とある科学の最強剣士

とある科学の最強剣士

どうもどうもー作者のまっちゃんであります。
最近セッション回数が好調に増えていてスゲー嬉しいです。
受験やなんやらもドンドン終わっていき、もうすぐ春、ということで作品の概要の文を一新しました。
今までは物語の舞台が学園都市なのかそうじゃないのかよくわからない感じだったのですが、今回の更新でそこら辺の大まかな設定が明らかになりました。
っていうか星空文庫もデザインが変わりましたね。作者サイドの作業がスムーズになった気がします。春だからですかね。
こういうネット小説でたまに完結しないまま終わっている物がありますが、私は違います。この作品は必ずやり遂げます。
まあいつ完結するのか見当もつきませんが、読者の皆さま、これからもよろしくお願いいたします。

【1】 軍神と少女

今日は絶好のパトロール日和だ。
雲1つない空。気温も丁度いい。
なにより何も起こらない。
うん。
『実につまらん』
俺の名前は赤星深夜(あかほししんや)
日本全土を密かに統治している日本国軍の大佐である。
密かに統治、という意味不明な単語について説明する。
まず、日本国軍という組織は全国的にはほぼ認知されていない。
では何をしているのかというと、勝手に日本の治安を守っているのだ。そう、勝手に。
そんな日本国軍だが、実は色々活躍をしていたりする。
ある時は他国のスパイや殺し屋をやっつけたり、またある時は大規模なテロ組織と戦ったりと、結構すごい組織なのだ。
そして俺はその日本国軍の大佐という地位についている。
ふつう、大佐は本部で作戦立案をしたり新人の訓練の監修をしたりするものだ。
ではなぜ俺がパトロールをしているのか。
それは、学生の軍人は定期的にパトロールすることが義務づけられているからである。

公園のベンチでさっき買ったコーラを飲んでいると、誰かが俺の肩をつついた。
振り返って見ると、そこには同僚の篠崎登一(しのざきとういち)が缶サイダー片手に立っていた。
篠崎登一(17)。階級は中佐。そのルックスと、温厚な性格で女子にもモテモテの色男である。
『何しに来た』
『何って....パトロール』
登一は隣に腰かけた。
『パトロールねえ。何も起こらないじゃねえか。暇すぎて死にそうだよ俺は』
『でも、明日から新学年だし、暫くはパトロールないと思うよ』
コーラを一口。少し炭酸が抜け始めたようだ。
『だな。まあ学校もそんなに面白い訳じゃないけどな』
『でも退屈はしないでしょ?』
『まあな。けど、明日から大変だよ。朝は早く起きて朝飯と弁当作らないといけねえし。しかも二人分』
『お姉さん、大学生だっけ』
『ああ。なんか院に進むつもりらしい。いつになったら自立してくれるのやら』
『そんなこと言ったら悪いよ。お姉さん、深夜がいるから一緒に住んでるわけだし』
『ばーか、こっちの身にもなれっつーの。炊事洗濯その他家事全般全部俺がやってるんだぞ』
クスリと笑う登一。
『ほんと笑っちゃうよね。日本の軍神ともあろう御方が、炊事洗濯家事全般をこなしているとはね』
『いやまじで。生活費も俺の給料から出してるしさ。まあ、別に欲しい物とかは無いからいいけどな』
そこで俺は軍の連絡用端末が振動していることに気づいた。
パネルをタッチする。
『赤星だが』
『駒田三等であります。先ほど、kー6通りの銀行にて強盗事件が発生。犯人は現在逃走中。犯人は一人で、火炎系能力の持ち主と思われます』
『了解。犯人の現在位置を教えろ』
『はい。現在犯人は────』


通話を切る。
『行くぞ』
『わかった』
深夜は登一の肩に手を置いた。
次の瞬間、深夜と登一は公園からとある道路まで移動していた。
深夜の能力のテレポートを使ったのだ。
『おいおい...』
二人の目の前にはセーラー服を着た少女と、犯人と一目でわかる黒ずくめの姿をした男が対峙していた。
『どういう状況だこれ?』
『深夜。僕は犯人を確保するから、深夜はあの子を』
『わかった...っておい!』
何を思ったのか、突然少女は犯人に向かって走りだした。
『てやあああ‼』
拳を振り上げる少女。
『ガキめ』
犯人はそう言うと、右手を少女に向けた。
『深夜‼』
『おうよ!』
短く会話を交わすと、登一は犯人へ、そして深夜は少女の方へ駆け出した。
『軍人⁉』
自分に向かって突進してくる登一に犯人の反応は遅れた。
能力を使うまでもない。
そのままのスピードでスライディング。
転んだ犯人を取り押さえた登一は深夜の方を見た。
そこでは少女をお姫様だっこしている深夜の姿が。
『ったく。なに考えてんだ』
少女は頬を赤く染めながら答えた。
『そ、その、悪い人っぽかったから。銃持ってたし』
『だからって普通捕まえようとは思わないだろ。バカなのか』
『ば、バカじゃないもん』
『賢い奴の行動とは思えんがな』
少女はうつむきながら言った。
『あの....それよりこれ...』
『あ、悪ぃ悪ぃ。お前が暴れるからよ』
少女を降ろす深夜。
『いいか。今後こういう危険なことはしないように』
そう言うと深夜は少女に背を向けた。
『登一。応援来たから行こーぜ』
『うん』
『あ....』
去っていく深夜の背中を少女は見えなくなるまで見つめていた。
『....かっこいい......』

この主人公のフラグ建築の早さといったらもう....

俺の名前は赤星深夜。俺は今、ある場所に向かっている。
そう、学校だ。
軍立青池高校。この高校は少し特殊である。
一応1~3年まで学年は区切られているが、クラスは学年に関係なく振り分けられる。
だから、1~3年生が一緒のクラスになるのだ。
これは年齢を問わないチームワークを築くためのシステムであり、近年、先輩による後輩へのイジメも減っている。ちなみに、同級生によるイジメも減っている。
去年は忙しくて50日も登校した覚えはないが、軍人ならば問題なく進級できる。
このオプションが欲しくて軍に志願する者もいるようだが、そんな奴等が長続きしたところを見たことはない。
俺は四歳の時に軍に入ったが、最低でも十歳までには訓練を始めなければ殆どついていけない。
要するに、幼少の時からそれに適した肉体に改造するのだ。
『深夜おはよう』
『おはよう』
そう考えたらコイツはすごい。
登一は十三歳の時に軍に来た。
最初はすぐに潰れると思っていたが、まさかここまで強くなるとは。
今では軍での成績上位者の常連、つまりエリートだ。
『スゲーよお前』
『え?なにが?』
きょとんとする登一。
本当、スゲーよ。
実力だけで中佐にまでなっちまうんだから。
俺とは違うな。
『お前には頭が下がるよ』
『?』
『....今日の時間割なんだっけ』
『1時限目が始業式。2時限目が対面式。3時限目が一年生の学校案内。以上』
『学校案内って....俺もあんま覚えてねえっつーの』
『はは。僕もだよ』
まあでも、今年の学校生活は何だか楽しくなりそうな予感がする。
気のせいかもしれないけど。



    校内掲示板前 
『賑わってるねぇ』
『お祭りみたいだね』
『そうだな。俺のクラスはっと....』
掲示板に貼り出されているクラスの中から自分の名前を探す。
『ん?おーあったあった。俺A組だ』
『僕はC組だって』
『まあ、いつも一緒にいるから、学校でくらい離れてちょうどだろ』
『だね』
その時、周りにいた生徒たちがざわつきだした。
『おい、あれ』
『すげー。え、本物?本物?』
『本物だよ。本物のバニラアイスだよ』
二人は顔を見合せた。
『んだ?』
『なんだろう』
周りの視線の先を見ると、そこには5人の女子生徒たちが手を振りながら歩いていた。
『あ~。真夏のバニラアイスね』
『登一知ってんのか』
『うん。今、全国で人気があるアイドルグループだよ。全員今年からこの学校に通うんだって』
『ふーん』

『後でサイン貰いに行こうぜ』
『おいおい、俺同じクラスだよ』
『え?誰と一緒?』
『おお!俺もだぜ』

『.....なんか、知らないの俺だけみたいだな』
『僕も最近知ったんだけどね。あっ。そう言えば深夜、軍の制服持ってきた?』
『持ってきた。今日は表彰があるからな』
『よかった。深夜のことだから忘れてきちゃってるかと思ったよ』
『お前は俺のママかっつーの。んなことより行くぞ』
既にクラスごとに列が出来始めている体育館前に向かった。


    体育館内
『あなた、軍人なの?』
隣に座っている女子が式の途中にもかかわらず話しかけてきた。
女は碧い目で、長いストレートの金髪が特徴的だ。
ここは体育館のステージから見て一番前の列だ。
位置は横並びの一番左。
教師陣に目をつけられるのも面倒なので無視する。
『ねえ、聞いてるの?』
『.......』
間違っても目が合わないように、女の座っている反対側、左に顔を向ける。
『ちょっと。聞きなさいよ!』
すると女は俺の足を思いっきり踏みつけた。
だが俺は軍人。ましてや大佐だ。痛くも痒くもない。
さらにシカトをしていると、
『~~~~~~‼』グリグリ
さらに踏みつけてきた。
だが俺は軍人。ましてや大佐だ。痛くも痒くもない。
さらにシカトをしていると、
『ンッ』
髪の毛を数十本わし掴みしてきた。
力一杯髪を引っ張る女。
だが俺は軍人。ましてや大佐だ。痛くも痒くもな、
『いっってててててててて‼』
その場にいた全ての目が向く。
思わず立ち上がってしまった。
女を見ると、得意気な顔で拳を握りしめていた。
その拳には数本の髪の毛が握られている。
『お前.....』
『どうかしましたか?』
ステージ上のハゲた教師が心配そうに聞いた。
ハゲ教師はそこで、俺が軍の赤星大佐だと気づいたようで慌てて周りの教師に呼びかけた。
『きゅ、救護班を...』
『いや、結構です。お気になさらずに』
平静を装い式を続けるよう促す。
頭がジンジンする。
席につくと、女が言った。
『どう、痛かったでしょ』
『.....』
『この期に及んでまだ無視する気?名前くらい教えなさいよ』
『....赤星深夜。階級は大佐だ』
『大佐?私をからかってるの?貴方みたいな子供が大佐なわけないでしょう』
大佐なわけないでしょう、って言われてもなあ。
『信じないならそれでいい。別に俺にとっては何の問題もないからな』
『なによ強がって。私が誰か知っている上でそんな口きいてるの?』
『知らん。誰だお前』
そう応えると、女は呆れたような口調で言った。
『はあ?私を知らないの?ウソでしょ?』
『......』
いつまでも喋っていたくない俺は再度無視を開始した。
『ちょっと、本当に私のこと知らないの?』
『.......』
すると女はまた、俺の髪の毛を掴んだ。
そうはさせん。
髪の毛から電気を発する。
『イタッ』
とんでもない速さで手を引っ込める女。
『貴方今何したの⁉』
『........』
ハネた髪を直す。
『ふ、ふん。強がっちゃって』
『では、学生軍人の表彰に移ります。軍人の生徒は前へ』
立ち上がり、ステージの左に列を作る。
学生軍人の表彰とは、その名のとおり学生の軍人を表彰することだ。
以下のうちどれか一つでも当てはまる者が表彰の対象となる。

