私の中のすべて
一人は寂しい。孤独で、空気みたいになってしまった。でも、それに原因があったなら直したい。そして、みんなと仲良くしたい。原因がわからぬまま。いる私は一人の友達と出会うことができた。
夢から覚めて
「泣かないで」
誰だろう?
「悲しまないで。君は・・・・」
君って。私の・・・こと?
夢から覚めたのは、午前6時のこと、泣かないで、悲しまないで、君は。そんなことを言われた。仕方ないよね。みんなから相手にされないって結構身体に響くんだ。
いつものように私は学校へ向かう。皆、校門に吸い込まれて行く。この一つの建物に全員収まるなんて少し不思議な感じがする。掃除機?真空パック?そんな感じ。
今私にとって、すべての人類は、真空パックの中に縮められた布団より。掃除機に吸い込まれたダニより。価値の無いものに感じる。無ければいい。人なんて誰もいなければいい。そうだったら、どんなにこの世界が美しいか。どんなに私は幸せになれるだろうか。そんなことを考えて一日を過ごすことが多々ある。先生は私のことを気に留めてくれる。「大丈夫?」とか「辛かったら言ってね力になるから」とか微笑んで声をかけてくれる。でも、知ってるんだ。全部嘘でそんなこと思ってないって、だって先生、私以外と話すときすごく生き生きしてて、私を見るとき、哀れな顔をする。まるで捨てられた子犬を見るような眼。そんな目、向けないで。辛いから。
私は空気みたい。でも、空気じゃない。みたいであって、そのものではない。私は生きてて色々考え、色々感じる。そう、私は生き物だ。生物だ。有機物だ。目に見えて個体である。空気は見えない。私は見える。みんなからは見えないのかな、どうなのだろう。
いじめられるよりは良いのかな?気にされないほうが。そう考えたらなんか笑えてくる。
皆、必死に生きてるんだよねきっと。先生方に助けを求めても相手にされない。自分のことで。他は見えないんだ。
皆と仲良くしたい。そう、思って生きてきて苦しくなってきたからもうやめた。考えることをやめた。朝の夢は、そんなさなかに見たのだ。身体に響くな。本当に。
夢から覚めた・午後5時
午後5時に帰宅して、冷蔵庫から牛乳を取り出して飲んだり。菓子をつまんだり。テレビを見たり、ごろごろして気付けば、午後10時を回る。そうして思う。今日は父も母も残業なのかなと。「恨まないでね。あなたのために働いてるんだから」母がそんなことを言ったり。父が「友達いくらでも連れてきていいからな」と言ったり。そんなこと言われたりしないから、いないほうが楽。夕飯。もう夜食だけど、好きなもの食べられるし、こんな良いところない。そう思う。眠るときはうるさくないし。朝だって、うるさく起こされない。皆、忙しいんだ。精一杯生きてるんだ。私は・・・・生きてる?生きてるのかな。
夢の中の青年
「自分の悪いところ知ってる?」
「私の悪いところ?」
「皆と一緒に混ざって話せない理由」
私は悪くない。空気にしたのは皆だ。
「皆が話そうとし・・・」
「ん?」
「皆が話を!!」
「皆が悪いの?」
「・・・・・」
無言になってしまった私は少し情けなかった。きっとどこかで自分のせいだと思ってる。空気にしたのは皆。皆が私を空気にしたのは私が原因。多分。
「いいよそれで。君は悪くないから。」
「いや・・・私は・・・・」
「僕のせいさ。僕がいるからだよ」
僕がいる?どこに?あなたを私は知らない。初めて会う。昨日ぶりだけど、初対面だ。夢の中にいる。夢の中の登場人物。・・・私が主役なの?いったい、何なんだろう。この世界は普段と変わらない。
ベットの横で彼は言う。
「僕はあの時、君の中に入った。覚えてるでしょ?あの事件を」
そう言った彼の顔は少し微笑んでいた。そこで、私は目が覚めた。夢、所詮夢でしかない。
初めの頃は
入学当初、皆初対面の人たちで積極的に話しかけたりしていた。今とは違う世界に感じる。そこで自分と合う人を探す。一日で仲良くなってしまう人もいた。私みたいに苦戦して三カ月一人だった人もいた。私は最初は興味持たれていろんな人が寄ってきたけど、中身を知ったら離れて行った。理由なんかわからない。どこがダメでどうすればよかったのかなんて。でも一つ言えること、私が思うことそれは、少し皆とずれていることだけだった。
「一緒にご飯食べない?」
「ごめん。私今日パンだから今度にしよ」
こんな会話ですら、おかしく思われた。「なんかおもしろいね」って最初だけ。面白いだけでは人はダメなんだそう実感した。
自分らしく生きていてそこで友達が出来たらきっとそれが一番良いこと。自分らしくないことをして友達が出来ても疲れてしまうだけだから。これ以上気にしたらダメ。もう気にしない。気になんかしない。
