ベランダのリサイタル

ベランダのリサイタル

高原 那智


こういうのってなんて言うんだっけか。
ベランダに出て煙草に火を点けて縁に身を預けて考える。

「…ホタル族、だ。」

体の向きを変え、背をもたれて星空を仰ぐ。
この部屋に住んでもう6年になる。煙草の臭いもつくし、壁の色も変わる。


わざわざ、部屋を出る目的。
人も街も寝静まる時間に深く息を吸い込みでたらめに歌う。
部屋の中で流れている音楽に合わせて、好きなところだけ歌う。

人って一人の時案外歌ってると思うんだけど、むしろ聞かれてもいいと思えるほどに気持ちよく歌えるこの時間が好きだった。



最近久しぶりに好きなロックバンドができた。
誰に言っても知っている人はいないコアなバンドだが、歌詞もメロディもミュージックビデオの内容でさえ、とても聞きやすく落ち着くバンドになった。

その日も一人リサイタルのラストを飾るのは彼らだった。
サビにたどり着くまでのメロディを流しながら歌い、サビに差し掛かった時、変化に気付いた。

…声が一つじゃない。

星空を仰いでいた自分の体を起こし、声のする方に首を向ける。ただ、2人とも歌うのをやめなかった。

曲が終わってから、やっと言葉を発する。

「こんばんは。やーこの時間良いですよね!人目を気にせず歌える。」

互いの自己紹介よりも先に、歌うことに対して言葉を交わす。

「そうなんですよね。解放的になれるっていうか…気持ちが楽で。」
「わかるわかる。ベランダリサイタル。お客さんは自分と星空と、たまに珍客。」
「いつから聴いてました?」
「最初から。いい声してるなーって聞いてたら、自分の好きなコアバンドが出てきてつい、ね。」

今ここが昼間で、ましてカラオケボックスとかだったら恐縮して緊張する自分は居なかった。

それから1時間ほど、好きな曲とか、他にはどんな音楽を聴くのか、まだまだ話し足りなかったけどお互い次の日がある。

「じゃあ、また。おやすみなさい。」

お互いそう言って部屋に戻る。
次は金曜日か土曜日に、お酒でも持って歌おう。



一人だと気持ちよくて、二人だと気持ちよくて楽しくて嬉しい。
ベランダのリサイタル。

ベランダのリサイタル

朝でも昼でも夜でも。
誰もいない、気配を感じないベランダに立つとつい鼻歌を歌ったり、流しっぱなしの音楽を歌っています。

今回はあえてどちらも性別を明確にせず、年齢がどっちが上で下かを分かる程度に書いてみました。

ベランダのリサイタル

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-14

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