運び方。
まあ、僕はエレベーターに乗せてもらったけど←
「ゼェ...ハァ...お、おい...仍人...お前一生恨むからな...」
「エレベーター使わせてもらっただけで恨まれるのか。」
僕ら男子の人数は、計16人。8人部屋を2つにわけるらしい。
僕と一磨くんは1507か...
平坂さんと涼宮さんが1512なのだそうだ。
なんかだんだん楽しくなってきたなぁ。
今夜が楽しみだな♪
第十一星「夏休みクラス旅行中間」
「……い………おと………な…と!仍人!」
あれ、一磨くん…?
「どうしたの?」
「どうしたのじゃねーよ!いきなり倒れるなよ!びびっただろーが!!」
え………
「僕、倒れたの?」
「あぁ。思わず救急車呼びかけたぞ。」
「そんなに?!」
そこまで大事になってたのか…
倒れたってことは…………
「…点滴…………」
打ってないからか?
いや、でも前に病院で打ったはずだし……
「とりあえず無事なら良かった…」
「ごめんね、心配かけて…」
「全くだ。寿命縮むっての!」
「ごめん…」
てゆーか………………
「一磨くん、」
「ん?」
「今何時…?」
「「……………………………………」」
__19:48
「風呂……」
「星……」
「仍人、風呂って何時から?」
「19:30~20:10」
「「うん、早く行こう。」」
「全員風呂入ったなー?星見に行くぞー」
「篠田くん!」
あ、平坂さん。
「どうしたの?」
「皆で見たいな〜と思って!」
「星?」
「そ!星々!!」
「いいねー!このメンツで見るとか最高!」
皆夜になるとテンションが一段と違うのね。
深夜テンションというやつだろう。
「あ!天の川!!」
「え?どこどこー?」
「あ、本当だー…」
「良かったね。平坂さん。」
「?」
「星。皆で見れて。」
「うん!」
やっぱりこの笑顔には勝てないな……
「ふー…疲れたぁ…」
「寝よ寝よ!」
「とか言ってお前起きてんだろ。」
「まぁね。」
「あ、じゃあさ!好きな奴いる?」
ぶはっ
恋バナとか、女子か。
「お前はいねーの?仍人。」
「へ?ぼ、僕?!」
「お前以外誰がいる。」
「僕は……ないよ。」
「嘘つけー!」
嘘なんかついてどうするんだよ…
ただでさえ友達もいないのに好きな子なんて……
ないない。
「平坂夏樹は?よくしゃべってんじゃん。」
………………え?
ちょっと待て、こいつ今……
「…平坂さん……?」
「そうそう」
僕が、平坂さんのことを……?
「いやいや、ない。」
「「キッパリと!?」」
そんなはず………ない…よな?
第十二星「夏休みクラス旅行後編」
こうして、僕らの夏休みクラス旅行一日目が終わり、二日目の朝。
僕は発作を起こした。
今度という今度は本当に生死の境をさまよった。
一言で言えば、“危なかった”
僕は近くの病院に運ばれ、いつもと全く同じ点滴を探してもらい休養中だ。
そして、なぜか救急車に平坂さんと一磨くんまで乗って来たらしい。
「おい、聞いてんのか!仍人!!」
「篠田くん死んじゃうのかと思ったじゃない!!」
勝手に殺さないでくれ…
「まぁ、肺結核の方じゃなかったから大丈夫だよ。」
今回の発作は対人障害の方だ。
だからそこまで危険度は高くない。
「何が大丈夫だよ!!これのどこが!!」
「全然大丈夫じゃないよ!!」
二人とも、相当僕のこと心配してくれてたのか……
なんか嬉しいな。
人に心配されたのなんか初めてだ。
人間関係とか複雑で怖いけど…………
『友達』っていいな……
「うわ!な、仍人?なんでお前泣いてんの!?」
「え!?私たちなんか変なこと言った?」
涙が勝手に溢れてくる。
どうしよう、止まらない。
「ごめん、違うんだ。」
あぁ、いつ言えるかわからない事は今伝えないと。
絶対に後悔する。
もう、後悔はしたくない。
「二人とも、ありがとう。」
「なんだよ、急に。俺たちが泣かしたみたいじゃねーか…」
「そんなことで泣いてたの?」
「そんなことって、人がせっかく勇気出して伝えたのに…」
「別に……言葉にしなくても、伝わってる。」
え……………?
