月蝕
月と闇
ふと見上げると、月があった。
夜だな、と思った。月があったからだ。
月がのぼっていれば夜だ。
月がのぼっていなければ夜ではない。
真っ黒に塗りつぶされた中に、ぽっかりと、そこだけ塗り忘れてしまったかのように、白くて黄色い丸が浮かんでいた。
じいと月を見ていると、おかしなことに気づく。
月が消えて行く。
黄色くまんまるい光が、じくじく、じくじくと闇に侵されていく。
嫌だ、と思った。
月がなくなってしまったら、昼になってしまう。
焦っても、泣いても、浸食はやまない。
闇が。
闇が月を呑み込んで。
じくじくじく。
じくじくじくじくじく。
「――嗚呼」
じくり、と。
月が消えて。
消えて、しまった。
「塗り忘れに気付いたのね」
うふふ、と笑い声が聞こえて、私も真っ黒になった。
月蝕