ランチタイム -ハンバーグ-
今日は会社も休みだ。
こんな、嫌味なくらい青空の広がる日のお昼は外に食べに行こう。休日の昼間に食べに行くのも久しぶりだ。
さて、何を食べようか。
理紗もそろそろ休憩時間だろう。最近二人とも忙しくて会ってないし、誘ってみようか、断られるだろうか。
メールだけいれておいた。時計はちょうど十一時をさしている。
身支度というほどでもないが、歯をみがいて、服をきて、髪型は寝癖をなおす程度に整える。十分もすれば用意はできる。男は楽だなと思う。
理沙はいつも一時間ちかくかかってやっと用意ができる。日によってはそこから服がやっぱりちがうだの、つけまつげのつき方がちがうだの、さらに時間がかかるときがある。
まつげはもともとついているのに、付け足す必用があるのか、と疑問もあるが、完璧にしたいらしい。常に完璧を目指す。
理紗らしい。そういうところが好きだ。
家を出て、理紗の働いている会社の近くまでいこう。十二時前くらいに着くだろう。あの辺りは、本屋もレストランも時間をつぶすカフェも揃っている。
理紗とお昼を一緒にできなくても、食事はできるし、その後の時間もつぶせる。久々に映画をみるのもいい。
駅につくと、すぐに電車がきた。運がいい。いい休日になりそうだ。
電車にのって、三駅。目的地へついた。時間もちょうどいい。駅からでると、天気はいいが、やっぱりまだ肌寒い。
それでも、少しずつ春が近づいているのがわかる。あの、真冬の刺すような、痛い寒さではなくなっている。
ポケットの中が震えた。理紗からのメールだ。
「ごめん、さっちん、せっかく誘ってくれたのに。今日、会社の子とお昼の約束してて、今度埋め合わせします。」
少し、淋しい気もしたが、仕方ない。それにしても、さっちんというあだ名はそろそろ改名してほしい。坂木浩輔の頭文字からとったさっちん。
「さっちん」というがらではないのだが、付き合って三年。かわらない。一度、それを伝えたが、今更ほかの名前はよびにくいそうだ。結婚したら二人とも「さっちん」
なのか?とぼんやりかんがえた。ややこしそうだと一人でわらってしまった。
メールを返した。
「じゃ、埋め合わせは寿司でお願いします。」
「うわー、高い埋め合わせ。」
「冗談だよ。でも今度時間合えば、ごはん食べに行こう。」
「うん。今週の夜はあいてるよ。また、連絡ちょうだい。」
メールって便利だなと感心する。メールが嫌いっていう男は多い。俺の友達にも面倒だ、という意見がほとんどだ。俺にとっては電話のほうが面倒だ。
緊急でないかぎり、いちいち相手の都合を考えなければならない。今、仕事中かなとか、忙しいかなとか。メールは送りたい時に送って、見たいときに見れる。現代にあっている。
電話は時代の流れとズレがでてきているのではないだろうか。もちろん声が聞きたいときは電話が多いとおもうが、そんな相手は限られている。電話で長々と話しをするのなら、会って話すことが多い。
いや、でも女の子はよく電話ではなすのか?考えてもわかりそうにないので掻き消した。
せっかく外に出たんだ。普段食べないものを食べよう。仕事の日は、外で食べるなら定食が多い。もしくはコンビニの弁当か、パン。それ以外のものが食べたい。
この辺りはオフィス街で、そのせいか、レストランやカフェなんかもわりと充実している。街路樹とビルの並ぶ通り。その中を車や人が行き交っている。
いつもは俺もそうだ。だけど今日は違う。なぜなら休みだ。平日に、のんびりできるっていうのもいいもんだ。
しばらく歩いていると、一軒の店をみつけた。
よし、ここにはいろう。ガラスの大きな扉をあけた。広いフロアだ。隣の席とも充分に間隔があけられていてゆっくりできそうだ。
窓側の席に案内された。
席に着くと水と一緒にメニューを渡される。水をひとくち飲んでメニューを開くと、煮込みハンバーグの文字がめにとびこんできた。
サラダとスープとライスかパン、コーヒーか紅茶もついている。
店員さんがタイミングよくやってきた。ライス、とコーヒーを選んだ。しばらくすると、料理がはこばれてきた。
ハンバーグのソースがまだグツグツと音をたてている。熱そうだ。
少し冷ましながら口にいれる。やっぱりハンバーグはおいしい。
子供の頃、よくハンバーグを作ってもらっていた。最近は仕事も忙しかった事もあり、五年ほど実家に帰ってない。
休みがあっても、営業成績をおとしたくなくて、ほとんど仕事をしていた。今日は上司からたまには休めといわれ、渋々の休日だったが、正解だったかもしれない。
リフレッシュも必要だ。明日をがんばる気力がわいてくる。
親父もお袋も元気にしているだろうか。
次の連休は実家に帰ってあのハンバーグをつくってもらおう。
ケチャップがかけてあるだけのシンプルすぎるハンバーグを。
ランチタイム -ハンバーグ-