八木橋麻子

私が中学三年生の際に仕上げました作品です。

光が眩しくて、思わず目を閉じる。私はその光に面と向かってみようと、顔をしかめて目をありえないくらいにかちっと開けた。昔、誰でもやったことのありそうな光景は、きっとはたから見ればとてつもなくみっともないんだろう。木漏れ日の下で、やわらかく日なたぼっこしているかと思えば、友達と笑い出したりして。もともと太陽光になんて勝てるわけがないのに、馬鹿みたいに、ちょうどデメキンのように目を開けて一騎打ちするからね。
私もあえなく負けてしまった。私の友達の貴紗子とは、十秒間対抗できたら太陽に勝者したことにしようと決めていたけど、絶対に無理なことは二人とも解っていた。だけど、無駄なことだとも思っていなかった。思わずその頃を思い出して、口元がゆがんでしまった。
彼女は、おととしの暮れに死んだ。交差点で信号を横断するときに、宅急便の大型トラックが貴紗子の体を吹っ飛ばしたのだ。それも、彼女の体が横に吹っ飛ぶんだったら、まだよかったのに、こりずに踏みつけて行った。内臓や脳みそ、骨も、何もかも飛び散ったと確信できるよ。だけど、ニュースを見ただけじゃ死の残酷さなんて解らない。宅急便を利用した人々は、「明日荷物を届けなければならないのに」と、そう、きっとそう、反面は思っているんだ。だけど、お葬式も行かず、涙も出なかった私に言えることなんかひとつもなかった。怖さだけが私の心を占めていたんだ。
ただ、そんな中でもたったひとつよかったと思うのは、「春とか、夏にそうならなくて、よかった」ということだ。そんな時期に死んでしまったら、私はこうして、思い出に耽るだなんて嫌でも思わないだろう。思い出と貴紗子の死んだ日が重なりすぎる。
事故で逝った彼女には、もう関係のないことだけれど、事故の翌日には、大きくへこんだガードレールの下に、白と黄色の菊やゆりが添えられた。私も一番大きな黄色の菊の花を添えた。私の場合、朝や昼の時間に「黄色」を添えるのはおっくうだったから、夜中に強引に置いてきてしまったけれど。貴紗子の好きな黄色を持つのは、なんとなくいたたまれない気持ちに駆られるのだ。それでも黄色を手にしようと思ったのは、きっと私も明るい色が好きだったからだよね。貴紗子が死んだ季節を考えると、春や夏だと重いけど、添えてきた花は黄色でよかったと思う。
ガードレールは、彼女が死んでから二週間後に修理された。あの事件の悲惨さを訴えるためにも、これからの教訓として紡いでいくためにも、本当は残して置くはずだったんだけれど、「気味が悪くて通りたくない」っていう人が多くて、それに押されて、ガードレールは修理されたんだ。きっと、事故の跡形なんてない方が、自分に危害が加わることを恐れなくていいと思っているんだ。いつその危惧が大当たりするか解らないって。――だけど、私もそう思っているのかな。
いつの日にか忘れ去られることを望んでいるのかも知れない。
「ひっちゃん」
ふと誰かが、私の頬をべちっと叩いて引っ張ったかと思うと、耳元できんきんした叫び声で言った。
「この間貸したマンガどうしたー?」
私が目を開けると、そこに居たのはおさげ髪を肩で上品そうに下ろしている京子だった。一見すると頭がよさそうな彼女は、実は私と同じく中の下ってところなのだ。
「ごめんごめん」
急いで起き上がって時計を見ると、三時十五分だった。まるで芋づるのように引っ張られた感が残る頬を両手で押さえてみても、時間は確実に流れているようで、熱さはない。京子は不思議そうな目でこちらを見ている。
「今度返すから、それまで待ってて」
「今度って、いつよー」
貴紗子は憶えているだろうか。私に貸してくれた四冊のマンガが、まだ私の部屋にあること。一年以上返していなかったから、まあいいかって感じで、今の今まで貴紗子に渡すの忘れてたんだ。
「ねえ…あ」
私は一度言いかけて、それを押し留めた。死んだ人にいまさらマンガ本を返したからといって、何だと言うんだ。風で飛ばされればおしまいだし、それこそ誰かが持って行ってしまうだろう。同じところにいつまでも座っているものなんてないんだ。
私もいつか、貴紗子を心の奥底に留めるだけで、彼女への気持ちなんて薄れて行ってしまうんだろう。
「ちょっと、ひっちゃん、見て」
京子が私の制服の袖を弱々しく引っ張った。
「どれくらい長く目を開けていられるか、勝負しようよ、ひっちゃん」
少しだけ笑った京子に、私は言った。
「絶対うちが勝つよ。あんたそんなにやったことないっしょ」
「うるさいなあ…」
光を見ると、今までのように眩しいのは変わらないけれど、今なら太陽に対抗できそうな気がした。けれど、それでも結局、秒数も前と変わらなかった。光のせいで、目で見ると、緑色の土手も黄色く光って見える。しばらく経つと、消えてしまう。シャボン玉みたいだね。
私は、歴史的に残るような人には絶対になれない。遠い光を眺めるだけでやっとだから。どんなことにも立ち向かえる強い人じゃない。
「ひかりは、有名にはならないよね」
笑いながらそう言って、淡い夢の中に消えていった人を思う。
私は、
「デメキンみたいに目を開ける人は、有名にはならないよ」
と、心の中で冗談を言ってみた。
「ひかりも、光も、私を繋ぎとめるために生きてきたわけじゃないでしょ」
誰かが笑った声に、私はデメキンみたいに目を開けることも、もうできなかった。

つたない文章ですが宜しくお願い申し上げます。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-14

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