ENDLESS MYTH 第1話-7

Zin

未来は人類を救えるのか!

 トヨタ製の高機動車を黒く塗った、四角いフォルムが一行の前に横たわった。天井部もボディに合わせた黒い幌に覆われいる。
 後部のビニール窓のドアが左側だけ開き、メシア、マリア両名にとって、青天の霹靂とも言うべき人物の、意外すぎる登場であった。
「乗りなさい」
 険しい剣幕で一行を手招きするが、それはマックス・ディンガー神父であった。
 ただただ茫然とするばかりのメシア、マリア。その横でファンたち3人の顔にも状況の把握はない。
神父は自分の出現が逃走の脚を止めてしまったことを、苦い汁を飲んだ顔で後悔し、シートに隠れていた左腕をあげた。すると空気が糸のように張りつめた音で、メシアたちの顔が愕然と見開いた。
 神父はMAXI8 アンリミテッド リボルバー ABS SVを握り占め、銃口から一筋の煙が蜘蛛の糸のように、立ち上っていた。
 シルバーの銃が陽光をメシアの顔へ反射させて、そこで無意識から現実へ彼は呼び戻された。と、その時、背後から身体をまさぐるようなうめき声が這い寄ってきた。
 これで他の面々も驚愕の断崖から己の意識を肉体へ戻すなり、背中に視線を移した。
 そこには、巨大獣の鮮血洪水を逃れた化け物がヌラヌラと、一行を捕食せんとよってきていたのである。神父の銃声による一撃がなければ、一行は相違なく化け物の餌食となって、見た目以上にグロテスクな内蔵の中へ、牙で擦りつぶされた人肉となっておさまっていたことであろう。
「ぐずぐずするな」
 もう一つ、トリガーを引き、弾丸を放出しながら神父は全員を、柏手のように怒鳴りつけ、荷台へと誘導した。
 これと入れ替わりに、複数の黒い影が俊敏に荷台から飛び降りると、黒いミリタリーブーツを並べた。そして這い寄る群れへ、鉛の塊をみさかいなく、化け物の肉片が瓦礫に飛び散るまでライフルを乱射した。狙いなどはない。
訓練された部隊。それらが一行を守護した。
中央にむかって、両側に長椅子が設置された荷台に、混沌のままに放り込まれたメシアたちの目の前にいる、見知った面影が微塵もないマックス神父が、リボルバーを手に、ハンドルを握る若若者へ、布を裂くような声色で告げた。
「ここは危険だ、車を出せ。いつまでも停車していると、敵に包囲される危険性がある」
 それは仲間を破棄する行為だと瞬間的に理解した新人兵は、愕然とマックス・ディンガー工作員を見上げた。
「どうした、なにをぐずぐずしている」
「で、ですが――」
 若者が震える唇を軽く開き、銃声が押しのけ、聞き取れない声量で言う。
 するとシートが開き、黒人兵士が化け物の鮮血に塗れた顔を車内へ向けた。
「なにしをしている。速く出せ!」
 黒人兵士は自分たちが犠牲になる覚悟はできている様子である。むしろそれが目的のように、戦闘で興奮した怒鳴り声を発した。車内はその声が反響して耳が痛いくらいであった。
 若い兵士が上官を見つめる。眉はハの字に折れ曲がり、まるで親を見る子供の目線だ。
「新米。実践は甘くない。行け」
 と、再び怒鳴る黒人兵士。
 声に背中を押されたように、若者はアクセルを踏みつけた。
 分厚く重厚感あるタイヤは、化け物たちの血しぶきに周回、空回りしたものの、すぐに高機動車の巨体を、鮮血の河とは逆の方向へ向けて走り出した。
 マリア・プリースは自分の父親がまるで別人のような口調と態度なのに覚えた様子で、隣のメシアの腕にしがみついた。この数時間で世界は一変したかのように彼女の前へ姿を現した。街は崩壊し、化け物たちが人肉を求め沸きだ、巨大な触手と巨人が肉弾戦を繰り広げ、最愛の父は手に銃を所持している。自分が今朝まで暮らしていた場所は夢だったのか、それとも悪夢に自分は入り込み、抜け出せなくなっているのではないか。憂鬱な顔で身に降りかかった現実を受け入れられないマリアは、ただ必死にメシアへしがみつくことしかできず、そうした自分にもふがいなさを感じてしまい、再び心の底へ、まるで湖面からほの暗い底まで沈んでいくようだった。
 腕を掴む手が小刻みに震えているのを感じたメシアは、小さい彼女の顔を見た。眼は涙で濡れ、涙を堪えるために下唇を噛み、必死に今の感情を堪えているのが見えた。
「神父、これは? なにかの冗談なのか」
 冗談ではないことぐらい、メシアにも容易に想像がつく。まぎれもなくこれは現実であり、世界は崩壊した。それをどのように表現してよいのか、自分自身でも見当も付かないメシアの口からは、こんな形で現状認識を求める言葉したでなかった。
「事態は切迫している。とりあえず安全な場所へ到着するまで、待ってくれ」
