ロスト メモリー 1

「待ってくれよー。」追いかけても、追いかけても、全く追いつかない。いや、むしろ離されていく。
「リーチが、下手くそなだけだろ?」と、アキラは容赦なく切り捨てる。
最近流行っている、鬼ごっこゲームを、アキラがパパから買ってもらったのだ。「あー、ダメだー。やめよ、やめよ!やっぱり鬼ごっこは外で楽しむ方がいいよ!」と、とうとうリーチは根をあげる。
だいたい、今どき鬼ごっこのゲームなんて流行るわけがないのに…なんでこんなものが流行るんだろう?鬼ごっこからいくら進化しても、所詮は鬼ごっこだろ?と冷めた目線をリーチは、アキラに向けるがアキラは全くそんな視線のことは、気にしていない。
「リーチ、これは普通の鬼ごっこゲームとは違うんだぜ!だいたい鬼ごっこゲームってなんだよ!ちゃんとロストメモリーって名前があるんだぜ!リーチ、すごいと思わないか?自分の住んでる町が、ゲームになって、鬼ごっこできるんだぜ!」
そう、このゲームは初期設定で、町を登録すると、実際の町がゲーム上に浮上するというもので、今小学生の間で話題になっている。

疑問。

「よっしゃー、アキラみっけー!」リーチは、そう叫び、急いで空き缶の所へ走る。かすみ海第三小学校は、すぐ近くに山も海もあり、今日は友達の中でも、リーチが先導を切って、外で楽しむことを望んだのだ。
「くっそー、ゲームの中では負けねーのに。」アキラはそう言って、鬼を交代した。
「よし、逃げるぞみんなー。」リーチは、カイトとアンナに声をかけると、一人一目散に駆け出す。
リーチは、ゲームも好きだが、外で遊ぶことが何よりも好きで、よくアキラとは意見が食い違うが、今日は強引に自分の意見を押しきった。
そして、クラスでも仲の良いカイトとアンナを誘ったのだ。
「もーいいかい?」「もーいいよ!」小学校の裏山で四人の声が響き渡る。カイトは裏山の中でも、整備されていない草の茂みをかき分け、その中へ身を潜めた。
アンナは、人一倍の寂しがり屋ということもあり、アキラのすぐ近くの木の茂みから、顔を覗かせている。
「あー!」っと、背を伸ばして、リーチは山の頂上から海を見下ろして、息をついた。ここならさすがに、アキラも見つけることができないだろう。見つけたとしても、足なら自信がある、もう一度缶を蹴ってやる。そう思いながら、ふと草の茂みで、横になった…

「おかえりなさい。門限の6時を過ぎてるでしょ?いつも言ってるでしょ?時間は守りなさいって。」夕御飯の支度をしながら、アンナに向かって声を張り上げた。「だって、しょーがないじゃん。リーチが、いつまでたっても出てこなくて、気づいたら6時を過ぎてたんだよ。それでさ、アキラとカイトとさ、全員で探してやっと見つけたんだよ!」
「アキラくんと、カイトくん?新しいお友達ができたの?」ママは、自慢のパスタの茹で具合を確認しながら、アンナに言った。ママは友達の名前全然覚えないなー、と思いながら、アンナは「そうそう。」と適当な返事をしておいた。
「ママー、先にお風呂に入るねー。」

「ただいまー。」リーチが疲れきった表情で、扉を開ける。「おかえりなさい。遅かったのね。どこで遊んでたの?」と、ママがその言葉をまだ言い終わらないうちに、「裏山だよ。この間はアキラのゲームに付き合わされたからさ、今日は裏山で缶けりをしてたんだよ。」と、ぶっきらぼうに言い放った。すると、ママは不思議そうな顔で、リーチに聞いた。「アキラくんって、保育園一緒だった、アキラくん?でも、今は潮屋小学校だから、遊ぶわけないか。新しいお友達ができたの?」
「は?何言ってるの?アキラは2年生から同じクラスで、ずっと遊んでんじゃん。今日は、カイトとアンナと缶けりして、アキラをギャフンと言わせたんだ!」いつになく、得意気に、ママに言った。

カイトくんも新しいお友達かしら?と思いながら、横でテレビを見てくつろいでいるパパに聞いてみた。「パパー、アキラくんって、リーチとよく遊んでる子だった?それにカイトくんって子も。聞いたことないよね?」
「そうだね。どちらにせよ、リーチに新しいお友達ができたんじゃないの?アンナちゃんは、愛想もよくて、かわいいから、顔も知ってるけどね。」
「パパもママも、おかしいんじゃないの?っていうか、カイトもずっと遊んでる友達だよ。おれとアキラとカイト、アンナはいっつも遊んでる友達だよ。」ちょっと腹を立てたリーチは、パパとママにそう言い放った。

リーチは、思った。パパもママも、アキラとカイトのパパ、ママと仲いいじゃん…なんで、忘れちゃってんだろ?

ロスト メモリー 1

ロスト メモリー 1

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-10

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