《神霊捜査》第一部 水難の相

《神霊捜査》第一部 水難の相

《目次》

第一章 特別捜査課の設立
(1)極秘指令 (2)神霊捜査課 (3)初めての事件 (4)課内捜査会議
第二章 神との邂逅
(1)捜査協力者 (2)歓迎会 (3)初めての神通 (4)ミタマ親神
第三章 タテカエ、タテナオシ
(1)事件現場での対決 (2)元遷り祭事 (3)直会(なおらい)

第一章 特別捜査課の設立

(1)極秘指令

ここは福岡県警察本部、上野本部長室でした。
コンコンとノックの音がして誰かが訪ねて来た。
秘書室長がドワを開けてどうぞと招き入れたのは、福岡博多南西署々長の伊藤警視正であった。
伊藤は一歩入るなり姿勢を正して、上野本部長の方に向いて、敬礼をした。

「伊藤参りました。」

「ああ、待っていました、どうぞこちらへ」

と本部長が立ち上がりながら応接椅子を指差した。
伊藤はその応接椅子に座り伊藤本部長と向かい合った。

「早速だが、用件を言いましょう。実はこれは極秘任務なので、そのつもりで聞いて下さい。警視総監からの直接の依頼案件でして、取り敢えず、テストとして、博多南西署に神霊捜査課を設立するということになりました。」

「神霊捜査課?」

「そう神霊捜査課です。神の霊と書く神霊です。警察制度始まって以来、二度目の試みです。最近の事件案件の解決はかなり確立がよくなってきてはいますが、本来警察の目的としては、事件が発生してから、その解決を目指すことばかりですが、そうではなく、本当は事件の発生を防ぐことが先決なのです。警視総監もそのことを気にされていて、未然に事件を防ぐことに力を入れる方針を指示されているのですが、どうしても、科学捜査や、心療捜査では解決出来ない事件があるのです。」

「はあ!と言いますと?」

「例えば、同じ場所で、同じ様な事件や、事故が何度も起こる事です。重複事故の発生を防ぐ様に改善策をこうじていても起こるもののことです。」

「それで、その対策に神霊捜査課ですか?」

「そうです。目に見えない者の起こす事件や事故を防ぐ為の対策課とでも言いますか、霊能力を使用してみるという実験をする部署ですね。
警視総監がまだお若い頃に東京の本庁にスサナル捜査部というのが在りました。大変優秀な成績を修めていたのですが、時の政権が代わり、警視総監が代わって、何故か廃止されたのです。その部長をされていたのが、今の只野警視総監でした。また今度は東京から遠く離れた九州福岡で密かに再開されるつもりなのです。」

「それを私の署内に作るということですか?」

「そう、実はある有力な神霊研究家がお宅の所轄内にお住まいになって居られるので、それで警視総監からの御指定なんですよ。」

ここで電話が鳴って、秘書室長が受話器をとり、丁寧な言葉で話して、上野本部長に小さなメモを手渡した。
本部長は見るなり「失礼」と声をかけて自分の机に戻り、電話に出た。
暫く丁寧な言葉で話していたが、

「丁度今、署長が来ておりまして、その案件を話していた所でした。 ハイ、判りました。お代わりします。」

と、伊藤所長に目をやって、受話器の口を塞いで、

「警視総監が君に代わってくれとのことです。」

と、受話器を差し出した。
伊藤は急いでその受話器を受け取り、直立して耳に当てた。

「ハイ!代わりました。伊藤でございます。」

「警視総監の只野です。上野君からよく話を聞いて、宜しく頼みますよ。それから何か困ったことがあれば、本部長を通さず直接私に電話してくれたまえ、良いですね。」

「ハイ、判りました。失礼致します。」

と、伊藤署長はおじきをしながら受話器を置いた。

「判りましたが、メンバー等はどういたせば良いのでしょうか?」

と、伊藤は椅子に座りながら、本部長に言った

「私の方からメンバーを集めてそちらに派遣することに致しますので、署長の方では、署内の目立たない場所を提供してくれるだけでいいのですが。」

「判りました。」

────────────────────────────────────────

(2)神霊捜査課

福岡県警糸島中央署の交通安全課の巡査宮下雫に辞令が発せられた。

「巡査 、宮下 雫、福岡博多南西署長住支署神霊捜査課勤務を命ず。」

と、書かれてあった。日付は明日転署になっている。
仲間の署員が今夜、送別会を開いてくれるという。
夜8時から始まった宴会は、前原駅前の『蛎善』で始まった。

「課長〰、挨拶と乾杯を御願いします。」

定年間近の交通安全課の課長が挨拶を始めた。

「え〰、宮下君の栄転を祝して、まずは乾杯します。 乾杯ーイ!」

「乾杯ーイ!、乾杯ーイ!」

「え〰、宮下君が我が課から居なくなることは大変困ることです。彼女の第六感と言いますか、第七感か、わかりませんが、とても交通安全に役立っていたのに、その力をこれからは借りられなくなります。しかし、彼女のその力を充分に発揮出来る部署への栄転ですから、仕方がありません。今まで、大変ご苦労様でした。どうか体に気をつけて頑張って下さい。残った我々は彼女の抜けた穴を埋める為に頑張って・・・」

「課長〰。話長いよ〰。」

「判ったよ!それでは、主賓の宮下君挨拶を御願いします。」

「本日は私の為に送別会を催して下さいまして、ありがとございます。私、本当は、戸惑っています。どんなことをする部署なのか、全く分からないのですから、警察署のホームページにはこんな課は記載されていないのですから。辞令が本当なのかさえ、疑いたくなるのです。私はここの部署も街も皆様もとても好きでした。辞令が出た以上転勤になるのは当たり前ですが、何か心残りがあります。たまには遊びに来て良いですか?」

「いいとも‼、おいでおいでよ‼」

皆が言ってくれた。

翌朝、宮下巡査は前原駅から、独りぼっちで、筑肥線経由地下鉄、バスを乗り継いで、博多南西署長住支署に出勤した。
支署と言っても、交番に毛が生えた位の小さなビルの一階の狭いスペースだった。
中に入り、緊張して名前を名乗ると、応対に出た巡査がキョトンとした顔で、何の用件かと訊き返して来た。
自分は転勤辞令で来たのだと告げると、奥に座っていた巡査長が、