いつもと違う
学校へ向かうところは同じいつもと変わらない。教室に入り席に着くそれも同じ。でも、その後違った。
「美沙さん!頭良かったよね?」
声をかけられてドキッとして一瞬止まった。そして後から言葉が頭に入ってきた。頭良かったよね?・・・・
「え?」
一言しか口から出なかった。彼女は私の声に少し微笑んで言った。
「美沙さんてそんな声なんだ。あまり聞かないから。」
二人の間に少し沈黙。その時、教室の音が無くなった気がした。私はこのおかしな彼女に何の用なのか聞いた。
「美沙さん頭良かったよね?だからこの問題教えてもらおうと思って。」
「ああ・・・・そうなんだ」
「うん!」
「でもあいにく、その科目とってないから・・・・ていうか、クラス違うよね?」
彼女はこのクラスで見たことは一度もなく、初対面だった。教えてほしいと言って持ってこられたのは普通科ではない専門の問題だった。私にわかるはずもなく。今はとにかく、このクラスまで来た理由が知りたいと思った。名前まで知っているなんて。
「えぇ。だって、この問題分からなかったんだもん。美沙さんならわかると思って!」
「・・・・・いや。そうじゃなくて、どうして私を知ってるの?顔合わしたことないよね?」
「無かったっけ?そっか。無かったっけ。風の噂ですよ!」
この子は危ない。何を考えているかわからない。それにしても・・・・・なんでだろうこの彼女の空気っぷり。この教室に入ってくるときすら教室はどよめかなかった。いつも出入りしてるのか。それとも、空気みたいな子なのか、私みたいに。
「風の噂・・・・もうすぐチャイムなるから教室に戻りなよ。先生に注意されるよ」
「うん!また来るね!良い人そうだし!」
微笑みながら元気な彼女は帰っていく。なんだか久しぶりに人と話した気がする。生身の人と。夢では話したけどそれとは別。それにしても風の噂ってなに?
帰り道で
授業がすべて終了して帰る用意をする。お昼に来るかと思って少し期待してたが、来なかった。そうだよね。
校舎から出て帰りの途中後ろからドンと押された。何の嫌がらせだ。とうとう空気卒業でいじめのターゲットか、そう思い振り返ると。彼女だった。息を切らしながら、彼女は立っていた。私のために走ってきたの?
「みさ・・・さん!・・・・かえ・・・ろ!・・」
「・・・・大丈夫?」
「・・・・大丈夫、大丈夫!」
そうして彼女と帰ることになった。
彼女の家は私の家と同じ方向にあるらしい。一度も見たことはないけれど。
「ごめんね。お昼に行こうと思ったんだけど。他の子に誘われちゃって」
そういうと笑い出す彼女、何に笑ってるのか私には分からない。
「ねぇ。名前」
「え?」
「名前知らないけど」
そうだった。知らなかった。なんて呼べばいいんだろうって考えてたけど知らなかったんだ。
「あれ?知らなかったっけ?私はね咲菜恵!だからさなって呼んで!」
さなは、そういうとにっこりと笑う。どのクラスにもいる人気者系の人間。変なところはあるけれどとても人当たりが良かった。
「さな・・・・・なかな・・・・」
「へ?」
「いやなんでもない。」
「美沙さんて少し変わってるね」
変なやつに変てるといわれる私は一体何なのだろう。
「美沙でいいよ。さんは付けなくて。同学年だし」
「でも美沙さんのほうが四日誕生日早いよだから付けさせて!」
「え?ってことは二十四日生まれ?」
「うん!」
なんか誕生日が近いのは嬉しい。親の誕生日からも離れてるし。私の誕生日。クリスマスに近いせいで一緒にされてしまうことが多かったと振り返れば思う。家の親の都合だけど、家族が全員揃うのが一日だけだからだという理由。相変わらず忙しぶって。
「じゃあ。ちょうどいいじゃん。クリスマスと同じだから。私は四日離れてるのに合わされてなんか複雑だよ」
「そうなの?!私のところはケーキ二つでやるから得した気持ちになるよ!」
そういうと、にっこりとお得意の笑顔。ここでの笑顔はちょっと腹が立つ。
「ところで美沙さん」
「なに?」
「今日家に来ない?美味しいお菓子もあるし!色々話そうよ!」
「・・・・・今日の今日?」
今日知り合って今日、遊びに行って早くないだろうか。みんな、こんな感じで早いのかな、一人で家にいるのもなんだし、さなの家にお邪魔しようか。美味しいお菓子もあるみたいだし。
「じゃあ、家帰って支度したら行くよ」
「ほんと?!やったー!嬉しいな。来てくれるんだ!良かったー!」
「え。そんなにうれしい?」
「嬉しいよ!友達が家に来てくれるのはいつだって!」
「友達・・・・」