1 この春休みの間に階級が上がった者。
2 この春休みの間に起きた事件の解決に貢献した者。
3 期間中のパトロールを一日も怠らなかった者。
4 去年、何か大きな活躍をした者。
5 去年から今年の間に役職が上がった者。

この5つのうちの一つ以上に該当した者が表彰される。
正直、2の事件解決の項目についてだが、これは殆どの者が該当する。3にしてもそうだ。ただパトロールをすればいいだけ。
だからこうして二列にならなければいけない。
先頭は俺。階級順なので後ろは登一だ。
ステージ上に上がり教師に向かって一礼。前に出る。
『日本国軍大佐、赤星深夜殿。あなたは先日起きた強盗事件の解決に尽力し、期間中のパトロールを全て行ったことをここに表します』
頭を下げながら賞状を受け取る。
一歩下がり列の最後尾に並ぶ。
少しすると登一が俺の後ろについた。
『ねえ深夜。さっきはどうしたの?』
『アイツ』
さっきの金髪碧眼女を指さす。
『アイツが俺の髪を引っこ抜きやがった』
『....知り合いなの?』
『いや全く』
『じゃあ何でそんなことに』
『アイツが話しかけてきたから無視したんだよ。そしたら』
『それは...災難だったね』
『そういやアイツの名前聞いてなかった』
『井川琴音。ホラ、今朝の真夏の...』
『アイドルだったのか。あんな性格で....マジかよ』


始業式は終わり、場所は体育館から教室へ移った。
『貴方.....本当に大佐だったのね。驚いたわ』
後ろから話してくるのは金髪碧眼女、井川琴音だ。
振り返らずに応える。
『俺も驚いたよ。まさかお前がアイドルだったとはな』
鞄から雑誌を取り出す。
『それ、なに?』
『うっせーな。雑誌だよ雑誌。見たらわかるだろ』
『私そういうのあんまり見たことないのよ。ねえ、ちょっと見せなさい』
『やめろやめろ。お子さまにはまだ早えーよ』
それを聞いた琴音は身を乗り出した。
『誰がお子さまよ‼そんなことより見せなさい!』
次の対面式までの10分を有意義に過ごすつもりだったのに、なんてこった。
『だーもう、そんなに見たかったら見せてやるよ』
雑誌を渡す。
『どうだ?面白いか?』
『......よくわからない』
『へ?』
『だってこれ、水着の女の人達がポーズをとってるだけじゃない。何が面白いの?』
『やっぱお子さまだな。そんなことよりさー、他の奴とも喋ってこいよ。友達いないのか?』
『うるさいわね...余計なお世話よ』
そう言うコイツの目は何だか寂しそうだった。
悪いこと聞いちまったのか。まあ、俺も学校には友達いねえしな。
いや、軍にもそんないないか。
雑誌を取り上げる。
『本でも読んどけ。アホらし』
『あ、まだ見てたのに』
『は?よくわからないんじゃなかったのかよ。いいけどさ別に』
深夜が雑誌を手渡していると、クラスの男子が琴音に話しかけてきた。
『あ、あの...』
『何かしら』
その男子は暫くモジモジした後、手に持っていた色紙を差し出した。
『サイン下さい!』
『ああ...サインね』
琴音は少し残念そうな表情を浮かべると、慣れた手つきでサインを書き始めた。
『いくと君へってお願いします』
『はいはい』
数秒後、サインを書き終えた琴音は色紙を返した。
『あの...よかったら握手も』
『ハイ』
微笑みながら握手をする琴音。
天にも舞い上がるような様子で戻っていく男子生徒。
『お前も大変だな』
『もう慣れたわ。毎日のようにサインしてるんだもの』
『へぇ.....ファン多いんだな』
『まあね』
なのに友達はいないのか。
誰かに似ているような....
琴音が誰に似ているのか、深夜の思考は大声で発せられた『失礼します』という言葉に遮られた。
『赤星大佐』
『んえ?』
深夜は、自分の目の前に立っている男子生徒に見覚えがあった。が、名前は知らなかった。
『えーっと...』
急に敬礼をした男子に琴音はビクリと体を震わせた。
『田山一郎、階級は上等であります!模擬戦の申し込みに参りました』
『模擬戦.....いつだ』
『大佐のご指定する日でお願いします』
『人数は』
『人数...ですか?人数は自分一人でありますが』
深夜は少し考え、言った。
『そうだな.....時間は明日、一七○○に第二演習場に集合。それまでに30人集めてくるように。年齢、性別は問わん』
田山上等兵の顔がパアアと明るくなっていく。
『ありがとうございます‼』
ビシッと敬礼をすると、田山上等兵は嬉しそうに去っていった。
『.....貴方も大変ね』
『もう慣れた。模擬戦は楽しいしな』
『随分慕われてるのね』
『男からはな。あいにく、俺はそっち方面じゃないんで全く嬉しくない。そういや家族以外の女と久しぶりに話したな』
『それって私?』
『いや違う。昨日助けた奴がいてな....』
あれ、そういえばアイツ、ここの制服着てたよな。
昨日は入学式があったらしいし、きっと一年だな。
『...つうかさ、何でお前俺にタメ口な訳?』
『あら。軍の大佐には敬語を使わないと駄目かしら』
『バッカ、それ以前の問題だよ。お前何年生だ』
『一年生』
『俺は二年だ』
『あら~そうでしたの?私はてっきり同い年だと思っていたわ』
『.....もういいや。怒る気にもなれん』
深夜が頭を抱えていると、担任の女教師が教室に入ってきた。
教壇の上に書類の束を置き、担任は呼びかけた。
『みんな席についてー』
あちこちに散らばっていた生徒たちが定位置についてゆく。
最後の生徒が席についたのを確認すると、担任の教師は黒板になにやら書き始めた。
担任の字はそこそこキレイで、どこか品格が漂っていた。
チョークを置き、向き直る。
『私がA組の担任をすることになりました、天野律子です。りっちゃんって呼んでね』
なんともいえない空気が流れる。
律子は自分が爆死したことに気づいている様子はなく、話を続けた。
『早速ですが、対面式を始めまーす。まずは隣の人同士で自己紹介をしてください』
隣を向くと、そこにはアイツがいた。
『え.....?』
肩にかかるくらいの白い髪の毛に黒い目。
昨日の.....
『一年の栗宮ましろです。よろしくお願いします師匠』
やっぱり昨日の.......うん?
『師匠?』
『昨日のご恩は絶対忘れません。先走って死にかけた私を電光石火の如く助けてくださった師匠に、一生ついていきます』
『いや待て、何だ師匠って。話が1%も理解出来ないんだが。まずなんで俺が師匠?』
『あたしの命の恩人だからです』
『ゴメン....わかんない』
『あたしは師匠の強さと、男らしさに感銘を受けました。あたしは強くなって、たくさんの人の役にたちたいんです。だから師匠!』
『お前の言っていることはわかった。半分くらいな?半分くらいしかわかんないけどさ、俺はお前を弟子にするつもりはない』
ずいっと椅子ごと近づくましろ。
『お願いします!』
『いや』
『お願いします!』
『駄目』
『お願いします!』
『無理』
『お願いします!』
パンパンと手を叩く律子。
『はーいそれじゃあ他の人とも自己紹介してくださーい』
深夜は急いで立ち上がり、教室の中を逃げるように歩きだした。
『......』
『......』
『......』
『......』
しつけええええええ‼なんかついてくるんですけどおおおお⁉
立ち止まり、振り返る。
『師匠!』
『誰が師匠だ‼』
『お願いします』
『いや、お願いされても困るよ⁉』
『一緒にいさせてくれるだけでいいんです。師匠の側にいさせてください!』
『なんか告白みたいになってるけど⁉大丈夫かこれ⁉』
『ちょ、ちょっと。貴方たち何言ってるの⁉』
何故か入ってくる琴音。
『今日は一学期が始まったばかりよ?お互いのことよく知らない仲なのに...なのになのに....破廉恥よっ‼』
『いやお前は何⁉なんで入ってきたの⁉』
『師匠!』
『やめろ‼』
『バカバカバカ~‼』
『だからお前はなんなんだ‼』
もう意味がわからない。
誰か助けてくれ。
誰か────



『ということがありました』
『大変だね。深夜普段、あんまりつっこまないのに』
『そこじゃねーだろ‼う、ゲホッゴホッ。くっそ喉が....』
鞄から出したのど飴を口に入れる深夜。
それにしても...と登一は思った。
たった2日で二つもフラグをたてるとは....すごい。
いや、ましろちゃんの方は怪しいけど琴音ちゃんの方はかなり確率が高い。
『まあ、まずは二人のことをよく知ることだね』
『え?』
『二人とも悪い子ではなさそうだから、どっちにするかはよく考えた方がいいね』
『えと...何の話?』


   翌日
『朝.....』
布団を被ったまま呟く深夜。
その目はかなり虚ろだった。
『.......』
行きたくねえええええええええ‼
またアイツらに会うのか...金髪碧眼はともかくアイツは....
『やだなぁ...』
と言いながらも起き上がる。
とりあえず朝飯と弁当作るか。


『姉ちゃーん。ごはんできたー』
返事はない。
『姉ちゃん?』
エプロン姿で家の中を探す。
二階にもいない....あ。
玄関だ。
案の定、左足だけヒールを履いた状態で彼女はそこにいた。
(よくこんな体勢で寝れるなあ)
『ZzzzZzzz....』
『...くさっ。酒くさっ』
口で呼吸をしながら持ち上げる。
一応ソファまで運んだ。
この感じだと今日は大学行けないだろうなあ。


『行って来ます』
今日は暑い。
だがそんなことはどうでもいい。
問題なのはこの暑さではなく、学校だ。
厳密に言うと約二名のクラスメートが問題だ。
『おはよう』
『ああ...おはよう』
『どうしたの?なんか元気ないけど』
『昨日あんなことがあってどうして元気でいられようか』
『まあでも、決めるのは深夜だからね。相手が年下だからって気を使う必要は無いと思うよ』
『....なんかお前との間に壁を感じるな。何の話をしているのかさっぱりわからん』
『おはようございます師匠』
『ああおはよう、ってえええええええ⁉』
めっちゃ自然に入ってきたましろに驚愕する深夜。
『何でお前がここに⁉』
『登一さんに朝はここで待ち合わせしてるって聞いたので』
『登一てめえ‼』
胸ぐらを掴む深夜に登一は極めて穏やかに言った。
『まずは友達からってよく言うじゃん』
『だから何の話だよ!』
『これからは朝からお供します!』
『いやお供しなくていいんですよ⁉むしろお供する必要性はないからな⁉』
『必要性ならあります!』
『なに?』
ましろは背筋を伸ばした。
『師匠の日頃の様子を観察することで、師匠の強さの秘訣を探るんです』
『....そんなことしてもムダだ。俺の強さにはちゃんとした理由がある。そしてお前は絶対に俺にたどり着けない。絶対にだ』
『そ、そんなことわからないじゃないですか』
『いや、絶対無理だ。だからもう付きまとうな。お前にとっても時間の無駄遣いだろ。わざわざ毎日ここに来て登校するの』
『あの....あたしの家すぐそこです』
『嘘だろ⁉』
『それに、頑張れば出来ないことはありません‼いつかは必ず師匠と同じ高みに...』
しかし、ましろが熱弁している途中で、パッと深夜の姿が消えた。
『...あれ?消えた.....ハッ、師匠の能力ってもしかしてテレポートとかですか?』
登一は困ったような表情をした。
『うーん。合ってると言えば合ってるかな』
『早く行きましょう!』
『うん。でも急がなくていいと思うけど、って行っちゃった...』
まあ...深夜はキツイこと言ってるようにも見えたけど、あれは本当のことだからね。



