忍者甲子園

「さあ、今年の夏の甲子園決勝戦は、三重県代表の伊賀百地高校と滋賀県代表の甲賀多羅尾高校という、隣県同士の対決となりました。尚、本日のゲストは紀州九度山高校野球部の真田監督です。監督、どうぞ宜しくお願いします」
「どうも」
「さて、監督。今回の決勝戦は奇しくも伊賀対甲賀という、まさに昔の時代劇のような組み合わせになりましたが」
「ええ、マスコミは面白がっているようですが、あくまでもスポーツマンシップにのっとり、正々堂々と戦って欲しいものですね」
「さて、先攻は甲賀多羅尾高校。一番バッターは二年生の猿飛くんです。ピッチャーは伊賀百地高校のエース、霧隠くん。大きく振りかぶって、第一球を投げました。あっ、これはどうしたことでしょう。一瞬、ボールが消えたように見えましたが」
「いけませんねえ。高校生のうちは変化球に頼らず、直球勝負で」
「あ、お待ちください。ビデオ画像が出るようです。あ、あ、これはまさしく、消えています。魔球です!審判も判定をためらって、塁審に確認しているようです。さあ、注目の判定は」
《ボオーーーールッ!》
「ああ、何ということでしょう。ボールです、ボールの判定です。せっかく魔球を投げたのに、ボールとは!確かに、ストライクゾーンの中では消えていましたが、だからボールなんて、残念です!」
「ですから、高校生のうちは直球で」
「さあ、注目の二球目です。霧隠くん、振りかぶって、投げた。ああっ、また消えた!」
《ボオーーーールッ!》
「どうしたんでしょう。霧隠くんは意地になっているんでしょうか。うんうん、わかります、わかります。だって、魔球ですよ!」
「いえ、だから、高校生のうちは」
「さあ、どうする、霧隠くん。このまま、意地をつらぬくのか。それとも違う球種を投げるのか。投げた、消えた!」
《ボオーーーールッ!》
「投げた、また消えた!」
《ボオーーーールッ、フォー!》
「ああ、ついにストレートのフォアボールです。猿飛くん、一塁に進みました。さて、二番バッターは今大会随一のスラッガー、服部くんです。さあ、霧隠くん、どうするのか。あ、これはどうしたことだ!一塁にいる猿飛くんが二塁にも三塁にもいます。分身だ、分身の術だ!」
「いけませんねえ。高校生は正々堂々と」
「審判の手が上がりました。タイムです。猿飛くん、一塁に戻されました。これは仕方ありません。さあ、霧隠くん、セットポジションから、あ、猿飛くんが一塁から飛び出した!これは無理です!霧隠くんの矢のような牽制球が飛んだ。一塁手がタッチした!あ、いや、猿飛くんじゃない、丸太だ、丸太がユニフォームを着ている!変り身の術だあーっ!」
《アーーーーウトオーッ!守備妨害!》
「やはり、スポーツマンシップにのっとり」
「せっかくの変り身の術もむなしく、守備妨害で猿飛くんアウトです!さあ、ランナーがいなくなりました。霧隠くん、大きく振りかぶって、投げた。消えない!打った!服部くん、打ちました!球はぐんぐん伸びている!まだ伸びている!入るか、入るか、ああっ!消えた!打球が消えました!」
「だから、ちゃんとルールを守って、その上で」
(おわり)

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「さあ、今年の夏の甲子園決勝戦は、三重県代表の伊賀百地高校と滋賀県代表の甲賀多羅尾高校という、隣県同士の対決となりました。尚、本日のゲストは紀州九度山高校野球部の真田監督です。監督、どうぞ宜しくお願いします」「どうも」「さて、監督。今回の…

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-14

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