なんか温かい気持ち、冷えた心が少しずつ温められてくる。気持ちいい。私に普通の友達。いや、ちょっと変だけど友達ができたんだ。これほどまで嬉しいことはない。
さなの家
「ただいまー!」
さなの家は思ってた裕福な家とは違ってどこにでもある少し古びた造りの家だった。さなはにっこり笑って言った。
「今日は誰もいないんだけどね!まあ、上がって。私の部屋そこの隅だから入ってていいよ!お茶持ってくるからくつろいでて!」
「お菓子・・・・」
「うん!持ってくよ!」
さなの部屋のドアにはローマ字でonlyと油性のペンで書かれていた。意味は分からない。意味などあるのかも不明。ドアを開けると中はシンプルだった。男の人の部屋のようで一瞬間違えたと思ったが、それもすぐ間違いでないことがわかった。
「お待たせ!美味しいお菓子とお茶!ティーねティー。ダージリンティー!」
「早かったね!・・・ここって」
「え?ああ。ここ前、お兄ちゃんの部屋だったんだよ。」
「そうなんだ。インテリアとか変えないの?女の子っぽいの何もないじゃん。」
黒を基調としていかにも大人の男っという感じの部屋だった。女の子らしい部屋ではない。
「え。・・・・お、女の子ぽくないと・・・・ダメかな。男とか女とか・・・・好みだと思うし・・・・。あとお兄ちゃんの匂いがして好きなの。温もりが感じられるっていうか。・・・・」
さなが感情的になってる?・・・
「・・・・なんか。ごめん。」
「え。いや。その。違う!美沙さんが、そういう方がいいって、そうじゃないと嫌だって言うなら変えるし・・・・いや。美沙さんのせいじゃないから!私が・・・・ちょっと変なだけ。」
「さな・・・・」
ふっと一息はいてさなに言う。
「私も変だよ。どこがって言われても困るけど。クラスには溶け込めないし。それに比べてサナは皆と馴染めてるからいいじゃん。私もあなたも、お互い変だけど。これからよろしくね!」
私はきっと笑ってたと思う。さなのはじける笑顔には負けるけど。高校で初めてできた。友達。私は今が一番幸せかもしれない。人がいなければ、美しい世界。人が居ても美しい世界へと歩み始めた気がした。
一人の詩
美味しいお菓子というのはイチゴのショートケーキだった。夢のようなひと時を送った。しかし、帰宅して現実に帰ってきてしまった。静寂に包まれているこの空間。寂しさも、虚しさも、後悔も喜びも。すべてが私を押しつぶそうとする。目から湧いてくるしょっぱい水、私は知らぬ間に声を上げていた。私に兄がいたなら私に弟がいたなら妹が、姉がいたなら。おじいちゃんやおばあちゃんがいたなら。きっとこの虚無から救い出してくれたと思う。お父さん。お母さん。私は今も昔も一人です。
夢の中、青年は嘘をつく
「元気出しなよ。僕がいることを忘れてないかい?」
だれ?
「変な顔してるね。」
夢?
「君にはここでしか会えない。それよりよかったじゃないか。友達が出来て。」
「友達?・・・・・」
「寝ぼけてるのかい?夢の中でも寝てるなんて変な奴だな」
「変じゃない・・・・」
「咲菜恵のことだよ」
「さなえ・・・・さな・・・・」
さな、そうだ友達になったんだっけ
「でも、なんで知ってるの?友達ができたこと。見てたの?」
「見てるよ。同じ意識だからね!」
「同じ意識?」
「まあ、知らないのも仕方ないさ」
「・・・・そういえばあなたの名前は?」
「僕の名前?僕は君だよ。美沙さ。」
「嘘言っいて。友達がやっと出来て馬鹿にしてるんでしょ?」
「高校入った時、友達いた気がするけどな一人。」
「一人友達がいた?誰?」
「それは君が思い出さなければならない。僕が言うのは簡単だけどね」
彼の言ってることはきっと嘘だ。さっきも嘘を言ったからまたどうせ嘘だ。友達がいたなんてそんなことない。
ワクワクする気持ち
朝、時計の針は六時を指していた。今日は楽しい気分だ。友達ができたから。一人じゃないから。こんなにすべてがイキイキとしている光景を見たのは久しぶりな気がする。
朝食の用意、お弁当の用意を済ませて登校する。引け目を感じることはもうない。
学校へ着き、さながいる教室へ向かった。そしてそっと覗き込む。しかし、どんなに見回してもさなはいない。トイレにいるかもしれないと思い行ってみたが誰もいなかった。今日は休みなのだと、私は悟った。
気分は少し暗くなったウキウキしてたのが馬鹿みたい。そうして、しばらくしてからチャイムが鳴った。
気が付けば家にいる。静寂で気づかされた。今日は何をしてた?何もしてなかった?思い出せない。さなと会えなかったことは覚えてる・・・・・一人は良い。一人は良い。一人は。お父さん、お母さん。たまには早く帰ってこないかな。一人は良いけどちょっと退屈すぎるよね。