「私は篠田くんの友達一号だもん。」
あぁ、そうだ。
この笑顔が好きだ。
前にそう思ったことがある。
「うん。そうだね。」
そうだよね。
友達、僕にもいるじゃないか。
「俺もな!」
しかもこんなにたくさん。
「ごめんね、皆。せっかくのクラス旅行……」
「気にすんなって!」
「それより体調大丈夫か?」
生きてて良かった。
第十三星「文化祭に向けて」
夏休みも明け、いつも通りの学校。
皆、夏休み中にあった出来事の話題で盛り上がっている。
平坂さんの吹奏楽部も県大会で金賞だったらしい。
「はーい、ホームルーム始めんぞー。」
相変わらず少し古い言葉使いの先生がまた何か大切な決め事を忘れていて怒られたらしい。
そしてまた学級委員……ではなく、実行委員に任せている。
『文化祭』
今年もこの季節がやってきたのか…
大方、僕は裏方だろうな。
いつものことだ。
「では、クラスの出し物を決めたいと思います。」
「あ、予算は8,500円なー。」
じゃあやっぱりアレかな。
「はーい!喫茶店!!」
言うと思った。
「はいはい!じゃあメイド・執事喫茶がいいなー!」
そう来たか。
「他に意見はありますか。じゃあ決定で。」
決まった。けど………
「次に係を決めます。衣装係、調理係、装飾係、買い出し組、店員係です。衣装と調理は家庭科得意な人、装飾は美術、買い出しは数学かな。ちなみに店員やりたい人は?」
皆一斉に手を上げる。女子の大半が持って行かれた。
やっぱりな……
「あと決まって無いのって……一番大事なやつじゃん…」
衣装と調理、か。
「誰か家庭満点の人いる?」
「それはさすがに…」
「はーい、ここにいまーす。」
「ちょ、一磨くん!!」
「「篠田ぁ?!」」
「こいつ、ほぼ一人暮らしだからな!家事雑務は完璧なはずだぜ?」
「なんで言うの………」
「へぇ、篠田くん凄いね!知らなかった!!」
「言ってないもんね。」
「じゃあ申し訳ないが篠田掛け持ちしてくれないか。他のやつはテキトーに手伝わせる。」
「「えー…」」
「わかった。」
「「えー!?」」
そんな訳で掛け持つことになりました。
衣装なら病院でも作れるかな。
「頑張れよ!衣装&調理隊長!!」
「元はと言えば一磨くんのせいだよ。」
「まぁまぁ!いいじゃねーか、たまには!」
こうなる予感はしてたけど、掛け持ちまではわからなかったな…
第十四星「北黒祭」
__いよいよ当日。
今日は一日中調理台と向き合わなければならない日。
平坂さんはメイドで涼宮さんは指揮官的なポジションらしい。
黙っていればイケメンな一磨くんはやはり執事だ。
というか、お客様の目の前で料理とか…
いじめだ………
開店準備から大忙しで店内はとても慌ただしい。
熱気がこもって余計に暑い。
「篠田ー。どうだ、いい感じか?」
「あ、涼宮さん。試食する?」
「いいのか?なら貰う。」
「どうかな…?」
「うまい…めっちゃ美味しい。」
「それはよかった。」
「へぇー、私もいい?」
「平坂さんまで………」
「オーレも!」
「「うまっ」」
「よし、じゃあいいね。開店するよ!」
こうして僕らの文化祭行事、喫茶店が始まった。
「花巻!こっちも頼む!」
「おう!」
「平坂ー」
「はーい!」
皆表でがんばっているんだ。
僕も頑張ろう。
「3番テーブル出来ましたー」
「花巻!運んで!」
「うぃーす」
「あ、いらっしゃいませー!」
「何名様ですか?」
「4人でーす、あれ?仍人クンじゃない?」
「えー、ないない。あの仍人が文化祭とか!」
「マジかよー!」
「「……………誰?」」
「……ゆ、結城くん……なんでここに…?」
「可愛い子がいるって聞いたからだよ。」
なんで………今更……
「そしたらあの弱虫な仍人が調理隊長とか、笑わせんなよ。」
「逃げたくせに。」
「高校入って良い気になんなよ。」
「友達100人出来るかな♪ってか?」
「出来る訳ねーだろ!!」
「「あははは!!」」
………一番会いたくない奴らに………
もう二度と会うこともないと思ってたのに………
なんで…………なんでいつも………!
「お前みたいな奴に友達なんて出来ねーよ、バーカ。」
バン!
「いい加減にしろよ……」
「あ?んだテメェ。」
「…一磨くん……ありがとう、でもいいんだ。」
「テメェは黙ってろ!」ドン!
ガッシャーン!!
「っ………!」
「「キャーーー!!」」
「仍人!」
「篠田くん!」
「お前ら!ここに何しに来たんだよ!」
「接客態度最悪だな、この店。」
「「………………」」
「出てけよ……お前らに食わせるもんなんか一つもねぇ!」
「チッ……覚えとけよ…仍人!」
バン
「ごめん……僕のせいだ……」
「篠田くんは悪くないよ!!」
パン!
