不安定な僕の天使
アイ
私は、結構他人よりもおかしい人生をおくっているとおもう。
他人の人生がどんなものかなんて知らないから、どれくらいいかれているのかはわからないけど、一般的でない幼少時代を送ったのは事実だと思う。
一般的な家庭に育ちたかったわけではない。
子供は親を選べないしどの家庭だって問題くらい抱えているのは分かっている。
それを思えるくらいに私は大人になった。
大人って定義も曖昧で、私はあまり好きじゃない。
大人,が好きじゃないからそう思うのかもしれない。
私の周りの大人がみんな、私にとっての敵でしかなかったからかもしれない。
だからこんなにもここから抜け出したいのかもしれない。
でも、だめだ。
逃げになってしまうのではないか?
そんな、暗示めいた言葉がいまだにわたしのこころをからめとって放してくれない。
私の破壊的なこの、自虐的な感情はそれのせいなのだろうか。
私は、あの日のことを鮮明に覚えている。
否、あの日のことしか鮮明に覚えていない。
それ以外の記憶は霧がかかったようにおぼろげでよく見えない。
それは、嵐の日。
三日間何も食べていなくて酷い飢えに襲われていた。
そんな私の横でいつもどりタバコと酒に酔っている彼。
彼の何を言ってるのかわからない声に混じって雷鳴が聞こえた。
電気さえも付いていないその部屋を、ごみが散らかったそのへやを雷の光に照らされて青白く浮かんでいた。
酷い雷の音。
この音はいろんな声を、音を、全部消してくれる。
そんな雷が、嵐が私は好きだった。
窓から見える漆黒と雷が私を包むようにして見ている気がした。
冷たい床がいつもよりほんの少し暖かい気がして、雨音が歌のように耳に流れて子守唄を聞いているようだった。
いつも通りの荒れた日だと思っていた。
でも、その日は違かった。
背後から。
ゆっくりと。
ふらつく足取りで
彼の生気のない声がどんどん近づいてきて。
心臓が、バクバクと音を立てた。
恐怖を感じた。
私は初めて恐怖というものを感じた。
足が動かなかった。
指先が震えた。
頭が真っ白になった。
そこからの記憶は、酷いものだ。
あの頃、9歳の私でもわかるくらいいかれていた。
彼は。
壊れていた。
私に、娘である私に、殺してといった。
そう、つぶやくように私に寄り添った。
背筋がぞくりとした。
無防備な彼を、いつも私が殺したくて殺したくて殺したくてしかたない彼が、彼自身が自分の死を望んでいるのだから。
私はその時かれに初めて殺意を向けた。
今まで頑張って隠してきたこの感情を、出してもいいと、実行してもいいとその言葉が私を変えた。
否、変えざるいなかったといえる。
いつも、自分の手を切り刻んでいた、そのカッターで彼の腕を切りつけた。
鈍い、悲鳴が、
かき消された。
そう、雷によって。
真っ赤な血が、床に流れていた。
台所にあった、ずっと使ってない包丁で動けない彼を・・・・・・・・・
刺した。
ズブッ。
臓器をえぐる音がした。
彼の脆い体が崩れていく。
私は、笑っていた。
笑うことを忘れていた私が、微笑んでいた。
彼の、肉の塊となったモノも見て。
そして、微笑んだ、その瞬間。
感情がフリーズした。
感情が心が、何もかも、消えた。
空っぽになってしまった。
何が起こったかわからなかった。
嬉しい感情が、消えた。
怖いという感情も消えた。
声も出ない。
雷の音も聞こえない。
ただ、彼の最後の顔が頭から離れない。
あの顔はどういう感情だっただろうか?
私の人生は狂った。
元からこういう運命だったのかもしれない。
神様は酷い平等に人生を与えてくれない
昔はそうおもっていた。
今はどうだ?
そんな感情でさえ微塵も感じない。
私はきっと、彼と同じだ。
壊れてしまったんだ。
ぐるぐるとした。
足元も見えない暗闇に落ちていった。
光は見えない。
私はきっと、いらない。
要らない存在。
彼と同じ、必要でない人間。
ひつようじゃない人間なんていないって、言う人がいるけど、要らないて思われたことがない幸せな人生を送ってきたってことなんじゃないのってついつい反論したくなるのは私がひねくれているからなのかもしれない。
生きていくうえで必要不必要は関係ない。
死にたいって思っても死ねないこともある。
生きたいって思っても、生きれないことだってある。
そんなの常識で、そんなことを馬鹿みたいに言い合いごっこしている馬鹿な大人がたくさんいる。
わたしは、嫌いだ。
生と死を、机上で、空想で論争するのは。
分かってない。
私がおかしい?
だから言わない。
口に出してはいわない。
ひねくれた性格をしていると自分でも思っている。
分かっている。
でもこんな性格じゃなきゃ。自分を合理化できる気がしない。
不安定な僕の天使