右往左往

 そもそも、右って何だろう。
 試しに、手元の辞書で『右』を引くと『北を向いたとき、東側の方向』と書いてあるが、逆に『東』を引くと『北を向いたとき、右側の方向』となっている。これじゃ、堂々巡りだ。
 そういえば、前後左右と東西南北は似ているな。人間の体を中心に考えるか、地球を中心に考えるかの違いか。
 いや、一番の違いは、極点があるかないかだな。北極点では周りの360度すべてが南になるし、南極点ではその逆だ。地球では東極点や西極点はないが、自転軸が横倒しになっている惑星ではあるはずだ、と思う。
 それに比べると、前後左右は遥かに難しいぞ。人間の体は動くからな。もちろん、地球だって動いているが、非常に規則正しい。一方、人間は自由気ままに動く存在だ。動けば前後左右もクルクルと入れ替わってしまう。
 体を固定して考えてみないとだめだな。顔があるのが前、お尻があるのが後ろだ。では、左右はどう決めたらいいのか。心臓がある方が左、と言いたいところだが、たまに右側にある人もいるしな。
 いやいや、前後だって確定しているわけじゃないぞ。寝ているときには、顔が上でお尻が下だ。
 そうか。考えてみれば、上下だけは常に決まっているじゃないか。
 これをまとめると、人間が自然に立って動かないとき、頭の方が上、足の方が下、顔があるのが前、お尻があるのが後ろ、ということだ。
 ああ、だが、肝心の左右はどうする。右手のある方が右で、左手のある方が左では、同語反復だ。
 なぜ左右の区別がこんなに難しいかというと、人間の体が左右対称だからだな。鏡に映った自分の姿を見て、違和感がないのはそのためだろう。
 待てよ。鏡を見て右手を挙げたとき、鏡の中の自分が挙げているのは左手だろうか。いやいや、違うぞ。例えば、右の手の平にマジックで印を付け、それを鏡に映せば、中の自分も印の付いた方の手を挙げているはずだ。と、すれば、それは右手じゃないか。
 いかんいかん。ますます右も左もわからなくなってきたぞ。
「首相、記者会見のお時間です。ご準備ください」
「あ、ああ、すぐ行く」
 どうしよう。我が国は右傾化などしていないと、これから説明しなければならないというのに。
(おわり)

右往左往

右往左往

そもそも、右って何だろう。試しに、手元の辞書で『右』を引くと『北を向いたとき、東側の方向』と書いてあるが、逆に『東』を引くと『北を向いたとき、右側の方向』となっている。これじゃ、堂々巡りだ。 そういえば、前後左右と東西南北は似ている…

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-24

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