「ちょ、花巻!アンタ何やって…」
「バカかお前!何だよ!何がいいんだよ!言ってみろ!!」
「…………ごめん、」
「謝ってんじゃねーよ!俺は、なんで何もしてねーお前がああいうこと言われなきゃなんねーんだって聞いてんだよ!!」
「「……………」」
「俺はなぁ、ああいうの大っ嫌いなんだよ!なんで言われるまま放っとくんだよ!あいつらに何されたんだよ!!」
「中学で色々あって……不登校になった。結城くんたちが原因だった。先生に相談しても相手にされなかった。」
「いじめ…か?」
「う、うん。まぁ…」
「なんで俺に言わなかった。」
「巻き込みたくなかった。」
「嫌でも巻き込まれに入るぞ。」
「知ってる。」
「だったら巻き込めよ。」
「…え………?」
「友達だろ?俺ら。それともそう思ってたのは俺だけか?」
「…ううん、僕もだよ……」
「なら巻き込め。俺が助けてやる。」
「うん、ありがとう。一磨くん。」
「だからってうちのシェフにビンタするなんてね。花巻。」
「男の友情はそんなもんだろ。」
「ふーん、そっかー…じゃあ私からも……」
「え!いいです!いらないです!ハル様!」
「「あははは!」」
そのとき、平坂さんは……
「………………そんなことまであったなんて…」
僕にはあまり聞こえなかったが大切なことを言った気がした。
第十五星「北黒祭後半戦」
__ピンポンパンポーン…
『只今より20分間のお昼休憩に入ります。各自各クラスで昼食を済ませ、午後の後半戦に臨みましょう。』
お腹空いたな、と思った矢先にお昼休憩が訪れた。
さすがの僕も朝の9時頃から12時まで立ちっぱなしで黙々と料理を作り続けるのはキツイ。
「つ…疲れた…………」
近くの椅子に腰掛けて溜め息を漏らす。
「仍人。」
「あ、一磨くん。お疲れ様。」
「見るからにお前のが疲れてんだろ。」
「あはは…そうかも。」
「大丈夫か、さっきの。」
「結城くんたちのこと?」
「おう…」
「大丈夫。なんともないよ。」
「そっか、じゃあ昼飯食おうぜ。腹減ったろ?」
「うん。僕が作ろうか?」
「ごめん、疲れてんのに。頼むわ。」
「全然平気だよ。何でもいい?」
「おう。食えれば何でも。」
ジュー トントン
「はい、お待ちどう様。」
「すげぇな、やっぱり。」
「そう?」
一磨くん。君も平坂さんもそうだ。
僕の背中を押してくれる。護ってくれる。
数少ない貴重な友達であり、とても大切な人だ。
僕も2人を支えられるようにならないと…
__午後の後半戦。
「さ、再開店するよー!」
「「いらっしゃいませー」」
僕も頑張らないと……
「篠田。お前は店回ってこい。」
「涼宮さん?」
「店は大丈夫だ。気にするな。」
「マジ!?仍人一緒に……」
「そだ、夏樹も回ってこい。」
「私も!?」
「え、俺は?」
「花巻は私らと店番。」
「えー。」
「篠田くん、一緒に回ろうよ。」
「うん。いいよ。」
僕は平坂さんとあちこち回った。
なんか夏祭りを思い出すなぁ………
楽しかったなぁ、なんてふとあの丘の上で見た星を思い出した。
その後も二人でたくいさんの教室を回った。
歩いているときも、小さな話をして笑って。
これがずっと続けばいいのにって思う。
「今日はありがと。」
「こちらこそ。楽しかったよ。」
「あの時みたいだね!」
「夏祭り?」
「そうそう!楽しかったなぁ。」
「………また行こうね…」
「夏祭り?」
「もだけど、そうじゃなくて……星を見に。」
「…………う、うん!」
平坂さんは一瞬、驚いたような顔をした。
だけど僕の一言の勇気は、とびきりの笑顔で返ってきた。
またいつか、一緒にあの場所に行こう。
あの、星屑の降る丘に。
第十六星「少し昔の話をしよう。」
ガラガラガラ
「おはよ、篠田くん。」
「おはよう、平坂さん。」
いつもより凄く早く来たはずなのに…
何故か平坂さんはそれより早く来ていた。
「昨日、疲れて帰ったから熟睡しちゃってね。」
「それで早く起きて学校来たの?」
「うん!することなかったし。」
「そっか…」
「篠田くんは?」
「僕はノンに叩き起こされたから…」
「ノン?」
「僕の最初の友達であり、唯一側にいる家族なんだ。」
「………?」
「猫だよ。白猫。嫌い?」
「ううん、寧ろ大好き!」
「それは良かった。」
僕は話せば長くなるよ、と平坂さんに言ったが、
時間ならまだまだあるから大丈夫だよ、と言われたので
少し昔の話をし始めた。
_____
あれは、僕が引きこもる少し前。
中学二年生の春のことだ。春と言ってもほぼ梅雨だ。
雨が降った日だった。僕は学校の帰り道で傘をさして普通に
帰っていた。いつもと変わらなかった。
だけど……横断歩道の前で交通事故が起きた。
僕もそこに居合わせた。
母親の猫が小さな子猫を咥えて道路を渡ろうとしたのだ。
親猫は意識がなく、子猫は鳴かない。
慌てた僕は家の近くの動物病院まで二匹を抱えて走った。
きっと自分と重なってしまったんだと思う。
体が弱いので走るのは禁止されていたが、もうそれどころじゃなかった。頼む、生きていてくれ。助かってくれ。
そう思いながら走った。
病院について、二匹を看護師さんに預けた僕はあまりの安心感と達成感に意識を手放した。
目が覚めると、僕は院内のベンチにいた。
起き上がろうとしたが起き上がることが出来なかった。
さっきの白い子猫が僕のお腹の上で丸くなって寝ていた。
看護師さんによると、ずっと僕の側から離れようとしなかったそうだ。少し嬉しかった。それと同時に気が付いた。
あれ、この子のお母さんは……?
