ライトアンドダークネス
この世界には約100人、日本にたった6人の人間が秘める力、「アンビュラス」と言う力がある。
日本の田舎だが、やけに発展している街、星空村と言う場所に住む、封満紅夜。
私立聖帝学院高等部に通う彼は、普通の人間として生活していたが、クラスメイトの柊愛が
夜中の公園で戦っているのを見て、何かを感じ取った。
その夜から、主人公、封満紅夜の生活が凶変し、色々な問題に巻き込まれていく。
‐序章‐
アンビュラス・・・。
それは世界に何百人、日本にたった6人しかいない存在。
その力を秘めている人間は優遇され、特別扱いされる。
なぜなら、現在、世界中でこの力を使い、戦闘を行おうと
しているからだ。
僕にはまったく関係のないことだけれど、
国が負けると、勝った国の人の何か言うことを何でも聞かなければ
いけないと言うルールを作り出したらしい。
この戦いは死者が出ない代わりに、
そう言う、勝者の特権的な規則を取り入れた、全世界が
楽しく、燃える、そんな光景を見て、親睦を深めるためらしい。
もう1度言うが、アンビュラスを持っていない僕には
到底理解できないし、したくもない。
関係のないこと。
僕、封満紅夜(ふうまあかや)は、普段通りに
学校に登校し、授業を受け、ただ帰る。
そんな毎日を送って、その戦いのTV中継を待っていた。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
家のソファーの上、隣には妹の封満明音(ふうまあかね)が
ぴったりとくっついて座っている。
「遊ぼっ?」
「何して?」
「・・・何にしよう?」
そんな事を僕に聞かれても分からない。
今、僕はTVを見ているのだ、遊んでいる暇などないのだけれど、
他でもない、明音の頼みだ、少しくらい時間を割いてやっても
良いか・・・。そんな事を思うが、いつも遊んでやる。
僕は高校2年生、それに対して明音は小学6年生の女の子だ、
遊びたい年頃なのだろう。
友達と遊べば良いものを、明音は友達より兄を優先する変わった子だ。
それを見て、母性本能が働いてしまうのだけれど、
明音は僕にとって、唯一の家族である。
母親は明音を生むと同時他界し、父親もそれを追う様に他界した。
今まではいとこである、神宮寺明(じんぐうじめい)の
両親に育てられ、僕は遠くの学校に行くことになり、
アパートで一人暮らしをする、つもりだったけれど。
明音もついて行くと聞かないので、仕方がなく連れてきてしまった。
あのときは後悔していたが、今は後悔などない。
寂しくなった時も明音がいてくれる、それだけで心が
和むようだった。
僕は遊ぶ前に、いつの間にか眠ってしまい、
不思議な夢を見ていた。
見たことのない女の子が戦っている夢、
それもTVとかではなく、僕の目の前で。
見たことのない女の子なのに、どこか懐かしい、
そんな感じの夢だった。
「・・・ちゃん・・・お兄ちゃん!」
「ん?えっ、なに?」
「お腹空いた」
「あ、うん」
僕は台所に入り、食事を作った。
明音は女の子とは言え、まだ小学6年生。
調理実習で料理したくらいであろう、そのため、僕が
2人分の料理を作るしかないのだ。
明音が怪我をしても困るし、僕が作る。
「いただきまぁす」
明音はそう言って、僕が作った食事を食べ始める。
僕も「いただきます」と言い、食事を口に運ぶ。
「うん、美味しい!」
「そ、そう?」
僕らが食事をしていると、ピンポーンとチャイムが鳴る。
こんな時間に来るのは、あいつしかいない。
僕は玄関のドアを開け、その人を中に入れた。
「こんばんは~」
「今日は何しに来たの?」
「遊びに」
「遊びにって、もう7時だよ?」
「良いじゃん!」
そう言って入って来たのは、いとこである、神宮寺明だ。
はぁ、この時間になると、毎日のように来るから
困る・・・。
「こんばんは、明音」
「あっ、明ちゃん、こんばんは」
いとこの関係のため、明音と明は仲が良く、
結構、2人で買い物などをするらしい。
僕は再び椅子に座るが、何か嫌な気配を感じていた。
