濡れる場所
「サチさ、疲れてる?」
一緒の浴槽で向かい合うのは2週間ぶりだ。時間がある2人揃っての貴重な休みは、朝からお気に入りのお店のバスボムで泡だらけになりながら缶ビールを飲む。
それにしてもこの一言。
今年で26歳になる私には色々と嫌なことを勘ぐってしまう一言だ。
会社で顔を合わすこともあるが、皆には完全に隠し通しているので挨拶程度の関わりしかない。
私が帰宅するのが早かったり、彼の方が早かったり、同じ時間に帰ってきたり。どちらにせよ化粧バッチリの日中か、崩れているにしろ暗い外や薄暗い部屋でばかり私の顔を見ていたから出た一言なのか。
「今、化粧してないからね。」
少し可愛くない返答をする。
「あぁ、くまがはっきりしているのはそれでね。寝不足なのかと思っちゃった。」
コンシーラーに感謝をしつつ、このもう38歳にもなるのに未だに周囲から20代後半にばかり見られる彼の頬を引っ張る。
ニヤついて痛い、痛いよという彼の頬を私の両手が包む。
目を合わせた時、彼の右手が私の腰に回る。
クスクスと2人で顔を合わせて笑い、額をこすり合わせる。
少し時間が経ってもキスをしないまま私の顔を眺める彼に言った。
「見過ぎ。」
「うん、いつもありがとう。」
拍子抜けする一言を言ったかと思えば、そのまま左手を私の頬に添え、腰に置いた右手で私を強く引き寄せた。
唇をつけるだけのキスの間隔が段々と短くなり、言葉にならない声を漏らし、体を震わせる度にすっかり泡が落ち着いた湯船のお湯が揺れる。頰にあてていた左手を唇にずらし、指で口を開かせると舌が入り込む。より大きく声を漏らし体を震わす私を愛おしげに抱きしめる彼の肩に手を置き、引き剥がす。
「もう。苦しい。」
「うん、知ってる。」
息を整えるのに軽く天井を仰ぐ私の背を寄せ、そのまま胸の突起に舌を這わせる。
情けない声をあげ大きく跳ねる私の体を抑え空いた手で反対の胸を触る。
反応してしまうのをわかっていて、弱いところや気持ちのいい舐め方ばかりする。
「お湯の中なのにね。」
ニヤニヤした子供のような顔で息を切らす私の秘部に手を伸ばした彼は言う。言いながら彼自身の吐息が荒くなっていること、そして彼の性器が硬くそり立つのを内腿で感じながら私はより興奮し、欲情した。小刻みに指を動かすたびに揺れる私の体が湯船に波を立てる。肩の上に組んだ腕に力を入れて嫌じゃないのに嫌だという私の口から大きな声が漏れ、達した。
力が入りにくい私の体と顔を眺め、恍惚な瞳を向けた後、ナカに入ってくるモノに息苦しさを感じながら甘い息を吐き出す。
浴室にキスで口を塞がれながら漏れる声と、波立つお湯の音が響く。2人で入っても狭い湯船ではないが、大人2人が動けば手狭だ。眉間に皺を寄せて彼が囁く。
「立っても、いい?」
声にならない声で返事をし、震える足で立ち上がり湯船に手を掛け秘部を突き出す。
勢いよく私の中に入り込み、最期を迎えるために動きは激しさを増していく。
特に言葉を交わすわけでもなく、約束やお願いをしたわけでもないのに、どうしてこの瞬間だけは体の感覚が共有できるのだろう。
揃って達した後に少し前屈みに湯船に捕まる私に覆いかぶさるようにもたれかかり、汗なのか雫なのかわからない水滴が体に伝う。
「頭、洗ってあげる。」
向き帰って顔を合わせて深いキスをし、体を軽く流したあと泡がなくなって水かさが減った湯船にシャワーを流しながら座り込み、お気に入りのノンシリコンシャンプーを掌に注ぐ彼を眺める。
「ねぇ、何がありがとうなの?」
「ん?」
「さっき。」
泡立つ髪を鏡越しに眺めながら、拍子抜けした一言について聞いてみた。
「こうやってお風呂に入ったり、仕事終わりでも晩酌大事にしたり、2人の時間をいつも大事にしてくれてありがとう。ってところかな?もっと沢山あるよ。」
反則的な言葉を私に浴びせた後、私はしばらく黙り込んだ。顔が赤いのは入浴中だからと自分に言い聞かせて。
遅れてお風呂から上がった彼の隣でビールをお気に入りのグラスに注いで飲み干し、ベットに入ってまた深いキスをする。
「もういっかい。」
子供のような顔でそう言う彼の乾ききらない頭を撫で、キスを交わす。
休みの日は、まだまだある。
濡れる場所
なんとなく甘々なものが描きたくなった深夜帯。
これからこの二人はどんな一日を過ごすんでしょうか。
そして”私”と”彼”はどんな人なんでしょう。
甘い空気に浸りつつ、この二人の今日を考えてあげてください。