『キャッ』
『おっとすまん。って金髪か』
『あ、貴方今どこから現れたの?』
深夜は自分の頭の上を指さした。
『ここらへん』
『貴方、移動系の能力だったのね。電気を操る能力だと思っていたわ』
『それもあるな』
『は?どういうこと?』
『いいから行くぞ』



『ンン.....』
もう12時....
『イテテテ』
う~、頭痛がすごい~。
昨日飲み過ぎたのかな~?
ん?書き置きだ。
テーブルの上には紙と水の入ったコップが置いてある。
紙をとると、そこにはこう書かれていた。
[ 姉ちゃんへ キッチンにハンバーグとサラダがあります。ハンバーグはレンジで温めてください。700wで一分半位です。ドレッシングは冷蔵庫の飲み物とかが入っているとこの上にあります。
  追伸  昨日はかなり飲んだようですが、飲み過ぎはよくないですよ。横の水はちゃんと飲んでおいてください
 深夜より] 
『.....』
コップをとり、水を一気飲みする。
『.......うう。うっうっ』
シンちゃん...
思いが爆発する。
『もう二日も顔合わせてないよぉぉぉぉぉ!シンちゃんどごいっぢゃっだのおおおおお"⁉シンぢゃああん』
 わーんわーん
『会いたいよおおおおおおおぉぉぉぉ──』



『なあ』
『なんですか師匠』
『今俺のこと呼んだか?』
『...いや?』
『あっそう...』
もう弁当の時間だ。
姉ちゃん、ちゃんと食べてるかな。


『シンぢゃああああああああああああ』
昼食どころではないようです。
『私の、私のシンちゃあああああん‼』
涙が止まらねえよちくしょおおおおおおお─────

【2】 真珠

始業式から一週間が経った。
今のところ一日も欠席はしていない。町が平和な証拠だ。
そして、
『師匠。今日はどの辺をパトロールするんですか』
こいつにもそろそろ慣れてきた。
深夜は聞いた。
『なあ。なんで俺のパトロールに付いてくるんだよ。本気で時間の無駄だぞ』
『これも修行の一環です。それに...』
頬を染めるましろ。
『...とても楽しいです』
『歩いてるだけが?』
『.....はい』
それを聞いた深夜は頭を掻いた。
『俺にはわかんねえ』

  数分後
『.....コンビニのパトロールだ』
『はい!』
自動ドアが開く。すると、ヒンヤリとした空気が体を包む。
『は~涼し』
『ですねー。今日の気温30度らしいですよ』
『知ってる。真夏日だってな』
話しながら雑誌コーナーへ直行する。
棚からマンガ雑誌を手に取る深夜にましろは言った。
『師匠。これ本当にパトロールですか?』
ページを捲りながら答える深夜。
『んー違うんじゃない?』
『いいんですか?』
『いいんじゃない?』
本当にいいのかなあとましろは思った。
でも、この人の言うことならきっとそうなんだろうと納得する。
ましろも近くにあったファッション誌を開いた。

  十分後
『師匠』
何か話そうとしたましろの口を手で塞ぐ。
『静かに』
『フガフガ』
『静かに』
深夜は雑誌の裏からある人物を透視して見ていた。
その男は周りを気にする素振りを見せ、片方の手はズボンのポケットに突っ込まれていた。
あの男...足の細さの割りに上半身がデカイな。
それに.....今日の気温は30度。なのになんでコートを着ている?
まさかとは思うが....
念のため服の下を透視する。
見えたのは....
『やべ』
『?』
『お前はここで待ってろ。絶対に出てくるなよ』
『っぷ。何かあったんですか?』
ましろがそう言ったときには深夜は既にコンビニの外に出ていた。

男に近ずく。
そして、男と目が合うと同時に顔面をわしづかみにする。
さらにそのままアスファルトの地面に叩きつける。
常人なら頭がかち割れそうな一撃だが、深夜は手加減が上手いので気絶しただけにとどまった。
周りの人々がなんだなんだと深夜と男を取り囲む。
深夜は周りのギャラリーの外に叫んだ。
『おーい。軍の者はいるかー‼』
暫くすると、ギャラリーの中から軍服を着た若い女が出てきた。
『どうされましたか?』
『コイツ、体に爆弾巻き付けてやがるから至急、装甲車を派遣しろ』
『わかりました』
『んじゃ、俺は行くから。腹減ったしな』
深夜は言いながら立ち上がり、コンビニの中で待機しているましろにハンドサインで出てくるように指示した。

『ホント腹減った...』
『じゃああのファミレスに行きましょう』
『いや...俺家で食うから。姉ちゃん料理出来ないし』
深夜のその姉ちゃん発言にましろは目を丸くした。
『師匠、お姉さんいるんですか?というか師匠が料理作るんですか?』
『どっちもYES』
ましろの目が輝く。
『スッゲー‼師匠って強いだけじゃなくて家庭的なんですね‼』
『いちいち興奮すな』
『師匠‼』
『あ?』
『師匠のお宅にお邪魔しても宜しいでしょうか‼』
『お前...なんて図々しいんだ』
『すいません。ところでお宅にお邪魔しても...?』
『.....まあいいけどさ。どうせいつも余ってるし』
『ヒャッホゥ‼』
拳を天に突き上げるましろを横目に深夜は思った。
(それに、家に女子を連れてったら姉ちゃんの弟離れに効果あるかもな...)


そんなことを知ってか知らずか、深夜の姉、赤星真珠は上機嫌で弟の帰りを待っていた。
(もうすぐでシンちゃんに会える~。もうすぐシンちゃんが帰ってくる~。もうすぐでシンちゃんが、)
  ガチャ
『ただいま』
『キターーーーーーーーーー(゚∀゚≡゚∀゚)‼』
ほとんど発狂しながら玄関へ猛進する真珠。
『シンちゃんお帰り~‼』
本人が靴を脱いでる途中にも関わらず真珠は深夜に抱きついた。
『姉ちゃん重い。あと、靴脱ぎかけだからね』
『会いたかったよ~シンちゃあん』
『聞いちゃいねえ‼』
自分の頬を深夜にスリスリさせる
そこではじめて真珠は深夜の後ろに立っている少女を認識した。
『...この子は?』
『クラスメートの栗宮ましろ、一年生です。師匠にはいつもお世話になっております』
深々と頭を下げるましろに真珠は首を傾げた。
『師匠?』
『まあその事はあとで話すよ。そんなことより一旦離れて』
姉の真珠を押しのける。


赤星真珠(22)。容姿端麗でスリーサイズもバッチリな美人。だが、実際は全人類がドン引きするレベルのブラコンで、友人達からもひんしゅくを買っている。
彼女はあくまで弟...深夜を一人の異性として見ているが、深夜にその気はないと思われる。
そして、これは家族の間でも問題となっており、母に至っては『このままじゃあの子は晩婚になる』と半ば諦めている感じだ。
深夜もこのままではいけないと思っているのだが、ついつい甘やかしてしまう部分がある。
深夜曰く、『姉ちゃんを無理矢理追い出したらきっと一ヶ月もしないうちにミイラ化する』らしい。
ようするに弟に依存しているのだ。
こんな性格のせいで今まで彼氏は一人も作れたことはない。
世間で言われている、残念美人というやつだ。
彼女は現在、近くの大学に通っている。四回生。


『お前も上がれ』
『お邪魔します』
ましろが礼儀正しく靴を揃えているのに対し、深夜は少し急いだ様子でキッチンに向かった。
真珠はましろに微笑んだ。
『ましろちゃん、でいいのかしら』
『はい』
『ましろちゃんはシンちゃんとはどういう関係なの?』
『はい。あたしが危ない目に遭いそうになったところを助けていただいたんです』
ましろがそう言いうと、真珠は少し安心したような表情をした。
『そう...私、もしかしたらシンちゃんに彼女が出来ちゃったと思っちゃったわ』
するとましろは顔を真っ赤にしながらブンブンと首を横に振った。
『そんな.....彼女だなんて』
その反応に真珠は全てを察した。
この子は私と同じだと。
そこで真珠はあることを思い付いた。
『そうだ。いいもの見せてあげる。来て来て』
ましろは真珠の後に付いていった。
リビングに入る。
『こっちこっち』
真珠は大きなアルバムを小脇に抱えてましろを手招きした。
テーブルの上にアルバムを置くと、真珠はその場に正座した。
ましろも横に座る、
『これ、誰のアルバムなんですか?』
アルバムを開きながら真珠は言った。
『シンちゃんのよ』
『へえー師匠の。あ、これ可愛い。これも』
『でしょ~。これなんか可愛いでしょ?』
その写真にましろはキャーと声をあげた。
『師匠泣いてる~可愛い~。これ何歳のですか?』
『これはね、八歳のときの写真』
『師匠可愛い~。ていうか、師匠ってちょっと女の子っぽい顔立ちしてますね』
『そうなの。あ、今度女装させてみようかしら』
『それは流石に本人が嫌がるんじゃ....』

  十数分後
盛り上がっている二人に料理を持った深夜がやって来た。
『なに見てんの?ってそれ俺のアルバムじゃねーか‼なに勝手に見せてんだよ‼』
『師匠、良いもの見せてもらいました』
『うっせー‼今見たものはさっさと忘れろ‼』
耳まで赤くしながら怒る深夜は、さっきの写真を見たましろにとっては恐くもなんともなかった。
深夜の顔をジッとみ見る。
『なんだよ』
『.....可愛い』
『ハア?今なんつった⁉』
『いえ。なんでもありません』
『いや、今可愛いって言ったよな、言ったよな⁉』
ましろのほっぺをつねる深夜。
『ひゅいまひぇんへひはあぁぁ(すいませんでしたあぁぁ)』
そんな二人を見ながら真珠は呟いた。
『いいなあ』
『姉ちゃんも後で覚えとけよ』
『えっ、なになに?なにするの?』
『お仕置きだよ‼』
それを聞いた真珠はガッツポーズをとる。
『やった‼』
『その反応はなに⁉』
『いひゃいひょおぉぉぉ(痛いよおぉぉぉ)』
その時、深夜の端末が震動した。
ましろの頬から手を離す。
『いてて...』
深夜はリビングからでた。
端末の画面には本部と表示されていた。
『はい。赤星ですが』
『赤星か。俺だ』
『矢嶌サン?なんすか』
『例のスーツのプロトタイプが完成した』
『マジっすか!』
だが、相手の声はあまり喜んでいるような感じではないことに深夜は疑問を持った。
『どうかしたんですか?』
『...ドルーガが活動を始めた』