明にではない、外から、正確には家の前にある
大きな公園からしていた。
紅夜‐行って見るか・・・‐
僕は立ち上がり、玄関で靴を履く。
「どこかに行くの?」
「うん、ちょっと用事思い出して、明音のことお願い」
「別に良いけど・・・」
僕はそう言い残し、家を飛び出て、
公園の中に走る。
ここら辺だ、嫌な気配を感じたのは・・・。
奥のほうから光が見え、僕は木陰の影から
その光景を見ていた。
その光景を見たことを、僕は後悔し、
最悪な状況を目の当たりにしてしまった。
そう思えた。
金髪の小さな女の子と大きな男が戦っていた。
しかも、人にはなせるわけもない力で・・・。
あの2人はアンビュラス。
そんなことはすぐに分かった。
あんなこと、普通の人間には出来るはずがないのだから。
でも、僕はその戦いに見入ってしまい、ボーっと見ていた。
だが、落ちていた缶に足をぶつけてしまい、
カランと音を立てる。
その音に、当然の様に2人ともが気づき、
こちらを見る。
「誰だ!」と男が脅す様な口調で語りかける。
出て行くしかないのか・・・。
このまま隠れていても、相手はアンビュラス、殺されるかも知れない。
僕は恐る恐る出て行き、姿を見せる。
「誰だ?お前・・・?」
「あの、その・・・」
「まぁ、良い」
「え?」
「今は戦いの最中だ、見ているなら邪魔にならないようにしろ」
「は、はい」
なんか、良い人だ・・・。
そう思えた。
「あら、あなた・・・封満君じゃない」
「え?」
その金髪の女の子は良く見ると、同じクラスの女の子で、
僕が通う、私立聖帝学院でアンビュラスを持つ
誇りの生徒。それに帰国子女で可愛らしく、
学内でもトップアイドル的な存在である、柊愛莉(ひいらぎあいり)、
だった。そのアイドルが戦っている。
「柊さん?」
僕は柊さんがアンビュラスと言うことは知っていたのだけれど、
こんなに壮絶な戦いをしているなんて、知らなかった。
すると、大きな男が隙をついたように、柊さんに攻撃する。
柊さんはそれの攻撃を避けきれず、攻撃を受けてしまい、
小さな体が吹き飛んでしまった。
あれ、この光景見たことがあるような・・・。
・・・。
そうだ、夢だ。
夢で見たんだ・・・金色の髪をした女の子が、
何かに攻撃され、吹き飛んでいく姿を。
僕はすぐに柊さんに駆け寄り、小さな体を起こす。
「だ、大丈夫!?」
「へ、平気よ・・・」
だが、目の前まで男は近づいてきていた。
「どけろ、ただの人間が・・・」
「嫌だ・・・」
「もう1度だけ言う、どけろ」
「クラスメイトを放って、逃げられるわけないだろ!!」
男は僕に向けて、砲撃の準備をする。
死んだな・・・そう思える。
でも、学院の誇りである柊さんまで巻き込むわけには
いかない・・・、僕が身代わりにならなければ・・・。
「危ない!!」
柊さんはそう言って、アンビュラスの力で男の僕を
小さな体で投げ飛ばした。
僕は普通の人より運動神経が良く、しっかりと着地し、
柊さんの方に振り返った。
駄目だ・・・そんな近距離で、いくら柊さんが
アンビュラス所持者でも、死んでしまう・・・。
でも、もう遅かった・・・。
目の前が光だし、光が消えると、ボロボロの
柊さんがいた。
「こんなものか、紅闇の音色・・・スカーレット・ハーモニー」
何だ、それ・・・。
紅闇の音色、又の名をスカーレット・ハーモニー。
柊さんが所有するアンビュラスの名で、
現在、アンビュラスを持つ人間の中で最も最強と
言われている存在らしいのだけれど、
僕はそんな事は知らない。
でも、最強ではないのか?
男にやられてしまっている・・・。
「死の鎖・・・」
それが彼のアンビュラスの名らしい・・・、
でも鎖でしょ?
なのに、砲撃など出来るのだろうか・・・、
それだけレベルが高いと言うことなのだろうか・・・。
でも、今はそんなことは関係のないことだ・・・、
今は、目の前のクラスメイトを守らなければ。
ただの人間である僕には何も出来ないかもしれないけれど、
目の前で女の子がボロボロにされているんだ、
助けなければ、男が廃るだろ!!