「それなら、ここではなく、このビルの5階だよ。外の階段を登って行って・・・」

雫は外に出て、裏側の階段の近くを探したが、エレベーターは見当たらなかった。
階段を登って、501号室に小さな「神霊捜査課」の看板を見つけて、ノックした。

「どうぞ・・・」

扉を開けて入ると、2DKの普通のアパートの部屋だったが、そこに5人の男女が机に座っていた。

「あのう〰、宮下ですが。」

「ああ!宮下君か、そこの空いた机を使っていいよ。」

と、50歳柄見の男性が言った。

「宮下巡査、只今着任いたしました。」

と、大きな声で挨拶をして敬礼をした。

「ここでは、気楽に行こうよ、雫ちゃん! 私が課長の本郷 努だ。それから、課長補佐の山崎 敬一、捜査員の江崎 真司、柘植 誠一、上川 史子、以上君を入れて、6人で全員だ!」

「あのう〰、ここではどんな仕事をするのでしょうか?」

「うん、まあそう急がないでいいよ。その内に判ったくるから。君の話は聞いているよ、前原では、随分と手柄を立てて、交番安全課を助けたらしいね。署長賞8回、県警本部長賞5回、もう少しで警視総監賞に手が届く所まで行ったらしいね。警視総監の耳にも入っていたのだね、だから君が指名されたのだろう。」

「課長、宮下君、イヤ、雫ちゃんはどんな能力を持っているのですか?」

と、江崎が訊ねた。

「その内に判るよ。山さん、今から雫ちゃんを五島先輩に会わせてやって下さい。
ついでに、真ちゃんも連れて行ってやって下さい。誠ちゃんと史子ちゃんはもう会っているから。」

「それでは行くか!」

と課長補佐の山さんが立ち上がった。

────────────────────────────────────────

(3) 初めての事件

二人が立ち上がった時だった。
卓上の固定電話が鳴った。

「ハイ、シンレイ捜査課です。」

と、雫は本能的速さで、受話器を取って返事した。

「ハイ、場所は? ハイ、南区寺丘9丁目2ー7、吉村勇治宅ですね?
判りました直ぐ行きます。」

「課長、事件です。殺人事件みたいですが、何故か私達に出動要請が、捜査一課から来ました。」

と、雫は皆に聞こえる様に大きな声で本郷課長に伝えた。

「行くぞ!」

と、本郷課長は全員に声をかけて立ち上がった。

「雫ちゃん、そこの捜査係の腕章を皆に配ってくれ!」

「判りました。」

皆、ハアハア言いながら5階から、階段をかけ降りて裏の駐車場に向かった。
裏の駐車場で二台の覆面パトカーに別れて乗って現場に急行した。
事件現場の吉村邸は少し山の手にあった。
現場に着くともう立ち入り禁止のテープが張り巡らされていて、見張りの巡査が立っていた。
敬礼する巡査の前のテープをくぐって吉村邸の前まで来ると、一人の捜査員が待ち受けていて、ビニールの袋を靴に被せて、大きな家の横の潜り戸から広い庭に案内された。
庭の大きな池の淵を数名の捜査員が歩き廻っていた。
一人の恰幅のいい40半ばの刑事が飛んで来た。

「本郷先輩ご苦労様、あっ!山崎先輩も・・・」

「オッ、トバケンか?」

「皆さんは本郷先輩の部下ですか?」

「そう、紹介しておこう、山さんは知っているね、これが生活安全課課から来た柘植誠一、この娘(こ)が科研から来た上川史子、こいつがサイバー防犯課から来た江崎真司、この可愛い娘ちゃんが前原の交通安全課から来た宮下雫。宜しく。
こいつは、捜査一課長の戸張健ことトバケンだ。」

「ところで今回の事件とは?」

「ハイ。オーイちんちゃんこちらに来て、皆さんに事件の概要を説明して上げてくれ!」

と、部下のちんちゃんこと鎮西洋一に声をかけた。

「皆さんこちらに来て下さい。今日の事件を説明させていただきます。
今日の昼間に、ここの吉村家の次男が、この池で死んでいるのが発見されました。
背中に包丁が刺さっていたのですが、検死の結果、泥が喉に詰まった窒息死 と判明しました。争った跡があったので、足跡等の調査をしたら、 次男の妻が、夫の浮気に嫉妬して、果物ナイフで背中を刺したことを白状しました。争いから逃げようとして背中を向けた所を刺されたようです。場所がこの池のそばだったから、そのまま池に落ちたようですが、その時うつ伏せで顔から入水して、泥水を飲み込んで、それが気管支に入っての窒息死のようです。」

よく見ると、大きな池は、水が殆んど無く、底に溜まったヘドロで埋め尽くされている。
この中に顔から落ちて、もがいた弾みで、ヘドロを呑み込んだと容易に想像出来た。

「それでは、事件は解決済ですか? それなのに何故我々を呼んだのですか?」

と、真ちゃんが訊ねた。

「実は、この池での死人が、今回の事件で、4人目なのです?」

「エッ?、どういう事ですか?」

「つまり、この池では過去にも3人死んでいるのです。初めは、吉村さんの長男の息子の三男坊が遊んでいて転げ落ちて、それを助けようとした母親共々溺れ死んだのです。
その後、吉村の親父さんが、酒に酔ってこの池に落ちて心臓麻痺で他界されています。そして、危ないということで水を抜いていたのに、今回の事件が起こったのです。それで、この池には何かあるのではないか?ということになり、これ以上問題が起こらない様に、うちのトバケン、失礼しました。戸張課長が、シンレイ課にお願いしたのです。」

