天国にそこそこ近い島
男は漁師だった。大物を狙って外洋に出たが、クジラか何かにぶつかり船はあっけなく転覆した。男は命からがら救命ボートに乗り込み、荒れた海を何日も漂流した。ある時は波間に浮かぶ空のワインボトルを拾い上げ、それに雨水を貯めて喉の渇きを潤した。またある時はボートに勝手に飛び込んできた魚を生で喰い、飢えをしのいだ。そして、男はある島に漂着した。
その島には食べ物があふれていた。きれいな湧き水が小川となって流れ、森の木々には果実がたわわに実り地面から生えている草の先端にはパンのような実がなっていた。飢え死ぬ寸前だった男は神に感謝した。そして、水を飲み手当たり次第に口の中に食べ物を放り込んだ。が、いくら食べても腹は膨らむのだが身体に力が入らない。やがて意識が薄れてゆき、眼の前が暗くなって、…そして、男は幻覚を見た。パンの実がなった草原の真ん中に、太った神様が立っていた。
「…か、神様、教えて下さい。この島の食べ物はいくら食べても身体に力が入りません。何故でしょうか?」
神様は微笑みながらこう言った。
「この島はわしがダイエットの為に作った島で、この島の食べ物はすべてカロリー0、糖質0、プリン体0だからだよ」
やがて、男は栄養失調で死んでしまった。そりゃそうだよね。
死んだ後、男は気が付くと天国にいた。手には海で拾ったワインボトルが握られていた。ふわふわの雲を踏みしめながら歩いていると、眼の前にあの太った神様がいた。神様は、女神のケツを触りながらご馳走を食べていた。お前のダイエットのせいで俺は死んだのに…。男は持っていたワインボトルを神様の後頭部めがけておもいきり振り下ろした。
頭が割れて、血が吹き出し辺り一面に飛び散った。飛び散った血が足元の雲に染み込みまるでイチゴシロップをかけたかき氷の様だった。男は止めに入った他の神様や天使たちを次々にワインボトルで撲殺していった。
そこはもはや天国ではなかった。そこに広がっている光景は単なる「地獄絵図」だった。(終)
天国にそこそこ近い島
健康は大事だよね。