 道路などはない。神父がこうしてメシアの問いを曖昧にさせる間にも、高機動車は直進するが、その黒い車体が走る道すがらに整地されたところなど、ただの1カ所もなく、ひたすらに瓦礫を踏みしめ、時折、肉感触の何かを大型タイヤが踏みつける、鈍く耳に障る音が響く。それが化け物の肉片なのか、はたまた人肉なのかは定かではないし、敢えて厚手のビニール窓から幌の外を見やって確かめる者もいなかった。車内はディーゼルエンジンの砂利を擦るような音だけが反響して、時に神父が未だ手にするMAXI8 アンリミテッド リボルバー ABS SVに陽光が反射して、車内を行き来した。
「あそこから上へ」
 煙を上げ、高層ビルが倒壊する。あの同時多発テロ事件を思い起こさせる、悪夢の光景が街の各地で目撃できた。メシアたちがこうして十数分、車内で街を移動するだけでも、いったいどれほどのビルが倒壊したことだろうか。それと街の地下を行き交うガスラインが爆発している。その騒音と地響き。もっとも巨人が巨大触手と現段階でも死闘を繰り広げているのは確かであり、その振動も地下から金槌で叩かれているかのように、幾度と高機動車を突き上げた。
 そんな中にありながら神父は冷静に状況を分析しながら、高速道路へのインターを指さした。
 無料化が進む高速道路へは、ゲートもなくスムーズに上がることができたが、車両は急速に減速すると、停車してしまった。
「また連中に足止めされてんのかい、兄さん」
 街のチンピラという言葉がもっともしっくりと手に乗るイラート・ガハノフが若い兵士の両肩へ手を乗せ、不愉快に顔をしかめる若者には視線すらおかず、フロントガラスから外界をのぞき込んだ。彼の少年的思考としては、高機動車の前を雲霞の如き化け物が群れを成し、映画のように彼らを襲うべく、牙から獣の汁を滴らせているものと、勝手に考えていた。
 が、停車の理由は至極当たり前の理由であった。渋滞である。
 人は眼前に生命の危険を帯びた白刃がきらめいた時、全員が同様の考えを、脳裡に巡らせるらしく、街からできる限り遠ざかろうとする人の波が、高速道路全面に溢れていた。対向車線などは皆無となり、ただ一方向、街から遠ざかる方向に、車が並んでいた。その間を荷物を抱えた人々が、車を捨てて避難していく。
 その背景は破壊された街並みと、巨人と触手の戦闘であるから、終末の光景そのものであった。
「どうします。車を放置している人々が多すぎて、撤去などできませんよ」
 イラートの手を軽く振り払い、若い兵士が口走る。そこには自らの上官を見捨てた男へ対する憎悪の辛みが、言葉尻にくっついていた。
「物理シフトのようせいだ。本部へ確認しろ」
若者の顔が見る間に蒼白さを増した。この人物は自分が何を言っているのか、分かっているのか、と口をポカンと開いた。この時、虫が口腔内に入ったとしても、若者は気付かないだろう。
「ソロモン憲章に逸脱する行為です。そのような要請はできません」
興奮気味の若者と反比例して神父の声色は、恐ろしいまでに冷静さをおびて、ヒタヒタと声が這っていた。
「我々が遂行する任務は、第一級優先任務です。何物にも変えられない、高度な判断を要し、あらゆる行為が容認される。したがって物理シフトの要請は正当なものとされる?。速やかに要請を行いなさい」
直属の上官が任務の最中に、やむおえず離脱した場合、次の階級の者が現場の指揮権を有する。軍隊としては当然のことであり、現状における上官資格があるのはマックス神父であることは、確かな事実なのだ。
「分かりました」
と、若者はギアをニュートラルに入れ、サイドブレーキを、理不尽に対する不満なのそれを込めて引き上げた。
 若者はしかし通信する様子も、誰かとの連絡する手段を見せることもなく、ただ呼吸を1つすると、瞼を閉じただけであった。
 若者の様子を後ろから眺めるファン・ロッペンはエリザベス・ガハノフとメシアを交互に見やって、状況を把握できない現状にやきもきとしている焦燥感を視線に漂わせていた。
「申し訳ない。神父とおっしゃっていたが・・・・・・」
 まずマックス・ディンガー神父の存在を理解していないため、そこから説明を、神父自身へ求めた。
 神父は銃を構え続けていた腕をダラリと下げ、警戒心をようやく解いたように、丸い眼鏡を押し上げ、マリアとメシアとここで初めて視線を合わせた。
「わたしはマリアの、マリア・プリースの、義理の父です」
 と、神父は静かに視線を落とした。
 マリアを見やるファン。彼女もまた視線を落としているのが見え、なんらかのわだかまりが2人の間に横たわっているのが理解できた。けれどもそうしたものに興味を示さないファンは、神父を再びみやった。