「おい、雫ちゃん、この池をどう思う?」

本郷課長に声をかけられた雫は、池に向かって目を閉じて、耳を澄ました。

「う〰ん・・・・ 解りませんが、何か悪意を感じます。」

「よし、判った。誠ちゃんと史子ちゃんはここの住人に会って、この池の出来た経緯(いきさつ)を聞いて置いてくれ。他の者は帰るぞ。」

────────────────────────────────────────

(4)課内捜査会議

翌日、神霊捜査課内で捜査会議が行われた。

「今から、昨日の吉村家水難事件の捜査会議を行います。それでは、江崎、事件の概要を説明してくれ。」

「判りました。まず平成元年12月25日、クリスマスプレゼントで喜んで、庭で遊んでいた三男の息子、吉村翔、4歳が誤って、池に落ちて、近くにいた母親が助ける為に池に入ったが二人共水死したのです。
次の事件は平成13年8月24日、主人の吉村勇治が、酒に酔って庭に出て、池に落ちて心臓麻痺で急死しました。そして昨日の事件です。
吉村家の次男吉村正治が浮気したことがばれて、それに怒った妻の陽子が果物ナイフで追いかけて、逃げて背中を向けた正治を刺して、その反動で池に顔から落ちて、ヘドロを吸い上げ、窒息死をしたものです。」

「ハーイ、よろしい。次は池の由来を、柘植、話してくれ。」

「ハイ、その件は私上川が申し上げます。
吉村家は先代の祖父が軍事需要で大儲けをして、それを吉村勇治が受け継いで、不動産管理業で悠々自適な生活をしていましたが、昭和50年に今の寺丘の山地800坪を購入して、豪邸を建設して、広い日本庭園に大きな池を造って、鯉を飼うことになったようです。
ところが、昭和の終わり頃、近くの都市高速道路の建設で橋桁を造る為に掘り返し、その影響かどうかは不明ですが、家人はその時から、池の水を入れる為に掘っていた井戸が枯れて、水が出なくなったと言っています。
鯉は全滅してしまいました。
暫くそのまま水を代える事無く、置いていたのですが、その間に孫と嫁が水死し、水を抜いて、枯れ山水にすることも考えたそうですが、知人の霊能者に水の無い池は凶相と言われて、水道水を入れる様に工事をしたのですが、それが本人の命取りになること等、知るよしもなかったのです。
御主人の心臓麻痺での死後、池の水を抜いてしまったことが、今度は、中に溜まったヘドロの掃除をしないままで、置いていたのが今回の悲劇を生むことになったようです。
あの池は、鯉を飼う為に特殊な構造になっていて、真ん中が深いすり鉢状なのだそです。
以上です。」

「よし、他には何かないか? 雫ちゃんは何かないかね?」

「私、あの池のことを思うと息苦しくなるんです。そして無性に腹立たしくなって来ます。怒りがわいて来るんです。何でなのでしょうか?」

「課長、一度、五島先輩に相談してみますか?」

と、山崎課長補佐が課長に言った。

「そうだね、雫ちゃん達を紹介がてら一度行くか?」

────────────────────────────────────────

第二章 神との邂逅


(1)捜査協力者

「山さん、いつものあれを頼みますよ。」

「ああ!あれですね。了解しました。ちょっと行って来ます。」

と、言うなり山さんは出掛けて行った。10分もしない内に一升瓶を下げて帰って来た。包装紙に包まれてはいるが、明らかに、酒と思われた。

「誠ちゃんと史子ちゃんは電話番を宜しく。」

「判りました。いってらっしゃい。」

「いってらっしゃいませ。」

4人は車では無く20分の距離をてくてくと歩いて行った。
長住の西の坂下にある安アパートの西の端の一階の小さな庭付きの一室101号室の呼鈴を山さんが鳴らした。
10秒位して、奥から、「ハーイ」と返事がして、「開いているよ、どうぞ!」と声がした。
「失礼しま〰す。」と言って玄関の戸を開けて靴を脱ぎ出した。

「いらっしゃい。久しぶりですね、山さんも課長も元気そうですね!」

「ご無沙汰しています。五島先輩も御変わり無く、お元気そうですね。今日は、取り敢えずご挨拶に伺いました。」

と、課長が、満面の笑みを見せて、お辞儀をした。

「遂に始まったのですね。」

「ハイ、警視総監直々の指令で長住支署に、私が課長職で、山さんが補佐ということで、先日2人でこさせました柘植と上川の他に、今日連れて来たこの二人を加えて6人で
神霊捜査課として正式に発足しました。」

「そうですか、先日、只野君から電話をもらっていました。
宜しくと言われるから、もう歳だしどれだけ手助けが出来るだろうか?と言っておいたのですがね!」

「はっ、警視総監から電話が来ましたか・・・
早速ですが、紹介させて頂きます。
この若者が生活安全課から来た江崎真司、この娘が宮下雫、前原の交通安全課から来ました。これから宜しくお願いします。」

「宜しくお願い致します。」

と、二人は頭を下げた。
ただの警察捜査協力者かと気楽に構えて来た二人は、少し戸惑っていた。
何せいきなり警視総監の話が出て来たからである。
住まいの部屋は狭間の6畳、6畳、8畳の3DKで、一人住まいのようだが、一体何者だ?と江崎は思った。
寝床の古民芸風のベッドの枕元には、形は小さいが、神宮風の二種類の箱の宮に知らない名前のご神名札が置かれてあり、水が供えられている。
居間の本棚の中には、沢山の神業記録と書かれた書類が重ねられていた。
年の頃は、まだ60過ぎの山崎課長補佐と同年輩に見える。
短い鼻髭と顎髭にはかなり白いものが混じっているが、頭の方ははい上がってはいるものの、白髪一本見当たらない。顔のシワも少ない。
腰も曲がってはいないし、足腰も丈夫そうだ。
台所の食卓の上には、数種類の薬の袋はあるが、その横にタブレットとスマホも置いてある。
どうみても、ただの老人ではなさそうであった。

