あなたとの出会いよりあなたが先

まずそこから


やっぱ、かっこいいよね
何度見ても惚れ直しちゃう

走りすぎる彼の姿を見ていて、うっとりとしていた。


「こら、顔。よだれでてる」

「…うそ!恥ずかしい!見られてたら…!!?」

「多分、それはないから安心しなよ」


午後の体育の時間
女子は男子とは別れて短距離走だった。
男子は女子と違って長距離走だった。

午後、2時過ぎ
夏間近のこの季節は西日がじりじりと肌を焼けつける。
私は気にしないから日焼け止めとか塗らないけど大概の女子の半数は更衣室で塗っていた。
その中の友人の紀香も塗っていた。
さすがだ。学校のマドンナよ。

私、橋本砂野子(はしもと さのこ)はそんなので時間を潰してるより大好きな想いを寄せてる人の近くまで男子の長距離走を見に行った。
そのあと学校一のマドンナ、喜多 紀香(きた のりか)もやってきた。


「まーた。いつもの、えと…なんだっけヤナゲくん?」

「違う!柳馬くん!」

「ハナゲくん?」

「ちーがーーう!!」


紀香がいつものおふざけモードになるが、私にはそんなおふざけでも許せない点が一つだけある。

そう、柳馬くんのことだ。


もう一度遠くの校庭にいる大好きな、思いを抱えている人、柳馬くんを見た。
走り終わったのだろうか、他の男子生徒と話していた。


「(ああー!!その場所変わって!)」


沸き起こる思いにもやもやしていたら紀香がぼそっと、あのさぁ。と口にした。



「なに?」

「どこがどう、そんなにいいの?外見ただのマッシュやん」

「そこ!!!!」

「(え………)」

「あの憎たらしいくらい似合う髪型!そしてあのはにかみ笑顔!!たっまらん!!」

「私にはわからんわー」

「彼氏いる人には言われたくない…」


むすーっと膨れたら、再度からかわれ、再度、頬を膨らます。

柳馬くんは確かに見た目ひょろいけどあの時はほんとに、ものすごくかっこよく見えたんだから。



*****



それは一か月くらい前のことだった。
その日は課題に夢中で寝てなくて足元がおぼつかない。
ふらふら、と歩いては壁にぶつかり、歩いては物を落としてたりしていてさすがに危ないと、紀香に言われて保健室に向かうところだった。
旧校舎から新校舎に移る時の廊下を歩き、階段をゆっくりゆっくり降りて行った。

「(あとちょっと…)」

記憶半ば無くしかけていたときだった、折り返し地点、いざ曲がり降りようとしたとき、一段踏み間違えすべり落ちそうになったときだった。



「(………あ、これやばいやつ)」

世界が180度変わった瞬間だった。


数秒、目を閉じていた。
ゆっくり、目を開けてみた。

お、ちてない。あとなぜだか誰かの胸の中に入っていた。


「……へ。」

「…大丈夫ですか?」


見慣れない黒髪のマッシュカットの髪型に少したれ目がちの私よりなんかはるかに背の高い人
その人の胸の中にいた。

ゆっくり身体は離され状況を説明された。

図書室の帰りに寄ったら、まさかの階段から落ちそうになっている人がいて思わず抱き留めてしまったみたいだ。

そんな説明をされながら私の心拍数は違う意味でどんどん上がっていった。
背の高い彼は、じゃあ、失礼します。と呟き、階段を降りて行った。
知りたい 知りたい。彼のこと。

どんどん小さくなっていく背中を遠目で観ていてそう、思った。

翌日、さっそく紀香に話したら、まさかの同じクラスだとは思わなかった。
そして他の知人の聞くと名前は、柳馬 修(やなぎば おさむ)だとか……
私のその日からの思い続ける日が始まった。