ドルーガブライス....世界改革を謡う大規模な国際テロ組織。現時点でアメリカ、ロシア、ドイツ等で被害が出ている。日本政府も厳重注意している。


『具体的に言うと?』
『韓国のソウルで爆発テロを起こした。死者は47、負傷者254。周囲の建物も、かなりやられてる。被害甚大だ』
『韓国かぁ。日本も警戒を強める必要がありますね』
『その通りだ。そして、今回の[鬼神スーツ]を完成させ、世界に発表することでドルーガへ牽制する』
『しかし...それだけで牽制の材料になりますかね』
『いや。実は速射可レールガン搭載戦車、あれが完成した。スーツはオマケだ』
『そうなんすか。つーかそんなのも作ってたんですね』
『この前会議で言ってただろうが。お前は寝てたけどな』
深夜は頭を掻いた。
『なはは...最近忙しくて』
『まあ、そんなことはどうでもいい。明日スーツのテストをするから学校休んでこっち来い』
『了解しました。それじゃあ』
『ああ』
通話を切る。
『テストか...』
前の試作型から時間はあまり経っていないが、はたして使い物になるのだろうか。
今回はプロトタイプと呼んでいることから性能は期待できる。
その場で考えていると、リビングのドアから真珠が顔を出した。
『シンちゃん、誰から?』
『軍から。明日来いって』
『そうなんだ。大変だね。何しに行くの?』
『一般人には教えられません。当たり前だろ』
『シンちゃんのことは何でも知りたいの!』
腕に抱きついてくる真珠に深夜は言った。
『いつまでも俺がこの家に居るわけじゃないんだからさ。そろそろ一人で料理ぐらい出来るようになってもらわないと困るよ』
『シンちゃん、どこか行っちゃうの?』
『いや.....でもいつかは兄ちゃんみたいにどっか行っちゃうかもね』
深夜がそう嘯くと、真珠は深夜の腕をさらに強く抱き締めた。
見るとその目は涙で潤みまくっていた。
『ヤダ』
『え?』
『どっか行っちゃヤダ‼』
『姉ちゃん?』
『シンちゃんがどっか行っちゃったら私、私....』
まさかのタイミングで泣き出す真珠に深夜は戸惑った。
 どこかに行くっていうのは少し刺激が強かったか.....
深夜は真珠を抱き寄せた。
甘やかしたら駄目なのはわかってんだけどなあ。
『姉ちゃん、ゴメンね。さっきの冗談。俺、どこにも行かないからさ。もう泣かないでよ』
顔を上げる真珠。
『本当?』
『ホントホント。だから、ね?』
そこで深夜はドアから二人を覗くましろに気付いた。
『......』
『......』


─────どうすんだこれ......
『.....失礼しましたー』
目を逸らしながら出ていこうとするましろに掴みかかる深夜。
『待てええええ‼お前は何か勘違いしている‼』
『わかってます。師匠とお姉さんはそういう関係なんですね。いいと思いますよ?家族だからって隠す必要はないと、』
『だーかーらー違うんだって‼俺と姉ちゃんはそう言う関係じゃ』
『私は...それでもいいけどな』
『あんたは黙ってろ‼あと離れろ‼この状態じゃ誤解が解けねえ‼』
『お邪魔しましたー』
『待てええええええええ‼』



     このあとめちゃくちゃ喉が荒れた。
 







  

【3】鬼神部隊──選抜

    日本国軍 第三演習場
なぜ俺はここにいるのか。
それは俺が新兵器、鬼神スーツのテストパイロットに任命されたからであり、現在絶賛テスト中だからである。
はーいここでお決まりの説明ターイム。


鬼神スーツ....装着することで、人間には出せないパワーを発揮できる駆動鎧の一種。他の駆動鎧とは比べられぬ程の性能を持っており、それは学園都市内の駆動鎧をも上回る。
今回開発された鬼神スーツは完全な戦闘用であり、様々な兵器を内蔵している。
鬼神スーツの大きな特長として、装着者の能力を増強させることが挙げられる。
もうひとつ、これは特長ではなく特徴だが、鬼神スーツは一般的な駆動鎧よりも一回り小さい。これは的を小さくすることで被弾率を下げる効果と、高い機動性を実現するためのものである。
そもそもの装甲が超頑丈なので、少しぐらい当たっても大丈夫なのだが。



『よし。最後は腕部レーザービームの発射テストだ。やり方はわかるな?』
『はい』
『うむ。じゃあ頼む』
手首の付け根に電気エネルギーを集中させる。
すると、手のひらの銃口から漏れでた電気がパリパリと音をたてた。
そろそろか。
『いきます』
そして目の前の金属塊に向かって一気にエネルギーを放出する。
手のひらから飛び出た黄色いビームが金属塊を貫通した。
貫通した輪郭が赤く光って溶けていく。
深夜はその威力に思わず顔を歪めた。
『ハハ....スゲッ』
マイクの向こうから拍手が聴こえてくる。
『深夜。実験成功だ。助かったよ』
『いやー。まさかここまでとは。びっくりしましたよ』
『正直、一番びっくりしているのはこっちだよ。この前の試作型とは全くの別物だな』

こうして、鬼神スーツのテストは終わった。


  数日後
三日ぶりの校門前。深夜はある人物を見つけた。
『よう金髪。久しぶりだな』
『ああ。貴方...おはよう』
そう返す琴音は深夜の目には少し疲れているように映った。
『最近ずっと学校休んでたみたいだけど、もしかしてライブか?』
『そう...三日間連続でね。お陰で授業の予習も出来てないわ』
『予習.....俺はやったことないぞ』
それを聞いた琴音は呆れたような表情を浮かべた。
『あっそう...。まあ、軍人には成績関係ないものね』
『だな』
アハハと笑う深夜のスラックスのポケットが震動する。
『....』
画面には本部の文字が。
なんだよ、と思いながら通話ボタンをタップする。
『赤星ですが』
『俺だ』
『矢嶌サン.....何の用ですか』
『何の用ですかって....そんな言い方ないだろ。まったく、歳上に向かって...』
『なんですか?用が無いんだったら掛けてこないでくださいよ。奥さんと別居してて寂しいのはわかりますけど、俺、今登校中なんで。校門前なんで』
『ちょ、お前...結構気にしてんだぞ.....』
『じゃあ』
『まてまてまて‼違う違う違う‼そんなくだらんことで掛けたんじゃない‼』
『...なんですか』
『実はな...鬼神スーツが盗まれた』
『ああそうですか....ってええええええええええええ⁉』
始業式の時の如く、周囲の目が深夜に向く。
深夜はそんな視線にはお構い無く、矢嶌に聞いた。
『どういうことですか』
『実はな...俺にもよくわからん』
『このクソオヤジめ‼』
通話を切る。
『どうしたのよ。急に大声出して』
琴音が聞く。
『まずい』
『え?』
『お前、ちょっと鞄頼むわ』
『え?』
琴音が振り返った時にはそこにはもう誰もいなかった。
『何よ....』


  日本国軍本部
『おっ来た来た』
テレポートしてきた深夜に声をかける登一。
『深夜。早かったね』
『あれ?登一来てたのか。つか、鬼神スーツが盗まれたって、』
『ああ。それ嘘だから』
さらっと言う登一に深夜は硬直した。
『...え。どゆこと?』
『そう。本当は他の件でね』
『なんでそんな嘘を....』
『ちょっとした出来心だって矢嶌さん言ってたよ』
『なんなんだあのオッサン‼』
辺りを見ると、当の矢嶌開発主任の姿は何処にも見当たらなかった。
『いねえ.....で、なんで呼び出されたんだ?』
『さあ。僕も知らないんだ』
『なんじゃそりゃ。じゃあ、俺は誰に呼び出されたんだ?』
『私よ』
声の主は女だった。
『げ。花形指令』
『げ、ってなによ。失礼ね』

女の名前は花形喜利子(36)。独身(笑)。
髪は長く伸ばした茶髪で、銀色のフレームの眼鏡が威圧的。
スリーサイズはヒ・ミ・ツ♥(←死ね)
40までには結婚したいと思っている。
役職は司令官。深夜達の上司である。

『なんで呼んだんですか?』
『まあ、別に急ぐ用じゃないんだけどね』
深夜の表情が曇る。
『もう学校遅刻しちゃいますよ。早く言ってください』
『じゃ、手短に。貴方たちに小隊を組んでもらうわ。隊長は深夜、副隊長は登一。他のメンバーは後日決めます』
『はい.....』
暫しの沈黙。そして、
『......え?』
『まさか終わり?』
『そうよ。ホラ、早く行かないと遅刻するわよ』
『『..........』』



  昼休みin教室
『じゃあ、そのテロ組織と日本が戦争するかも知れないんですか?』
興味津々に聞いてくるましろに深夜は答えた。
『戦争に発展する前に潰すのが俺らの仕事だ。あんな奴ら、俺一人で殲滅出来るわ』
そんなデカイことを言う深夜にましろは素直に驚いた。
『スッゲー‼師匠って、軍の中ではどのぐらい強いんですか?』
『そりゃあ.....一番だろ』
『スッゲー‼』
何気に盛り上がる二人に琴音が言った。
『ちょっと静かにしてくれる?今勉強してるから』
振り返る深夜。
『勉強?テストはまだ先だろ。何の勉強してんだ?』
手元を隠す琴音。
『うっるさいわね~。貴方には関係ないでしょ』
机の上に覆い被さる琴音に深夜はにやつきながら言った。
『お前、さては次の授業の宿題やってねえな?』
『そそそそんなわけないでしょ‼』
分かりやすすぎるリアクションをする琴音。
するとましろは鞄の中からノートを取り出した。
『はいこれ。次の授業の宿題書いてあるから』
ノートを差し出すましろに琴音の目が丸くなる。
『え.....いいの?』
『うん。クラスメートだもん。そうだ、もう友達になっちゃおうよ』
『とも...だち?』
固まる琴音。
まるで石になったような琴音にましろは聞いた。
『嫌?』
『嫌、じゃ、ない。あ、ありがとう』
照れながらノートを受け取る琴音にましろはニッコリと笑いかけた。
『よろしくね、琴音ちゃん』
『....うん』
『よかったな。友達できて』
『う、うるさいわね』

 こうして、孤独なアイドルに友達ができた。



   翌日
昨日は弁当作るのに手間取って集合時間に間に合わなかったが、今日はなんとかなりそうだ。
弁当は出来た。
朝飯ももう少し。
次は、
『姉ちゃーん‼』
やはり返事はない。
二階に上がる。
姉の部屋のドアを開ける深夜。
『起きてー。...姉ちゃん?』
そこに姉の姿はなかった。
正確に言えば部屋の中に姉がいることは間違いない。だが、深夜の視界に彼女は映っていなかった。
では何故姉がいることがわかるのか。
それは、ベッドと声が理由だった。



⚠エロ注意(えっちいのはだめですぅ、って人は少しとばして読んでください)



