天下り
彼は次期総理の最有力候補と言われていた。
かなりあくどいやり方でライバルたちを蹴落とし、猛烈な多数派工作をしつつ、チャンスを窺っていたが、思わぬところから収賄が発覚し、窮地に陥った。あわや逮捕というところをなんとか切り抜けたものの、議員辞職を余儀なくされてしまった。
ここ数日は、マスコミの追及を逃れるため、ずっと別荘に籠っていた。
「おい、わしの天下り先は決まったのか」
今やただの人であるにもかかわらず、彼は相変わらず横柄に秘書にそう尋ねた。
「ははっ。なんとか御意向に沿えるところが見つかりました」
「まあ、この際だ、贅沢は言わん。どんな小さなところでもかまわん。ただし」
「はっ」
「絶対に、その組織のトップでなければ許さんぞ」
「はい、それは申すまでもございません」
「ふむ。いいだろう。だが、わしが言うのもなんだが、よく見つけたな」
「はあ、それはもう八方手を尽くしました。ようやく一か所、受け入れてくれたのですが、実は」
「ほう、やはり、何か条件があるのだな」
「あ、いえ、その」
「遠慮はいらん。はっきり言え」
「はい、あの、申し訳ありませんが、この衣装を着ていただかねばなりません」
「何だ、これは。この暑いのに、毛皮を着るのか。まあ、仕方あるまい」
翌日、高崎山にちょっとしたパニックが起きた。
(おわり)
天下り