「何ももてなすものが無いが、麦茶でいいかな?」

と、言って一人暮らしには大き過ぎる冷蔵庫から、冷した麦茶を取り出して来て、本棚の下の戸袋から硝子コップを4個取り出した。

「雫ちゃんと言ったね、これついでくれないかい。」

と、雫の顔を真正面から見て言った。

「そうそうこれお土産です。」

と、山さんが一升瓶を差し出して机の上に置いた。

「ああ、ありがとう、例の焼酎だね、私の血圧の薬だ。
有り難い。丁度切れていたところだ。
これを日に一杯飲むと、血管が広がって血圧が下がるんだよ。
どうも、今日は、挨拶だけではなさそうだね。!」

「さすが、先輩ですね。そうなんです。ちょっと困った事件がありまして。」

と、課長は今回の事件の全容を話した。
じっと聞いていた五島は、

「フーム・・・ 判りました。私が解決するのは簡単だが、私ももう73歳になったので、いつ神様が、国替えだよとおっしゃるか分からないし、私が居なくても、困らない様に、弟子でも育てることにしますか。」

と、言って、ベッドの布団をたたみ、神宮に向かってベッドの上に胡(あぐら)をかいて座った。そして、

「雫ちゃん、ここにきてその椅子を持って来て私の横に座りなさい。」

と、雫を呼んだ。
雫は言われる通りに素直に従ってベッドの横に椅子を置いて、五島と並んで神宮に向かった。

「いいかい、二礼して三拍手、一礼するんだよ。」

「エッ!三拍手ですか?」

「そう、三拍手だ。あのね、一拍手は現界、二拍手目は人霊界、三拍手目で、神様に届くと思いなさい。いいね!」

二人で揃って一礼三拍手二礼をして、五島が神様に話かけた。

「五島家にご神座いただいておられます、世乃元之真の神々様にお願い申し上げます。
只今、私の横に控えておりますこの娘にこれからご挨拶をさせますので、どうか、私と5分の陰陽交流後、この娘の神通のお役をを御許し頂きたく、お願い致します。」

五島は、雫に名前、生年月日、現住所を神様に声に出して知らせて、私のお役を御許し下さいとお願いするように教えた。
雫は教えられた通りにして、二礼三拍手一礼をした。
その後、左手同士で握手を5分間すると、

「よし、今日はこれでいい。
何日かするととても良くなると思うよ。」

雫はとても気分が良くなり宮の中の神様の姿が光り輝いて見え、とても有り難く思えていた。
ああこれが本当の神様なんだと思った。
雫は、またこの宮に詣りに来たいと思った。
────────────────────────────────────────

(2)歓迎会

この日の夜、課員全員は博多南西署の伊藤署長が催してくれた歓迎会に参加していた。
西長住の大きな量販店の前にある食事処「玉の井」の奥の部屋に南西署の署長、長住支署長、捜査一課長トバケンも参加していた。

「今日は無礼講で行こう。
この費用は警視総監持ちだから、大いに楽しんで下さい。」

と、伊藤署長が挨拶して始まった。
乾杯の音頭は本郷課長がとり、自己紹介が始まった。
若い者から先に自己紹介をすることになり、雫からとなった。

「初めまして、私、私は宮下雫と申します。
22歳で独身です。
糸島前原中央署の交流安全課から参りました。
初めての刑事職で、どうすれ良いのか、少し戸惑っていります。
宜しくお願い致します。
今日の五島先生・・ 私は先輩では無く、これから先生とお呼びすることに致します。
陰陽交流をして頂いて以来、何か普通では無く、今 まで何時も見えていた、うるさく足にまとわりついて来ていた、お化けみたいなものが居なくなり、とても楽になりました。
只、もう糸島には戻れないと思っています。
今までそのお化け達が危険な道路を教えてくれていたので、交通事故を未然に防げていたのですが。
今度は何が見えるか楽しみではありますが、もう一度五島先生を訪ねてみたいと思っています。
今日こんな歓迎会を催して頂き有難うございます。」

「えー、私は博多南西署のサイバー防犯課から来ました江崎真司です。
私もこの課に来て少し戸惑っています。
コンピュータのことなら何でも、ハードもソフトも解るのですが、それを越えた何か掴み処の無い事件を担当する等ということは、とても苦手で、上手く務まるか不安感で一杯ですが、邪魔にならないように頑張っていきますので宜しくお願い致します。・・・
あっ、それから、歳は25歳、独身です。」

クスクスと、笑いが起こったので、江崎は頭をかきながら、座席に着いた。

「上川史子と申します。
31歳バツイチです。
5歳になる娘が1人おりますが、自宅で同居している母が面倒を見てくれています。
福岡博多南西署科捜研から来ました。
私も物、遺留物がないと、仕事が出来ないのですが、これからこの課で、何をすれば良いのか思案中ですが、とにかく宜しくお願い致します。」

「柘植誠一、35歳、バツサン、子供はいません、いや、いますが、前の前の嫁さんが面倒を見ています。
中州支署の生活安全課で、丸暴担当をしていました。
背中に絵を入れた者達の相手なら得意ですが、それに、捜査協力者は沢山抱えておりましたが、五島さんみたいな協力者は初めてお会いしました。
宜しくお願いします。」

「今度は私の番だね、課長職の本郷努、50歳、既婚、子供2人、犬、猫各1匹。
皆んなこの課の目的をまだよく理解出来ていないと思うが、実は私もまだよく解っていない。」

どっと笑いが上がった。

「警視総監直々の指令での、仕事となるから、我々のカバーする範囲は、日本全国、いやヘタすると、世界中に行くことになるかも知れないので、そのつもりで勤めて下さい。」

「シンガリを勤めます課長補佐の山崎敬一、65歳、婆さんと二人暮らしです。
定年退職後の再雇用でここに回されました。
さっき会いに行った五島先輩の同じ大学のずっと後輩で、県別の同窓会でお会いして、以後可愛がって貰っています。
あの五島先輩は、神霊史研究の一人者で、ブログにもかなり神業報告を掲載されているので、この課に来た以上は、必ず関係のあることだから、諸君には読むことをお勧めしておきます。宜しく。」

