想造のベルセルク 02
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現実世界で不良に殺された主人公。その事件を切っ掛けに、物語は動き出す。
02 冒険の始まり
そこはなにもない虚無。ただの白い空間。
気がつけば俺はそこに浮遊していた。
そのためか、身体が信じられない程軽い。
もしや、ここが天国というところか? そんなことを考えていると、頭のなかに無機質な機械音が響いた。
『ようこそ“想造者”。ここは<MAKING WORLD>です』
その機会音はただひたすら同じ言葉を繰り返していた。
「なんだって? めいきんぐ、わーるど?」
そして、内容を理解しようとした途端。視界が青白い燐光に埋め尽くされた。突然の発光現象を、俺は腕で目を庇った。
『対象確認完了。“想造者”登録完了。全項目オールグリーン。<想造世界MAKING WORLD>承諾完了』
再び訳の分からない機械音が頭のなかに響いた。
ない知恵を絞って状況を把握しようとするも、結局何も理解できずに俺は立ち尽くしていた。
そして、数十秒後、視界を覆っていた青白い燐光が爆ぜるように消えていった。
直後、腕を下ろして目を開けた。すると、目の前には森が広がっていた。巨木が日光を遮断するほど葉が多い木々の森だった。森のなかは木に生えたキノコのような植物が薄暗い光を発していたため周囲の状況を確認することができた。
俺はその場に立ち尽くし、頭をフル回転させ、先ほどの機械音を思い出しながら呟いた。
「結局さっきのは何だったんだ? そもそも俺は死んだはずだろ?」
切られた首筋と横腹に手を添えても、痛みや血で濡れた感覚がない。
(めいきんぐわーるど……。一体何だそれは)
死んでないのか? それとも、ここが天国なのか? あるいは地獄か?
何が何だか分からない。
その時、「死」という単語をきっかけに、殺された明日香のことを思い出した。
「明日香は? どこだ? ここが天国ならあいつだって……」
俺とほぼ同じタイミングで死んだ明日香ならきっとここにもいる。そう思っていた。
だが、俺の考えを霧散させるものがいた。
突然、背後から大きな足音が地響きとともに耳に入ってきた。
「なんだ!?」
慌てて後ろを振り向くと、そこには全高三メートルを超える巨大な蜘蛛が堂々と立っていた。
「蜘蛛……」
俺は呆然と巨大蜘蛛を見ていた。
動くたびに甲殻が軋む音が耳を刺し、俺を恐怖と戦慄で支配した。
「な、なんだ。蜘蛛か……」
俺は蜘蛛から目を背け、気にしない素振りをした。
「天国にこんな汚らわしい生き物がいるわけないだろ。あはは……!」
だが、気も紛らわせたつもりだが心拍数は上がり続けている。
日光を遮断された森は肌寒いはずなのに、背中を変な汗が滴る。同時に甲殻の軋む音─蜘蛛が動く音─が耳に入ってきた。
直後、俺の目の前に奴の足が頭上から振り下ろされた。
「おわあああ!」
叫び声を上げた後に、俺は一目散に逃げ走った。暗い森のなかを必死になって走り回る。巨木が行く手を阻むように視界に入ってくるが、瞬時に巨木を避け、蜘蛛から逃げる。
「蜘蛛無理!」
女々しい言葉を吐きながら必死に走る。そんな俺を巨大蜘蛛はゆっくり追いかけてくる。絶望が追いかけてくるようで今にもおかしくなりそうだ。
(こんな時に、空を飛べたら簡単に逃げきれるだろうな……)
心のなかで呟いた直後、頭のなかに大好きなロボットが浮かんできた。いつもの癖だ。
腰部と脚部にブースターを装備し、自由に空を滑空できるようだ。
(こんなのが欲しいな……。って、こんな時に何考えてんだ俺)
妄想しても徒労に終わると判断しなおし、走る速度を上げようと考えようとした矢先。
目の前に青白い光の素粒子が集積し始めた。
「何だ?」
先ほど、白い空間の中でも同じものを見た。
目の前の光景に見惚れ、不意にも立ち止まってしまった。現実世界ではどう考えてもありえない現象を俺は頭のなかで無駄な処理をし続けた。
その光の素粒子は球体状に集まったと理解した直後、俺を包み込んだ。
視界が青白い光によって埋め尽くされる。暗い場所に居たため、目には刺激が強すぎる。目を細めながら俺は、状況把握に努めた。直後、腰と足に重みが加わった。
直後、集積していた光が消え失せた。
「何なんだよ」
俺は苛立ちを覚え始めた。訳の分からない現象を連続的に体験しているため、理解しきれていないからだ。
顔に手を当てて落ち着こうとするが、背後から接近する蜘蛛という脅威によって自分に迫る危機感を全身で感じ取る。
「やべぇ!」
