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コンコン、「失礼いたします」 ガチャ 〇〇出身の〇〇です。今日はよろしくお願い致します。

こうして、彼の初めての就職面接が始まった。

自己の紹介これはなんとも難儀なものだ。

 「私は学生生活の中で、部活や勉強の両立に勤しんできました。部活動では決して上手くなくレギュラーに選ばれることもありませんでしたが、それでも最後まで諦めずに部活動を私は続けました。それにより、忍耐力を身につけることが出来ました。また、勉強の方では最初は成績があまり良くなかった私ですが、日々の勉強を欠かさずにまじめに取り組んだ結果、全学年の中間程度の成績までになりました。

 このことを通して私は地道に努力し続ける大切さを学びました。これらのことは、社会人になってから、私の一生の財産として活かして行くことができると私は思っております。」

ここまでは実に平均的で普通の自己PRを彼は言っていた。私達3人の面接官も顔には出さずとも実に退屈に彼の話を聞いていた。

しかし、彼が次に発した言葉から私達はそんな退屈な気持ちはどこかに飛んでいってしまった。

「・・・・という自己PRを私は考えてきました」

「ですが、正直に言いますと、部活動を始めたのは他にやることもなくて、今のような就職活動をする時期が来るとそのほうが好印象を与えるからというのが本当の理由です。勉強の方もそんなに必死に勉強していたわけではなく、ただ、最終学年になると部活動も終わるので勉強の時間がとれて成績が伸びただけです」

「正直、御社を選んだのも特別これがやりたかったというわけでもありません。結局のところ私は学生生活の中で自分のやりたい物を何ひとつ見つけることができない人間なんだということを痛感しただけです」

「いい会社に入って、良い家族を作り、世の中のために尽くしていく。それが平均的でいい暮らしという考えを私は悪いとは思いませんが、しかしそれを幸せと感じることも今の私にはできません」

「こんな事を言ってしまってる以上御社からは内定をもらえないことも重々承知しています・・・。それでも、私は是非社会人の先輩方に今この場を借りて聞いておきたいことがあるのです。個人的な主観で構いません私に働いている理由をどうか教えていただけないでしょうか?」

彼の話が終わりその問に私達面接官の3人が答えた意見はこうだった。一人は「家族のため」、一人は「世の中の役に立つため」、そして私は「自分が生活するためと、社会人としての責務として働かなければいけないと思っているから」と答えた。

面接が終わると、彼に強い印象を受けた私達は、彼に内定の通知書を送った。しかし、後日彼から聞かされたのは内定辞退の連絡だった。

どうやら私達は彼の問に納得する答えができなかったようだ。

私は会社の屋上に上がってタバコに火を点けて、快晴の空を眺めながら「これじゃ、どっちが試験官なんだかわからんな」と一言つぶやいた。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-22

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