背徳の蜜 第10話
白日夢
下着の中で彼の記憶を追う指先は
蜜をひたひたと湛えた花の中に沈みこむ。
幾重にも重なる花びらの奥で
ねっとりと絡みつくやわらかな粘膜。
彼が感じていた私の感触……
私は彼がしてくれたように蜜を集め
熱を孕んだ小さな膨らみをそっと撫でる。
彼はいつもそうやって指を動かしながら
私の表情が変わっていくのをずっと見ていた。
ベッドの上は甘い吐息で満ちていく。
「目を開けて…俺を見て……」
虚ろな瞳で見上げると
満足そうに微笑みくちづけをくれた。
私は彼の視線の下で
花びらがひとつひとつめくられて
花芯が露になる予感に震えた。
彼はそのすべてを見ていてくれる。
それが悦びだった。
どんなに激しく交わっても
最後はぴたりと体を重ね
波間に漂うように揺れていた。
彼が私の中を満たす時、私は彼の形になる。
それを何度も確かめながら
ふたりの境がわからなくなるほどすき間なく
肌を合わせ抱き合った。
彼は時々、私の名前を呼び浅く舌を絡ませる。
そう……彼は
ベッドの上でだけ私を名前で呼んだ。
少し遠慮がちに小さな声で。
その声はとても細かな粒子になり
細胞のひとつひとつに入り込む。
そしてその隙間さえも埋め尽くし
私の心を体を染めていく。
彼の視線は私を許し彼の声は私を認める。
彼の腕の中では
私を形づくっていたものは意味をなくし
私はただ私でいれば良かった。
彼を想い絶え間なく動かす指先は
少しずつ私を熱し
体に刻まれた記憶を炙り出す。
高く掴まれた足首。
そこに残る手の感触。
大きく開かれた足の間で私を揺さぶる
彼の激しさ。
私を見て……その指で私を壊して……
私を揺らして……
私が嫌だと言ってもずっと揺らして
私の名前を呼びながら
ずっと揺らして……
もっと揺らして……
私は彼の気配を感じながら昇りつめる。
自分で呼び起こした波は私を包み
あの日へ連れていくけれど
それはほんの一瞬で
体の中に渦を巻いていた熱も彼の気配も
手のひらに落ちた雪のように消える。
ねぇ……今どこにいるの
今なにをしているの
昨日の夜は誰といたの
ねぇ……誰を抱いたの
手のひらで溶ける雪はいらない。
私はスノードームに降る
溶けない雪を望む。
溶けずにどんどん降り積もって
彼と私を閉じ込めて欲しい。
背徳の蜜 第10話