すぐ近くまで来た蜘蛛の気配から逃げるために俺は地面を蹴ろうとした。だが、下半身に不自然な重みがあることに気付いた。
「なんだよ! こんな時に!」
腰に巻き付いた妙な機械物質を見下ろして俺は唖然となった。それは先ほど頭のなかに現れたロボットの腰部ブースターだった。
「これ、もしかして使えるんじゃないか?」
俺はそこで無意識のうちに、自分の滑空する姿を“イメージ”していた。
すると、突然腰のブースターが火を噴いた。直後、Gが体に加わり、身体が若干反れた。時速二十キロメートルほどの速さで飛行していると、目の前の巨木が一気に接近してきた。
「うおおおおお!?」
突然な加速に体が負けそうになるが、俺はそこで自分が旋回する光景を“イメージ”して、腰を動かそうとした矢先、二つあるスラスターのうち、片方の出力が自動的に上昇して巨木を避けた。
「あはは! 楽しい!」
人生で初めて空を飛んだというのもあるが、ロボットのように滑空できたことに強い快感を覚えた。
だが、旋回をした直後、頭に鈍痛が走った。同時に、視界もぼやけてきた。
「ぐ……」
変な症状に襲われたため、飛行を中止した。このままでは恐らく失神してしまう。
地面に足をつき、速度と慣性を殺す。足に負担がかかるが俺は右足を軸にして直角に旋回った。
「奴は……。あそこか!」
巨大蜘蛛までの距離は約二十メートル。数秒で距離が詰まるだろう。俺はそこで後ろを確認した。五メートル後方には巨木が聳えていた。
「あれをうまく利用しよう……」
俺は腰のブースターを前方に回転させることを“イメージ”し、手を使って、角度を変えようとした直前に、ブースターが勝手に動いたのだ。先程から同じような現象が起きており、俺の頭は更に混乱した。だが、目の前から蜘蛛がイノシシのように追いかけてきている。成功するか不明だが、それを上手く利用する。
「さあ来い。蜘蛛野郎」
俺は低空飛行をする自分を“イメージ”した。すると、ブースターが自動で飛行速度を落とし、蜘蛛との距離を小さくした。この現象はあとで確かめよう。そう思い、時折後ろを確認しながら蜘蛛と巨木との距離も調節する。
蜘蛛が痺れを切らして決着を付けたいのか、一気に速度を速めて不気味な牙を突きだしてきた。
「うわっ!」
蜘蛛の牙が俺に迫るが、俺はブースターの出力上昇を“イメージ”して謎の現象を利用し、蜘蛛の牙を躱した。
「よくわかんないけど、こんな感じでいいのかな? もう一回やってみろよ」
俺は後方の巨木との距離を確認して、速度を今までと同じように謎の現象を利用して調節した。少し精神面に余裕が現れ、俺は指で蜘蛛に挑発した。すると単純な蜘蛛は再度牙を出し、先程よりも強く俺に向かってきた。
(あの木との距離は残り僅か。よし、今だ!)
俺は左腰のブースターを最大噴射させ、急旋回した後に右腰のブースターも出力を上げて、ほぼ直角の軌道を描いてその場を離脱した。急に加速したため、先程よりも強い鈍痛が頭を襲うが、構わず飛行する。
巨大蜘蛛は唐突の出来事に為す術もなく、無様に巨木に激突した。
甲殻の軋む音と蜘蛛の体液が何十倍にも増大されて森中に響き、蜘蛛は動きを止めた。
「よっしゃあ! 作戦成功だけど、試してみるか」
俺はガッツポーズをした。そして、右手を前に出して日本刀を“イメージ”した。
すると、目の前に先ほどと同じように青白い光が集積し、日本刀の形状になり、光が霧散した。代わりに鋭利な日本刀が空中に姿を現した。
俺は浮遊する日本刀の柄を握り、映画の見よう見まねで斜め下に切り下ろす。同時に腰を下ろし、腰部のブースターを“イメージ”で噴かして蜘蛛に接近する。
「じゃあな、クソ蜘蛛!」
蜘蛛は相当激しく巨木に激突したらしく、動く気配がない。その隙を逃すわけがない。
俺は日本刀を両手で持ち、大きく振りかぶった。
「おおおおお!」
蜘蛛の頭をめがけて一気に振り下ろす。日本刀が甲殻の硬さに負けてしまうと懸念していたが、紙を切るようにたやすく始末できた。
「ふぅ……」
落下速度を“イメージ”で調節させて俺は着地し、刀身を地面に差し込んで呟いた。
「さて、これからどうしたものか……」
俺は腕組みをしながら考えた。といってもここがどういう場所かも定かではないため思いつくものはない。だが、先程から連続して起きている現象を考え始めた刹那。
『はいはーい! チュートリアルお疲れ様でした!』
場違いなほど元気な女性のような“声”が頭のなかに響いた。
*
「チュートリアル?」
俺は不意にもオウム返ししていた。ゲームなどでよく耳にするチュートリアル。
今の状況と何が関係するのだ?
