長年の研究

とっても短いショートショート。

「まさかこれを作っていたとは……」
 その装置を見た軍隊の、恐らくお偉いさんが、ため息交じりにこうつぶやくのも無理はないと研究者は誇らしげに思った。
 ここは絶海の孤島だ。二年ほど前に研究者がどこか研究にうってつけの島は無いか探し求め、南に船を進め、大陸を越え、そして更に船を進めた先に見つけたのが、この島だ。
 研究者は無我夢中で新しい兵器の研究をつづけ、そしてつい先月、やっとのことで世界を震え上がらせるほどの威力を持った新兵器を開発したというわけだ。
「それで、一体いくらで買い取るおつもりで」
 とてつもない時間をかけ、そして、他の奴らに、この技術を奪われないよう外界との通信を全てシャットアウトしてこの研究を続けてきたのだ。高く買い取らないわけがないと、研究者は勝ち誇ったような顔をしながら軍の人にそう言った。だが、しばらくの間を置いて軍の人は顔色一つ変えずにこう言った。
「いえ、あなたの研究を買い取ることはできません」
 研究者は目を丸くして驚いた。
「何故です。私が途方もない時間をかけて作った最高の兵器なのに」
 研究者は声を荒げて反論したが、その軍の人は、表情をピクリとも変えずに彼の言葉を聞き流していた。
「どうも新しい兵器の発表、ありがとうございました。それでは私は帰らせて頂きます」
 そう言って軍の人が帰り支度を始めたので、いよいよ研究者は怒り狂い、
「こんなに私の兵器が侮辱されるなどあってはならない事だ。許せん。私の作った兵器の恐ろしさをその身で体験すればいい」
 と言って、近くに置いてあった小型の拳銃のようなものを軍の人に向けた。この銃は、引き金を引くと筒の先から青白い光線が出て、この光線に触れたものはみな跡形も無く消えてしまうのだ。
 研究者はその引き金を引いた。青白い閃光が部屋の中にほとばしった。
だが、跡形も無く消えたのは軍の人ではなく研究者だった。
「ああ、私に向けてそれを打とうとしてしまわれたのですね。私には身の危険が探知されると自動でその障害を消滅させる兵器があるというのに。悲しいお方だ。あなたの研究は既に三〇年前に広まっていました。外界の様子をキャッチしていたら、今頃こんな馬鹿げた研究はしていなかっただろうに」
 誰もいない絶海の孤島の研究室で、彼は悲しげにそう呟いた。
 そこには、煙をあげて壊れている小型の銃が一つ、転がっているのみだった。

長年の研究

いかがだったでしょうか。

長年の研究

哀れな研究者の話。

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-05-09

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