気づけば夢の中
「さなえに会えなかったね。」
「名無しさん。うん。会えなかった。会えると思ったんだけどね。今日からすべてが変わると思ったんだ。」
彼は私に近づきそっと抱きしめた。そして言った。
「さなえに会いたいなら、さなえの家へ行ってごらん。」
「え?・・・明日はきっと来るよ。わざわざ行かなくても。」
「覚えてて。もし本当に会いたくなったら行くんだ。僕と君が会える時間がこれから少なくなる。だから覚えてて。それに僕の名前、本当はヒントに後で言おうとしたけどもう言っておくよ。数字の最初はなに?」
「数字の最初?」
今日は祈る
時計の針は深夜12時を指していた。眠れない。さっき少し眠った気がする。夢、見たのかな?分からないや。どうでもいいし。
数字の最初は一じゃなかったかな?当たり前のこと。無駄なことを考えてしまった。
寝れない夜はぼーっとしてるしかない。やれることがないから、昼も大してやることはないけど。友達がいたならメールとかしてるのかな私。電話もしてるのかな。静かだな。静か。こういう時に限って中々時間がたたないんだよ。
本を読むことにした。それで、気が晴れると思ったから。そのまま、朝になるまで読むことになるとは考えもしなかった。本の内容は周りから誰もいなくなっていくという自分に少し似た感じの話だった。
本を閉じて、お弁当の用意。朝食は取れなかった。食欲がわかない。今日は、さながいるはず。さなが居たらあの元気を少し分けてもらおう。さなは明るいからいいな。何も悩みなんかなさそうで。私も、悩みなんかないけど、さなとは違うよね。
静かに、そして激しく。彼女が今日はいることを祈っている
孤独な詩
学校の空気に押しつぶされそうになる。彼女は今日もいない。彼女はいない。私は、一人。一人。先生はあの目で見てくる。周りは私がいないことにしてる。授業はつまらない。学校がつまらない。家もつまらない。この世がつまらない。自殺が頭をよぎる。頭がおかしくなりそうになる。死の恐怖より。何もない。一人ぼっちのこの世が恐ろしい。彼女はいない。彼女はこの世にいないんじゃないか?夢の世界の彼の様に。彼が言ったことを覚えてる。覚えてた。でも、忘れた。思い出せない。なんで生きてるの。なんで私は生きてるの。なんで一人で生きてるの?
希望はストレスに
家に帰り。ソファーでため息を吐いた。今日はいると思ってたんだ。明日はいるだろうか?私の希望はさなが明日は来るかもしれない。と思うことだった。私は軽く食事をとる。今朝から食欲がなく、お弁当も残してしまった。ストレスが原因なのは分かってる。今まで、孤独でも食欲はあった。でも、さなが希望を作ってしまったから食欲がなくなったんだと思う。希望すら捨てていたころとはやはり違う。明日は来る。きっと。来る。そう信じて、ベットにもぐる。そこで、昨日の夢を少し思い出した。
「僕の名前・・・・・数字の最初は?」
いち・・・・
遅刻と咲菜恵の真実
時計の針は12時を指していた。私は外の明るさと。時計の時間とで少しの間、混乱した。意味が分からなかった。夜なのに明るい・・・・そして、分かったのは昼の12時だということだった。遅刻だと焦る。食事も済ませずに寝癖が残る。姿で学校へ向かった。
職員室へ行き遅刻届を書く。生徒指導の先生は不謹慎だと言い放った。そして、きっとお説教されたのだろう。思い出せないのが不思議だ。
教室に戻り、授業を途中から受けた。もう何がなんだかわからないところまで進んでいる。これなら、休んだ方が良かったかもしれないと思い始めたが、さながいるかもしれない。それだけが気がかりだった。
授業が終わり。急いでさなの教室へ向かう、そしてのぞいてみた。たくさんいる人の中でさなの姿は見えなかった。教室にいた一人の女子に聞いた。
「あの・・・さなは!・・・・いや、さなえさんは今日は休みですか?」
その子は戸惑った感じで言った。
「さなえちゃんはお兄さん失くしてから学校に来てないんですよ。」
「お兄さん?いつ頃の話ですか?」
「一年前です。」
「一年前。・・・でも、この間来ましたよね?」
「え・・・・」
「え?」
彼女は一年前にお兄さんを亡くしそれ以降来ていないと知った。私は一体誰と会っていたのだろう?いない人と会えるはずはない。幻、だったのか。本物の咲菜恵はどんな感じなのだろう。会ってみたい。もし、あの幻のようでなくても、どんなに暗い少女だとしても。会ってみたい。そう思った。
現実の咲菜恵<上>
「会いたければ家へ行ってみて・・・・」そんなようなことを誰か言っていた。誰だったか、さなの家は確かこの道を渡った先にあったような。実際にあるだろうか?夢かなにかだったらきっとその場所は存在しないと思う。
