ロストメモリー 3

はじまり 2

「あー、行きたくない。怖いよ。」まだまだ暑い日差しが照りつける中、アンナは汗をかきながら、リーチに言ったことを後悔していた。リーチに一人で見に行ってもらったら、良かった。アンナは怖がりだが、テレビでホラーものを、パパやママが見ていても、二人にへばりつき、一緒に見るタイプだった。アンナはお化けが、この世に存在すると信じこんでいる。一人で留守番するとき、少しの間でも、今このときに、お化けが出たらどうしようと思うことがある。何をするにも、一人では嫌なのだ。もし、この世にアキラとカイトが存在すらしなかったら…私とリーチだけが見えているのだとしたら?…
「お待たせー。」その声にビックリして、腰を抜かしそうになった。振り替えるとリーチがいた。リーチは、アンナとは真逆の性格で、とにかく好奇心が旺盛である。何をするにおいても、一人で平気なタイプだった。
「リーチ!ビックリしたでしょ!やめてよ!もう嫌、私行きたくない。リーチ一人で行ってきて、私帰る!」アンナはかなり怒って、リーチに言葉をぶつけたが、リーチは全くそんな言葉に耳も貸さず、「早く行ってみようぜ!アキラとカイトも、二人まとめて、捕まえてやるぞー!」と、まるで鬼ごっこをしてるような感じで、そう叫んだ。アンナは、そんなリーチを見て、余計に帰りたくなった。だが、足はアキラの家へと向かっている。
「先にアキラの家に行くんでしょ?」アンナは、帰ることをあきらめて、リーチに声をかけた。「ああ、さっと行って、さっと捕まえようぜ。」
アキラの家は、小学校から坂道を下って、海岸の方へ向かう途中にある。その途中には、八色塚古墳という古墳があり、その場所はよく子供の遊び場として使われており、リーチやアンナもよくこの場所で遊んだものだった。その古墳のすぐ近くに、アキラの家がある。その場所までリーチも、アンナも特に寄り道をすることなく、家の前まで来た。リーチは、いつもと変わらぬ呼び方で、チャイムを鳴らすこともなく、「おーい、リーチだけど、あっそぼー!」と、玄関に向かって、声を張り上げた。すると、「はーい。」と玄関の奥から声がしたので、リーチとアンナは、アキラのママと分かり、とりあえず誰かが出てくるのを玄関で待った。いつもは、ママがリーチの誘いに反応して、返事を返しても玄関から出てくるのは、アキラということが日常だった。もちろん今日もリーチは、このままアキラが出てくることを期待していた。このままアキラが出てきた瞬間に捕まえてやる。いや、今日学校に、アキラの席がなかったぞと驚かせてやろうか?そんなことを思いながら、早く出てこいと願っていた。だが、出てきたのは、アキラのママだった。「あれ?アキラは?」すかさずリーチがママに声をかけると、首を傾け「アキラくん?うちには来てないけど…」「!?」リーチとアンナが同時に顔を見合せるた。背筋に冷たいものが走ったが、リーチは臆することなく、「何言ってるの?おばさんは、アキラのママじゃん!」とアキラのママに向かって言った。しかし、アキラのママは再び首を傾けた。「おばさんの子供の名前は、ユウセーだよ。」ユウセーとは、アキラの一つ下の弟だ。もう何がなんなのか、リーチとアンナには理解できなかった。リーチは、アキラのママまで、おれらをだますのか?今日は4月1日じゃねーよ、夏だろ、夏!と心の奥で叫んだ。それと同時にアンナは、たまらなくなり「ユウセーは、帰って来てる?」とアキラのママに聞いた。次は首を傾けることなく、「さっき、お友達に絵本を借りに行ってくるって、出掛けたから、すぐに戻ってくると思うわよ。すぐ戻って来るだろうから、二人とも家の中で待ってる?」とアキラのママは言って来たが、アンナはそれに対しては「ううん、また明日にする。」と答えた。ただリーチはもちろん、それには 納得がいかないらしく、即座に「うん、お邪魔しまーす。」と、意気揚々に答えたので、アンナは硬直した。「ちょっとリーチ、明日でいいじゃん。行こうよ!」「いいじゃん、待つくらい!」「じゃあ、アンナだけ、先に帰ればいいじゃん!」「…」アンナはこのまま一人きりで帰る勇気はない。怖い、とにかく怖いのだ。いつも遊んでいた友達を、誰も知らないと言う。誰もそういう人間が存在すらしていないような反応をするのだ。これほど怖いことはない。ただただ一人ではいたくない、アンナはそう思った。「分かったよ、リーチと一緒にいてあげるよ。」小学三年生の、精一杯の反抗だった。結局アンナはリーチの後に続いて、アキラのママに促されるがままに、家の中へと入って行った。アキラの家は二階建ての、白を貴重としたシンプルな、いわゆる今風な家だった。アキラの部屋は存在するならば二階にあるはずだ。リーチとアンナは、アキラの家の中に入るのは、もちろん初めてではない。今まで幾度となく入って来たし、時にはご飯までご馳走になることも、しばしばあったのだ。それにリーチは、先日アキラと一緒に《ロストメモリー》というゲームを楽しんだばかりだった。アキラのママは、リーチとアンナを二階の部屋へと案内した。二人は揃って、この部屋はアキラの部屋だと、理解した。ただ一つだけ、不思議なことがある。この部屋はアキラの部屋でもあるが、ユウセーの部屋でもある。だから、部屋の中には机が二つ並べて置いてあり、そのすぐ近くにテレビが置いてあって、リーチもアンナも、少し狭いと感じながらも、寝転がってアキラと一緒にテレビを見たり、ゲームをしたりして楽しんでいた。だが、机はユウセーのモノしか存在していない。いや、さらにまだ不思議だと感じることがある。リーチとアンナは、ユウセーと四人で遊ぶことはあまりなかった。しかしアキラのママは、いつも二人がユウセーと遊んでるかのように、家で待つことを促した。リーチは深くは考えなかったが、アンナはそれを不思議だと思った。「ちょっと、ここで待っててあげてね。すぐ戻って来るだろうから。」と言い残して、アキラのママは部屋を出た。

ロストメモリー 3

ロストメモリー 3

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-11

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