「えー、えへん! ついでに挨拶させて頂きます。
私はトバケンこと戸張健と言います。
今年で、45歳になりました。
家族は妻1人、子供5人の7人家族で、官舎住まいです。
実は、先日まで本郷課長の部下でした。
本郷課長は第一捜査課長として剛腕をふるわれた名刑事でした。
その前の第一捜査課長は、山崎先輩、課長補佐、でした。
何と第一捜査課の生え抜きのお二人がこのシンレイ課に集まっておられることになり、私としては、上がって来る案件を全てこちらの課にお願いしたいと思うぐらいであります。
そういうことでシンレイ課の専門以外の案件もお願いすることがあるかも知れませんが、宜しく頼みます。」

最後に伊藤署長が、立ち上がり、

「この課の創設は、警視総監の肝いりで、国内、いや、多分、正式に課としての設立は世界初と思いますが、神様の力をお借りして捜査するという予想外のこととなっています。
人選は私が行いました。
宮下君だけは、只野警視総監直々の御指名なのです。
この課の成果が、これからの警察機構の方針というか、存続の意義を大きく変えることになるかも知れないのです。
どうか、心して捜査活動をお願いしたい。
では後は無礼講としよう。」

料理はかなり美味しい日本料理で、季節の魚や、野菜を上手く盛り込んだコース料理だった。雫は、さすが博多の料理は垢抜けしていると感心した。

宴会が進む中、この店の女将が挨拶に来た。
その女将に向かって、伊藤署長が、

「この課の夜の仕事場はここに決めるので、宜しく、頼みます。
支払いは、全て私に回してくれていいから、」

と、名刺を渡しながら伝えた。

「署長。 いいんですか? ここをアジトにして?」

「本郷課長、支払いは全て警視総監回しだ、心配するな!」

「おい!皆んな聞いたか?、これからは、ここもシンレイ課の事務所だぞ。いいね!」

────────────────────────────────────────

(3) 初めての神通

雫は夢を見ていた、身体がフワフワ浮いた気分で、自分の身体の中にも後ろにも一杯神様が居て、何かしようとすると、後ろの神様がスッと出て来て、ああしろこうしろと、場合場合に応じて違う女神が、指導してくれて、時にはその神様が男神のこともあったりした。

「私は貴女のミタマ親神です。
もう一度、五島家の宮に詣りに行きなさい。
そして、後二つ、五島殿からあることを施光して貰いなさい。
そうすれば、もっと、はっきりと貴女は神々とお話が出来るようになりますよ。」

と、初めて、神の声を聞いた瞬間に目が覚めた。

雫は早めに署に行った。
一番若い女性署員だから、進んで掃除や、お茶入れをしようと自発的に思ったのだつた。
ところが、署に行ってみると、掃除は署が雇った清掃業者が済ませていた。
お茶の用意をしているところに、史子さん、真ちゃん、誠さん、山さん、課長と続いて出署してきた。

「明日から、真ちゃん、私等3人で、お茶汲みの当番を交代制でやりましょう。
ね!真ちゃん?」

「エーッ、僕もですか?」

「そうよ!、自発的にやりましょう。」

「はーい!解りました。
明日は史子さん、ですね!」

「ああ、いいわよ。明後日は貴方ね。」

「仕方ないな・・・」

雫は課長の机の前に進みでて

「課長、私もう一度五島先生の所に行きたいのですが。」

「ああいいよ。
そうだ、皆んな聞いてくれ。
今から捜査の組合せを決めろうと思うから、異論があったら言ってくれ。
いいね。まず柘植君と上川さん、江崎と雫ちゃん、私は山さんという組合せにしようと思うが、何か意見はないかな?」

誰も何も異論を言わなかった。

「よし、それでは一応この組合せで動くぞ!」

「はーい。」

「真さん私、五島先生の所に行きますが、どうされます?」

「僕も一緒に行くよ、バデイだから、仕方がないよ。」

「雫ちゃん、五島先輩は午前中は駄目だよ。
血圧が高いから10時過ぎにしか起きないから、行くなら昼過ぎにしなさい。」

と、山さんが注意した。

「それでは、午前中は捜査会議でもするか。皆んな集合!」

と課長の号令がかかった。

「山さん、昨日、五島先輩は何も教えてくれながったね!」

「そうですね。
でもなにか、解ったような感じではありましたが、用心深いから、念には念を入れる性格ですから、様子を見ているのではありませんか?」

「雫ちゃんと真ちゃんグループは今日、午後五島先輩の所に行くなら、それとなく聞いて見てくれ!それとなくだよ!いいね、急がせ無いように注意してね!」

「ハイ、解りました。」

「誠さんと史子ちゃんは吉村邸の池の改造工事をした工務店を当たって、何か気が付いたことがないか聞いて来てくれ!」

「解りました。」

「雫ちゃんは何かないか?」

「ハイ、私、昨夜夢の中で、神様に会ったのですが、その前に微かに記憶している夢があります。
吉村邸の池の夢ですが、池から竜が鎌首をもたげて苦しんでいたのです。
竜の色は水色で、透明なのですか、悲しそうに、涙か汗を沢山流していました。
どうもあの池には竜がいるみたいです。」