『姉ちゃ』
モゾモゾ動く布団。
『あっあっ......んっ』
『......おい』
『シンちゃ、そこらめえっ』
『おい』
『シンちゃんシンちゃんシンちゃああん』
『.......』
『ああああっそこはあああ』
『オイイイイイイイイイイイイイ‼』
布団をひっぺ返す深夜。
そこには下半身を露出した真珠の姿が。
深夜はそんな姉に軽蔑の眼差しを向けた。
『朝から弟をオカズに一体なにやってんだよ』
そして、それに対する真珠の反応は、
『あんっ。もっと言ってもっと!』
『なに喜んでんだ‼さっさとベッドから出ろ‼......ん?』
深夜は真珠の手に握られている携帯端末に注目した。
端末を取り上げる。
その画面には深夜のきがえ中の一コマが。
『....これ、いつ撮ったの』
下着を履きながら真珠は言った。
『き、昨日.....』
『......ンッ』
バギンと音をたてて壊れる携帯端末。
それを目の当たりにした真珠はベッドの上に転がった。
『ギャアアアア私のコレクションがあああああ』
のたうち回る真珠に深夜は冷たく言った。
『俺、もう行くから。朝飯は適当に「自分で」作って食べといて。弁当もね。じゃ』
背を向け部屋をあとにしようとする深夜に真珠は泣きついた。
『待ってぇ。私料理出来ないよお』
『知るか。コンビニでなんか買って食えば?』
『お金今全然ないよお』
『んじゃこれ』
深夜はポケットの中から一枚の硬貨を出した。
『これでなんか買え』
『シンちゃぁん、この国のコンビニで1セント硬貨は使えましぇえん。これじゃ何も買えないよおぉぉ』
『行ってきまーす』
『シンぢゃあああああんんんんんん‼』
真珠の呼び掛けにも応じず、深夜はその部屋から消えた。
後に残ったのはグチャグチャのベッドと壊れたスマホと泣きじゃくる女だけだった。


 



   AOIKE HIGH SCHOOL

 昼食の時間
『お前、これ食うか?』
深夜は自分が使っている物とは別の弁当箱をましろに勧めた。
朝、姉に朝食と昼食は自分で用意しろと言ったあと、深夜は姉の分の朝食をその場で完食し、弁当は仕方なく学校に持ってきたのだ。
さすがにいつもの2倍の量の朝食を食べた深夜は弁当一つが限界だった。
ので、今こうして隣のアイツに弁当を処理してもらおうと、そういうことだった。
勿論ましろは嫌がることなく、むしろ喜んで弁当を受け取った。
『うわ~。ありがとうございます!でもこれ、どうしたんですか?箱の色もピンクだし、女性向けですよね。も、もしかして、師匠があたしのために....‼』
姉とケンカ(主に姉のせい)したことを素直に言うのはどうかと思った深夜は、適当に応えた。
『あーはいはい。そういうことでいいよ、もう』
『この照り焼き美味しい~』
『聞いてくれや』
と、デジャヴなやり取りをしていると、琴音が割って入ってきた。
『貴方、料理も出来るのね』
『家事は全て俺がやってるからな』
深夜はそう言いながら今朝の姉、否、日頃の姉に対する苛立ちを覚えていた。
『そう、全部.....』
『?』
『おひたしも美味しい~』
全体的に噛み合ってない3人のもとに、C組の登一がやって来た。
『やー、深夜が女の子に囲まれてる場面はなんだか新鮮だね』
深夜は登一の声に頭を上げた。
『お前が言うと嫌味に聞こえるな。なにしに来た』
『まあどうってことはないんだけどね。ちょっとお弁当忘れちゃって、深夜の少し貰おうかな~って思って』
ばつが悪そうにする登一に深夜は言った。
『ああ。ならこれ食え。もうこいつが手つけてるけどな。って食うの早いなお前。登一も食いたかったら急げ。無くなるぞ』
バクバク中身を食べているましろに若干引いた様子で登一は残念そうな表情を浮かべた。
『ましろちゃんが食べてるのを横から邪魔するのは.....』
『遠慮せずにどうぞどうぞ』
『何がどうぞどうぞだ。殆ど食ってんじゃねえか』
ましろの頭をスパーンと叩く深夜。
『購買でパンでも買ってこい。それか食堂だ』
『うんわかった。それじゃ』
『おお』
登一の姿が見えなくなった時、琴音が深夜に尋ねた。
『今のは?』
『篠崎登一。中佐で俺とバディ組んでる。C組だ』
『ふーん』
自分から聞いといて関心が薄い琴音。
深夜も考え事を始めた。
『モグモグ.....二人ともどうかしたんですか?』
急に静かになった二人に首を傾げるましろ。
ましろが完全に食べきるまで、会話は途切れたままだった。

姉ちゃん、なに食ってるんだろう。人に迷惑かけてないかな(登一みたいな感じで)。



  
   同時刻  
 龍門大学 とあるキャンパスのとあるベンチにて
『もも~、聞いてよぉ~』
めんどくさいテンションで絡む真珠。
彼女はハイハイと聞き流すような形で言った。
『聞いてるよー』


彼女の名前は羽山 桃(22)。真珠とは小学校からの親友。
少しボーイッシュな風貌をしているが、胸は標準。だが、真珠と一緒にいるせいで、どうしても男っぽさが増してしまう。
でもそれがいい‼という男子もけっこういるようだ。
が、基本的に女子からラブレターが届くことが多い。
そんな彼女は今、真珠の相談相手になっているのだった。


『──ってことがあったのぉぉ。私、どうしたらいいのかわかんないよおぉぉぉ』
あまりにも長い話だったので途中聞いてない部分もあったが、ようするに、弟君とケンカしたらしい。
原因は真珠。恐らく日頃の鬱憤が今日この日に爆発したんだろう。
桃は冷静にこう言った。
『謝れば?』
それを聞いた真珠は桃に泣きながら掴みかかった。
『なんて謝ればいいの?オ〇ニーしてすみませんって、シンちゃんの写真をオカズにオ〇ニーしてごめんなさいって言えばいいの?そんなの言えるわけないでしょ⁉』
『ぐ、ぐるじぃ...』
呼吸困難に陥りながらも桃は思った。
(あ....そこんところの分別はできてるんだ。なんか.....安心した)
『ま、まずこの手を』
『一体どうしたらいいっていうのよおおおお!私、なんでシンちゃんがあんなに怒ってるのかわかんないんだよおぉぉぉ。オ〇ニーなんて誰でもするでしょ?ねえ、桃もするでしょ?オ〇ニー』
ぐらんぐらんと体を揺さぶる真珠に桃は言った。
『ま、まずこの手を離して』
『シンちゃあぁぁぁぁぁん!』
(死ぬ.....)

【4】キメラ

奴等は人を殺す。そのためにこの世に産まれた。
奴等は好きで人を殺しているわけではない。そうプログラムされているのだ。
奴等は飼い主の言うことだけはきく。飼い主は絶対であり、プログラムは絶対であるのだ。
奴等の皮膚は強靭だ。しかも、巨大で俊敏だ。
接近される前に殺しきる必要があるが、それは難しい。
奴等は一匹ではない。群れで襲いかかってくる。犠牲を最小限に抑え、敵を殲滅するようプログラムされているからだ。
プログラムは絶対であり、的確だ。
奴等の中には親玉が存在する。
親玉はたった一体で1日に何十体もの子を産む。
自然界でいうなら女王蜂だ。
奴等の種類は様々で、獣型もいれば鳥型もいる。
奴等は全て、一人の科学者によって作り出された。
彼はもうこの世にはいない。
彼の意思を継いだのは一つの人工知能だった。
その人工知能は学習能力を持っていた。
人工知能は彼の作ったプログラムをさらに進化させた。
プログラム名はドルーガブライス。
人工知能の名はREDSTAR

【5】鬼神部隊──選抜 その二

もうすっかり暗くなっている。街灯が無ければ闇に染まってしまうだろう。
深夜は今、とある一戸建ての前にいた。
インターホンを押す。
数秒後、鉄製のドアから歳上の女性が顔を出した。
彼女は肩にもかからぬ短髪だったが、女性であることは間違いなかった。
深夜を見た彼女は表情をあまり変えずに言った。
『ごめんね。お姉ちゃん、まだぐずってて。すぐに連れてくるから』
『いえ....こう伝えれば出てくると思います』
深夜が助言をしてまた数秒後、真珠が姿を現した。
『シンちゃん....』
『姉が御世話になりました。ほら行くよ』
桃に頭を下げた深夜は、目を会わせずに真珠の手を引っ張っていった。
『真珠、またね』
『う、うん』
真珠は深夜に引っ張られながら怪訝そうに聞いた。
『シンちゃん....本当に明日行っちゃうの?』
『.....』
深夜は黙ったままだった。




    三日前
『師匠‼今日、お宅にお邪魔しても宜しいでしょうか‼』
『あー....別にいいけど』
『Yeaaaaaaaaaaa‼』
『日本人の喜び方じゃねえぞそれ』
横で発狂するましろを横目に深夜は思った。
姉ちゃん居るかな。居ないといいなあ。
『登一も誘うか』
『琴音ちゃんも行こうよ』
『私は無理。ダンスの練習があるから』
『え~。じゃあ今度いっしょに行こうね』
『ええ』

   そんなこんなで放課後
『ただいまー』
ドアを開けると、真珠の靴が無いことに気づいた。
(まだ帰ってきてないか)
『お邪魔しまーす』
『お姉さん帰ってきてないんだね』
『だな』
登一は今朝のケンカのことを知っているので、それ以上は踏み込んでこなかった。
深夜は二人に向き直った。
『で。俺んちで何するんだ?ゲームでもするか?』
するとましろは鞄の中から手のひらサイズの何かを取り出した。
『ジャジャーン‼』
『.....トランプ?』
『トランプなら家にもあるぞ』
『フッフッフ。ただのトランプじゃありません。これは占い専用のトランプ。その名もミラクルカード‼』
トランプで占い。水晶ではなくトランプ。そしてミラクルカードというネーミング。
そんな全てが中途半端な道具の登場に、登一はひきつった笑みを浮かべた。
『へ、へー..』
『嘘くさ』
登一とは反対にスッパリ切り捨てた深夜にましろは頬を膨らませた。
『う、嘘くさくなんかありませんよぉ!』
『だいたい、トランプで占いってどうやるんだよ』
『師匠知らないんですか?トランプはタロットカードの仲間で、トランプならタロットカードみたく占いが出来るんですよ』
『へー』
『意外と詳しいんだな』
『いえいえ。では手始めに、師匠の今朝の出来事を見てみましょう』
その言葉に登一は気まずそうな顔をした。
『...へー』
『やってみろ』
深呼吸をしたましろは、テーブルの上にトランプを並べ始めた。
ジッとましろの手元を見る二人。
数秒後、深夜はあることに気が付いた。
『なあ。トランプに何か書いてねえか?』
『ホントだ。ましろちゃん、それなあに?』
ましろは手を休めずに言った。
『もう少しでわかりますよ』
ましろの意図が見えない深夜と登一は互いの顔を見合わせた。