「物理シフトというのは?」
 率直にものを尋ねる長身の若者に対して、神父は逆に質問で言葉を返した。
「メシア君の友人ですか?」
 そこにはいつもの神父の口調が蘇っていた。
「ええ。大学時代からの友人です。彼とは妙に気が合いまして。俺は勝手に彼とは運命で結ばれた戦友だと思っているんですよ」
 と、照れくさいことをまじめな顔をしていう長身の若者にはどこか、妙な説得力があった。
「そうかもしれないね・・・・・・」
 含みを持たせた、木枯らしに吹かれるような、力が皆無の笑みで囁いた神父であった。
「それで、物理シフトというのは、何なのですか?」
 好奇心を赤子のようにむき出すファン・ロッペンは、話を流すことなく、的確に自らが取得したい情報を掴んだ。
 少し考え、横で瞼を下ろしたままの若い兵士を一瞥してから、少し自らに頷きをしたようなそぶりを見せてから、唇を開いた。
「我々人間は三次元の空間と一次元の時間の上に生活基盤を構築している。生命体は世界を三次元としか認識できないが、現実には次元は複数存在しえるものであり、この世界で生活する我々に認識できないだけの話だ。
 しかし物体とはある種の条件下では三次元を離脱して違う次元へ移行することができる。物理シフトとは、素粒子よりも遙かに極小レベルで物体を異次元へ移動させる。だが、座標は三次元へ固定しているから、現実世界からの離脱ではない。三次元に物質として存在しながら、別次元へ本質を移動させた物体は、現実の物体を素通りできる。つまりは物質の破壊を行うことなく、貫通できるのだよ」
理解をしろと言うのが無理だ。現在の時代ではこうした技術力も、科学が異次元を実証
することも、できていないのだ。その現代人に異次元移動を説明したところで、動物に言葉を教えるよう愚行と同様である。
突き上げる振動がよりいっそう強みを増した。高速道路を逃げる人の群れは、振動ではない、恐怖で震え、肉体を固くし、動きを鈍く、人の大河が鈍足となった。
「HMをもっとも遠ざけろ。コアに危険が及ぶ」
神父は若者に怒鳴り付けた。いつもの父とは、明白な違いが再びマリアの前へ露呈した。
が、この時、神父もコアと口にしながら、胸の奥が鋭い爪でひっかかれる思いになり、自らの言動を激しく後悔し、唇を結んだ。 
数秒間、車内は無口を横たえた。外界は真夏の熱を帯ながら巨人が化け物と争い、人々は逃げる脚を速くする。瓦礫の街には化け物が闊歩し、逃げ遅れた人は、人肉と化して化け物の食欲の意のままになった。
高速道路へ化け物の波がたどり着くのは時間の問題であり、この瞬間も中空を旋回する化け物群が飛来するかも知れないのだ。避難する人々もそれを視界にとらえているからこそ、前の人を押し退けて、自らの生存にしがみつこうとした。
若者は瞼を上げた。
「許可が下りました。物理シフトに移行します」
若い兵士はそういうなり、アクセルを踏み、車体を進めた。
ぶつかる!
全員が皮膚を泡だてる。が、身構えた若者たちの心配は徒労の長物となった。高機動車の頭は、眼前に放置された赤のセダンへ接触した。が、衝撃は皆無でそれどころかスムーズに直進する。
「どうなってんだぁ?」
イラートが小僧の心を引き付けられるのは当然であった。幌の外に視線を移した彼の目の前で、放置された車をすり抜ける自分達の高機動車の姿があった。
「素粒子よりも遥かにミクロな世界で、この車は別次元へ移行している。我々3次元で世界を理解する人間には、それを解釈することはできないがな」
 神父の説明は道理である。人間と動物の視点、あるいは昆虫と動物の視点が異なると推測されるように、人間が3次元外を認識するというのは、自然の摂理に反することである。従って、人間が物理シフトの際、受ける影響を認知することは不可能なのだ。もし、認識すできる生生物学がいるとするならば、それは人間ではない。
 この神父の説明を耳にするメシアは最中、激しい耳鳴りが聴覚をつんざき、腕をつかむマリアの感覚が皆無となり、まるで中空を浮遊しているような気分となった。
そして、メシアは無限の光の筋が自分を突き抜ける、光の雨のなかに自分の存在があることを知った。

ENDLESS MYTH第1話ー8へ続く

ENDLESS MYTH 第1話-7

ENDLESS MYTH 第1話-7

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-12

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