「竜?そんなの現実にいるのかい」

「おい、真! 我々の業務は、その目に見えないものを捕まえることが役目だぞ。」

「あっ、課長すみません!どうも信じられなくて・・・」

「お前さんは、パソコンで今日一日は、署内で電話番をしながら、五島先輩のブログでも読んでいろ、雫と一緒に行く必要は無い、いいかこれは命令だぞ。!」

「はーい、・・・・解りました。 ( グスン)」

────────────────────────────────────────

(4) ミタマ親神

午後になって雫は1人で五島を訪ねた。
五島は坪庭の家庭菜園で野良作業をしていた。

「こんにちは!また来ちゃいました。」

「ああ、いらっしゃい、玄関開いているから上がって、勝手に麦茶でも飲んでいて、すぐ終わるから。」

5分位して、縁側から帰って来て、五島は雫を神宮前に呼んだ。
雫は、神宮に一対の灯りを点けて、神様に二礼三拍手一礼して、五島の顔を見た。

「どうだい?神様はいるかね?」

「ハイ、おられます。
とても眩(まぶ)しい光です。・・・
それから、昨夜夢の中で神様とお話しました。が、よく覚えていません。」

「そうだ、君はまだ"気の浄め"を受けていなかったね!それじゃ神様も話しにくいだろう。よし、今から"気の浄め"を施光しよう。」

と、言って神宮に雫と並んで二礼三拍手一礼して

「五島家の御守護之大神様、只今からこの宮下雫に気の浄めを施光することを御許し下さい。
つきましては、只今ここに担当の神々様を派遣頂きたくお願い致します。」

「あっ!違う神様が来た。」

「ウム、解ったようだな。
それでは今から"気の浄め"を施光するから、北を向いて正座して畳みに両手をついて頭を下げなさい。」

雫は言われる通りに頭を下げた。
五島が二礼三拍手一礼して雫の頭の天辺を親指で3秒位触っていたが、その爽やかさに雫がうっとりとしている内に終了していた。

「さあ、終わったよ。自分で、宮の神様に聞いてごらん。」

言われる通りに恐る恐る宮に訊ねて見た。

「昨夜、夢の中で神様から私のミタマ親神様を尋ねるようにと言われたのですが、教えて頂けますか?」

すると 、すぐ声が聞こえた。

「雫殿ようこそ、私はこの日本国の大國魂(おおくにみたま)の末代日乃王天之大神(まつだいひのおおあめのおおかみ)様の妻神、上義姫之大神(じょうぎひめのおおかみ)と言います。
今回貴女を指導する御役を根元之大御神(こんげんのおおみかみ)様から、仰せつかりました。宜しくね!貴女のミタマ親神は、竜宮乙姫之大神ですよ。
指導神は第一が金竜姫之大神、第二が日津地姫(ひつじひめ)之大神、第三が岩之大神です。
よく覚えておきなさい。
いつか何処かの接界で会うことがあるかも知れませんよ。
これから貴女が神様に会う時には、ほら、貴女のバデイちゃん、真ちゃんを何時も連れて歩いて、貴女が聴いた神の言葉を記録するか、録音しておくか、どちらか必ずしておきなさい。
神様は同じことを二度は言わないですから、いいですね!
それから、今の気の浄めで、12才位の姫神5柱、貴女の頭の中に入りましたよ。」

雫は驚いた。声が頭の中で聴こえてきたのだ。

「五島先生、聴こえました。」

「そうかい、よかったね。で何て言っていた?」

「先生には聴こえなかったのですか?」

「私には聴こえない。そのお役では無いから。」

雫は今聴いたことをそこにあった新聞広告の裏の余白に書き留めて、五島に渡した。

「ウム・・・ 私が思った通りだったな。よし、事件現場に行こう。
帰って私がそう言っていたと本郷課長に言いなさい。」

「解りました。有難うございました。」

─────────────────────────────────────────

第三章 タテカエ、タテナオシ


(1) 事件現場での対決

雫の話を聞いた課長は五島に電話してから、皆んなに伝えた。

「明日天気が良ければ、現場に行くぞ。
今後の捜査の参考の為、全員参加するように。
いいな! それから、真ちゃんは、雫ちゃんの神様からの取り継ぎを記録すること、事件の調査記録の作成を担当しろ、パソコン関係機器を使って正確に記録すること、その調査報告書は、警視総監の目に入るということを忘れないように!
いいな!」

「うわーっ・・・ 大変な役目だなー。」

と、江崎真司は、頭を抱えた。

翌日は梅雨の晴れ間が青空を覗かせていた。
雫と真ちゃんは五島を車で迎えに行き、吉村邸に向かった。
吉村邸には、課長等の他に捜査一課から、トバケンやその部下のちんちゃんこと鎮西洋一の姿もあった。
事件現場はそのまま保存されていた。
五島は、雫をそばに呼び、金魚の糞のように付いて回っている真ちゃんと、三人で池の縁を左回り浄めをするため歩き初めた時だった。
突然、雫が首をかきむしりながら倒れた。
もがき苦しんで気絶してしまった。
皆んな仰天して、あわてて、雫の回りに駆け寄った。
五島は慌てず、真ちゃんに雫の身体の上半身を抱き起こして支えるように指示した。

「フム!来たな。」

と、言って雫の頭の方に回り、二礼三拍手一礼して、両手を自分の頭の上で合わせて、一気に降り下ろした。同じことを3回して最後に〆としてもう一度同じことをした。
心配して見守る署員に、

「もう大丈夫。
根元浄めをしたから、心配はいらない。
真ちゃん雫ちゃんの左手を注意して見ていてくれ。
何かサインが出たら、私に教えなさい。」

と、言って、自分はトコトコと池の縁を回り出した。
五島が丁度一周したころ、真ちゃんは雫の左手の指が動いているのを見つけて、五島を呼んだ。
すぐに飛んで来て五島は真ちゃんに手帖を広げて持ち、雫の左手にボールペンを持たせるように伝えた。
雫は失神したまま手帖に左手で、何か書き出した。