僕はいきなり走り出し、柊さんの小さな体を抱き上げ、
走り、木陰に隠れた。
「ちょっと、何で逃げるのよ!」
「静かに・・・」
僕は柊さんの唇にそっと触れ、黙らせた。
でも、人付き合いの悪い僕が、女の子にこんなに
接触したのは初めてだ。
いや、初めてではないけれど、もう10年ぶりくらいになる。
「見つけたぞ」
「っ!?」
こんなに早く見つかるとは思っていなかった。
いや、思いたくなかったと言うのが
正しいのだろうか。
僕は黒い鎖に巻かれ、拘束された。
隣でボロボロになってほとんど動けない柊さんの
頭を掴み上げ、罵倒を下している。
「悪いな、その鎖は巻かれている者が死ぬか、俺が外すしか外す方法がないんだ」
「・・・死ぬ・・・」
正直怖かった。
「死ぬ」と言う単語が・・・。
でも、クラスメイトを、学院の誇りを守るのに、
そんな言葉、恐怖でも何でもない・・・。
僕は鎖を巻かれながら、立ち上がり、
前髪で顔を隠す。
今、自分がどんな顔をしているのか分からないからだ。
もし、怯えたような顔をしているのなら、相手になめられる。
でも関係のないことだ・・・、今は目の前の状況に
対応しろ・・・封満紅夜!!
「何だ、恐怖で逃げたくなったか?」
「そう・・・だね」
柊さんは、苦しみながら、囁く様に「逃げて」と言うが、
そんな言葉、聞いている暇はない。
気づくと、僕が立つ場所に、白く輝く六芒星の陣が
浮かび上がっていた。
「・・・これは・・・」
「アンビュラスの反応だと!?」
僕は普段、特徴的な日本人の黒い瞳・・・、
でも今は、その黒い瞳が対象の色、白く染まっていた。
僕は男だけに手を翳し、何かをボソッと呟いた。
目の前が光、男は瞬間移動するように
柊さんから手を離し、どこかに吹き飛ばされてしまっていた。
「な、なんだ、今のは・・・」
気づけば、僕の髪型は白く、腰まで伸びていた。
これが僕の力だと言うのだろうか。
僕もアンビュラスを持つことの出来る人間だったと言うのだろうか。
「くっそ!!」
男は僕に向かって2つ目の鎖を巻いた。
僕は腕も使うことの出来ない状況になってしまった。
だが、そんなの関係ない。
「Ist, daß Sie beabsichtigen, mich darin beschränkt zu haben ...?(これで、俺を拘束したつもりか・・・?)」
「は?」
僕、いや俺はその鎖を何の苦もなく、粉々に砕いてしまった。
死んでもいないのに、男が解いたとも考えられない、
ただ、俺の力だけで破壊した。
「Dies ist mein ......, Symphonie der Sterne(これが、俺のアンビュラス、星屑の交響曲)」
――あれ?僕、何を言っているんだ・・・この力、アンビュラス・・・――
星屑の交響曲、又の名をスターダスト・シンフォニーと言う。
光の力を自由にコントロールできる凄まじい力の
アンビュラス。俺にはこんな力まだ分からないことだらけだけれど、
使い方は分かった、なんか、説明出来ないけれど、
体に宿った途端、急に力の使い方が分かってしまった。
俺は柊さんに手を差し伸べた。
「平気か?柊・・・」
「う、うん、大丈夫」
「さて、お前を殺す・・・」
「ちょ、殺すのは駄目よ」
「なぜだ?」
「いくらアンビュラスを持っているからって、人を殺せば罪になってしまう。そんなこと、持っていれば分かるでしょ?」
「分からない、この力は今宿ったばかりだ・・・」
「え?」
俺は光の翼を作り出し、宙に浮いた。
その頃、俺の家では。
「ごちそうさま、美味しかったね」
「・・・うん」
明音は何か難しい顔をしていた。
「どうしたの?」
「・・・目覚めてしまった・・・」
「まさか・・・紅夜が」
「・・・うん」
そう、明音は不思議な目を持っている。
アンビュラスとはまったく関係のない女の子だけれど、
その所有者に深く関わるしかない存在。
明音の瞳は普通の人間には出来ないことが出来てしまう、
アンビュラスの所有者を見分けたり、その力の威力、
使い方が分かるように見えてしまうのだ。
その明音が感じてしまった、俺が覚醒してしまったことを。
明音は知っていた、俺が今、最後の6人目の所有者に
1番近いところにいると言うことを。
あまり関わって欲しくないと思っていたのだろうけれど、
関係してしまった。アンビュラスの戦いに。
「帰ろう、柊。家まで送るよ」
「あ、うん・・・」
「君をいたぶるのはまた後日にしよう」
俺は柊を抱き上げ、柊宅に向かって空を飛んだ。
光の翼で・・・。
ライトアンドダークネス
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