ありがとうの意味
二人、いや、一人の人間が断崖を目指して歩いていた。その人間は無表情に、自分と同じくらいの背丈の人間を抱えていた。無表情ではあったが、その頬には涙が幾筋も流れており、頬を伝った涙は抱えられている人間の頬にも、無数の涙の跡を作っている。
人一人抱えて歩いているというのに、その人間の足はまるで疲れを知らないかのように、ただ断崖を目指して歩いていた。
自ら十字架を背負い、磔刑の場へと歩いて行ったキリストを思わせるその光景は、まるで二人の人間が抱きしめ合い、慰め合っているようにも見えた。
崖の先端に辿り着いても、彼の表情には達成感やそれに類似するものを見ることはできなかった。その表情からなんらかの情報を得ることは、もはや不可能だった。
彼はゆっくりと崖の先の、また先へと近づいていく。そして、足場を確かめるように1、2度足踏みをすると、抱えていた人間を天に差し出すように掲げた。
ありがとうの意味