『苦しい、苦しい。』

と、読めた。
五島が質問した。

「あなたはどなたですか?、神、人霊、動物霊、自然霊のいずれなのですか?」

『カミ』

「解りました。水竜さんですね!」

『そうだ、わしは水竜、ここに派遣されてここを護るお役だ。
しかしここの主人はこの池を作っていながら、水を止めて、腐らしたり、抜いてヘドロだけにしたりしよった。』

「それで、気付けをしたのか?」

『苦しかった。
この苦しみを解ってほしくて、息が出来ない苦しい思いを伝えた。』

「あなたは人間を4人も殺したのですよ!」

『それがなんだ?
大神様の神規を、あの者の長が犯したので、気付けしたが、解ってくれなかった。』

「それで、今はこの娘に憑って何をするつもりだ?
止めなさい。
この子の指導神には、お前の主神がおられることが分からないのか?」

『水竜長様か?何処におられる?』

「違う、日津地姫之大神様だ。
分からないのか?」

『知らない。わしの長は水竜長様だ。』

「そうか、お前達は、日津地様の眷族神ということを知らされていないのか?」

『そんなことは知らない。嘘を言うな!』

「仕方がない、上義姫様、今、日津地姫様はここにこられておられますか、居られたら、眷族神の水竜の長をここに呼んで頂くことが出来ますでしょうか?」



『ああー、長様、懐かしい・・・ 。 エッ!この姫神様が我らの大神様ですか?
はい、解りました。
直ぐにこの娘から離れます。』

真ちゃんの腕の中で雫は気を取り戻した。
ここでやっと自働書記が終わった。
少し、休みをとると、雫は立ち上がり、池の中の水竜に向かって話した。

「あなたの苦しさはよく解りました。
でも人間を殺すことは悪いことです。」

『・・・・・・』

「あっ、通信が入りました。真ちゃん記録お願いします。」

『私は上義です。
人間が、地上に穴や溝を掘り水が溜まると、多い少ないに関係なく、その水を守る為に、直ぐ、水竜が派遣されるという根元神規が存在しています。
この水竜もその一柱です。
水竜は水の守りのお役の日津地姫殿の眷族神です。
神界は縦分けが厳しい世界ですので、眷族と言っても、その長しか自分達の主神の日津地様を知らないのです。
そして派遣された水竜の多くは、苦しみ悶えています。
人間界に起こる水による不幸の5割がこの水竜達の仕業と言っても過言ではありません。
ここでの不幸を止めさせるには、この水竜に元還りさせなければ止みません。
五島殿はやり方をよくご存知のはず、どうか、ここで元遷りの為の祭事を施光してあげて下さい。お願いします。』

「解りました。後日確かに祭事をすることをお約束致します。」

五島が二礼三拍手一礼した。

「あっ、神様達が居なくなりました。」

「水竜はいるかい?」

「ええ、そこに小さく なっています。」

「よし、今日のところは、これで帰るとしよう。
また、天気の良い日に来て、水竜元還り祭事をやろう。
そうすれば全て解決だ。」

────────────────────────────────────────

(2)元遷り祭事

ここ一週間は梅雨のうっとうしい雨の毎日で、なかなか祭事を施光する機会がなく過ぎて行った。
しかし、天気予報では明日は梅雨の中休みで晴天と出ている。
雫はこの日を逃せばまたしばらくは晴れそうに無いと思い課長の了解をとって五島に電話した。

「先生ですか?雫です。
明日は晴れるようなので、祭りをやりたいと思うのですが、先生のご都合は如何でしょう?」

「明日かね? いいけど。」

「それではお願いします。
こちらで、供えものや、祭具を用意しますので、何がいるか教えて頂けますか?」

「何言っているんだ? そんなこと自分で、神様に訊ねなさい。
いいかい、そこでいいから北を向いて、二礼三拍手一礼して、上義様を呼んで聴きなさい。
それから、そこの部屋に神棚を作ってもらいなさい。
そうでないと、神様方も、寄り代が無くてお困りだろうから。
いいね。
それでは明日の時間が決まったらまた知らせておくれ、時間は午後なら何時でもいいから、頼むよ。」

祭りは明日の午後3時からと決まった。
雫は、一応五島の言う通り上義様にお伺いをたてて、聞き出したものを、用意したが、用心の為、その内容を五島にメールした。最後に♥マークを沢山つけておいた。

翌日、また雫が運転して、真ちゃんと五島を迎えに行き、祭事をする吉村邸に向かった。

「おい、雫君! わしはもう保険をかけていないのだが、大丈夫かな!」

「あ~ら、
先生はまだ命が惜しいのですか?」

等と軽口を叩いている内に、現場に着いた。
今回も、話を聞きつけて、伊藤署長と、トバケンさんや、ちんちゃんも来ていた。
祭りの準備を雫と真ちゃんが初めていた。
分からなくなったら雫は、上義様に聴いてああでもないこうでもないとやっている。
祭りの準備が整ったと五島に真ちゃんが知らせに来た。

「真ちゃん、君は吉村さんのご家族を呼んで来てくれ。
ついでに、スコップと我々の座る蓙(ござ)かビニールでも借りて来てくれ。」

「はい、解りました。」

と、母屋の方に駆けて行った。
戻ってきた真ちゃんの手にはスコップが握られていた。

「君、そこの池の中の乾いた所に20センチの円形で30センチ位の深さの穴を掘って置いてくれたまえ。」

解りましたと、池の中に入り、ヘドロの乾いた所に穴を掘った。
祭りの場所は池の南側で、北に池を見る所に祭事道具が置かれていた。
盆に半紙をしき、一対の灯り立てに蝋燭を差し、3ケの紙コップに水一杯と一対の酒、紙の皿に塩、洗米、が置かれ、別のお盆には、根の物、葉の物、実の物の野菜と、紙コップに三個の生卵が割って入れてあった。
五島はその塩の上に持ってきた小さなカプセルに入っていた別の塩を一摘まみ載せた。
吉村家の人々が集まって来た。

「現在の吉村家の家長はどなたですか?」

と、五島が訊ね、名乗り出た長男の吉村勇一が五島にうながされて供えものの真ん中のビニール蓙の上に座った。
その左側に雫、右側に五島と座り、他の人達は、その後ろに座ったり、立ったりして、祭事に参加した。
五島が皆んなに神様への詣り方を説明した。
五島が雫に蝋燭に火を灯すように伝え、トバケンからジップのライターを借りて点火した。
祭り参加者全員で、そろって二礼三拍手一礼をし、先達の座についた吉村勇一が、五島から教わった通り、氏名、生年月日、住所を述べて、今から水竜様元遷り祭事を執り行うことを宣言した。
ここで、五島が雫に聞いた。

「雫君、上義様に訊いてごらん、のりは入りますか?と。」

「のりは根元のりの天地根元だけで、神呼吸は『3』と云われています。」

と、取り継ぎをした。
雫の後ろで、手に持ったデジタルレコーダーを突き出して、真ちゃんが一言も漏らすまいと録音している。
五島が皆んなにのりの唱え方と、神呼吸のやり方を説明した。
全員で揃って、のりを唱え出した。
二礼三拍手一礼して、