『……改めて、<MAKING WORLD>へ、ようこそ。あなたは五〇一二四人目のゲストさんです』
その“声”は再び俺の頭のなかで響いた。俺は唖然としながらその“声”を聞いていた。
機械音が頭のなかに響いた時と同じ様に、<MAKING WORLD>という言葉を聞いた。それについて最も知りたかったが、気になる数字があった。
五〇一二四。最近どこかで近い数字を耳にしたはずだ。
約五万人……。
(“原因不明の行方不明事件”の被害者集に近い数字だ。まさか……)
だが、俺は殺された。行方不明ではなく、殺害されたのだ。行方不明と分類が違うため、混乱していた頭がさらに悪化する。
だが、俺の脳内状況に意に介せず、“声”は続けた。
『この世界では、頭のなかで想像したものが実体化する世界です。あなた達の世界ではまず不可能なことですが、この世界では別です』
“声”は少し真剣さをにじませながら話しかけてきた。
「この世界ってことは……」
知らないうちに口が開いていた。それも当然だ。話があまりにも突飛すぎる。
異世界?
実体化?
マンガやアニメじゃああるまいし、と誰もがそう思うはずだ。
(きっと質の悪い夢を見てるんだろうな)
俺はそこで早く夢から醒めるよう、頬を抓ってみた。だが……。
『あはは。無理だよ。突然人間が世界からいなくなるなんて、普通に考えてありえないでしょ?』
その“声”は俺の頭の中を見通したようにそう言った。頭のなかで響いているのだから思考を読まれるもの無理は無いだろう。だが、こいつは「普通」という単語を使っていた。俺は実際、現世からいなくなっているはずなのに。
「想像したものが実体化するような世界に「普通」なんてあるのか?」
俺は挑発的な口調でそう呟いた。まず、俺が死んだはずなのにここにいる時点でどうかと思うが……。
『まぁ、聞いてよ。順序ってものがあるから』
その“声”は俺の問を無視して更に続けた。
『この世界にいる限り、頭のなかで想像して、実体化を命じられたものは出現するようになっているの。だからさっきあなたはブースターや日本刀を出現させた』
その内容は納得し難いことだったが、実際に自分が行っていたため、事実だと察した。
普通に考えて、頭のなかで想像したものが実体化する現象など起これば世界中の産業が衰退し意味をなくす。同時に、それは言葉通りの夢の世界。
『向こうではまず無理でしょ? でも異世界なら……。どうなると思う?』
「ものにもよるが、その言い方なら可能なんだろ?」
俺は腕組みをしながらそう答えた。
今も腰に付いているブースターや、多少刃が欠けてしまった日本刀。これらは頭のなかで思い浮かべたものだ。
悔しいが、ここは完全に異世界。そして、このような馬鹿げたこともできる突飛なもの。
このように、自分の頭のなかで思い浮かべたものが実体化すれば、なんでも有りと言うことになり、妄想を現実にできるだろう。
『その能力は“想造者”のみに与えられているわ。そんな馬鹿げた力は原住民にはないのよ。だから、あなた達“想造者”は原住民から「化け物」として忌み嫌われる』
「だろうな。自分でも信じられないんだからな」
実際、現実世界でも超能力のような特殊能力を持つ人は少し特別な気がする。この世界でも同じで、そのレベルが違うだけだろう。
『さて、あなたはきっとなぜ今自分がここにいるかと考えているでしょうね。あなたがこの世界に来た原因は「死」よ』
「死?」
『えぇ、もっと詳しいことはもう少し後に話すわ』
その時、俺は首筋に手を当てていた。不良二人組に襲われていた明日香を助けようとしたが、返り討ちに逢い殺された。
そして、明日香のことを思い出した。俺は明日香の居場所を知るために、その“声”に訊いてみた。
「そういえば、明日香はどこだ?」
『しーらない。誰よそれ。それよりも、この世界のルールを教えないとね』
「ルール?」
俺は眉をひそめて答えた。この世界にルールがあったとしても、想像した物が実体化するという非常事態が可能だから意味は無いと思うのだが……。
『さっきまではチュートリアルだったから、ものを想像するだけで良かったけど、もうそうは行かないわ』
「なに?」
『実体化させるための3つの原則があるわ。一つ目は「モノの形」を思い浮かべること。これはチュートリアルの様子を見ていると問題なさそうね。二つ目は「使い方」。実体化させたいものを使っている自分を思い浮かべることで可能だわ』
“声”は一旦言葉を切り、一呼吸置いてから続けた。
『最後が一番大事よ。「詳細設定」。これでみんな躓くのよ……』
その“声”は呆れた声音で続けた。
『あなたは、兵器や武器を出現させていたわね。あなたに合わせて例えるなら、爆弾を想像するとするわね。形状と使用方法はすぐに思いつくけど、その爆弾の爆発範囲や威力、殺傷能力などは不明よね?これだと曖昧すぎて“想造者”の能力が働いてくれないのよ』
淡々と説明されて頭がクラッシュしそうになるが、言われてみればその通りだ。
どんなことでも、手を抜いたら自分に帰ってくる。
システムや機械の設定を乱雑に行えば、希望通りの動きをしないのと同じだ。
だが、先程までに「詳細設定」なるものをした覚えがない。
「─もしかして、チュートリアルだとその「詳細設定」の過程が省かれているのか?」
俺はその場に腰を下ろして“声”に訊いた。すると、“声”は薄い笑い声を発して答えた。
『そうよ。あんた、他の“想造者”に比べてなかなか面白いわね。皆ピンと来ないみたいだけど』
「そうか?」
俺は鼻で笑いながらぶっきらぼうに答えた。
『でも、その理解力や想像力が軍力に利用されやすいのよ』
軍力に利用される?