渡った先、一軒の少し古びたその家は建っていた。在った!そう思い。少し体が震えだした。なんの震えかは分からない。嬉しいのか、緊張なのか。恐怖なのか。
でも、あの時の家と少し違う感じがした。暗さをまとっているような。私でさえ包んでしまうような、そんな闇を私は見た。
私のことをさなが知らなかったら。知らなかったらどうしよう。顔を少し見て帰ろう。でも少し話してみたい。前みたいに話したい。そして、私は家のチャイムを鳴らした。その音は、私の中でこだまする。
「はーい」
力なさげな声が中からする。さなだ。私は思た。声はさなのもの、やっぱり幻じゃなかった。私は心が躍り始めた。とてもうれしかった。ゆっくり玄関の引き戸があく。
そこで見たのは、あの時見たさなとは違う姿だった。顔は少しやつれていた。体も痩せているように感じた。どう声をかけようか、考えてる間にさなから声をかけてきた。
「どちら様ですか?」
やっぱり、私を覚えていなかった。すっと体が地に落ちる感覚に襲われる。目からは涙が流れる。虚しさが私の体を満たして行く。さなの姿も虚しさの原因なのだと思う。
「え・・・あの・・・・えっと・・・」
さなは何がなんだかわからないようで、少し焦っている。私は涙を流しながら震える声で言った。
「私は、さなの友達だよ」
きっと知らない赤の他人にこんなこと言われたら。この人は大丈夫だろうか?狂ってるんじゃないか?と思われてしまったと思う。でも、さなは違う反応を見せた。
「え・・・・え、え・・・・・・私・・・・」
どこかで見たことある。そんな顔をした。私は言う。
「さな、私は。初めて友達ができたの。あなたが最初の友達。夢でも見てたのかもしれない。幻だったのかもしれない。でも、こうして実際会えた。もし、さなが覚えていなかったとしても、覚えてたとしても、私はさなの力になりたい。私の希望はさななんだよ?」
辺りは静かになっていった。さなも、声を発しなかった。
「それが言いたかったの。だから・・・・帰るね。」
私はそう言って精一杯の笑顔を作ってさなに背を向け歩き始めた。足がとても重い。覚悟していたはずだった。なのにこんなに苦しくなるなんて思ってもみなかった。止まった涙も流れ出す。知らぬ間に声も出ている。私はまた、孤独になったのだ。
過去と今との詩
私は一人で生きていました。辛くなんかない。強がっていたのは過去のこと今はとても辛いです。孤独を恐れてることを私は知りました。希望を失うのを恐れている。そう知りました。
現実の咲菜恵<下>
さなの家からしばらく経ったときのことだった。ドンと背中を何かに押された。そして、温もりを感じた。
え・・・・・なんだろう。
後ろを見ると、さなが私の背中にしがみついていた。私は、振り返る。
「美沙さん・・・・・美沙さん本当に居たんだ。・・・いないと思ったの。夢だと、私学校に行ってないから。寂しくて。」
さなは泣きながらそう言う。
「私も・・・・寂しかったの。誰も友達いなくて。お父さんもお母さんも帰ってこなくて、辛かったの。」
私とさなは抱き合って泣いた。そこがどこであろうと、人の目に着こうと泣きたかった。悲しいわけじゃない。とても、嬉しかった。私達はそのまましばらく泣き続けた。
学校へ行く
「美味しいお菓子と紅茶だよ!」
「ありがとう。」
「ごめんね散らかってて」
さなの部屋は、あの時と比べてだいぶ荒れていた。それでも、さながあの時と同じ笑顔をしてて私はほっとしていた。会ったときとは比べ物にならないほどだ。
「大丈夫、気にしないから!でも、さなが気にしてるなら、私片付けるの手伝うよ?お兄さんの物には触れないようにするし」
「いいよ。私の問題なんだし、美沙さんに迷惑かけられないよ。」
「そう?ところで、さなのお兄さんってどんな人なの?ちょっと気になるかも」
「え?ああ。えへへ、アルバムこの洗濯物の奥だと思うから今度見せるね!」
「うん。」
さなはもう学校には来ないのだろうか。来てくれれば学校でも一人にならずに済むかもしれない。そんなことを私は考えてしまう。でもそれは、さなのためじゃない。私が寂しいから一人になりたくないから来てほしい。そんな自己中心的な考えだった。
その思いが伝わったのかは分からない。でもさなは言った。
「私、学校行く。美沙さんもいるし頑張れうと思う!美沙さん、私を支えてね!」
「さな・・・・支えるよ!一緒にがんばろ!」
「うん!」
明るくさなは笑った。そして、しばらく私はさなと話した。とりとめもないことだけど楽しい時間。ここからすべてが変わるのだ。
青年イチの正体は?
