キミありて幸福のゼラニウム

キミありて幸福のゼラニウム

Hitsuji

キミありて幸福のゼラニウム

キミありて幸福のゼラニウム

留守番録音機能が歪んでしまった。
受話器からは無機質な機械音が、半永久的に続いている。
世界が崩壊して、
人類の滅亡
核の灰
死んだ街
固定電話が瓦礫の中から「生(せい)」を知らせる。
無機質な機械音だけで、
誰かが居た証明になりそうな。


喉の通りが細くなって、常に頸脈を押さえられる感覚を得る。
やがて声が出なくなると、何年も前から耽々と狙っていたかのように
ありったけの握力で締め上げてくる。


下向きで泣いていたら、顔がぱんぱんに腫れてしまった。
これから恋人に会いにいくのに
スーツも靴もネクタイも、真珠を絡ませたカラフルな薔薇の花束も、
髪も指輪もピアスも爪も、
全部整えて完備であるのに
ぶくぶくの瞼とぐしょぐしょの顔だけ場違いだ。



しゃがんで、
ひざまずく。

天空の鏡と呼ばれる名スポットにて、ある日どこかの恋人たちが挙式を行う。
遠くへゆっくり迂回しながら、その嘉儀を好奇で横見した。
ギャラリーの足恭はわすれられない。
その通り、新郎新婦は何でも持ってた。
誰でもその2人を前にしてしまうと、きっとどんな人でもギャラリーに成り下がる。
誰も2人を凌ぐことはできない。
もう頭を項垂れるしか、愁眉を開く道はないのだろう。


腐ったパイプの手すりを見て、同じ材質の階段には駆け上がれなかった。
最後の錯乱が突沸する。

リングピローをめちゃくちゃにし、
花束と指輪を階段に投げ、またも頬を濡らして
そのままの足で火口に走った。

階下に気付く頃には手遅れと思われる。
電話をしても手紙を書いても捜査をしても、
これで二度と会うことはないのだろう。

キミありて幸福のゼラニウム

キミありて幸福のゼラニウム

美しいつもりの、怪文に近しい詩。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-16

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