目を覚まして

目を覚まして


「そろそろ、行くか。」


返事がある訳もない部屋で、一人声を漏らす。
もう三年。まだ三年。
君をこの世から失って経った時間。


俺の家からは大体一時間。電車に三十分、バスに二十分くらい。
前日にタバコ屋で買った君が好きだったタバコを持って、家の最寄り駅に着いてから花束を買う。約一時間、公共機関に乗るからもちろん沢山の人に見られるけどそれでいい。だって君に会いに行くんだ。今日がすごく楽しみですごく幸せになるんだから、俺は。

バスから降りると、深く息を吸う。
君が言っていた、”冬の匂い”だ。白い息を吐き出し、坂を登っていく。

「すみません、お線香お願いします。」

帳簿に名前を書きながら管理人に伝え、お線香の鼻をつく香りに耐えつつ桶に水を溜め、目的の場所に向かう。

「よう、久しぶり。」

返答があるわけではない墓石に挨拶をし、一通り掃除をし花束を刺しお線香を置いて手を合わせた後、タバコに火を点ける。

君が好きだったフィルターも煙も甘ったるいこのタバコを吸うのはこの日だけだ。
そして、耐えきれずに涙が落ちる。段々と大粒になる涙に呼吸は乱れ、吸い込んだ煙に咽せる。

「どうしてだよ、なんでだよ!」

病室で息を引き取った時と同じくらい声を張って声をこぼした。当然声が帰ってくるわけもなく。それでも俺の時間はあの日あの瞬間から動き出していないから、今日が来るこの日だけはあの日を思い出して勝手に流れる涙と声に付き合わなきゃならない。

君は言ったよ、”なんだかんだ死なないって”って。笑いながら言ったんだ。
でもその後にこう言ったんだ、”早く忘れるんだよ”って。

忘れるどころか時間が進みすらしないよ。どうしてくれるんだよ。
時間が経てば泣き止めるけど、涙は枯れないよ。

病室で何度も君に言ったよ。

「…目を覚まして。」

今も言うよ。これからも言うよ。来年も再来年も十年後も。


これは俺の勝手な妄想だけど、きっと君は三途の川あたりで昼寝でもしながら俺を待ってくれてる気がするんだ。川を渡って、君を見つけた時は抱き寄せながらもう一度言うよ。

「目を覚まして。」

それで目を覚ました君はさ、君に会うまで散々泣き腫らした瞼と、君が目を覚まして更に泣きじゃくる俺をきっと笑うんだろ。



それでもいいよ。君が目を覚ましてくれるなら。

目を覚まして

男性目線で最初から最後までフワフワしたまま終わりました。

人を失うとすごく辛いよねって事を描きたかったので荒削りですが書きました。

目を覚まして

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-12

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