俺はそこでその“声”に新たな質問を投げかけようとした。だが、“声”のほうが早かった。
『この世界には二十の国があるの。その中にハーバルっていう国があるんだけど、二十の国の中で最も勢力が小さいのよ。でも、その国が下克上を図っているの。そのためにある装置が開発されてね、あなたもその装置によってこの世界に呼び出されたのよ。選出方法はランダムだけど、運悪くそれに引っかかったのね』
「なんてことしてくれたんだ……」
ため息混じりにそう答える。もっと運が悪ければ俺は今頃そのハーバルとか言う国で、命を削る戦いを強いられていただろう。
『まぁ、この世界の国家情報はどこかで調べてよ。私が伝えるべきことじゃないからね』
“声”は面倒くさそうに投げ出した。だが、一呼吸置いてから話題を変えて続けた。
『実体化するときに青い光が発生するでしょ?』
「あぁ、あの光か」
『あの光は“CS”って言って、実体化するための素子。でも、実体化し続ければいずれ素子が無くなり、実体化はできなくなる』
車で言うとガソリンのようなものだろうか。
『“CS”はその人の想像力に比例して増減するわ。想像力が豊かな人は“CS”が増大。逆に、想像力が乏しい人は“CS”が少ない。だから、あなたも気を付けてね? 素子がなくなるのは結構致命的だから。まぁ、一晩寝れば回復するけどね』
「あいよ」
目を閉じながら俺は呟いた。すると、“声”はもう用がないのか、しばらく黙っていた。
そして、しばらくの沈黙の後、その“声”が切り出した。
『まぁ、伝えることはこんなもんかな? 質問ある?』
“声”が話してくれた内容はある程度理解できた。だが、俺は先程から抱えている疑問を持ち出した。
「元の世界に戻る方法はあるか?」
俺の問を聞いた“声”は間髪をいれず答えた。
『さっき言ったハーバルっていう国の装置をうまく利用すればできるわ』
「というと?」
『残念。詳細情報は持ってないわ』
「……で、そのハーバルとか言う国はどこだ?」
しかし“声”は呆れた声ではぐらかした。
『それは自分で調べなさいって言ったでしょ? なんでも私に頼らないで』
「じゃあ、ここからハーバルまでの距離は?」
『さぁ?』
「……おい、答えろよ。質問はあるかって訊いてきたのはそっちだろ?」
俺は苛立ちを声にして発した。
ふざけている。この世界はもとより、この場違いな“声”には腹が立つ。
『そうね。でも、答えられるものと答えられないものがある。それくらいは理解してよ』
「……はいはい」
俺は呆れてため息とテキトウな返事を返した。そんな俺に“声”は嗤いながら続けた。
『─私は誰の見方でも敵でもないわ』
その“声”は先程までと違い、剣呑なものだった。
だが、“声”は再び明るく続けた。
『あ、そうだ。さっきの蜘蛛の死体をみて』
「いやだよ!」
何故あの忌々しい生き物をもう一度目に入れなければならないのだ。
『いいから、見なさい』
強い口調で“声”が答えた。
俺はしぶしぶその“声”に従い、後ろを振り向いた。
巨木に体を預けるように倒れている蜘蛛はみるみるうちに青白い光となって散っていった。
「なにが……?」
これには流石に驚く。普通、死体はゆっくり土に還るものだ。だが、今の蜘蛛は光の粒とかして虚空に消え去った。
俺の頭は完全に混乱していた。死体が消える。それは恐らく蜘蛛だけではなく人間も同様だろう。
自分が死ぬとき、何も残さずに消えてなくなる。なにも考えることなく、絶望のみに支配されて消え失せる。
そんなの、死じゃない。人の死であるはずがない。
死を経験した俺は、否定し続けた。
だが、“声”は俺が想像していたことと違ったことを話した。
『今の蜘蛛のように、出現させたものを消失させることも可能よ』
「え?」
『だから、要らないものがあったら消失を命じれば消えるわ』
「な、なるほど」
俺は心を落ち着かせるために深呼吸しながら答えた。
そこで俺は地面に刺した日本刀に消失を命じた。心のなかで「消えろ」と呟いた途端、日本刀が青白い光とかして消滅した。
『そんな感じ。いい感覚してるじゃない』
褒めているのかいないのかよくわからない言葉を“声”は吐いた。
俺はついでに腰のブースターも消失させた。重量があるため動きが鈍くなる。それを見届けたのか、“声”は笑いながら呟いた。