「元気そうでよかった」
「イチさん」
夢の中にいるのだとすぐに分かった。「イチ」はヒントを元に考えた名前だったが正しいのかどうかは分からない。
「イチねぇ・・・・ふーん。まあいいや。咲菜恵と会えてよかったね!僕の言った通りにしたわけだ」
「え?なんか言ってたっけ?」
「ん?家に行けって言っただろ?忘れてた?」
そう言えば言っていた。イチさんだったんだ。誰かに言われた感じはしていたが誰だかわからなかった。
「ごめん。誰だったか思い出せなくなっちゃって。」
「美沙は記憶力ないなあ」
「夢だもん忘れちゃうでしょ普通。」
「夢でも覚えてる人は覚えてるよ!」
「そうだけど・・・・」
何とも言い返せないのがちょっと悔しい。
私はイチさんが夢の中になぜいるのか気になり始めていた。最初彼は「僕がいるからだよ」「君の中に入った」「覚えてる、あの事件を」そんな意味の分からないことを言っていた。あの事件とは何だろうどんなことがあったんだろう?私には関係しているのだろうか?
「何をそんなに考えてるの?君が思い出せないのは仕方ない。それだけのことだったんだ。自己防衛だよ。」
「私の思っていることがわかるの?」
「前に言ったよね?僕と君は同じなんだよ。」
「でもあなたの心は見えないよ。気持ちもわからないし。」
「それは君の体だから。手術で、君は眠ってるけど。僕は医者だから隅々まで見える。そんなようなことだよ。分かる?」
「いや。例がややこしい。」
「簡単にいうとね。僕は君を覗ける。君は僕をのぞけない。そういうこと。理由は良いよ。ややこしくなっちゃうから気にしないで」
いつか私に理解できる日は来るのだろうか?イチさんは私の中にいる。つまり・・・・・・もう一人の私?なのかな?
一緒に
時計の針は六時を指していた。さなが今日は学校に来る日、昨日迎えに行く約束をしていた。
お弁当を作り。家を出ようとすると、ふと私は気づいた。リビングが汚れていることに。とても汚い。どうして、今まで気づかなかったのか不思議だった。お母さんは掃除をしていないのだろうか?そう思いながら私は家を出てさなのところを目指した。
さなは家の前でそわそわしていた。私がさなの家に着いたのが少し遅かったこともあったのだろうか。
「さな!遅れてごめん!行こうか」
「うん!」
さなはきっと久しぶりの登校で緊張しているのだと思う。その気持ち分からなくもない。前に私もそんな時期があったような気がする。理由は分からないけど。
「今日、お母さん。機嫌よかった。私が学校に行くって言ったから。お父さんも喜んでた。でも、私は・・・少し心配だよ。皆から受け入れられるのか。お兄ちゃんのこと思い出しちゃうんじゃないか。心配・・・・・・」
こんな時さなになんて言って励ませばいいのかな。私だったら、なんて言われたら心配が和らぐだろう。
「さな、さなは一人じゃないから大丈夫だよ心配しないで!」
イチさんの受け売りだけど、これでも力になれれば。
「・・・・・・うん。ありがとう!そうだよね!美沙さんがいるし大丈夫だよね!」
「うん!」
そう、私も頑張るから。二人でなんとかしよう!きっとうまくいく。大丈夫。私にも自信が付いたそんな瞬間だった。
アルバム
学校では、クラスが違うため。別行動になってしまった。廊下でさなとすれ違うたび心配ではあったけど、表情がとても良くてほっとした。一方私のほうはというと変わらずの空気っぷりでクラスでは何も変わってないんだと実感させられた。
チャイムが鳴り、お昼の時間。さなは私のいる教室まで来てくれた。「さなが変な目で見られちゃうから来ないで。迷惑だよ」そう言ってもさなはにっこりとほほ笑んで「大丈夫だよ」と言いお弁当を広げた。この時ばかりは、教室も私を空気にせず
、少しのどよめきがあった。そして、そこで耳に入った言葉が少し気になった。
「美沙が心を許すとはな。」「あれまで、拒絶してたのに」
私は、その意味が分からなかった。私は常に心を開いていたはず、なのに、「拒絶してた」はおかしく思った。外からはそう見えていたのだろうか。少し申し訳なく思う。
さなとの時間はやっぱり良い。友達はやっぱり良い。
授業も終わり、さなと一緒に帰る。さなは、すぐにクラスに溶け込めたらしく。表情が本当に穏やかで。はじめて、あった時と同じ明るさを持っていた。
二人で歩いているとき突然、思い出したように私に言った。
「あ!そういえば、お兄ちゃんどんな人か見たいって言ってたよね!」
「ああ。うん。」
「アルバム、発掘したから、見に来て!格好いいんだよ家のお兄ちゃん。死んじゃったけど・・・・」
そう言うと、さなは、悲しそうに下を向いた。私は焦った。急に顔色も悪くなってきて。
「さな、無理しないで良いよ。今度でもいいし。」
「え?!ダメ!せっかく見つけたんだし。今日にして。私なら大丈夫だから!」
無理に作った笑顔ほど悲しいものはない。そう、感じた瞬間だった。泣いて良いんだよ。泣いても。
