月蝕

月と闇

 ふと見上げると、月があった。
 
 夜だな、と思った。月があったからだ。
 
 月がのぼっていれば夜だ。
 
 月がのぼっていなければ夜ではない。
 
 真っ黒に塗りつぶされた中に、ぽっかりと、そこだけ塗り忘れてしまったかのように、白くて黄色い丸が浮かんでいた。

 じいと月を見ていると、おかしなことに気づく。
 
 月が消えて行く。
 
 黄色くまんまるい光が、じくじく、じくじくと闇に侵されていく。
 
 嫌だ、と思った。
 
 月がなくなってしまったら、昼になってしまう。
 
 焦っても、泣いても、浸食はやまない。
 
 闇が。
 
 闇が月を呑み込んで。
 
 じくじくじく。
 
 じくじくじくじくじく。
 

「――嗚呼」 
 
 
 じくり、と。
 
 月が消えて。
 
 
 消えて、しまった。 
 
 
「塗り忘れに気付いたのね」
 
 
 うふふ、と笑い声が聞こえて、私も真っ黒になった。

 

月蝕

月蝕

何十年に一度の月食の日。悠恵の通う県立本城第一高校で、とある変死体が発見される。 学校という閉鎖された空間で起きた殺人事件は、とても不可解なものだった。 そして、同時期やってきた転校生に興味をもつ悠恵。 転校生と事件を繋ぐ鎖とは――

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • ホラー
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い言語・思想的表現
更新日
登録日
2012-03-16

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