「天地~根~元。」

続いて、深呼吸を大きく深く長く3回行い、また二礼三拍手一礼をして、終わった。

「雫君、何か聴こえるかね?」

と、訊ねた。

『よく解りました。
私はただ長神様から命じられた使命を必死に守ろうとしただけですが、根元様の大事な生宮を傷付けて殺してしまうことになっていたことは深く反省します。
皆さん、今日は祭りをしてくれて本当にありがとうございました。
私達は眷族神の末端ですから、何も分からないのです。
お供え物を頂きます。
この卵が特に好物です。
これで心置きなく神界に元遷り出来ます。
祭りが終わったら、今掘ってくれたそこの穴に根、葉、実以外のものは全て入れて帰って下さい。
お願いします。ではさようなら。』

「あっ、水竜さん消えちゃった。!」

「よし、これでいい。
では終わりにするか。
吉村さん、最後にこの祭りの〆の挨拶をして下さい。」

先達の吉村勇一は、たどたどしい、怖れを表に出した様子で、五島に聞きながら、〆の挨拶をして、全員で二礼三拍手一礼して、祭りは了となった。

「先生、この野菜はどうしますか?」

と、真ちゃんが祭具を片付けながら訊いた。

「吉村さん、この野菜は神気が一杯入っているので、お宅の皆さんで召し上がって下さい。」

と、手渡した。
吉村勇一が五島にお礼を述べて、「謝礼」と書かれた封筒を差し出した。

「吉村さん、それは頂けません、私は神業人ですので、職業としているわけではありませんから、気持ちだけ有り難く戴いて置きます。」

と、五島は丁寧に断った。

「雫ちゃん、神様の声はちゃんと聴こえたようだね、姿も見えたかい?」

「はい、とても気持ちがいいです。」

「よかった、どうやらこの受信機はポンコツではなさそうだね。」

────────────────────────────────────────

(3)直会(なおらい)

祭りの帰り道、事件が解決したので、直会をしようと伊藤署長が言い出して、「玉の井」に直行ですことになった。

「玉の井」はまだ準備中だったが、女将が愛想よく奥の部屋に案内してくれた。
先ず冷たいビールで乾杯して、今が旬の前菜の鯖(サバ)のゴマ合えをつついた。
続いて、ビールから、日本酒、焼酎とそれぞれの好みの酒を頼み、宴は盛り上がって、雫も普段は飲めない酒を今日はかなり飲んでいた。

「雫ちゃんは、けっこう酒は強いんだね!」

と、真さんが冷やかした。

「あら、私、普段は酒飲めないのですよ、でも、今日は何故か美味しくて、こんなこと始めてです。どうしたのかしら?」

「雫ちゃん、それは君が飲んでいるのでは無く、君に付いている神様が飲んでいるのだよ。神様はけっこう酒好きだからね。」

と、五島が説明した。
ここで、真ちゃんが五島に質問した。

「今日の祭事の間、僕は何も感じ無かったのですが、本当に神様は居たのですか?」

「そりゃ、仕方が無いね。悪いと思うけれど、神様から見れば、あの祭りの席に居た生宮、つまり本当の人間と見えたのは 私と、この雫ちゃんだけだから、他の人達はただの四足獣人と同じにしか、見えていないのだから、いくら祭りという接界にいても、神様を感じられないのは、仕方無いのだよ。」

「うわーっ、それは無いでしょう。
あれだけ働いたのに! 僕も神様を感じたいのですが、どうすれば感じられるようになるのですか?」

「感じられるようになりたいかい?
その為には、先ず気の浄めを受けなければ神様とふれ合えないのだよ。」

「じゃあ、僕にも、気の浄めをして下さいよ!」

「気の浄めを受けると、さまざまな気付け、差し障りが起って来るけど、それでもいいのかね?」

「差し障りですか?、でも雫ちゃんには起こっていませんでしょう?」

「それは、彼女は、神様が使おうと思っているから、守られているのだよ。
でも先日、水竜の体現をして、気絶しただろう。」

「はあ〰、解りました。・・・少し考えてみます。」

「ハハハー。」

と、皆んなが笑った。

「五島先輩、もっと神様の話を聞かせ下さい。」

と、本郷課長がせがんだ。

「フム、なんの話をしようかね?」

「スターウオーズ。」

と、真ちゃんが言った。

「よし、それにしよう。神界でも戦争があった。
今のスターウオーズと神界戦争。
二つは同じようで、微妙に違うのだよ。
神界は解り安いように簡単に言うと、五段階に別れるているのだよ。
本当はもっと複雑なのだが、今は、五神界として説明しておこう。
先ず、我々人間界の直ぐ上の世界が竜体神界、姿が竜の形をしていて、この神々がこの地球の護り神とされていて、天地根元界というのだよ。
その上の神界が天地大元界、その上が宇宙大元界、またその上が宇宙根元界、最後の一番上の神界が根元大元界と言って、唯一無二、無始無終の絶対根元様の世界となっている。
神界戦争とは、普通竜体神界、つまり、天地根元界で起こった戦争をいう。その上の神界での戦争が、スターウオーズと言っていいのだよ。
先に出来た神界での戦争、スターウオーズが、その下の神界、竜体神界にそのまま型出しとして反映されたのが、神界戦争となり、それがまた人間界に反映されて、今のこの世の中の戦争となって型出しがされているのだよ。
今日はここまでにして、せっかく、板さんが精魂詰めて作ってくれた美味しい料理をいただこうよ。」

こうして、夜はふけて行ったのでした。


《神霊捜査》第一部 水難の相

《おことわり》
この物語は全てフイクションで、登場人物、商店、会社等は架空ですので、その事をお断りしておきます。

《神霊捜査》第一部 水難の相

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-31

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第一章 特別捜査課の設立
  2. 第二章 神との邂逅
  3. 第三章 タテカエ、タテナオシ