一寸話 3センチのはなし
よいこ
体育館のような場所に5歳前後の子供が400人ほど集められた。
「いいですか、良い子になるためにはより良い行いをしましょう。1番良い子になれた子は自由にします」
みんな誘拐された子供だった。ほとんどの子は家へ帰る、お父さんとお母さんの元に戻りたい一心だ。だから、礼儀正しくして、犯人たちの言うことを聞いた。変な文章を読まされたり、色々なことに容赦無く使われたが、我慢していた。
だが、全員の我慢が限界ギリギリまできていたとき、1人の子供が言った。
「みんなで歯向かえば、あいつら倒せるよ」
かなりの数の子が同意して、やろうやろうと意気込んだ。
決行の日、先陣を切った1人目の子供を犯人は簡単に返り討ちにした。計画を漏らした子がいたのだ。何人かが叫んだ。
「なんで教えちゃったんだ! 帰れると思ったのに!」
「人を襲うのは良い子じゃないからだよ」
誰かがボソッと呟いた。
鏡
鏡は何故にカガミという名前なのか。鏡の前に立ち、じっと見つめてみるが、自分と部屋が映るばかりだ。
「お前はどうして鏡なの? ウツシミとかの方が私はしっくりくる」
そう問いかけると、反対側の私がニタっと薄気味悪く笑った。
「お前こそ、なんで美加子なんだ? 美しくもなんともないのに」
私はしゃべるカガミが怖くなり、布を被せ、ガムテープでぐるぐる巻きにした。だが、カガミは話すのをやめない。
「おいおい、前が見えないじゃないか。この邪魔物をとってくれよ」
「うるさい、それ以上しゃべったら叩き割るから」
「私を割ったらお前の顔も割れてしまうぞ。言うなれば私たちは同一なんだ」
「そんな嘘を言っても騙されないのだから」
「好きにしてくれよ。美しくない顔がこの世から一つ消えるだけだからな」
カガミは腹を抱えて笑っているようだ。私は段々と腹が立ってきて、鏡に向かって手元にあった消しゴムをぶつけた。すると、顔に何かをあてられたような感触が走った。
「言ったろう、私はお前なんだ」
カガミの笑い声だけが夜の部屋に響いた。
一寸話 3センチのはなし