  もう数秒後
『では、占いを始めます』
得意げに言うましろに深夜は呆れたような顔をした。  
『なあ、これって...』
『こっくりさん?』
『似てるけど違います。トランプを使っているので、これは[トランプさん]です』
『名前が酷すぎる‼』
そう。トランプには「あ」から「ん」までの文字が書かれており、それらは五十音順に並べられていたのだ。
『わざわざトランプでやる必要ないじゃん。ていうか、もうこっくりさんでいいよ。これこっくりさんだろ』
『ト、トランプさんですよ~』
『あーハイハイ。わかったから早く始めなさい』
『ぶう.....じゃあ始めますね』
唇を尖らせながらましろは目をつむり、上を見上げた。
暫くその状態が続いた後、ましろはトランプに手をかざした。
『はああ~』
『『.....』』
『ほああ~~』
『『.....』』
『むうう~....ハッ』
カッと目を見開く。そして、
『出ました。こっくr...トランプさんの御告げです』
『おい今こっくりさんってい』
『トランプさんによるとですね..』
『おいコラ聞けコラ無視すんなコラ』
『ズバリですね。師匠は今朝、白米を食べましたね』
『....大雑把だな。まあ当たってるけど』
『おおー。すごーい』
登一のお世辞を聞いて調子にのったましろはさらに言葉を続けた。
『さーらーにー、その時お姉さんはまだ寝ていた!』
『.......違うな』
『ええっ?』
ましろが何故違うのか聞こうとすると、深夜は薄型の携帯端末を出して耳に当てた。
『はいもしもし』
『私よ』
声の主は花形司令だった。
『なんでしょうか』
『ちょっと今すぐ来てもらいたいの。割りと重要なことだから』
『へーい』
『登一にも声かけてね』
『へいへーい』
『へいは一回』
『いやそれはおかしいだろ』
ツッコミながら電話を切った深夜は立ち上がって登一に言った。
『司令が本部に来いってさ』
『なんで?』
『さあな。割りと重要なこと、らしいぜ』
『...わかった』
『ふえ?二人とも行っちゃうんですか?』
不安そうに深夜を見るましろ。
『ああ。だからお前はもう帰れ』
『そんなぁ~。今来たばっかなのに~』
『仕方ないだろ。登一、靴は持ったか』
『うん。ましろちゃんそれじゃあね』
『登一さんまで~』
深夜は登一の肩に手を置いた。
『んじゃな』
シュンと消える二人。
『.......』


  日本国軍本部
『おっきたきた』
『司令。ん?』
深夜の思考が停止する。
そこに見覚えのない人物が約三名居たからだ。
登一も首を傾げる。
『えと...』
『この三人は?』
『そのことだけど、先日貴方たちで小隊を組んでもらうと言ったわよね』
『はい』
『ってことはその三人が...?』
『そう。この三人は今日から鬼神部隊に配属することになった、貴方たちの部下よ』
深夜は三人の顔を順に見た。
左から女、女、男。いずれも自分より年下のようだ。
特に、真ん中でニコニコしてるコイツ.....まだ中学もいってないんじゃないのか?
深夜に見られていることに気付いた女は大きく一歩、前に出た。
『朝霧 みかんと申します!年齢は11歳、階級は一等兵です!これからお願いします‼』
いきなり自己紹介をしだしたみかんに深夜は面食らった。
『お、おう』
『よろしくみかんちゃん。僕は篠崎登一。階級は中佐。この小隊の副隊長です。それでこっちが、』
『赤星深夜だ。階級は大佐。この小隊の隊長を務めることになった。よろしくな』
『はい‼』
急に始まった自己紹介タイムに困惑する花形。
『えと....じゃあ残りの二人も自己紹介してください』
花形の言葉に左の女が口を開いた。
『西条 雪子16歳、階級は少尉です。よろしくお願いします』
雪子が言い終わると、次は右の男が前に出た。
『朝霧 蛍です。16歳で、階級は中尉です。みかんの兄です。よろしくお願いします』

   鬼神部隊 メンバー
隊長 赤星深夜  
副隊長 篠崎登一
 以下
朝霧みかん 
朝霧蛍
西条雪子

『にしても、全員揃うの意外と早かったですね』
深夜も腕を組む。
『だな。遠征でもあるんですか?』
『遠征じゃないけど、早急にメンバーを揃えたのには理由があるわ。今度、アメリカで新型戦車と鬼神スーツの発表会みたいなのが行われるって、知ってるわよね?』
『ああ...それでね』
『そ。鬼神スーツは装着者に合わせて造られた完全なオーダーメイドだから、メンバーを全員揃える必要があったの。みかんのに至っては全長150cmだしね』
『ふーん。で、いつアメリカに行くんですか?』
『一ヶ月後よ。それまでに各自、隊長管理を怠らないように。以上』
『『.........』』
この人が話すと事の重大性が損なわれるな。
と、深夜と登一は思った。



   その頃 赤星家にて
『来たばかりなのに....』
呟きながらましろは玄関へ向かった。
ハアーア。つまんないの。
このまま帰るのはなんだかなあ。
『......!そうだ!』
今なら師匠の部屋に入れるのでは?師匠の部屋漁り放題⁉
そう考えたましろを止める者はもう誰も居なかった。



『そうだ‼折角こうして集まったんですし、みんなでパーティーしましょうよ‼』
花形がさっさと帰って気まずい雰囲気になった後、みかんは突然そう言い出した。
『いいね。まだそんなに暗くないし、どこかファミレスでも行こうか。深夜の家とか』
同意を示す登一。
『俺の家はファミレスじゃねえ。近くの焼肉屋でいいだろ。安いし』
『わーい!焼肉だー』


    ということで、

『えー....鬼神部隊結成を祝って』
『かんぱーい!』
『ちょ』
『『『かんぱーい‼』』』
『お前ら.....』
結局、本部から出てすぐの場所にあるとある焼肉屋でパーティーは開かれた。
『っていうか、鬼神部隊ってそもそも何する部隊なんですか?』
まるで工場見学のおじさんに言うような質問をするみかん。
が、その質問に深夜の思考は停止した。
『え?......ふ、副隊長が説明してくれます。副隊長どうぞ』
『あ、僕ちょっとトイレ』
『え"。じゃあ俺も』
『ようするに知らないんですね』
キッパリそう言い切ったのは雪子だ。
『.......はい』
『まったく深夜ったら。隊長なのにしょうがないなあ』
『お前後でぶっ殺す』
そんなやり取りに苦笑いをする蛍。
『?お兄ちゃん。私、マズイこと聞いちゃったかなあ』
集まって早々に微妙な空気が流れ出した鬼神部隊に横から口を挟む者がいた。
『お困りかな?』


彼の名は矢嶌一郎(年齢不詳)。軍の開発部主任。なんか腹立つオッサン。前回もスーツが盗まれたなどと意味のない嘘を深夜についた。年上だが、階級は深夜と同じくらい。若者達から嫌煙される典型的なオッサン。あと、オッサン。


『矢嶌さん、お帰りはあちらです』
店の出入り口を指差す深夜。
『なんでだよ。お前、俺のこと嫌ってんのか?』
『はい』
『そんなにハッキリ言わなくても...』
深夜の返答にしょんぼりしつつ、矢嶌はカルビを網の上に乗せた。
『何してんだオッサン。それ俺たちの肉だぞ』
『なら問題ないだろ』
『アンタまさか自分が「俺たち」の中に入ってるとでも思ったのか?』
『まーまー、固いこと言いなさんな。お嬢ちゃん、隣、座ってもいいかい?』
すると、それを拒むように雪子は手荷物を自分の隣に置いた。
『えーと、これは座布団の代わりに使って下さいってことなのかな?』
『どんな解釈してやがる。このパワハラジジイ』
オッサンからジジイにグレードアップした矢嶌はしょうがねえなあ、と言いながら焼けたカルビを深夜のタレにつけて口に運んだ。
その行為に憤怒した深夜は思わず立ち上がった。
『テメーなに俺のタレ使ってんだ‼その肉もお前のじゃねえだろうが‼』
他の客の迷惑になるとなだめる登一。
『深夜。他のお客さん見てるよ。座りなって』
『ぐ.....とにかく、このテーブルは俺たちが使ってるんだ。予約もこの五人でしたし、アンタの入る余地は無い』
『だから?』
二枚目の肉を頬張りながら顔をあげる矢嶌に深夜の怒りはますます高ぶった。
深夜はさっきよりも声を荒げた。
『だから‼俺たちの肉を食うな!俺のタレを使うな!ウチの隊員にちょっかいだすな!タダ飯食ってこの店に居座るな‼わかったか‼』
『やっぱここの肉はうめえなあ』



   とある一戸建て。

深夜と登一が去り、彼女の愚行を止める者は完全にいなくなった。
その行為はあまりに下劣で、浅ましいものだった。
彼女とてそれは充分理解していた。だが、それも過去の話。
今の彼女には自制心などなく、あるのはレールから外れて検討違いな方向に爆走する好奇心と、血に染まった大量のティッシュだけだった。

『この部屋!師匠の、いえ深夜さんの匂いでいっぱい.....はあ~最高...』
枕に顔を埋めるましろ。部屋はおよそ10畳ほどで、その家具の配置などは数字より空間を広く思わせていた。
枕から顔をあげ、鮮血溢れる鼻に新しいティッシュを詰め込む。
この時点で枕に血液が付着してしまっているのだが、ましろはそんなこと気にしなかった。
まあこの程度ならバレないだろうと思っていたのだ。
ましろは枕を置き、目の前の物を手に取った
『それにしても。深夜さんもこういう本持ってるんですねえ』
ましろの手に取ったそれは、俗にEROHONと呼ばれる書物だった。
『これは深夜さんの好みの勉強になるから読んでおきましょう。うん』
ひとり納得しながらEROHONを開くましろ。


       10分後

『.......』
成る程。深夜さんはおっきいのが好みなんですね。
自分の胸に手をあてる。
『.........クッ』
駄目だ。皆無ではないがこれは巨乳の域に達していない。
とてもこの本に載ってるようなレベルでは....
上を向くと、鉄製のシンプルな掛け時計が目にはいった。
『あっやばっ』
もう11時だ。そろそろ深夜さん帰ってくるかも。
だとすれば早くこの散らかった部屋をどうにかしなければ...!



『結局ヤローも一緒に食ってたな。代金は別にしたけど』
会計を済ませた深夜はあきれたような表情をした。
『矢嶌さんのレシート長かったねー』
『それ見てアゴ外れかかってたな。ハハッ』
笑い会う二人に雪子は言った。
『それで、結局この部隊の目的はなんなんでしょうね』
それを聞いた深夜は表情を少し固くした。
『さーな。まさか新兵器のテストのためだけに集めたんじゃねぇだろうし。ホントなんなんだろうな。この部隊』
『テロ対策、はもうありますしね』
『もしかして他の国と戦争するとか?』
不安そうに聞く蛍に深夜は首を横にふった。
『ないない。今日本の領土を脅かす国なんてねえし、戦争したところで日本の勝利は目に見えてる』
『そりゃそうですけど....』
全体的に重い空気が漂う。
そんな空気を晴らすように深夜は声を張り上げて言った。
『だーもう止め止め。今日はもうこんな時間だし、続きはまた明日。部隊の目的も明日訊こう。そんなわけで今夜は解散!家遠い奴は送ってってやるぞ』
『それじゃあお願いしまーす』
『お願いします』
『じゃあ私も』
『僕も』
『お前は別な』
『え、』



    p.m.11:24
『えーっとこの書類は確かこの引き出しで、これは確か...』
ましろはそうブツブツと呟きながら荒らした部屋を片付けていた。
『これはここで、これは───』


『ただいまー』



『ッ‼』
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ‼‼‼‼‼



   もうダメだ。おしまいだぁ...