看護師さんは悲しげな表情で母猫はもう…と言った。
僕はますます子猫が心配になった。
勿論、同情なんかしていない。自分がされて辛かったからだ。
だから余計に重なった。心配になった。
僕は看護師さんに「この子は僕が預かります。」と言って
家に連れて帰った。それからずっと、ノンが僕の友達で家族だった。辛いことがあると慰めてくれた。風邪で寝込んだ時も学校に電話かけてくれて……結局ニャーしか言えなくて僕のところに持ってきて。ヒエピタとか持ってきたり、体温計持ってきたり、僕の足元で昼寝したり。
ノンは僕にとって、かけがえのないたった一人の家族なんだ。
大切な大切な……家族なんだ。
第十七星「花巻の思想」
はいはーい!
なんかイキナリ『仍人の唯一の友達』、とか言って登場した花巻一磨でっす!!
いや~、やっと出番貰えた…
しかも俺目線の思想っ………!!
「ちょっと、花巻!!」
「あ、すまん。」
えー、気を取り直して!
まずは皆が気になっているであろう俺と仍人の過去かな。
_______
2年前の春。
今日はクラス替えだ。
「え~っと…俺の名前…」
「あ、花巻くん!また同じクラス!」
「え?マジで?よろしく~」
つか俺何組だよ。
「うわぁ…篠田も同じクラスじゃん。」
「えー?篠田ってあの?」
??
篠田…?
誰だっけ…俺まだ会ってしゃべったこと無いな。
「うわっ…噂をすれば…」
「篠田じゃん…行こ、まいちゃん。」
「うん。」
あれ、行っちゃった…
って俺まだ何組か聞いてねぇ!
「あ…僕3組だ…」
どこのクラスでも同じか…と言いながら溜め息をついた。
あれ?確かあいつも同じクラスだよな?
ってことは…
「俺、3組じゃん!」
早く教室行こーっと。
只今、自己紹介をしています。
俺は「は」だから最後の方なんだよなぁ…
「12番篠田仍人です。部活は無所属です。去年は1組でした。」
あ、篠田だ。
仍人って言うんだ…
なんだか周りの空気が重くなった気がした。
「次、花巻。」
もう俺か!
「はい!えー、35番花巻一磨でーす。部活は野球部、エースやってます!去年も3組です。よろしく~」
俺は1年にしてエースになったスーパールーキーと言うやつだ。
高校からのスカウトだって結構来る。
まぁ全部断ってるけど。
まだ決めるには早いしな。
去年は学級委員やらされたなぁ…
そういえば、涼宮と初めてクラス離れたな。
キーンコーンカーンコーン…
「花巻ー。」
「あ、涼宮。おはよー。」
「初めて離れたわね、クラス。」
「んだねー。」
こいつは幼馴染みの“涼宮ハル”
家が向かいで幼稚園から一回もクラスが離れたことはなかった。
去年は一緒に学級委員をやった。
「今年もなりそう?学級委員。」
「そうね…アンタは?」
「俺も。」
平和だ。
とその時までは思っていた。
第十八星「一磨と仍人」
俺はあの時までずっと知らなかった。
いや、知ろうとしなかったのかもしれない。
仍人の状態や状況も、仍人と涼宮の気持ちも。
何も…
_______
俺は、あれからずっと『篠田仍人』という人物が気になったまま1ヶ月が経った。
そんなある日、俺は今日も篠田仍人に話しかけようとタイミングを窺がっていた…
星屑の降る丘に