気づいた自分
この世界は嫌いだ。今の、大人たちはおかしい。自分が必ず正しいと疑おうとしない。僕には、子供の可能性を刈り取っているのは大人のように思えてならない。子供の可能性を決めつけ、勝手に自分たちより劣っていると判断する思考がはびこっている。そんな、大人たちが僕は大嫌いだった。
僕は、高校生活二年目を迎えようとしていた。喋ることが苦手で人間関係を築くことができない僕はクラスでは浮いていて虐められることも多々あった。僕だって最初から人に心を閉ざしていたわけではない、原因と考えられるのは中学一年生に両親が離婚したことだと思う。両親の離婚後、僕は父親に引き取られたが家庭環境は荒れ、父親は毎日のように酒に溺れ遅くまで帰ってこなかった。周りの大人たちは僕の家の状態を知っていたが、僕を助けようとしてくれる人はだれ一人としていなかった。その頃からだと思う、大人という存在に苛立ちを覚え始めたのは。
ある冬の日のことだった、体育の時間で持久走があった。僕は運動が苦手で特に持久走は一番嫌いな種目だった。ビリで帰ってくる僕に向けて、体育の山田という先生は僕のことを「本気で走っているのか」「運動音痴」
などと言って僕を罵った。別になんとも思わない、大人という人種に興味がないからだ。その後も、クラスで冷やかされたりしたが聞こえないふりをし続けた。
その日の帰宅途中、家の玄関の前で隣に住んでいるお姉さんに出会った。彼女の名前は森春子、二十歳になったばかりでOLの仕事をしている。僕の両親が離婚しこっちに越してきた時からの知り合いで面倒見のいい彼女に僕はひそかに心を寄せていた。
「どうしたの、元気ないじゃない何かあったの。」
意外な事を言われた。僕は別に今日のことをなんとも思っていない、だから急にそんなことを言われて驚いたし、なんだか悔しかった。
「別になんにもないよ、いつも通りだと思うけど。」
そう、これが正しい僕はそう思っているはずなのだ。
「嘘つかなくてもいいのよ、私にはわかるんだから。」
僕には意味がよく分からなかった、間違っているのは春子さんの方のはずなのに・・・、僕は何故かこう返した
「なんでわかったの。」
自分の矛盾には気付いてた、でも自分の意志をもつよりも前に言葉がでてしまった。
「わかるわよ・・・、だって、私はずっとあなたを見守ってきたんだもの、これだけは忘れないであなたのことを分かろうとしてくれる人が一人でもいるのなら、あなたは変わっていける。間違いにもきっと気づけるわ。」
気がつけば目には涙が溢れていた、やっと答えに辿り着いた。いや、最初から気づいていたのに心の隅で気づかないふりをしていたんだ。そう、僕は大人が嫌いだったわけじゃない。ただ大人にかまって欲しかった、甘えさせてほしかっただけだったんだ。それをさせてくれない大人に苛立ちを感じていたんだ。
「ねぇ、春子さん。」
「ん、どうしたの。」
「まだやり直せるのかな・・・」
「当り前よ、私がついてるもの。」
春子さんの胸の中に抱かれたまま僕は泣き続けた。
気づいた自分