顔に縦筋を浮かべるましろ。そんな彼女の下した決断とは.....⁉

なにこれ....





『......誰の靴だこれ』
鬼神部隊のメンバーを送り届け、ついでにコンビニでプリンを買ってきた深夜は、足下を見て首を傾げていた。
何故ならそこには見覚えのない女ものの靴があったからだ。



────とはいっても、それは当然ましろの物なのだが。



『姉ちゃん....じゃないよな。新しい靴が買えるほどの金なんて持たせてねーし』
ちなみに、真珠の小遣いは月10000円程度で、それも友達との飲み代や甘いもの等でほぼ毎月使いきっている。
だから新しい靴など買う余裕はないのだ。
というか、靴や服、歯ブラシやアクセサリー等その他日用品は深夜が買ってあげているので、わざわざお金を貯めてまで靴を買う必要はない。

『......』
(どっかで見たことあるような....ないような)
『まさか........霊的ななにか....とか?』
違います。

とりあえず中入らないと....。幽霊だったら退散してもらわないと。
人間だったら...


まずリビングのドアを開ける。
『....誰かいるかー』
ドアから顔を覗かせる。
気配はない。
電気をつける。
『誰もいない...』
ひとまず安心してその場に手荷物を置く。


キッチンはいない。



トイレもいない。


『.....二階か』



深夜さん帰ってきた。
そしてどうやらこの部屋のある二階に上がっているようだ。

足音に耳を傾けるましろは現在深夜の部屋のベッドの下に隠れていた。

ていうかあたしなんでこんな所に隠れたんだろう....バカじゃないの....。
これじゃあホントに泥棒みたいだよぉ...。しかもホコリが鼻を刺激してなんかムズムズするし....

その時だった。



 ガチャリ

『‼‼』



慎重に自室の部屋のドアを開く。
電気を点けようとスイッチに触れたその時、


   
   
    『ヘクチッ』



『‼⁉⁉』
あまりの衝撃に声をあげそうになる深夜。
そんな深夜だが、端から見れば微動だにしていない。
だが実際は、
(俺の部屋になんかおるうううううう⁉)
めちゃくちゃ動揺していた。
まさか本当に何かいるなんて...しかも自分の部屋に。
だがすぐに冷静になり、考えを変えていた。
よりにもよって俺の家に、俺の部屋に泥棒しに来るなんて...バカな奴もいたもんだ、と。
こう考えると案外相手もお茶目な奴だ、と。
相手のために深夜は一声掛けることにした。

『おーい。今なら俺も許してやるから。気が変わらないうちに出て来いよー』

まあこんなこと言われて出てくるほど間抜けではないだろうが。
自分の言葉に苦笑する深夜。
が、


『ふへえー。よかったー』



『って出て来たあああああああああああああああああああ‼⁉』

【6】ナ〇スの科学は世界一ィィィィィィィィ‼

【6】ナ〇スの科学は世界一ィィィィィィィィ‼

遅い。もう11時半を過ぎようとしている。
何時もならとっくに帰ってきて、『お父さんおやすみなさい。チュッ』とキスの一つでもして眠りについている頃だというのに。
......まさかとは思うが誘拐されたんじゃ.....
いや、あり得る。あの子ごっつかわええからな。
そうだ誘拐だうんそうだそうに違いない‼
ならば早く助けに行かなければ‼
待ってろ愛しの我が娘。
待ってろ愛しの、
『まぁしろおおおおおおおおおおおおおおおおお‼』
『やかましいいいいいい‼‼』
ソファーから立ち上がり咆哮を上げる男。
男はその瞬間、女のツッコミとセットで飛んできた神の左ストレートをくらってそのまま壁に叩きつけられた。
『ぶふうううう‼⁉』



男───栗宮 健太。皆さん御察しの通りましろの父だ。

そして女───まあこっちも皆さんわかってるとは思うが、一応言っておくとましろの母である。名前は遥。美人。まあ今回の説明はこんなところで。



『痛い!何するんだ遥‼』
頬を両手で押さえながら批難の目で妻を睨む健太。
『少し黙って』
静かながらも凄味のある低い声で夫を黙らせる遥。
『それにしても遅いわねー。今までこんな時間まで家を空けてることなんてなかったのにー』
『そ、そうだy.......そうですよね』
そんな妻の言葉におずおずと同意を示す健太。
相当ダメージが残っているのだろう、まだ手で頬をさすっている。
クルリと振り返った妻に健太はビクリと体を震わした。
まあ今さっき左ストレートをくらったばかりなので正しい反応といえる。
『本当に何かあったのかも知れないし.....一応警察に連絡した方がいいのかしら』



今遥が言った警察とは、日本国軍に存在する警察科と呼ばれる部署の事である。
そこには日本国軍ではなく、政府公認の普通の公務員の警察官が働いており、軍と警察という二つの組織のパイプ役を担っている。
因みに、迷子や落とし物、空き巣等の窃盗事件、単独かそれに近い少数による暴動などは警察の仕事であり、立て籠り、人質事件などの此方側にとって危険な仕事は軍が担当している。
殺人事件などの捜査は軍と警察双方が合同で行う場合がある。
だが、実際は軍の者も迷子の人を見かけたりすれば道の案内はするし、引ったくりがいれば捕まえるし、まあ要するに何が言いたいのかというと、ここの警察は仕事が殆ど無いということだ。
警察内部ではあそこに送られたら警察官としての人生はほぼ終わりとまで言われている。



『あの.......わたくしが言うのもアレなんですが、先に携帯に電話してみては如何でしょうか.......』
『.......アナタ』
『は、はい!』
さっきと似たような低い声を出す遥に、健太は恐怖で背筋を伸ばした。
ゆっくりとした動作で近づき、立ち止まる。
何を言われるかと思いきや、遥が口に出した言葉は、
『天才か』
『え』
一瞬、健太の中の時間が停止する。

父はどこからどう見ても変。
母は父を尻に敷いているしっかり者。でもよーく見てみたらちょっぴり変。
なるほど、ましろがあんな感じに育ったのも納得がいく。
カエルの子はカエル、である。




  一方その頃
『なあ』
腕を組み、地響きのような鈍く重い声で語りかける深夜。
その言葉に小さくはい、と返事をするましろ。
『なんでお前この部屋に居んの?』
『.....帰らなかったから.....です』
『そうだな。そうですね。じゃあ聞く。なんでまだ帰ってないの?』
『.......それは.....』
『それは?』
『そ、それは.....』
問い詰められるましろ。どんどん俯いていきながらその脳内では壮絶な自分会議が行われていた。
ど、どうしよう。
いやどうしようじゃないよ。ここは正直に....
そんなことしたら嫌われるなんてもんじゃ済まされないよ!
こ、ここは何とか別の話題で気をそらさないと。
昨日のテレビ番組のことでも話そうとしたその時、バッグの中から派手な着信音が鳴り響いた。
そのハイパー場違いな音に変な空気が流れる。
深夜は多少イラついた声で言った。
『出ろ』
『は、はい‼』
急いでボタンをタップし、端末を耳に当てる。
『もしもし』
『あ、もしもし?』
その声はましろにとってとても聞き慣れた声だった。
『あれお母さん?』
『あれ、じゃないわよ。今どこにいるの?友達の家?』
『えぇ~~~と....』
携帯端末を耳にあてたまま深夜の方を向くましろ。
『誰だ』
『お、お母さんです』
『そーか....よし貸せ』
手を差し出す深夜。
どうやら親と話すつもりらしい。
『いやあの』
『早く貸せ』
抵抗するましろに詰め寄る。
『ちょっとましろー⁉聞こえてるー?』
電話の向こうからましろの母の声が聞こえるが、誰もそれには答えなかった。
携帯をめぐって深夜とましろが争っていたからだ。
『さっさとよこせ』
『やあああぁぁぁぁ』
部屋の中でわちゃわちゃする二人。
数秒間そうしていると、何かの拍子に深夜はましろのバッグを蹴り飛ばした。
何気無く自分が蹴った物を見る深夜。
それを視認した瞬間、深夜は凍りついた。
『ゃぁぁぁ........?深夜さん?』
急に動きが止まった深夜に首をかしげるましろ。
『お、おま、おまままままお前!ここここここここここれは一体どどこで‼』
やがて口を開いた深夜はその発言から動揺を隠しきれていなかった。
そりゃ相手の、しかも女子のバッグの中からMy EROHONが出てきたら普通動揺するだろう。
深夜が何故動揺しているのか、ようやく気づいたましろは慌ててソレを拾い上げた。
『あ、あの、これはですねえ....』
ヤバイ。このタイミングでのこれはマズイ。もしかしたら本当に窃盗の罪で逮捕されるかも...‼
そんなことを考えるましろ。
それに対して深夜は。
(詰んだ~)
絶望していた。
(鬱だ。死のう)
絶望のあまり、一瞬にして鬱状態になっていた。
(そうだ、京都行こう)
絶望のあまり、一瞬にして鬱状態になり、壊れていた。





『ましろーーー⁉』





『『ハッ!』』
携帯端末から発せられたましろ母の声で再起動する二人。
慌てて端末を耳に当てるましろ。
『は、はい』
『なんか男の声が聴こえたような気がしたんだけど、大丈夫?』
『あ、うん大丈夫だよ』
『で、今どこにいるの?』
『えっと今ね、』
ましろが答えようとしたその時、深夜が携帯端末を奪い取った。
『もしもし、軍の者ですが』
『へ?軍?あの、うちの娘が何かやったんですか?』
そう言うましろ母の声からは不安が漂っていた。
軍と警察はここでは同じようなものなので、娘がなにか善からぬ事に巻き込まれていると考えるのも無理はない。
『いえ、娘さんが少し道に迷ってしまったみたいでして。今家まで送り届けているとこです』
『ああ.....そうですか。それはそれは、ありがとうございます。すみませんねえうちの子が迷惑掛けて』
『いえいえ。軍の者として当然の事をしたまでです。もうすぐ着くようなので、一旦切らしていただきます』
『はい。本当にありがとうございます』
『いえいえ....では後ほど』
『はい』



通話を切った深夜は、脱力したように深い溜め息をはいた。
そのままのテンションでましろに向き直る。
『.....家まで送ってくわ。準備しろ』
『へ?』
深夜の言葉にましろは豆鉄砲を二、三発くらった鳩のような顔をした。
『い、いいんですか?』
ああ、と答えた深夜は心なしか、顔色が悪いように見えた。


   数分後

『準備できました』
ハンドバッグを持ったましろがリビングから出てきた。
準備といっても、実際にはトランプをケースの中に入れただけなのだが。
それと、結局EROHONは深夜の手元に返された。
EROHONを受け取るときの深夜は今にも死んでしまいそうな顔をしていたが、ましろにはその理由が分からなかった。
深夜としても、本当は他人からMy EROHONなんて渡されたくないのだが、そのままあげるわけにもいかない。