あなたが
「はい。」
さなは厚いアルバムを私に渡した。そして、一ページずつめくる。さなの小さいときの写真もたくさん載っていた。小さいときもその顔は整っている。平凡な私の顔とはやはり違う。と、そんなことを考えているうちにさなのお兄さんらしい小学生の頃の写真が出てきた。
「ああ。確かにかっこいいね。私の小学校でもこんな人いなかったもん」
「でしょ!」
「私も自慢できることがあったらいいんだけどね」
「優しいところ、自慢しなよ!」
「優しくないよ全然」
「えー」
次のページ次のページと、さなもお兄さんも成長していく。そうしてアルバムの真ん中あたり。きっと、最後の二人で撮った写真だと思う。笑顔の二人で自撮風に撮ってある。お兄さんのこと本当に好きだったんだ。そう思った瞬間、雷を落とされたかのような衝撃が私を襲った。見たことがある。しかも最近。私は驚きを隠しきれず。さなが心配そうな顔で覗き込んできた。
「大丈夫?どうかした?」
私はしばらく、何も言えなかった。
寂しい空
日は沈み、空はオレンジ色に染まっていた。少し涙をそそるその空は、私を孤独へと追いやろうとしていた家に帰ると、リビングは生ごみの匂いで充満していた。気持ち悪くなり、外に出る。もう、お母さんとお父さんはいない。そんな気がしてきた。
リビングにはいられずすぐに自分の部屋に戻り、ベットに倒れこむ。さなの家で見たあの人は間違いなく一さん。
「さな、お兄さんの名前って?」
「え?うん。はじめだよ。いちって書いて、はじめって読むの」
はじめさん・・・私は何か大事なことを忘れている気がする。とても重要で、でも思い出したらいけない。そんな記憶。夢を見たい。必死に目を閉じても。すぐに眠れるはずもなく。静かに時間がゆっくりと流れていく。リビングの掃除でもしようかそう思ったのは三十分くらい後のことだった。
燃えるゴミ、燃えないゴミ。なんだかわからないゴミ。少しずつ片付けていく。要るものも要らないものも全部捨てちゃえそう思いながらどんどんゴミ袋へと入れる。
一時間を要して、ゴミはすべて捨てた。あとは、掃除機をかけ雑巾で軽く拭くだけ。リビングとつながっている両親の部屋、後でそっちも見てみないと、散らかってるかもしれないから。
そうして、一通り掃除が終わった。ゴミの匂いはすぐには抜けない。
両親の部屋もそっと覗いてみた。中は綺麗だった。あまり両親の部屋も広くはない。畳の部屋で畳の匂いがいつもしていた。今もその匂いはある。それと、昔おばあちゃんのお葬式で嗅いだごとのある匂いもする。戸を開け部屋に入る。そこには写真が三枚あった。お父さんとお母さんの写真。それと私と一さんが写っている写真。その写真は立ててあり、その前では線香が燃えていた。
夢で寂しく
「見たね。」
一さんは。怖い顔をしていた。
「一さん!あれはどういうことなの?」
私はそう聞いたが、少し渋る感じで教えてくれない。
「線香って・・・・・死んだの?お母さんも、お父さんも。・・・・一さんも」
「・・・・咲菜恵から聞いたんだよね。僕のことは。どうして死んだか。」
「うん。湖で溺れたって・・・・」
「でも良かったんだよ?あれで、一つの命を守れたんだから。」
「・・・・・」
私の頬を液体窒素の様に冷たいものがつたう。そして少しづつ思い出してきた。馬鹿な自分を。
「もし、君が、美沙が思い出しても自分を責めちゃいけないよ。仕方がなかったんだ。」
それを聞いたとき息が止まりそうになり。血液が凍ってくるのが分かった。
「私が・・・・・私が・・・私が・・・!!!!」
今まで生きてきた人生を呪い、自分の存在を消したいと思い、死んでしまいたいと思った。
「私が死ねばよかったんだ!!!」
耳をつんざく音、自分の叫び声だった。
「そんな、こと言うもんじゃない。僕は無駄死にかい?君の両親も、君の死なんか望んでない。どんなに君が不幸を呼んでも。
君には関係ない。それは、ただ運が悪かっただけなんだ。君には幸せが待ってるから。だから、生きな。生きるんだよ!」
一さんは私の肩を掴み強く揺すった。
私はもう、戻れないかもしれない。元の世界には。
真相1
桜が咲く頃、両親は死んだ。交通事故だった。私はその時、卒業式の最中で事故の事実を知ったのは式が終わった後のことだ。先生は私を職員室へと呼び言った。
「美沙、ご両親が事故に遭われたそうだ。さっき警察から電話が来て・・・・」
先生はうつむきその先を言おうとはしなかった。なんとなく察した。二人とも死んじゃったんだと。
私は警察から、現場はどのようなだったかを聞き、遺体と対面した。見る影もないそんな遺体と。息が止まりそうになり、涙が流れてくる。「どうして!」私は警察官へと詰め寄ろうとした。しかし、無意味に感じられてただ、泣き叫ぶだけだった。