『ま、この世界を楽しんでね~。この世界は、あなた達の世界で言う「例外」が満ち溢れている。だから、有り得ないことが平然と起こる。でも、受け入れなさい。神はそう言っているわ。神のお告げを伝えることができたということで、バイバイ』
「あ、あぁ」
突然現れて突然消える。神出鬼没の“声”の言ったことを俺は頭のなかでまとめ始めた。
この世界では二十の国が戦争をしていて、最弱の国が下克上のために現実世界から人間─“想造者”─を呼び出した。そして、その国の導入装置を介して向こうの世界に戻れる。だとしたら……。
「ハーバル、だっけ? その国に行くしかないな」
正直、現実逃避をしたい気分だが、そういう訳にも行かない。
ここで自分に負けたら、何もかも公開するはずだ。
俺は明日香のことを心のなかにしまい込み、この世界から抜け出すことを考え始めた。だが、その前に……。
(試してみないと始まらない)
俺は頭のなかで先ほどと同じ形状のブースターを想像した。
使用方法も先ほどと同じ。そして、一番の問題である詳細設定を試す。
・頭のなかで姿勢制御、火力制御可能。
・重量は十キログラム以下。
・水素イオン推進剤を燃料。
まずはこんなところだろう。
「よし、じゃあやるか!」
俺は頭のなかで出現を命令した。腰に重みが加わると同時に緊張を覚えた。
目標は数メートル程の高い位置にある巨木の枝に乗ること。
意を決して俺は浮上をイメージした。
直後、ブースターが火を噴いた。同時に体が予想以上も浮き、数メートルも浮上した。
「もうちょっと調整が必要だな……!」
頭のなかで姿勢制御を行い、ふらふらしながらも巨大な枝の上に着地する。姿勢制御が思った以上に難しく、しばらく難儀しそうだ。
「こんなもんかな? 初めてにしては上等かな?」
俺は薄暗い森を見渡し、首筋に手を当てた。
いつも通りの首もと。変わったところは何もない。
それを確認して俺は深呼吸した。別世界の空気を肺いっぱい吸い込み、ゆっくり吐き出した。そして……。
「絶対に向こうに戻ってみせる!」
俺は腹から声を出し、拳をきつく握りしめた。
向こうの世界にどのような形で戻るかわからない。だが、無事に戻れるという可能性はある。たとえ、九九パーセント不可能だとしても、残りの一パーセントに全力を尽くす。
運命の女神がやり直すチャンスを与えてくれた。そう思いたい。
生まれ変わった気分で行こう。
こうして、俺の異世界での生活が始まった。
*
五月十三日。<MAKING WORLD>は曇りだった。と言っても、葉が覆い茂っているため、木漏れ日の光を見て観測しただけだ。
この世界に来てから三日経過した。暗い森のなかで三日も過ごしたので精神面はボロボロだった。なによりも、この森には巨大生物がうようよいる。蜘蛛や蛇、トカゲや羽虫などが夜な夜な呻き声を発しているので眠れないでいるのだ。
「ふあぁ……」
俺は枝の上で大きな欠伸をした。
この三日間で俺は想造の練習を繰り返した。その中で、三つの条件でもっとも重要な「詳細設定」のコツを掴んだのだ。
俺が出現させるものの大半は工業的なものだ。そして、工業製品は材料などで大きく性能が変化し得る。この世界なら重量や強度なども材料を考えれば思い通りに作ることができる。さらに、向こうの世界に実在しないような性質のものも出現可能だ。
俺はダイアモンドのように固く、アルミニウムよりも軽い物も出現させることに成功した。ゲームなどでは“チート”と呼ばれるような代物だ。この経験を活かし、今ではブースターも高強度で軽量なものが出現できるようになった。
他にも、武器の出現も成功した。ハンドガンやライフルと言った銃火器、日本刀を始めとする刃物。ロボットアニメの影響もあって、近未来デザインの物が多い。
俺はこの世界ならロボットアニメで登場する武器なども扱えるのではないか? そう考え始めていた。実際、ビームライフルは簡単に出現できた。
同時に、向こうの世界に存在するものは、詳細設定をする必要がなく、使い方と形を想像するだけで出現する。この三日間で、懐中電灯や固定照明灯などを出現させることができた。
しかも、簡易食料も出現させることができた。三日間の間、水や食料に悩まされていたが、試しにやってみたら成功した。
その結果、この三日間で確実に“想造者”の能力に慣れた。
「今日は飛行練習するか」
俺は体をほぐしながら呟いた。同時にブースターを出現させた。だが、今回のブースターは両手に無線グリップが出現している。
・材質はタングステン並に硬質。
・重量はアルミニウム同等。