今日は厄日だ。深夜はそう思った。



『あ、ここです』
深夜の前を歩いていたましろが足を止めた。
家に着いたのだ。
『....近っ』
深夜はおもわず呟いた。
なるほど、確かに深夜の家からとても近い。もしかしたら何度か顔を合わせているかもしれない。
去り際に深夜は買ったプリンを渡し、『俺の部屋で見たものはすべて忘れろ。いや、忘れてください』と言った。


『そういや姉ちゃん帰ってこなかったな........忘れてた』
夜中の12時のことであったとさ。




   少し前
『桃の家にお泊まりなんて久し振りねえ』
『最後に来たのは中2の冬頃だったね。寝てるとき、弟くんがいないってメソメソしてたけど』
『そんなこともあったような無かったような』
『あったよ』
真珠は現在、親友の桃の所に上がり込んでいた。
朝、深夜に怒られたのでプチ家出をしているのだ。
とはいえ、遅くまで飲んで酔って帰りは日付が変わってから、ということもざらにあるので、深夜は真珠がプチ家出をしていることに気付きはしなかった。
『ていうか、なんでアンタうちに来たわけ?弟くんがいなくて寂しくないの?』
『そりゃめちゃくちゃ寂しいけど....』
真珠は喋りながら近くにあったパンダのぬいぐるみを抱き寄せた。
『シンちゃんすごい怒ってたし。明日の朝には帰るから。きっとシンちゃんも許してくれてるよ』
『ふーん。まあ私はいいけど』
『えっへへー。桃愛してるー‼』
『抱き付くな!』




   翌朝
『......姉ちゃんまだ帰ってきてない.......友達の家かな?』
今日は学校ではなく、軍に行かなければならない。
恐らく件のアメリカ行きのことだろう。
ついでに部隊結成の理由も聞いておこう。
その時、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
姉ちゃん?と思いながらドアを開けると、
『あっ師匠‼どうしたんですか。寝坊ですか?』
.......朝からテンションが下がる。よりによってこいつかよ。
『何しに来た』
『学校ですよ学校!いつもの場所に登一さんも来なかったし、どうかしたんですか?』
『今日は軍の用事だ。分かったら早く行け』
『ええ~。そんなあ....』
『じゃあな』
『あ、待ってください‼』
閉めかけたドアを再び開く。
『んだよ』
『これ....昨日のプリンのお礼です』
『何これ?』
『ヘアピンです‼』
『いや....それは分かってるけど....これ、誰が付けるんだ?』
『師匠です‼』
『俺かよ』
『ヘアピン男子です‼』
『うん。声のボリュームもうちょい下げようか』
『はい』
『うん....まあいい。ありがとな。ほら早く行け。遅れるぞ』
『はいっ。それではいってきまーす‼』
『だから声でかいって....』
遠ざかるましろの背中を見ながら苦笑する深夜。
......変な奴.....
『さて、俺も行くか』


   日本国軍本部

『───という事だから。みんな分かった?』
花形司令が一通りの説明を終えた。
いつもと違ってやけに長い話だったが、要するにこうだ。

軍の空港から大型輸送機に今回披露する兵器と共にアメリカへ。
向こうへ着いたらアメリカ軍のお偉いさんが待ってくれているので、失礼のないように。挨拶はちゃんとする事。
他にも他国の軍関係者やお金持ちの人がたくさん来ているので失礼のないように。
更に、向こうの日本大使が妻と娘と一緒に来ているので、鬼神部隊はその護衛をすること。
鬼神スーツの披露を終えたら引き続き大使親子の護衛。護衛は常に三人以上で行うように。護衛をしていないメンバーは好きにしてよし。
披露は二日にかけて行う。その後は他国の軍に売り込みをするというものだ。

まあ、売り込みの件に関しては俺達は特にすることはない。
花形司令の割にはなかなか中身のある内容であった。
が、

『あの、出発はいつでしょうか』
俺より先に登一が言った。
『あれ?言ってなかったっけ。出発は明日の一〇三六(10時36分)よ』
『............は?』





『はあああああああああああ⁉明日⁉いくらなんでも急すぎだろうが‼』
『いや、ごめん。完全に言うの忘れてたわ。てへぺろ』
舌を出してコツンと拳を頭に当てる花形。
『きもちわりーよク〇ババア!自分が何歳か自覚してんのか?』
『ちょっ、仮にも上官に向かってその口の聞き方はないでしょう⁉それに私はまだ36よ‼乙女よ‼』
『周りをよく見ろ。36の乙女が何処にいる。現実を見ろ現実を』
『ああああああーーー何も聞こえない‼何も聞こえなーーーい‼』
『一旦落ち着こう二人とも』
『副隊長の言うとおりです。今ここで言い合っても明日出発する予定は変わらないんですから』
冷静な登一と雪子になだめられる深夜。が、花形の方は耳を塞いでいるので依然として叫んだままだ。
『ああああーーー私はまだ乙女ーーーーー‼』
『いつまで叫んでんだ司令。うるさいぞ』
『ああああああああああ聞こえなああああい‼私はまだ乙女ーーーーー36だけどまだ乙女なのおおおおおよおおおおお‼』
謎の歌(?)まで歌い出す始末だ。
36にもなって彼氏の一人もいない彼女にとって、深夜の言葉はあまりにも無慈悲であった。
その事と今回の件は全く関係ないのだが。
『オイだから落ち着けって』
『いやああああああああああ──』




   数分後
一通り叫び終わった花形はコホンと咳払いをして、メンバーに向き直った。
『私としたことがひどく取り乱してしまったわ。ごめんなさい』
小さく頭を下げてメガネを掛け直す。
『謝るのはその事だけか?あ?』
まるでチンピラのような口調で責め立てる深夜。
『う、で、伝達ミスについても謝罪するわ。ごめんなさい』
再度頭を下げる花形。
『けっ。まあいい。今日は早く帰らねえとな。明日の準備しねえと』
『だねー。出張だから色々荷物まとめないと』
ぶつくさ言いながら会議室を出ようとするメンバーに、花形は制止を呼び掛けた。
『ちょっと待って』
『なんすか』
『みんなに紹介したい相手がいるの』
『だから言うのが遅いって!』
反射的にツッコミを入れる深夜。
漫才ならここでチャンチャン、と終わりそうなところであるが、花形は誰かを紹介するという。
入ってきてー、と花形がドアの向こうにいるであろう人物を呼んだ。
その瞬間、某アンパンヒーローの一撃の如く、とんでもない勢いでドアが開かれた。
そして、その人物は、ドアを開けた勢いとは対照的にゆっくりと、背筋を伸ばして部屋に入ってきた。
肩にかかる程度の綺麗な銀髪に、赤い目、整った顔立ち、彼女が町を歩けば、人の目を確実に引き付けるだろう。
『今回の任務中、深夜の代理を務めてもらう、アルヴァ⋅ゴッドスピード中佐よ』
花形に紹介されたアルヴァは、ビシッと敬礼した。
その姿はとてもしっかりしていて、真面目で誠実な印象をメンバーに与えた。
『アルヴァ⋅ゴッドスピード中佐です。赤星大佐が安心して海外任務に当たれるよう、全力で代理を務めてみせます』
目線を深夜に合わせたまま、アルヴァは自己紹介を終えた。



『深夜』
明日からの予定について説明を受けた後、会議室を出た深夜はある人物を探していた。
が、それより先に、深夜はその人物に声をかけられた。
『ん?ああアル。何処行ってたんだよ。探したぞ』
深夜がやけに砕けた感じなのは、二人が顔見知りだからだ。
深夜とアルヴァは約三年前、軍の別の部隊にいたアルヴァが出張で深夜の部隊に入隊した時からの付き合いで、今では親友といっても差し支えのない関係になっていた。
『少しな...それより、頼みたいことがある』
『頼みたいこと?』
そう言ってアルヴァは制服の胸ポケットからハガキサイズのチラシの様なものを取り出した。
『これを買ってきてほしい』
チラシを受け取る深夜。
それを見た深夜は呟くように口から言葉を漏らした。
『.....これを、ねえ』
チラシには、

   アメリカ限定‼USAゲコ太ストラップ発売‼金髪、サングラス、拳銃等のアイテムを纏った全十二種のゲコ太が空港の土産物販店で限定販売‼


などと書かれていた。ネットでも買えるようだが、値段は高く、おまけに郵送費用までかかるので、向こうに行って買った方が何かとお得なようだ。
ちなみに、ゲコ太というのは名前の通り、カエルを模したキャラクターで、主にストラップが販売されている。
愛嬌のある見た目で対象年齢は低そうだが、中には熱烈なファンやマニアがいたりする。
現にストラップだけではなく同キャラクターの指人形や、今回のような地域限定の品まであることから、その需要と人気はなかなかのものであるということが伺える。

アルヴァ⋅ゴッドスピード(17)高二。彼女は、彼女こそ、熱烈なゲコ太マニアその人であった。

とある科学の最強剣士

作者『アニメについて語るあとがき、アニがきのコーナーです』
深夜『あ、もうそういうコーナーなんだ。これ』
作者『うん。画期的なあとがきでしょ?』
深夜『画期的過ぎて最早あとがきと呼んでいいのやら....』
作者『まーまー。ネット公開のゆるーい小説なんだし、文句を言う者は居らんよ。あとがきなんて所詮ただの飾りです。偉い人達にはそれがわからんのですよ』
深夜『.....まあいいや。それで、今回のお題は?』
作者『はい。前回は今季冬アニメの1クール目と比べてが今2クールは観るものが無い、というような内容でお送りしました』
深夜『好き放題言ってましたね。それで?』
作者『はい。それで今回は、作者が現在観ている数少ないアニメの紹介をしていきたいと思っております』
深夜『ほうほう。例えば?』
作者『今回はもう時間が無いので短いのにします』
深夜『5分アニメとかですか?』
作者『イエーース。ってな訳で、今回紹介するアニメは、こちら、
【おじさんとマシュマロ】です』
深夜『なんか内容が想像できない題名だな』
作者『内容は、とある会社に勤める日下(男)(ぽっちゃり)と、日下が大好きな若林(女)(クール)やその周りの人物のお話です。日下さんはマシュマロが大好物で、それが題名の由来になっております』
深夜『ちなみに、大手作品投稿サイトpixiv内のpixivコミックにて現在6話まで無料で公開していまーす』
作者『コミックを少し読めば、今からでもアニメを楽しめるぞ。っつーわけで、今回はここまで‼』
深夜『あんまり紹介できなかったな』
作者『まあ、次回は初っぱなから飛ばしていくってことで』
深夜『了解。さてさて次回のアニがきは?』
作者『はい、次回は【紅殼のパンドラ】を紹介していきます』
深夜『それでは皆さま、』
作者『アディオス‼』
深夜『良い夢見ろよ‼』

とある科学の最強剣士

ここは学園都市....ではなく、とある軍用の人工島。軍人希望者や限られた人間のみ、能力開発が許された特殊な島。 そこには、とある最強の軍人、もとい剣士が一人いましたとさ。 これは、そんな彼や、その周りで起こる様々な物語。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • コメディ
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-05-13

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 【1】 軍神と少女
  2. この主人公のフラグ建築の早さといったらもう....
  3. 【2】 真珠
  4. 【3】鬼神部隊──選抜
  5. 【4】キメラ
  6. 【5】鬼神部隊──選抜 その二
  7. 【6】ナ〇スの科学は世界一ィィィィィィィィ‼