過去作

ショートショート 日常

目が覚めたら、もう8時を過ぎていた。
なんだか身体が重いし、頭もすっきりしない。
朝はフルーツバーのお菓子を一本かじっただけで、昼は動くのがだるいからと食べずにいた。
そして16時を超えた頃、そろそろ何か食べたげにお腹が鳴ったので、渋々外着を羽織り家を出た。
家の近く五分ほど先にコンビニがある。
最近リニューアルしたばかりで、品揃えも少し変わっている。
私は何を食べるか迷いながら、店内をぐるぐると4周程してようやく、おにぎり二つとお茶と、デザートにロールケーキを選んでレジに向かった。
リニューアル前から何回か利用しているコンビニで、店員の顔はよく覚えているのだが、この店は自分より年下の男の子が多く働いており、私は年下男子があまりにも苦手で、なかなかレジに迎えなかったのもこれが原因の一つでもある。レジの様子を見つつタイミングを見計らって向かったら、
「こちらへどうぞ」
空いているもうひとつのレジに通され、私は「お願いします」と言ってカゴをレジ台に置いた。
顔なんて上げられなくて、品物コードを読みながら金額を述べる店員の声を聞きながら、その店のカードを台にそっと乗せた。
「おにぎり、温めますか?」
丁寧に言ってくれる店員に思わず顔をあげ、「そのままで構いません」
と答えるだけで、心臓がバクバクと早打ちする。
今目の前で対応してくれている男の子が私は少し苦手だった。別に適当な対応をされたわけでもないが、何故だか妙に緊張して、品定めでもされている気分になった。
まぁ、自分の意識過剰なんだろうけど。
すると、彼がレジ袋に品を入れてくれているとき、隣のレジにいたもう一人の男の子がこっちに来て、私の会計を済ませた。
しかし、私は彼が来たことで更に緊張が増して、もう目なんて見られずに、ひたすら自分の財布を見つめていた。
でも、そんなに品数多いわけじゃないのに、わざわざこっちのレジに来たのは何故だろう、とふと思ったが答えははっきりしなかった。
ただ、家を出る前、少しオシャレなピアスなんかしてみたり、靴をサンダルではなくブーツにしてみたり、もしかしてそれが良かったのかもしれない。

とりあえずそんな事を考えながら店を出ると、道路を挟んだ反対側の歩道に、学校帰りの高校生男子の集団が立ち話をしていた。思わず意識しつつ、少し距離をあけて道路を渡ろうとした。
すると、そろそろ渡りきるというところで目眩がして、目の前が真っ暗になった。
そのまま全身の力が抜け、体が前に倒れる。
レジ袋がガシャっと音を立て、私は床にへたりこんでしまった。
すると、遠くから足音が近づいてきて、
「大丈夫っすか?」
1人が私に声をかけてきた。
私はその声に反応できず、脳内では貧血を起こした原因を考えていた。
(最悪……今日、あの日になったばっかだった……ご飯、食べとけば良かったな)
そんなことを1人悶々と考えていると、体の右側が浮いた。
力の入らない身体を、その声をかけてくれた男の子が支えてくれたようで、そして持っていた荷物は彼がもう片方の手で持ってくれた挙句、私を連れて彼はそのまま道路を渡りきった。
「ちょ、そこ座ってもらった方がいいんじゃね?」
また別の声が聞こえる。
ようやくぼーっとしていた視界がはっきりと見えるようになって、隣を見上げれば先ほど見かけた男子高校生がそばに立っていた。
「あ、どうもありがとうございました。すみません、ご迷惑を……」
早鐘のように鳴る心臓を堪えながら、私はやっとお礼を言えた。
「あ、気づいた。大丈夫っすか?」
「はい、ちょっと目眩しただけだから、もう大丈夫です。本当にありがとうございます。あ、お礼になるかわかんないけど、これ貰って下さい」
そして先程買ったばかりのロールケーキを袋から出して手渡す。
「いや、いらんすよ! そんな大したことしてないし。それより、家の近くまで送りましょうか? 大丈夫すか?」
私はここまで親切にされるとは思ってなくて、反応が遅れる。
「あ、……いやいや! 大丈夫です。ほんとありがとう」
と言って、少し不安そうに私を見ていた彼らにお礼を言って、その場を立ち去った。
振り返る余裕もなく、ひたすら家まで早歩きで歩いた。

という妄想をしながら、道路を渡らずに家に向かってゆったりとした歩調で歩き、無事家にたどり着いた。
そして、1人テレビの前で買ったばかりの少し冷えたおにぎりを貪っている。
今日も部屋は冷えているな、そう思う私だった。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-09

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