年賀状
和代は弟の嫁の佐恵子と肌が合わなくて、距離を置いている。もっとも彼女ばかりか、他の兄妹も似たようなものである。最初から何故結婚したのか誰も理解しなかった。弟の隆夫が婚約者を連れて山梨県の実家に帰省した際母親が、
「隆夫が面食いじゃないことが分かったよ」
否定的に述べた。華やぎのない、暗い女にしか見えなかった。結婚生活をするうちに性格も明らかになった。情操に乏しく、万事自己中心的に振る舞った。夫の隆夫も母も彼女のエゴに振り回された。
佐恵子はいつの間にかある宗教に凝るようになった。教義には前世や来世の存在が謳われている。和代の夫が交通事故で亡くなると、さっそく電話をかけてよこし、入会を勧めた。
「旦那さんも、あの世で幸せになれますよ」
「人間は死んだら土に回帰するだけです。私は空想の世界は信じないわ」
「それは、狭い考え方よ」
「いいえ、普通だと思っているわ」
「お姉さんは、もっと変わったほうがいいですよ」
「どこをどう変わればいいというの」
「たとえば名前とか。教祖は姓名判断もなさるの」
「けっこうよ」
きっぱり断った。ふだんは大方没交渉だが、年賀状だけは儀礼的に交換している。その年の正月も弟夫婦から届いた。印刷した三人の家族の名前を見て、和代は驚いた。佐恵子の名前が砂羅子になっていた。正式に改名したようである。その名前を中学生の娘に見せたら、
「怖い」
不安そうな表情をした。
「でも、うちは関係ないのよ」
「もう勧めてこないの」
「諦めたみたいね」
「よかった」
年賀状