*****


「どうやったら声かけれるかなー」

「一緒のクラスなんだから帰り際見て一緒に帰ろうとか言えないの?」

「イエタラモウヤッテル」

「だろうね」



体育も終わり、放課後、教室に居残ってお菓子を食べていた。
甘いチョコレートが口の中に広がる。うん、美味しいね。

「あ、私、彼からメールきた」

「さっさと行ってしまえ薄情もの」

「そんな落ち込むなって。明日なんかの機会考えとくから。じゃあ、先に、帰るよ」

「ばいばーい」


机に突っ伏しながら手を振る。
よく見えてないから半分曖昧だけど。
教室には私だけになった。 帰ろうかな。私も。走りつかれたし
そう無理矢理思い込み上体を起こした時だった。


「ごめん…」

「~~~~っ!!!?」

「あっ、ごめんね。びっくりさせて。突っ伏しているから寝てるのかと思って」


上体を起こした時、聞こえた声と見慣れた立ち姿は、柳馬くんだった。


「あ、あぁ!!え、と…!!」

「もう少しで教室締め切る時間なんだ。僕、今日、日直だったから」

「ごめんなさい!今、片づける」

「うん、大丈夫。急がなくていいよ」


うわぁ。またあの声が聞こえる。喋ってる。話してる。私。

手元がおぼつかないが急いで帰り支度をする。

支度ができ、リュックを背負った。


「じゃあ電気消していいかな」

「う、うん」
柳馬くんは電気を消し、戸を閉めた。鍵は後で先生たちがかけにくるらしい。

こんな機会を逃していいのか…
どうしたらいいんだ…

恋なんて、領域まったくわからない私は立ち止まってしまった。
足音が聞こえなくなったのか、不思議と振り返った柳馬くん
好きです。なんて言葉、軽々しく言えないよ。


「か、帰り道…大浦商店街の方?」


やっとのだせた言葉がこれ


「いや、違うよ」


the・撃沈


自ら墓穴掘るとは思わなかった。


「……橋本、さんだよね。確か」

「ぇ、え、あ。うん!!」

「ちょっと話したいことがあるんだ。時間ある?」

「え…」

一緒に、途中まで帰ることになった。

急にね

目線の少し先には柳馬くん
どうしよう。事実上では一緒に帰ってる事になるんだよね。
やばい…めちゃくちゃ緊張してる。

今、近くの神社を横切る
お稲荷さん見守っていて…


柳馬くんの歩いていた足が止まったのと同時にこちらに振り向いた。
思わず、反射神経で背筋を伸ばしてしまった。
数秒見つめられる。
その瞳の先には私が写ってるの?


風が小さく流れる

未だにこちらを見ている柳馬くんの目を見ていられなくなって話を切り出した。


「そ、そう言えば話って?」

「あ、うん」


柳馬くんは口元に手を押し付けなにか考え事をしていた。
不思議に思っていたら思いもよらない言葉が聞こえた。


「君が好きだ。」



「え、…………」

俯いたままの柳馬くんを凝視してしまった。
ま、まさかの両想いだったの!?

嘘ーー!!!

と歓喜の声が響いている
赤くなる顔なんかどうでもよく、返答しようとしてときだった…


「わ、私も好きで「エイチ!!」……し、た。…え?」


柳馬くんは見ず知らずの名前を叫び周りをキョロキョロと見渡している


「どこかにいるんだろ!早く出てきてよ!!」

「あの…柳馬くん?」

「ごめん。橋本さん。今言った言葉、僕が言ったんじゃないんだ」


え??


