無題
思いの重さ
「好き、だったんだよ・・・?」
急に告げられた言葉に僕は戸惑いを隠せなかった。
彼女は何も言おうとしない僕を見つめ、続けた。
「中学のときから、ずっと・・・。でも貴方は気づいてくれなかった。それに、何よりも関係が崩れてしまうことが怖くて、言えなかったの。」
そう言うと彼女は悲しげに笑った。
僕は気づいていなかったわけじゃない。気づいて気づかぬフリをしたのだ。
たった一人の親友のために―――。
「もう、30になるのね、私たち・・・。」
「そう、だな。」
15年前、僕は彼女の抱く思いを知っていた。
それは、誰かから聞いたわけでもなく、ただ勝手にそう思っていただけだった。
僕も彼女のことが好きだったから、内心浮かれていた。いつ告白してやろうか、なんてことも考えていた。
だが、そんなとき親友から告げられたのだ。
『俺・・・あいつのこと、好きだわ。』
一瞬何を言ってるのか分からなかった。いや、分かりたくなかった。
だが、あいつが誰かなんてこと、聞かなくとも分かってしまう自分がいた。
『応援、してくれよな。』
『・・・おう。』
なんであのとき、僕もだ、僕も彼女のことがって言えなかったんだろうか。
それから月日が経ち、25歳になったある日、が葉書が届いた。差出人は親友からで、その名前の隣には彼女の名前もあった。
「ねえ、あの人は気づいてたわ。貴方と私の思いに。」
「え・・・。」
「だけど私を手放したくないって・・・。だから、貴方を好きでもいいって、そのうえで結婚してくれって言われたの。」
僕の脳裏に親友のあのときの不安げな顔が浮かんだ。
「まだ、好きなの。」
「15年前から、ずっと・・・。」
もはや思考など働いていなかった。
気がつけば僕は彼女を抱き締めていた。彼女の香りが鼻腔を擽る。
「嬉しい・・・。ずっとこうされたかった。」
「・・・僕も・・・好きだ。15年前からずっと・・・。」
親友の妻を僕は強く強く抱き締めていた。
言葉が自然と口から零れていく。
もはや後には引けなかった。
彼女は僕の腕の中で微笑んでいる。親友ではなく、僕の腕の中で。
彼女の思いの重さと、自分が犯した罪の重さが僕の背中にずしりとのしかかった。
無題