赤と白の恋の仕方

日曜日23時21分
現在の時間だ

意識が覚醒されてきて、視界がだんだんクリアになってくる。しかし、時間が時間なので部屋の中暗い。正確には外の街灯の灯りが薄いカーテンを通り抜けて部屋に入ってきて薄暗い。外の街灯が切れているのか、いつもより若干暗い。

隣には彼女が頭まですっぽりと布団を被って寝てる。なんとなく腕に触れてみるとひんやりとして気持ち良かった。このままずっと触っていたいなと、そんなことを考えながらしばらく布団の中でもぞもぞして、いい加減に汗でベタつく体を起こそうと脳から筋肉に指令を出すが、体はまだ睡眠を欲しているようでなかなか起き上がらない。

取り敢えず仕方がないので諦める。横になったまま手を伸ばし布団のすぐわきにあるテーブルの上からテレビのリモコンで電源を入れ、彼女が起きないように音を下げる。ニュースがやっていたので首だけを動かしぼんやりと眺めていたが、新鮮味の無いなんだか見たことのあるような事件の内容だったのですぐに飽きてしまった。

テレビを消して、再び部屋の中は薄暗くなる。

体を起こそうとする指令の代わりに、昨日の記憶を辿るように脳に指令を出す。

月曜日に日付が変わったので正確には一昨日の記憶を辿る。

一昨日は午前中は睡眠に費やし、午後からは夜の12時までバイトをしてそこから彼女を自宅に招き、お酒を飲んだところ迄は思い出せるがそこからは記憶が無い。何時間飲み続けたらこんなに寝る羽目になるのだろう。

体の筋肉がようやく脳からの指令を受け入れ始めたので、隣で寝ている彼女に気付かれないようにして布団のから起きシャワーでも浴びようかなと考えていると、携帯電話が突然大きな音で鳴り始めた。ビクッと体が反応しすぐさま携帯の画面を見ると近所に住む男の友達からで少し安心する。電話に出ようとサンダルを履き外に出ると風が程好く心地がいい。

電話に出るとは彼は嬉しそうに
「あっ!やっと出た!」
と大きめな声で言った。

私は、どうしたのか?と彼に返事をすると彼は私を非難して

「なんで何度も電話したのに出ないんだよ!」

私はさっきまで寝ていたのだと答えると彼は「こっちはそれどころじゃないんだよ!」

とあまり興奮した様子で返事をしてから

「昨日さ!…いや、正確には一昨日か?まぁ、そんなちっちゃなことはどうでもいいんだよ!」

長い間、我慢していたものをついに解放するかのような勢いで話始めた。


「聞いてくれよ!実はな良いことが2つあったんだ!聞きたいだろ?聞きたいよな?」

いつも興奮しているような彼が更に拍車をかけて興奮しているので押されぎみであったが、

「一日で二つも良いことがあるなんて凄いじゃないか。どんなことがあったんだい?」

と私が返事をすると、まっていましたと言わんばかりに彼がすぐさま電話の向こうで、

「実はな…仕事決まった!」

おぉ、と私は素直に驚く。彼はどういう訳かこれまでどんな内容の仕事も相手側から、この仕事はあなたには合わないと理由から断られ続けられていたので、ある意味凄い才能、もしくは超能力でも持っているのではと最近、本気で考えていたのでこのニュースは寝耳に水、今世紀最大の事件といってもいいだろう。

「バイトだけどな…」

彼が小さい声でそう言ったのが聞こえたので

「いいじゃないか、俺もバイトの身分だ。まだまだ若いんだしこれからだろ。」

と言い、続けて

「バイト決まって良かったな、おめでとう。クビにならないように頑張れよ」

とも言った。嬉しそうに電話越しに「おう!」と返事がし、こちらまで嬉しい気分になった。

「あとな、もう一つの報告があるんだよ!」

更に興奮した調子で彼が言ったので、確か良いことが二つあるって言ってたな私は思い出す。

「仕事が決まった事以外に良いことなんてあるのか?」

私は彼を少しからかいながら言った。

彼は笑いながら「あるんだよこれが!」

と、言ったのでどんな凄いことだろうと期待していると

「彼女が出来たんだよ!」

なんとも期待外れの答えが帰ってきた。

彼は仕事運はなかったが女運は良かったのでモテた。なので私は、なんだそんなことかと思って言葉には出さずにいたが、彼は私のその考えを感じたのか

「どうせ、なんだそんなことかとか思ってんだろ?違うんだって!今度は本当に結婚してもいいって思えるんだよ!!!」

私はなんだか可笑しくなり彼に

「まぁ、幸せにな」

と言って電話を切ろうとすると、電話の向こうで

「やっぱりお前にはわからないよなー。彼女なんていた試しが無い…」

そこで私は通話を終了させてしまった。

なにを言っているんだあいつは、彼女彼女がいることを言ってなかったかと考えていると、ふとある疑問にぶつかった。

…彼女って誰だ?

私の頭の中にある彼女とは私の部屋の布団で寝ている女性の事だとは分かる。しかし、それ以外は知らない。私はなんで彼女を自分が交際している女性だと思い込んでいたのだ。

私はゾッとして急いで玄関を開け、部屋に駆け込むと彼女はまだ布団の中で寝ている、ように見えた。

私は電気をつけ、勢いよく布団をめくると下着姿のショートカットの女性が仰向けで目を半開きにして、詳しく言えばクビと体が離れた女性が天井を見つめてた。

あぁ、と私はすべてを理解した。
私がやったのだと。
外の街灯の灯りが薄暗いと感じたこと。
彼が言っていた言葉の意味を。
私は彼女の回りをうろついてたストーカーだったことも。
そして、私はこの女性のこと殺したい程愛していたことも。

どうりで先程やっていたニュースの内容が見たことのあるようだと感じるわけだ。事件現場の風景、行方不明になっている女性の写真、一昨日、私が犯行を行った現場と連れさった女性の写真がテレビでやっているのだから。

どうりで、街灯が暗いと感じるわけだ。血で真っ赤に染まっているからだろう。

女性を殺すつもりはなかった。自分がどれだけ愛してるのかを知ってもらいたかっただけだったが、あまりにも彼女の理解能力が低く、私の気持ちを理解してもらえなかったので彼女に

「私はあなたをこんなにも愛してるんだ」

と行動に出た。簡単に言うと、殺した。

ピエロみたいだと思った。

ピエロは殺すことでしか自分の愛情を相手に伝える事が出来ない生き物らしい。なんとも、可哀想な生き物だとおもったが、それはそれで美しいなとも思った。そうすれば、相手は死んでしまうが最後に自分の事を見ながら、思いながら最後を迎える。相手の最後の人になれるなんて、ロマンチックだ。

月曜日1時45分

後で部屋の掃除とカーテンを代えなくてはと考えながら、布団の側で最後に私の事を考えていたであろう女性の事を私はうっとりとした表情で見下ろしていた。

赤と白の恋の仕方

初投稿です。初めまして。不定期で投稿してこうかなと思っています。お願いします。

赤と白の恋の仕方

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-25

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