『 溶けゆく羽虫と 』

「橋本さん、もうすぐ退院ですね」

静かにカーテンを開けて、篠崎さんは笑った。

「ええ、まあ」

ごとん

重々しい金槌が置かれる音。
病室のテーブルに、似合わない鉄塊。

「残念だわ。ほらこの病院、お年寄りばかりでしょう?橋本さんみたいな若い男性珍しくて……他の皆も寂しがってるんですよ」

篠崎さんの手が体を伝っていく。
ゆっくりと足に触れ、そして。



僕一人になった病室。
折れていない左手で、いつの間にか僕は金槌を握っていた。

じわりじわりと、微かに天井の蛍光灯が近付いてくるような気がした。

『 溶けゆく羽虫と 』

『 溶けゆく羽虫と 』

極短小説。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-30

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