うざいんだけど
うざい存在だったんだ。あのときまでは…
「かーずくんっ!」
また、来た。
誰だよ、こいつ。
あいつ
「…何?」
「今日も、話に来ちゃった!」
そんなのは、見ればわかる。
俺は最近、この女につきまとわれる。
名前も知らなければ、
どのクラスなのかも、学年も知らない。
全くと言っていいほど、興味がない。
「ねえかずくん、私さっきね、数学の問題が解けたんだー♪」
肩まである髪を巻いているこの女。
いつもどうでもいい話ばかりしてくるんだ。
「それでねー…あ、チャイム鳴りそうだから行くね!また来るね!」
そして、いつも休み時間ギリギリまで
俺の席の前に居座っていく。
本当、意味がわからない。
モヤモヤ
「早水さん!僕と付き合って下さい!」
昼休み
珍しくあいつが来ないから、
一人で屋上へ向かった時、
すでに屋上には先客がいた。
告白、か。
ちょっとした好奇心で、
覗いてみることにした。
「あ、あいつ…」
告白されてんのは、いつも俺のとこに来るあいつ。
へー…結構モテるのか。
ま、俺には関係ないけど。
なんて強がったけど、
なんか、モヤモヤすんだ。
なんでだ?
「ごめんなさい!…私、好きな人がいるの」
気付くと、そいつは告白の返事をしていた。
「斉藤和也だろ?…何であいつなの?」
あの男。
ちょっと言い方失礼だろ。
「…和也くんは、優しいから」
「え…」
思わず、俺が声を漏らした。
「前ね?迷子の子供を、慰めてたのを見たの。泣きじゃくる子に、不器用だけど優しく慰めてて。
それで…一目惚れした」
あん時、いたのかよ。
顔で好きになられたんだとばかり思ってたから、正直嬉しかった。
「…ふざけんな」
「え?」
いきなり男が、あいつの腕を掴んだ。
そして、抱き寄せた。
「ちょっ…やだ!」
必死に抵抗するあいつ。
「俺をフるなんて…許さねえ」
そう言って男は、あいつの顔に近づいてく。
これは、あれだよな
キス、しようと…
「か、かず…く」
小さく聞こえたあいつの声。
気づくと俺は、
走り出してた。
俺の気持ち
「おい」
「えっ…うわっ!」
有無を言わさず、俺は男をあいつから引き離した。
するとあいつは、俺の後ろへ隠れる。
チラッと振り返ると、
肩が、ふるえている。
「斉藤…和也!おまえ!」
男が何か言う前に、
俺はこう言った。
「悪いな。もう俺とこいつは、両想いだから」
「え…?」
後ろから、驚きの声が聞こえる。
「だから、こいつに変なことしたら、俺が許さねえから」
「か、かずくん…」
「行くぞ」
男を残し、俺らは屋上を後にした。
そういえば、今は昼休みなわけで
ぐぅ~…。
「…」
「あ、あはは。」
物凄く響いたあいつのお腹の音。
「裏庭で食べよう」
俺の提案で、裏庭へ行った。
「いただきます」
隣で笑顔を作るあいつ。
さっきまであんな震えてたのに。
「ねえ、かずくん…」
「ん?」
「かずくんは、私のこと…好き、なの?」
「ははっ」
「な、なんで笑うの?!」
たどたどしい言い方に、思わず吹いた俺。
「…好きだよ。早水さん」
名前なんて、さっきの男が言ってた名字しか知らなかった。
「…絵里。絵里って、呼んで…?」
「…絵里、好き」
早水絵里
それが、あいつの名前らしい。
いつの間にか、こんな想ってて
恋愛ってわかんねえな。
「かずくん!私、かずくんが好き!本当に好きだよ!」
必死に言うこいつ。
「…知ってる」
そして、優しくキスをした。
ーend.
うざいんだけど