絵のない赤い絵本
それは死神君がいる少し不思議な世界の話。
あるところに小さな死神君がいました。
死神君は毎日、毎日、仕事の為に病院に通っていました。
ある日、死神君は一人の少女に会いました。
ここは病院なのでここにいる人は薄皮一枚の笑顔の下で、泣いたり、怒ったり、悩んだりしていました。
なのに、その少女は心から笑っているようでした。
場違いの笑顔と元気が、死神君には理解できませんでした。
死神君は少女に聞きました。
「なんでいつも笑顔でいられるの?身近な人が苦しそうにしていたら、辛くないの?」と。
少女は
「わたしが泣いてたら、おばあちゃんがもっと悲しんでしまうもの。」
と積み木を高く積み上げながら言いました。
少女はその言葉を心から信じて実行できる、強くて、明るい子でした。
死神君は少女のことが気に入りました。
死神君は少女のことを気に入ったので、その日から話しかけるのをやめました。
死神君に気に入られた人間は、死に取り憑かれてしまうからです。
その日、いつものように仕事が死神君の元に回ってきました。
死神君は泣いてしまいました。
死神君はフードを被り赤く腫らした目を隠して、少女に会いに行きました。
死神君は彼女をこれ以上傷つけない方法を思いつきました。
少女のことを気に入ってしまった死神君自身が死ねばいいのだと。
死神君は少女を守る為に、命を落とす覚悟はできていました。
死神君は少女のことを想いました。
想う度に、気持ちが高く積み重なりました。
そして、あの積み木を積んでた時の少女の言葉を思い出していました。
死神さんは死ぬことが出来ません。
というよりも、条件がそろわないと死ぬことができません。
白銀の十字架、月光。そして、もう一つが人の手で行われないといけません。
死神君は、亡くなったおばあちゃんの息子。つまり、少女の父親に正体を現して、十字架を渡すことを決めました。
でも、死神君は少女の前で「死神が死ぬ。」という痴態を見せたくないと思いました。
なので、少女に十字架を渡しました。怒った彼が病室から飛び出したところで姿を表すことを決めました。しかし、彼はなかなか現れませんでした。
時間も迫っていました。だから、死神君は自ら病室に行きました。
…
…
…
だいたい上手にできました。
ですが、
なぜか、怒っているはずの彼は戸惑っていました。
なぜか、少女は死神君を守ろうとしていました。
死神君の目には冷たい涙が流れていました。
もう会えなくなること。
積み木のときのこと。
少女を守ることができたこと。
初めて見る泣いている少女のこと。
様々なことが心臓の所でグルグルして流れ出ました。
夏の夜の湿気で息がつまる夜が終わり、これから朝がきます。
軽くて肺も洗われるような夏の朝がきます。
絵のない赤い絵本
とある話の補足的な話です。