君との恋を始めようか。
まず、はじめに。
「…えと、なにやってらっしゃるんですか?ようくん。」
世で流行りの壁ドンを、学校の校舎裏でやっているようくんへ首をかしげて問う。
「奏琉知ってるでしょ?世で流行りの壁ドン。」
知ってますとも。漫画とかでよく出てくるし。
「こんな感じのこともやっちゃう?」
そう言って壁につかれた手とは逆の左手で、私の顎をくいっと引き上げる。
「こ、今度は顎クイですか?ど、どうしちゃったのようくん。」
にこっと怖いほど笑みを浮かべながら真剣な目で私を射抜くようくん。
そんなようくんに私はひきつった笑みを浮かべた。
「…どうしたもなにも…恋に目覚めたってやつ?」
「……へー。……って、はい?!」
一瞬納得しかけた!危ない!
「…だ、誰に対してですか?」
だらだらと背中に冷や汗を流す私なんて気にもとめず、にこっと爽やかすぎるほどの笑顔で…。
頬に、ちゅっとキスを落とした。
「?※△○×☆●♪♂∞♯!」
あまりにも急すぎる展開に頭が真っ白になって声もでなくなった私に。
「奏琉…君に決まってるでしょ?」
得意の王子様スマイルで告げて、可愛らしくウインクをしたようくんだった。
君との恋を始めようか。
♯1
話は10分前に遡る。
…なぜ、幼馴染みのようくんがこんなことになってしまったのか。
それは、10分前に遡ります。
*
「奏琉ちゃんが好きでした!付き合ってください!」
放課後の教室。
同じ日直で残っていた同クラの西本くんに真っ赤な顔で告白されたことから始まる。
西本くんはクラスでも目立って、明るくて優しい男の子でよく話す友達の一人。
告白されるのなんて人生はじめてで、私まで顔を赤くする。
「…あ、ありがとう。え、えと、こんなことはじめてでどうしたらいいのかわかんないや…。」
頭をかきながらえへへ、と笑って見せると西本くんは目を見開いた。
「初めてって…ほんと?」
「…うん?ほんとだよ?」
「人生で?」
「もちろん。」
戸惑うこともなくはっきりと答えると、西本くんは少しの間思案するように腕を組んで考えて、「あぁ!」と顔をあげた。
「そっか、奏琉ちゃんのそばには久留がいたからか。」
「えっ、ようくん?」
「そうそう、ようくん。」
確かにようくんは幼馴染みだし、ずっとそばにいたけど…。
「ようくんは関係なくない?私と違ってモテモテのようくんだよ?」
「いやいやいや、関係あるから。」
首を大袈裟なほどに横に振った西本くんは、「まぁ…」とまた頬を赤く染めた。
「あの、ほんとに奏琉ちゃんのこと…す、好き…だから、考ぇとぃてくれると…。」
どんどんと顔を赤くして、どんどんと声が小さくなっていく西本くんを見ていると、私まで照れ臭くなってくる。
「し、真剣に…考えてみるね。」
私がそういうと西本くんはにこっと柔らかく笑った。
ー…そのときだった。
君との
ー…ガラガラガラッ!
教室の扉が開いた。
「なにやってんの、奏琉。」
「よ、ようくん?!先帰ってたんじゃないの?!」
そこには、さっき話にも出ていた幼馴染みのようくんー…久留陽介くんがいた。
「よ、よぉ、久留。」
西本くんもぎこちなく挨拶をするも、ようくんは無視して私の目の前へやってきた。
さっき西本くんに告白されて、まだ心拍も頭も落ち着いてない上に急すぎるようくんの登場がかいあまって、思わず視線をそらす。
「…ね、奏琉知ってた?」
「……?」
「…奏琉はね、やましいことがあるとすぐに目ぇ剃らすんだよ。」
ー…!!!
「や、やましいことなんてないよ、ようくん。もう日直の仕事も終わったから、帰ろ!}
「…『奏琉ちゃんのことが好きでした、付き合ってください!』」
『っ?!』
私と西本くんで目を見開くと、ようくんはにっと悪魔のような笑みを浮かべた。
「…って聞こえたのは気のせいだったのかなぁ?」
よ、ようくん、聞いてたんじゃんかっ!!
私が顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせていると、ようくんは満足したのか私の鞄をとって私をぐいっと引き寄せた。
「…ーあ、西本。こいつに俺の許可なしに近付くの禁止ね。またこんなことがあったら…わかってんだろ?」
「………ハイ。」
「…うし、じゃあ帰んぞ奏琉。」
「あ、ちょ、ようくん!バイバイ西本くんっ!」
そうして、私はようくんに手を引かれながら廊下を走った。
校舎裏にて。
靴を履き替えて、真っ先に家に帰るかと思えばようくんはそのまま私を校舎裏まで引っ張っていった。
「え、ちょ、ようくん?!」
校舎裏なんて人いないし…今のようくんと二人っきりになるのは避けたい…!
「ようくん…あの、今日歯医者の予約が…。」
「嘘つかない。今日木曜日だし。」
「…きゅ、急にお腹が…。」
「お腹だして寝てるからでしょ。自業自得。」
「お母さんが買い物行くから、今日早く帰ってこいって…!」
「里沙さん今日は慎一さんとデートだから家にいないよ。」
なんでパパとママの予定をようくんが知ってるの?!私聞いてなかったんだけどっ!
「さぁて、奏琉。」
抵抗もむなしく校舎裏、非常階段の下の狭い空間に私を入れ込んで閉じ込めたようくん。
…えっと。
「よ、ようくん。お腹すいたよ家帰ろうよ。」
「…そういうと思ってチロルチョコ持ってる。あげるよ。」
なんでそんなに完璧なんですかようくん…!
「誤魔化さないの。…ねぇ、奏琉。俺に嘘ついたよね?」
「……嘘じゃないもん。本当にやましいだなんて思ってなくて…。」
最後の苦し紛れの言い訳も、ようくんは「そっか」とにっこり笑った。
「…じゃあ…。」
そういって、私の髪の毛をくいっと掴むと。
ー…キスを落とした。
「っ?!よ、ようくん?!」
そのまま辿っていき、耳の辺りまでくるとまた唇が触れる。
髪のときとは違ってダイレクトにようくんの唇の感触が感じられて、心拍が上がる。
ぺろ、とようくんが唇を舐めた音がして、耳には湿ったようくんの唇が触れ、息がかかり、舌が耳を掠める。
「…ようく…。」
身体中が熱い。
特に、ようくんが触れているところが。
ようくんはさら…と、肩にのっていた髪をどけると首筋にまでキスをした。
「…んっ……!」
思わず変な声が漏れる。
君との恋を始めようか。