葬式は本当につらい時間でしかなかった。お坊さんは、ずっと訳が分からないことを唱えて。周りの人も、涙を浮かべて。悲しくもないのに浮かべて。私はそんな時涙なんか出なかった。感覚が麻痺して。両親が死んだという事実だけが重くのしかかってくる。
「反対してたのに無理に結婚なんかするからこんなことになるんだよ」
「あの子は可哀想だね。」
「若いのにもう一人ぼっちか」
「あの子はどうなるんだろうね。心配だわ」
「施設じゃないの?」
私は、こんな時でも陰口を言う親戚が大嫌いだ。すべて他人事で、真剣になって考えてくれる人なんかいない。
火葬が終わり、箸で骨を掴み骨壺の中に入れる。みんな小さな骨たちだ。そんな時、あの悲しみが胸を刺す。掴んでいた骨を床に落とし私は泣き崩れた。無意識に口を開いていた。
「こんな、価値の無い物になってしまった。もう何も言わない何も何も何も。この白は、何もない空白の色だ。」
静寂がその場に訪れる。陰口を言うものも、口を塞いだ。「死」をこの時、皆が気づいた。
帰り際、親戚たちが言う。
「なんでも、頼ってきなさい。僕らは皆、君の味方だからね」
「ありがとう・・・ございます」
親戚の言うこと対して、ありがとう、という言葉しか出ない。そもそも、今は何も考えることができなかった
真相2
一週間後、入学の日が来て私は高校へと行くことになった。線香を立て、写真に向かって、行ってきますと言い。家を出る。学校に着くと、同じ中学校同士がグループになっていた。私は、一人席について、青い空を見ていた。どんな顔をしていたのかは分からないでも、ひどい顔をしていたと、後から聞いた。
そんな、私を心配してくれたのが先輩だった。はじめ先輩。何気ない挨拶から始まり。いつも声をかけてくれる先輩。そんな先輩に私は心を開いていった。
「本当にひどかったんだから」
「そんなにですか?」
私もいくらか笑顔を出せるようになっていき。先輩といる時間がとても楽しく思えた。
「先輩彼女さんは良いんですか?」
「え?咲菜恵のこと?」
「咲菜恵さん?」
「あの子は僕の妹だから彼女じゃないよ」
はっはっはと笑い先輩は言った。両親もいて妹もいる。先輩がとても羨ましかった。幸せなんだと嫉妬もした。それでも、先輩は私にとって支えであった。いつか私の前からいなくなってしまうのではないかと不安にもなる。私は狂っていた。
そんな、ある時、先輩の誘いで、近くの湖へ行くことになった。見に行くだけのはずだったのに私はそこで溺れることになる。お母さんとお父さんが呼んだのかもしれない。自分の死を感じたのは初めてだった。
私が目を開けたとき。横にははじめ先輩が倒れていた。その冷たさ、脈のない体。両親の遺体と面会した時を思い出した。そして、私は歩き始める。どこへ向かうでもなく朦朧とする意識で歩き始める。
何も分からない。何も感じない。ここは夢の中だ。私は何だろう。私は・・・・もう知らない。
きっと私は一人になることが耐えられなかったのだと思う
私の中のすべて
はじめ先輩は優しい顔を私に向けていた。
「はじめ先輩。私はどうなったの」
私は、ぼそぼそと言った。そして夢の中の先輩は答える。
「僕と君が一つになった。僕はこの世界から離れずに済んだ」
「そんなことって・・・・」
「あるんだね」先輩は微笑んだ。
涙も枯れて声も枯れた私は聞いた。「さなと会わせたのは?」
「君にまた、友達が出来てほしかった。すべてを認めてくれて、憐れまない。何も知らない友達を・・・・」
「私の・・・・ため?」
「そうだよ。君と咲菜恵のためだよ。憐れむ友達なんていらないよ。あいつも、あいつも、あいつも!!みんな君から遠ざけておいたんだ」
「どうゆうこと?」
「僕は君が気づいてないとき美沙になれた。記憶がないことがあるでしょ?あれは僕が美沙になってたからだよ。先生の説教の時も僕が代わりに受けた。君のためだから」
私はその時ゾッとした。私は知らぬ間に私じゃなくなっていた。知らぬ間に嫌われることを言って。友達のできなかった理由はそれだったんだ。私は力が抜けてしまった。「君のせいじゃない」それはそのままの意味だったんだ。私のことを面白いって言ってくれた人にもきっと何かを言ったか離れていったんだ。空気になっていたのも、私に意識がある時だけで、意識がないときには変なこと言ってたりしたんだ。
私は目の前が見えなくなった気がした。私は狂っている。そして私は強く恐怖を覚えた。
これからどうなるのか。私に自由はないのだろうか。はじめ先輩は私の中のすべての主導権をにぎっているのだった。
今朝の夢
私は今日、高校に入学する。入学の日に見た夢は手が込んでいて、ファンタジックだった。両親がいなくなったりする怖い夢。私は不安を抱えながら白く圧縮された教室に入た。
私の中のすべて
なんだか、最初の内容と違うような。という疑問が出てくると思いますが。それはこの物語らしさであり、今の鳳琥蘭の実力でもあります。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。