・水素イオン推進剤使用。
・両手の無線グリップで火力調整可能。
・安定翼付属。
この設定で俺は新しいブースターを身につけた。
両手のグリップには、親指で押すボタンが有り、このボタンの押し具合でブースターの出力を調整できる。
グリップの押しボタンを押し、俺は飛行を開始した。体に加わるGを感じながら俺は森のなかを縫うように飛行した。
「……姿勢制御よし。グッリプ異常なし。体に加わる負担軽微」
俺はロボットアニメのオペレーターのように、ぶつぶつと状況を声に出して確認した。
この三日間で飛行自体には慣れた。そのため以前のように体─特に頭─に異常が出ることも減った。
「よし。この調子だ。ん?」
薄暗い森の中を飛行していると、右の方向から妙な音が響いてきた。
人の声ともう一つ、変な声が聞こえてきた。
「なんだ?」
俺は気になって声が聞こえてくる方を見た。ブースターの推力を消し、最寄りの枝に乗った。
目前の木々は比較的背が低いため、多少明るい。そのため、枝と葉の間の向こう何かが蠢いているのを確認できた。時折見える黄色と黒の模様。そして、半透明の羽根らしきもの。
「ハチか?」
だが、俺の疑問は拭いきれなかった。理由は単純だ。そのハチらしきものは、この森に住まう巨大生物の中でも異様なほど大きかった。
「デカすぎだろ……?」
この世界で二度目の巨大生物を間近で見た俺は呆然としていた。蜘蛛と言いハチと言い、この森は一体何なんだ。
この間の“声”も言っていたように、この世界は向こうの世界の「例外」が溢れている。そう思うと、受け入れざるを得ない。
だが、俺のそんな脳内処理は、突如聞こえた声によって霧散した。
「クソ!」
男の苛立った声が耳に入る。そして……。
「まずいよ! 早く逃げないと!」
女の子の焦った声が聞こえてきた。
二人組があの巨大なハチに襲われているのだろうか?
ともかく、やることはただひとつ。
「……よし、実験も兼ねてやってみるか。木までの距離は大体五〇メートルか……」
俺は無反動ロケットランチャーを出現させた。
・火炎拡散弾。
・爆発最大拡散範囲、半径四十メートル。
・無反動
・スコープ付き
こんなもんだろう。精密な狙撃をするわけはないため、スコープの必要性は低いが、備えあれば憂いなしという奴だ。弾丸が明後日の方向に飛ぶ可能性もある。そんなことでは元も子もない上に、ハチに気づかれてしまう。そうなれば、標的は間違いなく自分になる。
「……ハチは煙に弱い。撃退するにはこれが一番だ」
俺は誰に言うでもなく呟き、ロケットランチャーを構えてスコープからハチを見た。トリガーを引き絞り、爆音が耳を刺す。
火炎拡散弾は尾を引いてまっすぐ進んでいった。そして、手前の巨木に激突したと同時に煙が辺り一面に広がった。当然、爆発範囲内の木々は、煙を上げて燃え始める。
その煙が目的だった。
─ぴいいいい!
直後、聞いたこともないような呻き声が聞こえた。鳥のような甲高い声。恐らくハチの声だろう。ハチは普通鳴かないが、この世界では違うようだ。
「なんだ!?」
ハチに襲われていた男の声が耳に入ってきた。突然周囲の木々が燃え、煙が上がったためか、少々声が荒らげていた。
俺は即座にロケットランチャーを消失させ、ブースターを噴かせた。
出力を一気に高めて俺は飛行した。目の前に着弾して燃えている木が迫ってくる。俺はその木をグリップのボタンの押し具合を調節して躱した。
すると、巨木の向こうには二人の人がいた。一人は全身黒ずくめの短髪黒髪、長身の男。もう一人は茶髪で長髪の女の子で、白いジャケットを羽織っている。
俺は二人の無事を確認して、意識をハチに切り替えた。
視界が周囲の炎によって明るいため、ハチの巨躯な体をはっきりと目視することができた。
ブースターの出力を無くし、慣性を殺しながら着地する。
俺はグリップをズボンのポケットに押し込み、右手にマガジンが入っていないアサルトライフルを出現させた。AK‐47と呼ばれる実銃に似たものを構えると同時に俺はあるものを出現させた。
・付着爆発弾。爆発範囲は最大で半径一メートル。
・マガジン一つに二十発。
・薬莢の爆発による反動は電動ガンと同等。
・発射時に爆発音は癇癪玉の爆発音並。
後ろ腰のベルトに二つ出現させ、そのうちひとつを掴み、アサルトライフルに差し込んだ。即座にコッキングレバーを引き、俺は躊躇うことなくハチに向けて連射した。
─ぴいいいいいいいいい!
