二人の湯豆腐

瀬谷 翡

湯豆腐。家庭によってずいぶんと違うとは思いますが、、、

二人の湯豆腐

ふつ...ふつ...
煮える湯。
徐々に激しさを増す水面の揺れが、白い湯気を立てはじめる。
「そろそろかな...」
白く重々しい塊が、鍋の中に滑り込んだ。
「ったく。何が悲しくて新年早々男二人で湯豆腐食わなきゃならんのだ。」
まあまあそう言いなさんなって、と、豆腐を入れた健二は、もう一方の前に小皿を差し出した。
小皿を差し出された雄介は、むすっとした表情で家主の健二に言った。
「豆腐なんてどれも同じだろ...」
「どれも同じだと?」
心外だ、とでも言うように健二は肩をすくめる。
「大豆一つとっても大きく味が違うんだぞ。まして加工後の豆腐ならなおさらだ。」
はいはい悪うござんした。とこたつに深く入って答えた雄介は、携帯を取りだし、ちらと画面を見て、すぐにまた、ポケットの中にしまい込んだ。
「雄介、わかめ入れといてくれないか?」

___悲劇が幕を開けた。

ザラッ。豪快な音を立て、わかめが鍋を埋めた。
「!?...やっべ、入れすぎた!」
台所で野菜を切っていた健二が飛んでくる。
「おい、何やってんだ!」
ザラ...
山盛りの乾燥わかめが音を立てた。
「...こいつら...増えるぞ!!」
「水分を、、水分を取り除くんだ!」
お玉を持った雄介を健二が制止する。
「待て、そんなことをしたら湯豆腐が!!」
はっとしたように雄介が言った。
「焼き豆腐に.....!」
「クッ....どうすれば...?!」
雄介が叫ぶ。
「早く食べるんだ!!鍋から溢れる前に!!」
「待て!!!」
「何だ!?早くポン酢を!」
「...気づいていないのか?.....わかめはまだ、『増えきっていない』。」
「!?」
健二は目を伏せ、ゆっくりと話しだした。
「ある男性の話だ...」

「彼はたまたま仕事から早く帰り、昼寝に勤しんでいたんだ。」
「普段ならコンビニで買ったスナック菓子など啄んでいる時間、しかし家から最寄のコンビニまで徒歩で8分。」
「行くべきか、行かざるべきか考える彼の目に、乾燥わかめの姿が映り込んだ。」
「腹が膨れればなんでもよかったのだろう。」
「彼は満腹感のうちに、心地好い昼寝を再開したんだ...」

「しかし、彼の胃の中でわかめは増え続けた。」
雄介が目を見開いた。
「...!まさか。」
「発見当時、彼の口からは真っ赤に染まったわかめが」
「やめろぉお!!!」
「食べていたら...死んでいたぞ。」
数秒の沈黙が流れた。
「.....食うか。」
「おう。」
鍋いっぱいに増えたわかめを見て、二人は思った。
((俺達何してんだろ.....))

二人の湯豆腐

我が家では湯豆腐に増えるわかめを入れます。皆さんはどうでしょう。

二人の湯豆腐

悲劇が幕を開ける...

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