『 溶けゆく羽虫と 』
。
「橋本さん、もうすぐ退院ですね」
静かにカーテンを開けて、篠崎さんは笑った。
「ええ、まあ」
ごとん
重々しい金槌が置かれる音。
病室のテーブルに、似合わない鉄塊。
「残念だわ。ほらこの病院、お年寄りばかりでしょう?橋本さんみたいな若い男性珍しくて……他の皆も寂しがってるんですよ」
篠崎さんの手が体を伝っていく。
ゆっくりと足に触れ、そして。
僕一人になった病室。
折れていない左手で、いつの間にか僕は金槌を握っていた。
じわりじわりと、微かに天井の蛍光灯が近付いてくるような気がした。
『 溶けゆく羽虫と 』