ハチに着弾したと同時に幾つもの火球が出現し、ハチが呻き声を上げた。爆発が起こる度にハチの体液が森中に飛び散る。
─付着爆発弾。弾丸の先端に爆破スイッチが埋め込まれており、ターゲットに命中したと同時に爆発する。爆発時の衝撃と熱、さらに高温で鋭利な銃弾の破片を浴びるため、ターゲットはただでは済まない。デメリットとして、銃弾の破片が自分のいる方向へ飛んでくる場合もあるが、ある程度の距離があれば問題ない。
二十発もの弾丸を打ち込まれたハチはその場に倒れこんで動きが鈍くなった。俺はその隙にマガジンを入れ替え、間髪入れずにトリガーを引く。
半死状態のハチに追い打ちを掛ける。先ほどと同じように体液が飛び散るが、ハチの悲鳴は聞こえなかった。
ハチは爆発によって木端微塵になっていた。
「─ふぅ」
俺はアサルトライフルを消失させ、後ろを振り向いた。周囲の木々が少しだけ燃えているため、二人の顔を認識することができた。よく見ると二人共俺と年が近いようだ。
二人はその場に座り込んで唖然としていた。
俺は二人に話しかけた。
「だ、大丈夫ですか?」
俺は目を逸らしながら呟いた。若干人見知りの気があるため、声が強張ってしまった。
すると、長身の男が立ち上がりながら口を開いた。
「いやー助かった。ありがとう!」
男は笑みを浮かべながら立ち上がって軽く頭を下げた。
どうやらかなり気さくな人のようだ。
「ちょっと真二。もっと感謝の気持ちを持ちなさいよ」
すると、真二と呼ばれた男の横にいた女の子が声を出した。
「助けていただきありがとうございます。私の名前は浅田綾です。こちらの馴れ馴れしいのが大原真二です。あの、お怪我はありませんか?」
「い、いえ。大丈夫、です」
真二とは違い、綾は礼儀正しかった。
俺はその時、自分の名前を言っていなかったことを思い出し、口を開いた。
「お、俺は平賀零夜っていいます」
すると、真二が俺を面白そうに見ていることに気付いた。
「良助、か。なぁ、ひとつ訊いてもいいか?」
「え? あぁ、どうぞ」
唐突に言われたため少し躊躇いがちになってしまった。
「さっきの攻撃なんだが、あの爆発する銃弾はどうやって想造したんだ?」
付着爆発弾のことか。俺は真二の顔を見て少し照れくさい気分になりながらも説明した。
「─付着爆発弾。あれは弾頭の先端部分に爆破スイッチを埋め込んでいて、ターゲットにヒットした瞬間、スイッチが作動して爆発する。そう設定したんです」
俺の説明を聞いていた真二は何度も頷きながら相槌を打っていた。
すると、頷いている真二を余所に綾が切り出した。
「まぁ、こいつのことは放って置きましょう」
「あ、あぁ……」
俺は、真二を呆然と見ていたが、綾の言葉を聞いて、彼女を見た。
真二は俺の説明の内容を聞いたあと、ぶつぶつと呟いていた。
「私達はこの森を出たいのですが、出口もわからない上に巨大生物が居て下手にいるのです。危険な森なので、一人でも多いといいと思います。─もしよければいいのですが、一緒に行動してもらってもいいですか?」
綾は少し照れながらそう言ってきた。
だが、その言葉は俺の心のなかにはびこっている不安要素を消し飛ばした。今まで誰にも必要とされず、「仲間」と呼べる存在が居なかったのだ。そこで、あえてタメ口で答えた。
「もちろん。俺もこの森を出たいと思っていたし、頭数が増えて損はないと思う」
俺は頬を掻きながら早口に言った。慣れていない言葉を聞いたのもあるが、初対面の人とここまで話したことがなかったのだ。
すると、先程までぶつぶつ独り言を呟いていた真二が突然俺の肩に手を置いた。
「うわ!?」
突然のことに驚きの声を荒らげる。悪気はないだろうが、心臓に悪い。
「色々と教えてもらうかもしれないが、よろしくな」
真面目なことを言う真二の顔は喜びに満ちていた。その表情をみて俺は安堵感を覚えた。
「あぁ、よろしく頼む」
「よろしくお願いしいます」
綾は相変わらず敬語で深々と頭を下げた。そこで、俺が提案した。
「その、綾さん? 仲間なんだから敬語はやめないか?」
すると、綾は顔を赤くしながら首を縦に振った。
「そう、だね。じゃあ、私のことは綾と呼んでください」
「わかった。よし、じゃあ巨大生物に備えて枝に避難だ」
俺は二人に向けて言った。先ほどのように巨大生物に襲われるのは懲り懲りだ。
「了解だ」
「わかった」
真二に続いて綾が頷いた。俺はブースターの火を噴かせて上昇した。
今までと違う快感が俺の心を満たしていた。幼なじみの明日香以外に、親友と呼べる存在を人生で初めて手にしたであろう俺の心は、今までにないほど「楽しい」と感じていた。
(こんな気持は初めてかもな)
─これが今後ずっと共に生きる仲間との出会いだった。
*
その夜、俺達は巨木の上で向こうの世界の話をした。いつもなら巨大生物に怯えている時間帯だが、その日は学校のことや趣味など他愛もない話をして盛り、安心感を覚えていた。
だが、話をしているうちに真二は眠りに就き、俺と綾の二人だけになった。
俺達は僅か葉の隙間から夜空を眺めていた。
