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山の向こうの空とおく

 僕は勉強ができないと彼は言った。
 私は勉強もできないと思った。正確には、できなかったが正しいかもしれない。勉強や学校生活という単語から離れたところで生きて、久しい。もう八年も前の話になる。
 勉強ができないどころか、そもそも不登校だった。もちろん、友達はいないし、彼氏もいたことがない。その頃にしていたことといえば、望まれてもいない小説や詩を書いていたぐらいだ。それだって、特別得意なわけでもない。本格的な仕事にしようという覚悟だってない。下手の横好きも良いところである。

 はああああと思わずため息が出た。ばたんと後ろに倒れながら、今のため息誰かに聞いて欲しかったなあと思う。ふざけた願いだ。でも、切なる願いでもある。
 ガラスの靴を落としたシンデレラのように、毒りんごを食べた白雪姫のように、私は誰かが助けてくれる日を信じて待っている。

 しかし、待てど暮らせどそんな日が訪れることはなく、私はいつの間にか26歳になっていた。夢見る頃を遠に過ぎ、親の死や結婚適齢期という現実が私を取り巻いていた。
 長いため息をまたひとつ吐き、抱き枕をぎゅっと抱きしめる。
 こうやって、誰かに守られたかった。ため息をついたらどうしたの?と優しく声をかけて、震える手をそっと握ってほしかった。少女漫画よりも安っぽい夢は消えることもなく私の中に住み続け、時折、耐え難い孤独が私を襲った。

 救いを求めるようにイヤフォンを耳にはめる。再生ボタンを押したと同時に流れだした歌はラブソングだった。惨めさが心地よくて唇を噛みながら聞いた。

 勉強ができないだけならいいじゃないか。彼には抜群の運動神経と恋人と友人と、それこそそれ以外のものは全部あったのだから。
 私には、何もない。恋人も友人もなくバカで惨めでこの歳になった今でも何者かになれると信じながら王子様を待っている。
 そんなやつだから、音楽でさえ私を救わない。ラブアンドピースなんてくそくらえ。私は誰よりも幸せになりたかった。このベットの外側で。



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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-15

Copyrighted
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