頭がついてけない。
だって確かに声はした。
今、ここには二人しかいない
ここの神社には二人しか………
神社……


「まさか、お化け…!!」

「違う!!橋本さん!落ち着いて!見てもらった方が早いから!」


柳馬くんは私の手を取り顔を近づけた。


「オサム。お前も近いぞ」

「へ?」

「エイチ、でてくるのが遅い。話と違うじゃんか」

「腰抜けかと思ったけどそうでもなかったんだな。まあ助かったよ」


声の主はすらりすらりと歩いてきた
しかしその象った姿は人型ではなかった……


青い瞳に黒い綺麗な毛並み
すらりと長く伸びている尻尾

そう、どこから見ても猫だった。


「ね、猫…が喋っている?」

「そうだ。佐野子久しぶりだな」



ほんとに頭がついてけない。
まったく頭がついてけない。

目を何度か瞬きさせ、擦ってもみる
しかし何度見ても猫だ。猫が喋っている。

柳馬くんに説明をお願いしたい所だ、そう思いながら見つめると柳馬くんは察したのか
話し始めた。


「コイツ、エイチって言うんだ。橋本さん、はじめましてではないと思うんだけど」

「え、私、あなたと会ったことあるの?」

「佐野子は薄情ものだな、あんな素敵な出会いだったぞ」


エイチと名乗る猫はペラペラと日本語で馬鹿な私にも分かるように説明してくれた。



*****



あの日は確か、雨が降っていたな。
どしゃ降りで俺はカラスとの喧嘩に絡まれ少し疲れていた。
もちろん俺が人間の言葉を話せる事は今の今まで黙っていたんだ。
可愛らしく鳴けば餌をくれる奴らなんかたくさんいた。今の生活には困ってなかった。

どしゃ降りが続くなか傘をさしてやってきてのがお前、佐野子だよ




「おわー、すごい雨だな。紀香大丈夫かな。電車だし」


いつも通り、にゃー、なんて甘い声だせば雨宿りでもさせてもらえるだろう。

そう思い俺はお前に声をかけた。



「ん?猫さんだ」

「ミャー」

「餌なんか持ってないよ。悪いけど家はアパートなんだ、飼えないんだよ」


俺は半ばなんだ、と舌打ちを打っていた。
そんなことを考えていたら佐野子は俺を持ち上げた。


「でも濡れるのはよくないよね!」

そう言ってここまで連れてきただろ。佐野子、お前は


*****


「………………」

ここの神社にこのエイチと名乗っている猫さんを連れてきた…

記憶にない……

エイチさんには悪いけど…

柳馬くんは神社の石段に座って話を聞いていた。
どうやら冗談ではないみたい。腹話術でもないみたい。


「ところでだ」

「は、はい!」


1段、1段石段を降りていき柳馬くんの膝の上に乗った
エイチさんは青い瞳を光らせて言った


「俺はあのあとコイツと出会った」

「コイツ言うな」

「お前がそんな態度とっていいのか?」


その言葉に柳馬くんはなにか言いたげそうな顔をしたがバツが悪そうにまた下を向いた。
エイチさんは尻尾をゆらりゆらりと動かしながら驚く事を口にした。


「俺はお前が好きだ。」

「はい!?」


まさかの猫に告白された!?
あれ…この声……

恐ろしいことが起こっているのがやっと理解出来てきた。

「じゃあさっきの告白も…」

「コイツじゃないぞ。俺が言った」

「は、ははっ……」

頭の中が真っ白になっている中エイチさんは続けた。

今、柳馬くんの家でお世話になっていること、そしてエイチさんはほんとは人間だと言う事。これは柳馬くんとエイチさんだけの秘密だったと言う事。
そして最も恥ずかしかったのがエイチさんが柳馬くんに私が柳馬くんを好きだと言う事を教えていたこと。


「ごめん。ほんとは気持ち、知ってた」

「あ、はは…」


初めから知ってたんだ
初めから叶わない恋だったんだ。

思わず瞳から涙がでてきてしまった。


「は、橋本さ…!?」

「オサム、泣かせたな」

「誰のせいだ!」

「お前の気持ちを代弁してやっただけだぞ?」


エイチさんは私のこと好きでも柳馬くんが好きでいてくれなきゃ…
好きでいてくれなきゃ………ん?代弁?


「代弁?」

「あ、いや、気にしないで!!」

「オサム、女々しいな。佐野子、聞け。オサムはお前のこと好きだ。」

「え?え?」


ほんとにさっきから頭がついてけない。
会話が頭に入らない。


「俺はコイツの代弁者みたいなものだ」

「エイチさん?」


柳馬くんを見ると顔を赤くさせ鞄で顔を隠してて上手くは見えなかった。


とりあえず話をまとめたい…
そんなことを思っていたら、ポツっと雨粒が1つ落ちた。


「僕んち近いからおいで!」

エイチさんもかけていき、柳馬くんに引かれた腕はなんだか熱くて、ずっと話離してほしくなかった。

あなたとの出会いよりあなたが先

あなたとの出会いよりあなたが先

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-20

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  1. まずそこから
  2. 急にね