向こうの世界のものとは違い、星々の光が強かった。
向こうは今どうなっているのだろうか?そんなことを考えながら、生き生きとしている星たちを見ていた。
しばらくの間、俺達の間には沈黙の時間があったが、俺が口を開いてそれを破った。
「─この世界に来てどう思った?」
俺は突然、体育座りしている綾にそんな質問を投げかけた。綾は一瞬驚いた表情をしていたが、すぐに顔を俯けてしまった。
「最悪って感じ。でも─」
綾は膝に顎を乗せて話したが、途中で言葉を切った。その声には数多くの感情が込められているように思えた。怒りや悲しみだけではない。
何かが隠れていた。
「私、向こうでいじめられていたから戻りたいとも思わない」
俺は息を呑んで彼女の話を聞いていた。
いじめ。それは人間が存在する限り消滅しない毒素。俺も小学生の時にいじめられたが、あれほど惨めなことはないだろう。
俺は苦い思い出を脳裏に浮かべながら綾の話を聞いた。
「最初はまだ我慢出来た。でも、どんどんひどくなってきて……。最終的には、いじめがエスカレートして殺された」
「殺された……?」
俺は目を見開いて声を絞り出した。いじめられていた人の自殺は残酷なことによく聞くが、殺すというのは初耳だった。
いや、何処かで聞いたはずだ。確か、買い物中にラジオで聞いた気がする。
「うん。一週間くらい前かな? 下校中に信号を待っていたら、後ろから強く押されたの。車道に投げ出されたって気付いた時には通り掛かったトラックに跳ねられた」
やはり、あの事件の被害者は綾だったのだ。殺害方法はニュースでは扱っていなかったため、定かではない。だが、一週間前と言うのは、やはり殺されたのは綾だったのだろうか。
「じゃあ、それが切っ掛けでこの世界に入ったの?」
綾はコクリと頷き、ため息をついて更に続けた。
「最初はこの世界ならやり直せると思ったの。でも間違いだった。結局私は無力で、独りだと何もできない弱い人間なんだって改めて知らされた。真二が居なければ、きっと死んでいた」
俺は黙って綾の話を聞いていた。だが、途中であることを考えついた。
「自分の弱さを知ったのなら、克服してみたいと思わない?」
「え?」
綾は俺を潤んだ瞳で見た。俺は綾に向き直って話し始めた。
「俺もさ、向こうで死んだんだ。ヤクザに襲われていた大切な人を守るために、戦ったんだけど、何もできずに二人して殺されて……」
あの時の恐怖心と憤りを思い出しながら俺は続けた。
「でも、この世界にきて思ったんだ。ここで頑張って、向こうに戻ることができればやり直せる、ってね」
「そうかな?私はそう思わないけど……。向こうに戻ってもいいことはないし、またいじめに合うだけだと思うけど」
綾は俺を睨みながら口を尖らせた。だが、俺は怯まずに続けた。
「いじめにあっても耐えられるように、ここでメンタルを鍛えるんだよ」
「だからって何が得られるの?」
「自分を傷めつけた連中を見返したくはないの?」
「……そんなことができれば苦労しないよ」
俺は綾の肩に手を置いて続けた。
「説得力がなくて申し訳ないけど、まずはやってみようよ。千里の道も一歩からって言うしね」
俺は自分の語彙力の無さに絶望しながらも、折りたたむように綾に訴えた。
「このままだと、綾は弱いままだよ。強くなりたいなら、一歩踏み出さないと。これはチャンスだと思わないと何も始まらないよ。でも、強くなるって言うのは、戦いに勝つことじゃない。自分の中にあるトラウマとか弱さを乗り越えることだと思う。まずは、一歩踏みだそうよ」
こんなことが言えるのも、過去の出来事があったからこそだ。俺も、いじめは受けたことがある。髪の毛の色のことで皆から散々な目に遭わされた。今の綾の気持ちは、一部だとしても痛いほど分かる。
俺の話を聞いていた綾は瞳に涙をためて頷いた。
綾の涙が頬を伝い、落ちて行く。そして……。
「─そうだね。じゃあ、私に力を貸してくれる?」
「あぁ、もちろんだ」
俺は心のなかで誓った。明日香の時のような過ちは繰り返さない。そのために綾を守る。そして、向こうに戻り、人生をやり直す。
不良どもに殺される運命を変える。向こうにどのような形で戻るか関係ない。絶望に屈しない。
綾は涙を拭いながら俺に手を差し伸べてきた。俺はそれに答えて手を差し出し握手した。
座った体勢での握手に不自然さを感じながら、俺と綾は笑いあった。
「改めてよろしくね、零夜」
「あぁ、よろしく」
暗い森のなか、二つの小さな星が、夜空に負けない程輝き始めた。
想造のベルセルク 02
今回も最後まで読んで下さりありがとうございました。
作者は文章を書くのが少々苦手で、ところどころ文法がおかしい事になているかもしれませんが、何卒よろしくお願いします。
さて、今回からいよいよ異世界に入ります。頭のなかで思い浮かべたものを出現させて生きる世界での物語が始まります。
今後も月一回ペースで上げていこうと思っておりますので、よろしくお願いします。
それでは、最後まで読んで下さった皆さんに感謝し、あとがきとさせて頂きます。
作者:negimachine